「それじゃ、反魔法主義団体が達也さんを襲ったんですね?」
「本人曰く、そうらしい。まぁ俺は見てないからなんとも言えないけど」
実習授業の後片付けで美月にだけ任せるのは良くないということで、合同の相手だったF組からアキラもだが、お膳立てされた感は当たり前にある。
ぶっちゃけエリカと美涼が美月をけしかけている様子は見ていたのだ。
そんなわけで、所定の位置に片付けていたのだが、返却するべき一部の用具はどうやら職員に返却するようだ。
「一緒に行きますよ?」
「まぁE組の担当者がいなきゃまずかろうけど」
一人で持てる量に2人もいらんというメッセージは届かなかった。
廊下を歩きながら四方山話となる。
「反魔法主義か、そういうのもいるんだな」
原作を知っているとはいえ、中々にダーティーな世界であると再確認してしまった。
「アキラ君は、どう思います?」
「ザ・ボーイズにおける普通の人でも能力者に対して叛意を示すのもいるんだから、そういうのもあるのかな?もしかしたら、魔法師に家族や友人、はたまた恋人なんかに危害を加えられたっていうならば、それは正しい怒りかもしれない」
廊下を歩きながらの会話、気付いた連中が気まずそうに顔を背ける。大抵は一科生だが。
「アンチテーゼってのは、創作の世界だけじゃないでしょ?どれだけ『力持ち側』に崇高な大義名分あれど、それによって迷惑被った連中にとっては受け容れがたいものだろうし」
「そうですよね……私の母は翻訳家なので、そういうあちらの小説を良く見るそうなんですよ」
「とはいえ、それが現実の事にも適用されているかといえば、どこまでもビミョーだ」
どこまでいっても人間の精神というのは原始時代、石器時代にあった力の倫理で全てを片付けようとするものがある。
同じ料理を食べて、同じ歌を聞き、同じ絵画、芸能、シネマに感動を覚えてこそ人は初めて同胞の意味を理解できるのだ。
魔法師ですら、その同胞という所から逃げ出したい人間は出る。
それは、自分たちと同じではない。
能力の優劣で同胞ではない。
違う存在だと言ってのける。
そうなるならば、全ては破綻するだけだ。
タツヤデモートが最後に建設する国だか島だかが、キエサルヒマのように絶望に包まれることはなくともーーー変化の拒絶を体現したそれは腐り落ちる果実でしかない。
(まぁ俺は本当に魔法師じゃないからな……)
魔法が使えるだけの「ヒト」であるからこそ、どうしてもその視座を持てないのだ。
と思ってたらば。
「美月、オレ荷物を持っているんだけど?」
「なんだか、ちょっとシニカルなことを考えていませんでした?」
質問に対して質問で答えるおっぱいおばけに、やれやれと想う。そして、アンジェリーナとは違う感触を腕に与えてくることに恥ずかしながら『勃って』しまう。
よって素直に答えることにする。
「まぁ少しね。そう言えば美月の目はヒトの感情や意志のようなものを色で認識してしまうんだっけ」
「ええ、いまはエッチなことを考えているオーラが見えています」
「そりゃ俺だって健全な男子高校生だし、魅力的な女の子に、ボディタッチのスキンシップされて何も感じない方がおかしいと思うよ」
本当にそんなもの見えているのだろうか?ただ単に状況に対して当て推量で言っているだけでは?と思うも、アキラにはそれが見えないので裏は取れないのだ。
「魔法に対して知識と興味だけが先行していた私が、実践までーーーアキラ君のせいですよ。責任取ってください」
拗ねているような口振りで、アキラを見ながらそんなことを言われる。それがどういう意味なのかを分からぬわけではないのだ。
そして、腕に巻き付きすぎである。すごく柔らかくて大きくて悶々とする想いが出てくるも……。
「数日前に言った通り、やれるだけのことはやるさ」
自分が始めてしまったことだ。それの結果を見届けるまでは、簡単に途中下車できるものでもない。
「それに美月みたいなナイスバディな女の子が、研究所の実験体になるなんて、多くの青少年たちにとって大いなる損失だからな。俺の幸せにとってもそうだからそれは防ぎたい」
などと少し戯けたような言葉で深刻さを消し飛ばそうとした。
「もうっ!そういうセリフは真のイケメンにしか許されないんですよ!ーーーだから許しちゃいます♪」
