「意外ですな。あなた方が心血を注ぎ護国のために磨き、鍛え上げたヒト器物の価値を大暴落させるものでは?」
「だからと、いまこの状況でヤツを始末すればその矛先がどこに向かうか分かったものではない」
その言葉に、八雲は「取り込みたい」派と「始末したい」派が分かれたのだと気付かされた。
「百山東が、ここまでを想定していたとは思えんが、あの2科創設の裏側の告白が石田アキラを守っている」
3日前のことだ。一高にて件の石田アキラと一高校長の話という名の会話とも会談とも言い切れぬことが、全魔法科高校に配信されたのだ。
そこにて彼はどういう推理力を発揮したのかは分からないが、一高及び魔法科高校の他二校になぜ、二科ないし普通科というものがあるかの裏側を探り当てたのだ。
無知の素であるということが、その真実を導き出したのならば彼は脅威の存在だ。
前情報もなく、精々ネットの噂程度のところからそれを導き出せるならば石田アキラの頭脳も恐るべきことだ。
「おまけにジュニアの界隈ではあるが、サッカーのメジャーアスリートであることも、手を出しにくくさせている」
「この状況で彼を害すれば、疑いの目がこの国の魔法師全体に向けられますか」
茶を点てながら、そう問うも、それぐらいの情報統制ぐらい出来そうだが……。
俗な世界にもある魔法科高校が、そういう一般的なものとは違うものだと世間に知られれば、それは今までのこと……非魔法師という「人間」との接近を遠ざけるもの、ご破算になりかねないからだ。
今まで世間一般の方々の白い目を無くすための壁の薄まりを無くすものになりかねない。
「せめて魔法の家の落ちこぼれであったならば、それで終了したのだがな」
茶碗を持ちながら入道は嘆息気味に口を開く。
「いや、もっと言ってしまえば九島健の孫娘が石田アキラに関わらなければ、ここまでの
全ての起点は……そこにあったとも言える。
物語の基本はボーイ・ミーツ・ガールが定番だが、それが現実にも適用されると、こうも恐ろしいものを含むか。そして、それが自分たちが追い出した男の系譜となれば、誰かの筋書きがあるのではないかと思うほどだ。
「運命ですな」
「笑えぬ冗談だ」
茶を煽るように飲む入道。しっかり湿らせた喉から出る言葉は、まだ苦いものを含んでいるようだ。
「しかし、それで拙僧に彼の護衛をしろと言われる?」
「間もなく、あの学校には災禍が訪れる」
その言葉には沈黙で八雲は応えた。
「反魔法師主義団体の一部の勢力が、学内の一部の生徒を洗脳してあの学校に策動を仕掛けているーーー適当な所で軍か公安辺りに始末してもらう予定だったが、この際…日本の安全保障に「多めの予算」をつけるためにも、あの組織には暴れてもらうことにした」
そこまで言うからには、その組織には何かしらの「安全装置」あるいは「手綱」が既に付けられているのだろう。
しかし、そのような八百長試合も同然のことを……。
「一高の生徒に犠牲が出ますな」
「それもまた必要なものだ。国を守るためならばな」
だからこそ二科創設も許したのだ。結局の所、確かに今の
特に魔法研究は現在でも非人道的なものが続いており、海軍の特殊研究所では戦略級魔法のために幼い少女を使っているぐらいだ。
マッドサイエンティストの研究欲ゆえだが、それでもその果てに「ホームランダー」や「ウルヴァリン」のような全てを超越した『超人』が出来上がるというのならば、安いものだ。
そういう冷たい計算が入道……東道青波にはあったのだ。
自分たちが欲しいのは、そういう存在であって決して「バットマン」や「アイアンマン」が欲しいわけではないのだ。
およそ悩むことなく暴力を行使することに躊躇わない人間兵器……それに手綱と安全装置がかかっていれば文句は無いのだ。
そんな青波の俗な考えを読みつつも、依頼されて既に「紙袋」まで用意されては、八雲には断る理由など無かったのだ。
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「壬生先輩は、この魔法科高校で何がしたいんですか?」
「だから私は学内の差別をーーー」
「魔法師として成し遂げたいことをやるならば、ここしか無いのでは?」
食堂での会話は、平行線というわけではないがどうにも噛み合わなかった。
「もはや二科生だからと魔法能力が「上昇」しないなどということは無くなりました。もちろん、全員がそうでは無いですけど、結果は出ているーーー、もしかしたらばアキラが切り込んだ干渉力の成長だってあり得るかもしれない……それはまだだとしても……萌芽はあったはずです」
