「彼らの狙いは図書館よ」
一言でこちらの迷いを断ち切った人間が現れた。
現れたのは……。
「司波君、こちらの木之本桜なボイスの和泉こずえなスタイルの方は?」
「それどっちもタンゲサンじゃないか」
返した言葉は、サムゲタンみたいなイントネーションではあったが、無限のリヴァイアス!!などと叫んでいる女子2人はともかく、達也としてはF組の方にこの人は行かなかったのか、と疑問を覚える。
「司波達也くん以外とは殆ど面識がありませんが、心理カウンセラーで養護教諭の小野遥です」
そして小野先生が語る前に……。
「その前に後ろにいる坊さんらしき人は、小野先生の関係者で?」
アキラの言葉を受けて隠れていた作務衣姿の禿頭の男が現れた。
「いやはや僕の隠遁を見抜くとは中々の人物だ」
「師匠……何故ここに?」
「まぁ色々あって、ね…そちらの石田アキラ君にアドバイスをしようと思って、その前に自己紹介しておくべきかな?」
一つ言葉を区切ってから再度、言葉が吐かれる。
「僕はそちらの司波達也、深雪の兄妹とは懇意にしている忍術使いの和尚ーーー九重八雲というよ」
その言葉にアキラは「そうですか」と平淡だ。リーナも普通だ。達也が忍術使いであると知った模擬戦の時も普通なテンションで、こっちは変な気分だ。
もうちょっと驚きあるリアクションが欲しいものだが……。
「リーナはなんか普通ですね。外国人ならばニンジャというものに目を輝かせそうなものですが……」
そのステレオタイプな深雪の見方にリーナは物申すようだ。
「2010年代ぐらいならNARUTOに影響を受けた外国人ばかりダッタでしょうけど、今じゃ多くのアメリカ人は、実際のニンジャは
リーナのいうことはチョークや出席簿を手裏剣代わりに投げる女児の初恋先生よろしく形状や材質を問わず様々なものを投擲物として使う人間が「忍者」と言いたいようだ。
「今ならばともかく昔の鉄は忍の表向きの居場所である村社会においては貴重な生活必需品だ。手裏剣だの撒き菱だのに使えないからな」
農具や調理道具などに使うのが普通であると補足するアキラにリーナは同調する。
「ムカシのニホンは
それを見て、ある種の……ステレオタイプなアメリカ人がアンジェリーナ・クドウ・シールズだと思っていたのにカルチャーショックである。
そんな司波兄妹の態度に「バカにしてんな」と勘付いたリーナの険相が見えたが。
「で、住職は何の用ですかね?」
必殺、話を戻す!をしたアキラによって、話は変わる。
「色々あるが、石田アキラ君、魔法師としては新米の君にアドバイスだ」
ーーーイカヅチを使いたまえーーー
意味不明な一言の後には霞のごとく消えた坊主。
見事な退場と見るかどうかは
「なんだったんだか……」
「すまん、あの人はある種の狂言回しを気取っているところがあるから」
弟子が入れてきたフォローはともかくとして、もう一人の弟子曰くの反魔法主義団体の狙いが知れたが。
「二手に分かれるか。俺とアンジェリーナは各所での戦いのフォロー、君たちは連中が侵入したという図書館棟に」
「その方がイイわね。アキラじゃ壊しちゃダメなものも壊しかねないモノ」
全くもってその通りとアキラは思いつつ、妥当性は司波達也ことタツヤデモートにはあったらしく……。
「分かった。そうしよう」
その言葉の後には武運を祈るだの、GOOD LUCK!だのという言葉を言い合ってから分かれるのだった。
バイアスロン部の確認を終えたあとに向かうのは、図書館棟と実験棟のどちらかと迷ったうちの実験棟だがーーー。
「結構、やられてるワネ」
「狙いを絞らせないための偽攻ってヤツなんだろうが」
どちらにも戦力を集中しているが、どちらかといえば整然と攻撃を仕掛けているらしきこちらの様子に面食らう。
並木道の向こうに存在している実験棟には様々な攻撃が仕掛けられているが……。
「
難しい言葉知ってんねー。などと軽口を叩きたいが、状況はよろしくない。
実験棟の守備隊に合流する形で到着する。アンジェリーナを姫抱きする形でやってきたからか驚かれつつも、特になにも言わない。
「モウッ!アキラは何か言わないの!?」
守備隊の主なところ、一科生と話すのをアンジェリーナに任せながら物理障壁を張っていたわけだが、それは面白くなかったらしきアンジェリーナが抗議してきた。
「俺が何か問うたところで、答えてくれるとは限らないしね。余計なことは言わないでおくよ」
こんな時ですら「よそ者」かどうかを気にする一科生の心を想像してアキラは苦笑いした。
(仮に魔法能力への覚醒が早ければ、俺も今頃、余所者を嗅ぎ分けるクソ野郎になってたのかな)
そんな自分はイヤだな。とアキラは自嘲しながら対策はーーー簡単だった。
見えない敵の存在を見据えて考えるに…。ゴールプランならぬマジックプランは定まった。
「アンジェリーナ、「サンダーブレス」いける?」
「OH!じゃあアキラはもう見えているのネ。ワタシ知覚系統苦手だから敵が見えないわ」
座標指定された魔法式が現象を発する。それは強烈な電磁波というべきものだ。
アンジェリーナが指定した範囲一面へと発散された電磁パルスの衝撃波は、その圏内に捉えた電子機器を悉く破壊する。
今回その餌食となったのは。
「うわわっ!!」「あぶっ!!」