しかし、美月の反応はアキラの予想の斜め上で、少々面食らう。さらなる柔らかさを感じる腕に、自制をしつつ、「イケメンはセクハラ無罪か!」などと周囲の男子の憤るような声に、自分はそこまでツラがいいのか?と疑問を覚えていたところに。
「ホラ、アキラ。ティーチャー・ツヅラの準備室はこっちヨ♪」
流石に一科主体の場合だから見られていたのか何なのかアンジェリーナが反対の腕に巻き付く。
対抗心からか、いつもより深く巻き付かれるも……
「流石に両腕に巻き付かれると
『『両腕の
なんだってこんな風な白い目で見られるようなことが俺に起きるんだ。
「やめてほしいならサッサと振り払えばよろしいのでは?」
「それをすると色々と女の子の身体をアレすることになっちゃうからなー、あと折角だからこの感触を堪能しておきたい」
一番に白い目で見てきた司波深雪に返しつつ、我が身の不自由さ(二重の意味)を嘆く。
結果として、魔法幾何学の講師に用具を返すまでおよそ20分程かかるのであった。
そして恙無く放課後になったが……。
(有志同盟による放送室占拠がなかったな)
あの生徒会室においての会話から数日が経った。
正確に言えば一週間ほどの期間の後に起こることだが……それでも色々とアキラがやったことによる影響を除いても、時期になるはずだ。
そろそろ原作の流れ的に起こるはずの事件が起こっていない。別に起こってほしいわけではないのだが……起こるべきことが起こらないとどうしても不安になる。
(……あまりにもイレギュラーがありすぎるな)
自分が大人しくしていても、していなくてもこうなってしまう。
その事にどうしたらいいのか分からなかったのだが。
「アキラ君、お客さんだよ。二年の先輩だけど」
岬が帰り支度をしていた自分に話しかけてきて、手を向けた先を見ると……。
(壬生 紗耶香)
ポニーテールにした女子がいたのだった。
「自分に何か用でしょうか?」
「ええ、カフェテリアで話をする形になるけど大丈夫かしら?」
「もちろん。
アキラの言葉に、虚を突かれたような顔をする壬生紗耶香。
「わ、私のこと知ってるの?」
「そりゃ俺だって全国区の大会に出場してきた中学アスリートですし、それに昨今の全中……全国中学校体育大会は、指定された県・都市で一箇所集中開催じゃないですか」
昔……この世界でも当たり前だが中学部活動の全国大会というのはやっている。当然、その上の高校でもそうなのだが……インターハイ及び全中は、以前とは違い先祖返りしたかのよう各都道府県の持ち回り開催が行われている。
競技種目を実施するうえで地域によって実情は異なるから近県や少し遠くの方で行うものもあるが……基本的には1つの都道府県の大都市で行われるのが実情だ。
これは地球規模で訪れた小氷河期の発生からの人口減少に端を発する政令指定都市、県庁所在地への人口集中という名の『大移動』を行ったことの影響もある。
まぁそんなわけで。
「試合が無い時とかはチームメイトたちと他競技を見たりしていたんですよ。まぁその際に格闘技系の会場で、あなたを見たという話です」
時々テレビにも紹介されてましたから、と付け足すと恥ずかしがる様子である。
「まぁ大久保さんの方が強かったですけどね」
「……そうね。薫ちゃんの「爆発」は私の剣の理とは違うけど、あれはすごかった」
全国大会「準」優勝である壬生紗耶香は、そんな風なことを言いながら申し訳なさそうな顔をしていた。
(大久保さんの真実はーーーあえて教えんでもいいだろう)
原作では千葉エリカにくそみそに言われていた全国優勝の真実を言わずに、壬生の誘いに乗ってカフェまで行くことに……当然、隣のクラスの人間たちにも知られて、あれよあれよと言う間に……。
「なんかヒトが多いような気がするねー……」
「そうですね」
気がするではなく、本当にヒトが多いのだ。
見えるだけでもオレンジジュースを飲む爆乳(眼鏡っ娘)とその隣には炭酸飲料を飲む巨乳(米国産)が、暗い顔で睨むようにこちらを見ていたり。
その近くではE,A,Fの混在したグループがどうともいえる目でこちらを見ている。更に言えば三巨頭が分散した形であちこちにいてーーー1番に目線を感じるのは。