「そんなこと言われても……今さら……!!」
「そうですね。アキラと同学年ではない先輩諸兄が受けていた差別は、俺達一年以上のものだったかもしれないーーーけれど、今からでも見返すだけのチャンスはある……退学になってしまった同級生を見てきた2科の先輩方には素直に受け入れられないかもしれませんが……」
多弁に……相手の事情を察するという達也らしからぬ思考は、恐らく多くの人間から評価されているアキラへの対抗心だろうと自分で分析しつつ、それでも何とか説得をしようとしたのだが……。
「アナタもーーー結局、優等生側の人間でしかないのよっ……!」
説得は失敗に終わり、壬生は怒って立ち上がって行ってしまったのだ……。
「ーーーそんな訳で、俺にはお前のような人たらしの才能は無いのだと実感させられたよ」
「それを聞かされて俺はなんと言えばいいのやら」
生徒会室にお呼ばれしての昼食となったわけだが、昨日起こったという司波達也のイベントを聞かされて思うことは。
(あまり変わらんか)
一応、二、三年生の動向ーーーアキラのような野良犬に引っ掻き回されて何か変化は起こらんかとは思っていたが、司波達也への態度から例の組織との戦いは起こらざるを得ないのかと落胆する。
そして明かされる反魔法師団体という組織。色々聞いてから……。
「アキラは何もないのか?」
「え?俺もざーさん会長やエスターな中条先輩みたいに恥じらえば良かったか?」
「そんなわけあるか」
慰められた女子のようになっていれば良かったのかと問うも違ったようだ。ちなみに、2人の女子の先輩を赤らめさせたことに怒りを覚えた司波深雪を制止しているのはアンジェリーナであったりする。
「俺が思ったのは、国際的な反魔法師団体でも日本人が主体なのに、何でフランス語なんだろうなーってところか?」
「え!? エガリテってフランス語だったの!?」
そっからかよ!?思わず大声で言い出しそうになるのを呑み込んでから問うた会長に説明する。
「Blancheーーーってのはフランス語で「白」「純白」を意味する言葉でして、égalitéってのはフランス語で「平等」「同等」を意味する単語ですよ」
「そうだったのね……」
「ちなみに有名なフランス革命において掲げられた理念は。
Libertéーーー自由。
Fraternitéーーー友愛。
これに先のégalitéを加えたものは、現在のフランス共和国にもある精神だったりするんですね」
そんな風に豆知識程度のことを言って収めておきたかったのだが……。
「随分と詳しいですね石田君」
「まぁ一時期、サッカーでフランスに行っていたことがあるので」
市原の疑問にそう返すとーーー。
「そう言えば、アキラ君は魔法師としては新米なのよね……そりゃ海外にも行けるはずだわ……」
「そういや日本の魔法師には海外渡航の規制があるんでしたっけ?」
羨望の目で見て、恨めしそうな言葉を吐く会長に、少し前のアイネブリーゼでのことを思い出す。
生まれたときから魔法師の家にありて魔法師としての生き方を当たり前のごとく躾けられてきた人間からすれば、そういう海外の空気を実地で受けられる存在は羨ましいのだろう。
「会長は、サグラダ・ファミリアやストラスブールに行きたいとか言っていたカラ」
「完全にどっちも恋人・婚約者と行きたい観光地じゃないですか。概ねハネムーンの定番ですよ」
アンジェリーナの言葉に返したからか、ミーハーだな。という周囲の目を感じたのか……。
「しょ、しょうがないでしょ!私だって女子だもの!!ガウディの世紀の建築物を前に
「「
ドスを効かせた言葉と顔に、実は怒り狂う中の人の心の声なんじゃなかろうかと思いつつ、半分ビビりながら謝罪をしておく。
「サッカーで留学した…短期だろうに、随分と詳しいな。特にストラスブールに関して」
「いや、会長だって行ったことないのに、詳しいじゃないですか」
アイリスに誘われて向かった場所。つまりデートスポットなので覚えていた。という裏事情は、彼氏持ちな渡辺委員長に言わなくてもいいだろうと思えた。
だというのに……。
「ストラスブールに関しては、ひょっとして例のアイリスさんと一緒に赴いたから詳しいのでは?」
これが乙女のカンというものなのかは分からないが、司波深雪の言葉にこの男女比で圧倒的に後者が多い空間が色めき立つ。
