「裏切ったって……どういうことなの?」
驚いた表情をする壬生紗耶香に苦笑してから口を開く。
「言葉通り。俺は結局、地元のダチ公たちとの約束を裏切ってここに進学してしまった。当然……ユースでもそうですけど」
中学三年間の伝説に続く新たなる伝説を高校でも築こうぜ。そういう約束だ。
更に言えばジュニアの世界大会に招集された際のフットボーラーたちもだ。
同級生、先輩、後輩……。
大勢いたのだ。
大勢の期待を裏切った。
「サッカーも野球もチームプレイの競技種目です。俺一人じゃ、サッカーは出来ない。4つのポジション全てを俺一人ではこなせない……何よりあれだけ練習してきて俺に着いてきてくれたみんな以外とサッカーをしたくない。だから……地元のみんな以外と……
その言葉に食堂に大きな沈黙が訪れた。この男はあまりにも魔法の世界と縁遠すぎて、自分たち魔法師には分からない絶望を包んでいるのだと気付けたからだ。
「けどアナタは違うじゃないですか。魔法の世界に俺よりも早く馴染んで、そしてそれに応じたわけではないが、決して無関係じゃない競技種目にも専念出来る……羨ましい限りだ」
サッカーをやっていなければ、こんな想いをせずにいられた。今までの関係を断ち切るような、断たなければならない競技種目をやっていたから苦しい想いをしているが、それでも……最後まで後悔しているかといえば違う。
あの日々は、俺の糧となっている。
あの日々は、俺に多幸を与えてくれた。
あの日々は、俺にとっての宝物だ。
流した汗と涙と、強敵との戦いが……いまでも俺に巨大な樹木の如く「折れないもの」を与えてくれる。
「………だから一科生との戦いにも積極的だったの?」
「校長先生に語った通り、俺はこの「なにもない」に相応しい男です。俺に目的意識の1つでも発生するならば、寄越してくれるならば、校章ある連中……格上との戦いぐらい望みますよ。
なにもない、という所で「ない校章」の部分を人差し指で叩いたアキラ。
その後にあった「格上との戦い」という言葉で近くにいる渡辺委員長から動揺の気配を感じる。
「だから……俺みたいな虚ろな人間にそんな立派なスローガンを掲げる団体の旗手にはなれませんよ。それに、校長先生とああして話してしまった以上、そんな不義理は犯せません」
校長である百山東に出した要求交渉は、ある種の契約行為であった。
そこで約束したことが確実に履行されないとなれば、それも良かったかもしれないが……今のところは大人しくしとかなければ、どんなアヤを付けられるか分かったものではない。
(出来ることなら、エガリテとやらにも大人しくしてもらいたい)
なにより……。
(アイリスちゃんは、フランス革命で掲げられたスローガンのために王様を殺したかつての自国民の所業を歴史の過ちと語っていたのだから)
負の側面を語る彼女の顔を覚えている。だからーーー
「石田君、魔法戦で私と決闘してもらえるかしら?」
そんなことで大人しくしてもらえるならば。
「はい、よろこんで」
と、こっちのけんとよろしく二つ返事で答えるのだった。
・
・
・
「オレは大反対だ!!!」
部活連の部屋とやらに呼び立てられたアキラは、いきなり慟哭するカズヒラ・ミラーのような声に何なんだよと思う。
「司波くん、こちらにいるちいかわに出てくるポシェットの鎧さんのごとき声の人は誰?」
「ああ、こちらにいるポシェットの鎧さんボイスのヒトは剣術部の部員で2年生の桐原武明さんだ」
そんな中の人が見たらば嫉妬(?)しそうなやり取りを司波達也としてから聞くことに。
「けど許可自体は降りたんですよね?」
「ああ、恐ろしいことにお前と壬生が同意しているということ以外は、特に聞かれなかった」
答えたのは、部活連会頭である十文字である。
彼としても、あんな会談があったあとに再びこんなことを許可する講師方の判断をどうなんだと思っていた。
「結局、生徒同士のアレコレ、いざこざに関しては介入しないんじゃないですか?」
なぁなぁな対応というとアレだが、随分と対応がお座なりである。