木の上に、不安定な姿勢でも射撃を繰り返していた人間たちのカメレオンスーツとでも言うべきものと、どんな不安定な場所でも立ち歩く事ができるオートバランサー付きのブーツであった。
この手の軍事用携帯装備はシールド処理が徹底していない。
魔法師の兵隊であろうとなかろうと強い電磁兵器を使われては色々と不便があるから、そうしているそうだが……。
ともあれ樹液に群がるカブトムシ・クワガタなどを木を叩いたことで落としたようにボトボトと落ちていく銃器持ちの連中。
アキラは既に展開していた術ーーー地を這う雷とでもいうべきものを手を地面につけて並木道全てに走らせた。
蜘蛛の巣状に広がる雷の網が落ちてきた連中を絡め取る。
「な、なんて威力……」
地面に落ちた連中は当然、感電したが……地中に居た機械仕掛けのバイパーもまた巣を燻されたようにして飛び出て、そのまま機能停止に至った。
そしてーーー。2人ほど残っていた連中を空気弾でぶち倒してから残敵はいなくなったことを確認する。
「石田君は敵がいるのを分かっていたのかい?」
「いいえ、ただの「当て勘」です」
当然、ウソなのだが女顔の先輩に事細かに説明している状況でもない。
魔法師とて軍事に詳しくないわけでもないのに、こうも動きが散漫だったのは、機械仕掛けのヘビにある種の意識妨害な音を発させることで、透明な人間が樹上にいるという事実に至らせなかったのだろう。
それでなくてもバランサーブーツなんて代物に至れたかどうかは不明だが……。
「モウッ!なんでそうなのよアキラは!?」
「モウモウモウモウと、牛かよ君は?」
「コレでもウシみたいなバストのアメリカンだから悪い気はしないワ♪」
嗜めるように言ったが、予想外のセクシャルな返答と胸を押し付ける動作にカウンターが決まった瞬間だった。
「少しぐらい……自分のマホウを誇ってもいいんじゃない?」
「驕りは
艶っぽい声で潤んだ目を上目遣いで向けるアンジェリーナだが、頭を撫でて宥めていると。
「ぐぬぬぬっ!! ケイもホルスタインみたいな女子が好きかっ!?」
「いや、そんなこと一言も言っていないし!! カノンはカノンで魅力的だよ」
「ケイ〜〜〜〜♪♪」
運動着姿の女子がアキラに話しかけてきた女顔の男子……多分先輩に抱きついている。
この人たちと同類扱いされるのはいかがなものかと思っていると事態は動く。端末に再びの着信。
『この番号は石田か?』
「ええ、石田アキラです。十文字会頭ですか?」
声色から察したが、「ああ」という短い返答。ただ緊張しているらしきものを覚える。
『こちらは図書館棟だが、「敵」の攻勢が激しい。援護を求める』
二科生である俺の領分じゃないのでは?などと軽口を叩く暇もなさそうなので。
「アンジェリーナを連れて向かいます」
『頼む。急いでくれ』
言葉からどうやら喫緊の事態なのだと気づかされる。
「
「たまには自分の足でーーーいや、いい。敵地に送り届けるまでがある意味、俺の仕事だ」
「エー、レディにだけ戦わせるのがアキラのフリースタイルなのー?」
その言葉と再びの姫抱きスタイルに諦めの境地になる。アキラの字は「アキラメ」の内の3文字を表しているのだ。(こじつけ)
「もう力のかぎり走ったらぁあああ!!!!」
自己加速魔法を発動、その行為に何故か笑顔で「テヘペロ」とピースをするアンジェリーナ。
誰に優越感を持っているかは分からないが、ともあれ足の動く限り図書館棟へと向かうのであった。
★ ☆ ★ ☆ ★ ☆
「どうあっても司波達也殿と司波深雪殿は引いてくれないと」
金髪褐色の鋭い爪牙を持つ獣を思わせる美女は困ったように言う。こちらの素性を知っていたことも驚きだが、達也ですら後退りしたくなるような圧をこの美女からは感じる。
「当たり前だ。何を壬生先輩にやろうとしているのかは分からないが、それを許すわけにはいかない」
特化型のCAD……気取った言い方をすれば、愛銃たるシルバー・ホーンを向けながら口を開く。
「……ふむ……」
銃口を向けられながらも脅威と感じていないのか、ただ困ったようにことばに詰まる金髪。
「無理よ。説明なんてしたって」
対照的に。 楽しげ、とさえ思える調子で言ったのは、もう一方の黒髪の美女だった。
この資料室に入った時からこの2人の美女はいて、自分たちがやる前に情報窃盗をしようとしていた連中を熨したのもコイツラのようだ。
そして……。
「最初からこうすればいいのよ」
言って、笑顔のままに、ぱちんっ、とその白い指を鳴らした。優美なその動作1つで変化が起こる。
倒れ伏していたはずなのに、それだけの動作で立ち上がる反魔法主義の構成員とーーー。
「壬生先輩……」
立ち上がった壬生の髪が解けたうえで青色に変化していき……その瞳も変わっていく。同時に青色のオーラとでも言うべきものが資料室を圧倒していく。
「一応の処置をしていたとはいえ乱暴だな。念のために言っておくが、我々の目的は■■■■ラだ。忘れるなよ」
その勢いの中では2人の会話も遠くに聞こえる……。しかし、達也の耳は奴らの声を情報として見ていた。
「あら。命令をこなすためにも手駒は必要でしょう? それだけですわ」
楽しげな様子の黒髪、そして金髪はため息を突いてからーーー。資料室から急激にいなくなった。
(転移!?こんな術あり得るのか!?)
魔法式の展開も何もなかった。まさしく神隠しのように消えた後にはーーー暴走状態の壬生との戦いが始まるのだった。