入学してまだまだ日も浅いというのに、次から次へと戦いをあっちこっちから挑まれるのは、魔法のシロウト。
そんな一年の戦いは、怖いもの見たさがまさる人間が多いのか、それなりの数はいた。もちろん部活優先である人間もいるのだが。
それでも……
「くううっ!なんでアッキーの戦いがある時に限って部活があるんだ!」
「部長、他に示しがつかないので、そういう発言は控えて」
本人がいれば「勝手に愛称をつけないでください」とか言っているだろう五十嵐亜実の言葉に返した北山雫は、なんで一年生である自分がこんなことを言う羽目になるんだろうと思う。
しかし、現実にこの部内にてストッパーたる窘め役は自分にしか出来なかったのだ。
土曜日のSSボード・バイアスロン部の活動にてそうしていたのだが……。
「雫は石田君の勝負に興味はないの?」
「……よく分からない」
興味があるとかないとかではなく、よく分からないという言葉に幼なじみである光井ほのかは苦笑する。
石田アキラというのは本当に魔法科高校では異質だ。本人が自分を異物であるなどと自嘲するところの通りに、彼は自分たち魔法師の常識を壊していく。
良くも悪くも、どう処理していいのか分からぬ感情が多くの人間に溜まっていく。
魔法師として目覚めたのも遅すぎて、更に言えばそれまで違う世界で活躍していた人間である。
当然、そういう人間がいることぐらい知っている。とあるアスリートは、今までやったことがない競技種目を高校一年からやり始めて後にはオリンピックでメダルまで取ったぐらいだ。
当然、そこには彼が体格が良いスラブ系の血が混ざったフィジカルが日本人離れしているというハーフだからこそのそれがあったが……魔法の世界にそれが適用されるものではない。
おまけに考えも……何というか酷薄なものに思える。もちろん、現在の魔法師界のトップメンバーには、そういう人体実験での強化でチカラを得たものもいる。
彼の言うような超人化薬物……「超神水」「エンドルフ・アー」「コンパウンドV」のような経口摂取や血管注入でなんていうものではないとは思うのだが、それでも
そのための、それをさせないための魔法科高校による授業と実習ーーーそして愛しの司波達也が研究などを進めるCADの機能強化である……と思っていたのだが、それすらも彼は否定したーーーやったのはどちらかと言えば校長先生なのだが。
それでも……なんというかもやもやした気持ちは拭えない。いっそのこと彼が魔法師として覚醒するのがもう少し早ければ彼は一科として「伸び盛りの魔法師」となれたかもしれないが、現実には遅咲きすぎて二科の生徒としてなっている。
(達也さんとてなれなかった一科の生徒としての地位が石田君にあるのもなんかわたしの心情的には納得出来ないかもしれないけど……)
そうであったならば、まだ違ったのではないかと思いながら部活を再開しようとしたのだが……。
「ーーーなんだろうあれ?」
何気なくライフルの照準装置を向けた上で拡大させた所にいたのはドローンとも見えてしまうような小型の鳥かコウモリのようなものーーー当たり前に生物ではないものが一高の空に滞空していた。
ほのかには明朗に分からなかった。しかし、それが災厄の前兆であることは後に分かる。
そういうものであったのだった……。
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「客数はそこまで多くないな」
「だが、エガリテの連中……反魔法主義にかぶれた連中をーーー捕縛……するだけのことをやると思うか?」
「俺に聞かれましても」
何気なく放った言葉に何故か反応した委員長に返す。確かに壬生と司という三年生が中心となっている差別撤廃の有志同盟とやらは、確かに活動実態としてはあった。あったのだが……。
「アキラと校長先生の対談で少しばかり割れた印象ですかね」
マークしていたエガリテのメンバーの中にはリストバンドを今はしていない連中もいる。いわゆる「足抜け」をしたといえる証だろうか。