だが、それだけだというのがアキラの考えだ。わざわざ今さら教師びんびん物語なことをやられてもシラケるだけだし、別にいままで通りでいいと思うのだ。
「俺には皆さんが何に対して憤っているのか分かりませんよ」
「……はっきり言えば、こんな風に切った張ったばかりをやられるのは、ちょっと複雑なのよ」
「別にいいじゃないですか、今回は同じ二科生どうし、もちろんあっちは一年間やってきた積み重ねはあれど、別に同レベルどうし……いい勝負になるんじゃないですか?」
「そんなわけあるか!壬生の剣の腕前はお前なんかに追随出来るものじゃない!!それなのにーーー」
アキラの剽げた言葉に反応したのは、意外なことに渡辺委員長であった。というよりも……これを狙っていた。
「ええ、けどそれこそが俺にとって望むことですよ。格上の相手と戦い、自分の出来ることが何なのかを探っていく」
結局、最大の動機はそこなのだった。そして、その言葉に委員長は「もしかして、そうだったのか……?」とか少し思い悩む様子だった。
「それに壬生先輩も、なんか俺と戦いたい様子ですしね」
「負ければ有志同盟……差別撤廃を訴える連中の頭に据えられるんだが?」
「勝てばいいだけさ、一番いいのは七草先輩や十文字先輩の家に超神水やエンドルフ・アーみたいな超人薬があれば、それをみんな…特に二科生に渡すことだけど」
「「そんなものはない!!」」
タツヤデモートの言葉に返しつつの言葉は否定された。そしてなにより、そんな差別撤廃なんてアジテーションが通じるような連中じゃないだろ?物語的に都合が良すぎな一高の生徒たちに苦笑していたら。
「石田君はライトノベルなどの創作物をいっぱい読んでいるんですよね?」
いきなりな話題の転換が市原鈴音からもたらされる。
「まぁそれなり程度には」
「では……そういうチカラが足りないことを嘆いた人物を主題にしたものとかありましたか?」
どういう心境なのかは、その無表情では分かりにくい市原の言葉に……少しだけ考えてから答える。
「俺もかなりうろ覚えですが、ありました。概略ぐらいですが、確か……魔法使い達にとって楽園とも言える都市に生まれて、更に言えば強力なチカラを持つ魔法使いを両親に持つ
「ーーー」
「ーーー」
この場にいる兄妹が沈黙するのを感じながらも、アキラは市原に概略を話す。
特に妹の方の話を。
右を向いても左を向いても魔法使いばかりが、闊歩するといってもいい街。
そんな街にて優秀な兄と比較されてきた落ちこぼれの妹。
両親からも匙を投げられつつ必死に努力しても、並び立つことはおろか、ついていくことも出来ない己の不遇を嘆き、それでも落ちこぼれなりに必死で魔法使いの学校で生き抜いてきた。
世渡りとある種の計算高さでーーー。
「けど、それでも妹の方は満足出来なかった。優秀な両親から産まれたとは思えぬ自分を嘆き……叔父とも言える相手、海を超えた先にある新大陸で権力者になっている人間からチカラの秘密を盗み出そうと渡航することを決意していった」
「何故、その叔父さんを頼ったんですか?」
「確かその叔父は、破滅を呼び込むカミサマを追っ払ったことで一躍有名になり、その一方で元の大陸では大犯罪者。だから人々の原初の大陸に渡ったわけだが……そいつにはカミサマを追っ払えるほどのチカラ……スゴイ秘密があると踏んでいたんだったかな?」
我ながらなんて誤魔化しだよ。と思いながらも話を続ける。
一度目の渡航で叔父ではないが、やはり超人、化物じみたチカラは世界に存在すると知った落ちこぼれの妹は、二度目の渡航ーーー密航にて、魔法使いに敵意と反意を示す革命ゲリラとでも言うべき連中と接触を果たし、彼らが使用するチカラを手に入れようと画策する。
「何故、そんなことをしようとしたんだ?」
「そりゃ自分を蔑んで虫けらみたいに扱う連中を見返すためだろ。自分を追い出した全てに復讐を果たすようなチカラを手に入れようと……したんだけどな……」
そうして全てを利用するつもりで魔法使いであることを隠して反魔法団体の「隊」に所属した妹だったが、そこで魔法使いではない人々と深く関わるようになっていき、そこに生きる人々の強さとその根底にある価値観……未開の開拓地でも生きていくためのしたたかな在り方に惹かれていく。