(
どれだけのワックスを使えば、あんな髪型になれるのか、中の人の毛量では絶対に無理な御仁の不安げな視線が強かったりする。
(さてさて、どんなことを言われるのやら)
「この間の校長先生との会談は衝撃的だったわ」
「そうですね。俺もまさか、そんな人道に反する行為を横行させようとしていただなんて驚きですよ」
「うん、それでーーー」
そんな出だしから始まった壬生紗耶香の話は概ね原作通りだった。
本来、その話を持っていくのがタツヤデモートであったというだけ。
その言葉を受けてタツヤデモートは、自分には大きい目標があるからアンタみたいな小物には構ってられない。という突き放しをした。
(ある意味、それこそが放送室占拠の原因だよな)
別に御輿になれやとまでは言わんが、もう少し何か言えなかったのかと思うも。
(それが、あのやり取りだったということか)
よく考えれば、少しはタツヤデモートも考えたようだ。
『俺様は孤独で裕福なBBAの心の隙間に潜り込み、ロマンス詐欺じみた行為で分霊箱という超スゴイお宝を用いて闇の帝王街道一直線になるのだ!!フハハハハ!!』
最後の方には魔界から人間界にやってきてロックな音楽で人間界征服を成し遂げた閣下が混ざってしまったが……。
「だから石田君には、その先頭に立ってほしいの」
「ーーー無理ですね。俺には出来ません」
「なんで!? あなただってこの学校の酷さは分かったはずでしょ!?」
「ええ、だからと言ってアレ以上の要求は出せませんよ。俺はあそこで終わらせときます。もちろん言ったことが反故になれば、その時は……ですが、それでも待つこともまた必要でしょ」
「私や三年生は、それ以上に待ってきたのよ……!」
「そうですね。俺が言う前に今の三巨頭や数字持ちの家の人間たちが気付けばもう少し早かったかもしれませんけどね。そうじゃなかったんですから仕方ない」
責任の所在を三年生や他の数字持ちの連中に丸投げすると、呻くような声が聞こえた。
「ーーー壬生先輩は、どんな魔法師になりたいんですか?」
「え?」
「さっきから聞いていると、なんかアナタが魔法師として成し遂げたいことってのが見えなくて分かんないんですよ……」
原作でも、魔法師としての壬生紗耶香はどうなりたいのかが分からなかった。
ただ単に待遇差別を訴えさせるだけの役割を与えられたマリオネットかゴーストのように……二科生は魔法教育が不遇という突き崩せない結界を突きつけられれば、そうなるのかもしれないが。
(俺は確かにそれを砕いた。それが出す結果までは分からないが、この世界に掛けられた
まぁ
それこそが変化の拒絶の大本だ。
そう内心でのみ結論付けたところで壬生は口を開く。
「私は……アナタこそサッカーの世界に戻りたくないの?」
話を変えてきた壬生に内心でのみ嘆息しつつ口を開く。
「戻りたいからと戻れるものではないですしね」
剣道や柔道とは違って、アキラとフットボールの世界は魔法の世界に入り込んだことで途絶えた。
「それに、俺は別にここでサッカーをやろうとは思いませんよ。わざわざ部を作るなんてこともしません」
「どうしてーーーーーー」
「俺が全てを裏切ったからです」
その言葉は、魔法師としての生き方を強制された男に差し込まれた
切り裂かれたことで途絶えた糸が繋がることは無い。
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「まさか、こんな存在がいようとはな」
「では、どうするので?」
「しばらくは、東道のやり方でもいいだろうが、それではダメな場合の備えが必要なのだよ」
そうしてこの国は生き残ってきたのだ。
という最後の言葉を理解しつつ、状況の危険度をあげる様々なモノが運び込まれているのに驚く。
それら全てが、かの反魔法主義団体に与えられるというのだから、つくづくこの国は腐っていると思う。
(美涼……兄ちゃんは、お前の世界を守りたいだけなんだ……)
自分に苦難があれど、ただ妹が安らかであれと願っていたというのに、我が身のままならないことを嘆きながらも元老の一人の指示に従うしかなかった男は、苦悩を押し殺すことが出来なかった……。
誰も望まない幕が開かれようとしていた。