思想や主義だけでは空腹、飢えは満たせない。
(
自分にとって魔法は呪いだなどと厨二病なことを言っていた時を恥ずかしく感じる。自分の境遇に酔いすぎだ、と。
「そういえば会長はなにか有志同盟に関して対策を持っていなかったんですかね?」
会長と近しく、何かと話す渡辺委員長ならばなにかあったのではないかと思う。
「ああ、実を言うと……」
戸惑いながらも風紀委員長の語る所を頭の中でまとめるに……。
「なるほど、全てはアキラによってご破算になりましたね」
「ああ、真由美としては二科は差別されているという被害意識が強すぎるということでまとめようとしたんだが」
「創設の発端が強化実験の検体集めなんてのじゃ、そんな言葉がとてつもなく虚ろですね」
「……更に言えば、実習授業などのカリキュラムも一も二も同じだと言おうとしたんだが」
「それ、教える人間がいなければ何の慰めにもなっていませんよ。実習授業は魔法を達者に使うためのトレーニングなんですから」
言うたびに辛い顔をする委員長。第一、達也は深雪という存在が近くにいるので、一科と二科でやっていることの違いもあることを理解しているのだ。
ゆえに……。
「そして、生徒会の規約を改定して……二科生を生徒会役員にする制限を取っ払おうとしたんだが……」
「そうですか。入れたいと思う人材がいるかどうか。そして入りたいと思う人間がいるかどうかですね。賭けです」
「達也君が、かなり辛い……」
だが、そこが重要だ。結局の所……。
「本当に2科生が欲しいのは、亀仙人や鶴仙人ーーーはちょっと違うが、カリン様か神様のような師匠ということか……」
(エロ本を上納することで亀仙流を習えるならば安いもんですけどね)
だが現実はそうではないからこそ息苦しい。あえて摩利の言葉に返さずに、そんな結論を出していると魔法戦闘用のスーツと剣道着に身を包んだ壬生紗耶香がフィールドに出てきた。
特に歓声は上がらない。そして、それは……制服姿でやってきたアキラも同様だった。
だが、上がるわけがない。張り詰めていく空気を誰もが敏感に感じている。
俗に殺気というものが膨れ上がるのを感じる。肌が粟立つのを誰もが感じる。
今回に限り審判役はいない。魔法師同士の接近戦となれば審判も命懸けとなる。
例えそれが二科生同士のものであろうと、結果として大怪我を負う可能性もあるのだ。
ボクシングや空手のジャッジとも違い、色々と危険なのだ。
となれば遠距離からの
そんなわけで、階上から十文字会頭がルール及び危険行為を読み上げていく……。
『最後に石田……もうこれ以上、自分探しのために戦うのを止めろ。お前が求めている答えなど俺たち……生まれたときから魔法師であった人間には教えられない』
それは一種の敗北宣言であったが、アキラは…。
『別に俺は挑まれてることに応えているだけなんですけどね』
マイクドローンがアキラの声を拡大して全員に届けた。即ちこんなことは挑まれれば起こってしまうことなのだ。
ともあれ、それを最後に戦いは起こる……。
お互いに駆け出しながらの魔法の起動。
別に止まりながらのデバイスの操作が全てではないが、それでも特化型以外の汎用型を動きながら操作するというのはそれなりに至難だ。押し間違いは当然として起こりうる。
アキラはある程度の思考選択も可能なプレート型ではあるが、壬生の場合はキープレス型である。
お互いに選択した魔法は……。
互いに超速での機動に移る。自己加速魔法を選択した様子だ。
壬生も伊達に一高に入って一年、ソレ以前からの経験も含めれば一年以上も魔法に慣れ親しんできたわけだが。
(アキラの方が上か)
事象干渉力の硬さが、そのままに速さへと変わり、ただの蹴りが放たれる。
ただの蹴りとは言うが、いわゆるサッカーキックの類であり、総合格闘ならば転んだ相手の顔を蹴るようなものだ。