「その「隊」には、打算や計算ではなく本当の意味で好意を抱いてしまうような男性もいた。全ての人間や機知などを利用して生きてきた妹は化物じみた強さなんていらない。ようやく見つけた自分の居場所……この「隊」のみんなと革命を!……と、意気込むんだけどな……」
ここまで語ってみるに、どうやら自分の語り口は予想以上にこの部屋にいる全員を引き込んでいるようだった。
「そ、それでその妹さんは……ど、どうなっちゃうんですか?」
「結局、魔法使いの家に生まれてそんな連中と関わるなど言語道断だとして、母親の友人ーーー強力な魔法使いに「隊」は、ほぼ全滅に追い込まれ、やはり自分に居場所はない。同時に自分は魔法使いの中にいてもいなくても疫病神だとして慟哭するんですよ」
なにより自分の全てを否定してくるのが、自分を生んだ母親であることが妹を深い悲しみに突き落とす。
しかし、最後には怪物と化して暴走する愛した男を殺し……それでも「隊」の一人として動いていく。
「ラストはーーー結局の所………なんだったか覚えてないや」
「肝心なところを!!!!」
中条先輩だけでなく多くの人間がズッコケたのを見ながら申し訳ない想いを覚えていたのだが。
「ナーンカ、誤魔化してない?」
「さぁね」
ニヤついた笑いでこちらを見てくる隣のアメリカンガールに、笑みを零しながら物語の結びは、語らないのが礼儀というものだ。
まぁ一番には、アンジェリーナを思い出したからだが、それを正直に言わないでおくだけの恥ずかしさがアキラにはあったのだ。
だが……全員が思い悩む様子は見えた。一番悩むのは……。
「壬生も……そうなのか……」
桐原武明の呟くような言葉に、自分の望み通りの姿を他人に強要は出来ないーーーとは言わずに内心でのみ言っておくにとどめた。
結局、超人に、恐るべき怪物になってでも相手を見返したいという思いは誰にでもあり、それを止めるための道理は……優れた魔法師にはないのだ。
(まぁエガリテだかブランシュだかに、か弱きものたちにチカラを与える術があれば、それはそれで問題解決だったんだけどな)
内心での言葉を吐き出さずにいると。
「ソレより!サヤカ先輩は、
アンジェリーナの心配するような顔が見えた。
「格闘技の経験もスキルも俺にはないからな」
自嘲するように、
おまけに得物を持った戦いなど殆どーーーまぁアイリスが試合会場には来てほしくないが、それでもどういう突きーーーラッシングをするかぐらいは見たことはあったか。
と……考えたが、あまり参考になるようなならないようなとして破棄してから。
「キミに教えてもらった「アレ」使って大丈夫か?」
アンジェリーナに教えてもらった術の開帳を願うのだった。
「ーーーアア、「アレ」ね。確かに接近戦するには
アレという代名詞だけで分かる辺り、変な以心伝心である。しかし、心配そうな顔をするアンジェリーナに答える。
「まぁ剣の達人相手に、俺だって無謀はかまさない。しかしーーーーーー俺は挑まれてしまったからな」
だから、それに応えなければ信条を誤る。昔から決めていることだ。
なにより……俺は魔法科高校の退学希望者なのだから、そのための道筋としてこういうアナーキーなことをやっておけばよいのだ!!
いい加減匙を投げる人間を出すためにも俺はどこまでも扱いにくい野良犬・ケンカ犬であるとアピールする!!
ベンチ前で指示も出されていないが、それでもアップをしてアピールする選手のごとく!!
ーーー流石に自分がやってしまったことに始末をつけるつもりはあるが、ソレ以上は余分だ。
最終回「さらば魔法科高校!!」のタイトルをつけるためにも!!
(俺は!!後ろに向かって前進し続ける!!)
……というアキラの思惑は崩れて、2日後の土曜日……本来ならば午前授業の日、原作でならば討論会という名のワケワカメな七草真由美の言葉が発せられるはずのそこに差し込まれたイベントはーーーーーとんでもない結果を齎すのだった。