「いや、ただの一般教養でしかないよ」
しかし、アキラの鎮火の言葉は意味を成さず、恋人ないし、外国人の少女と仲良しだったという事実の方が大きいようだ。
「ほほぅ。アイリスちゃんなる女の子と恋の街で夢と希望と明日と正義を讃えながら仲良ししていたということね?」
「なんて下劣な想像してんですか会長」
それにアイリスは巴里華撃団ではなく帝国華撃団所属であるなどと内心でツッコむアキラとは反対に一人、このアイリスという相手に疑念を覚えている人間がいた。
生徒会会計である市原鈴音は昨日の夜に北陸からかかってきたコールの相手を思い出していた。
その数字の通り元々の家は北陸の方にあったのだが、色々あって「都送り」で東京近郊に住まいを移している。
しかし、だからと一の数字持ちの家との関係が断たれているわけではなく、その伝手で父を経由して、北陸の一色家から通話願いが入ったのだ。
昔風に言えばキャッチが入ったとも言えるが私室での対話を望むあちらの要望に応えて鈴音は通話を取った。
『お初にお目にかかります。一色愛梨と言います』
返すように鈴音も自分の名前を言った。
鈴音の自室機器に出ている顔はやはり純日本人ではない。一高にはアンジェリーナ以前から外国の血が入った生徒はちらほらいるし、知っている限りでは、今後もなんぼか入る予定だが。
なるほど、クオーターであるアンジェリーナと同等ぐらいにハーフであるはずの一色愛梨も金髪の白人の少女ーーーというステレオタイプな印象を持つ。
(まぁスタイルはアメリカンの圧勝ですか)
見えている胸の下のお腹部分までしか見えていないわけだが、それでもそういう所を比較してしまう。
『それで、ご要件はなんでしょうか一色さん?』
別に現在も数字持ちの相手に隔意を持つわけではないが、他校の後輩が何故、私に電話をしてくるのか?もしも、石田アキラに関してならば七草や十文字が対応すべきなのだが……。
『ーーー石田アキラという生徒に関してです』
その眼を今でも思い出せる。それは想う相手……愛する男性の不実を信じたくないとでもいうべき願いの眼だと、そう感じた。
『聞きたいことは、彼の能力とかそういうのではなく、途中から入り込んできた、あ、あのアメリカン娘が、アキラくんのか、カノジョなんですか!?』
そして聞き出したいことは、その焦っている様子から『モロ』すぎた。ここで鈴音は、正確な所を事細かに語るよりも。
(ちょっと脚色して言っておこう)
俗に話を「盛る」ことにしたのだった。それになんやかんやとアンジェリーナは生徒会の後輩である。少々、手助けするように言ったわけだが。
話をするたびに青い顔をしていく一色愛梨に段々と悪い気持ちになっていくのだが。
『そんげなこと、信じられんがいね!!』
最後には北陸地方の訛った方言を言い放ち泣きながら崩れ落ちる一色愛梨。顔を覆って泣いている様子に同情したのだが。
『愛梨!!』
『愛梨!傷は深いぞー!!がっかりするのじゃー!!』
『トドメを刺してどうするんだトウコ!!』
『ど、どうもすみません!!いきなり画面に押し寄せて、けど……石田アキラ君は、そんなにアナーキーな……男子なんですか?』
総勢四人ぐらいの男女が、一色愛梨を助けるべく画面に現れた。
恐らく三高の主要メンバー……何人かは知った顔だ。知り合いではないが。
「すみません。少し話を盛りましたーーーですが、個人的な印象としてはもう喉奥にまで釣り針が入っていて釣り上げられるまで、海面に見えるまでもう少々という印象ですかね」
『何もフォローになっとらんじ!市原センパイのだらぶちーー!!!』
そんな言葉を受けて……。
『そ、それじゃ切りますね!失礼しました!!!』
線が細い男子、トウコなる少女を窘めていた人間が、端末を切った。
古式の大家……吉田家の神童は家が決めた婚約者の元に赴いたというのは本当のようだ。
そんなことを思いながら、もしやアキラが語るアイリスというのは……一色愛梨のことなのではないか?と思ったが。
(特別に確認すべきことではないですね)
こういうのは黙っておけば面白いイベントになるはず、順当にいけば2科生初の九校戦出場選手になるかもしれないのが、アキラなのだ。
仮にそうなれば今年の九校戦はーーー。
そんな打算的な計算をしながら市原鈴音は、嫉妬に狂いつつも、司波深雪とは違いハリセンボンのようなふくれっ面をするアンジェリーナをなだめる石田アキラの姿を見ながらも、クールに黙っておくのであった。