しかし、当然……壬生は倒れていないし転んでもいないので、下方に突き出した竹刀がその蹴りを止めて、そのままに振り払ってアキラを倒そうとする前に。
「壬生!!!」
桐原の声。アキラは止められた足を支点にしてもう片方の足を横から放とうとしていた。
右足の蹴りを壬生にとっては左方向に放った。それを防御するために壬生は両手で竹刀を放ったのだ。
ボレーシュートよろしく無防備な腹を狙おうとするそれをーーー。
超速で後退することで打ち消した。
アキラからすれば支点として利用していた竹刀が消え失せたことでバランスを崩した。着地が乱れる。
その隙を見逃す壬生ではない。
後退したのと同じような速度で突きを繰り出してきた。
砲弾のようなとは流石に過ぎた表現かもしれないが、横から見ている達也にとっては、そう感じるほどに速かった。
しかし、相対しているアキラにとっては違うのか自分を貫こうとしているその突きに対して。
冷静だったのか、とっさなのかは分からないが。マットに突いた手を利用して側転ーーー自己加速魔法の勢いもあったのかそこから伸身宙返りというアクロバットまで決めてきた。
恐るべき運動神経を前に貫くはずの標的を失った突きは
「ッ!!!!!」
その宙返り中にCADを起動させていたらしく、彼の十八番ともいえる空気弾の連射が壬生を襲う。
距離を詰めたはずなのに距離を離される理不尽を多量の空気弾を防御したり切って捨てる中で覚えながらも、着地をした石田アキラは冷静にこちらを見ていた。
それがどうしても不気味すぎた……。
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「そう言えば松山が言っていたか。レッスンを受けたボーイズアイドル並みのアクロバットを決める中学サッカーの有名選手がいるって」
「それが石田君なんですか?」
「可能性はあるだろう」
中学時代の同級生の言をいまさら思い出したのは松山 葵ことメンズモデル「AOI」が、興奮するぐらいに、今しがた達也と深雪が見た光景とリンクしていると思えたからだ。
「とはいえ、アキラも達人を相手に素手では分が悪いと考えただろう……」
「ならば遠距離から最大火力で壬生先輩を抑え込むですかね?」
それが常道であり常識だ。当たり前のごとく当然の戦略だ。
だが、そうではないナニカがある。アキラの戦いは魔法師の常識とはかけ離れたものがある。
先程のアクロバット最中からの魔法式の展開など凡そ「やれる」としても「やろう」とは思えないアンバランス極まるものをやってのける才は……。
そしてーーー
「なんだあの魔法式は?」
達也ですら詳細が分からない魔法をアキラは展開した。
そして、未だに持続中の自己加速魔法の動きのままに壬生に突っかかるアキラ。
「傲慢が過ぎるわ!!」
壬生の言葉はまぁ当然であった。接近戦の達人相手に素人が勝とうなど。
だが、アキラはその傲慢を、非常識を通す。
機先を制するように壬生紗耶香の竹刀が接近しようとするアキラを止めるべく動く。
再びの蹴りが放たれないように、中距離で留めるべく竹刀は放たれるも。
ソレに対してアキラは手で払うかのような動きを見せた。
当然、竹刀と触れるわけがないはずのものだったのに。
「!!??」
何か重いもので払われたかのように壬生の竹刀が弾かれて身体が流れた。
そこにすかさずとはいかないが、それでも何かを放るような動き。投げはなったソレは。
「ぐっ!!!」
壬生を後ろに後退させた。明らかなダメージ。
見えない何かを放られたことで、それの威力が炸裂した形だ。
「ーーー見えない「剣」……あるいは、圧力ともいえるものを固めたような小刀サイズのものがアキラの手に握られている」
ようやく達也の目にも詳細に見えたアキラのトリック。それは、アメリカに追放された後に十師族になった家の魔法師が開発した魔法であった。
USNA軍が採用している分子ディバイダーの前身となった術式の1つ。
かの開発者はこう呼んでいた……。
「降魔の剣」、と。