ただ胸部の破壊力だけは変えない素晴らしい人だ。
「どうやら……粗方片付いたようだな」
「そうね。私も図書館棟に行きたかったけど」
「それは困るな。千葉と西城という護衛がいなければ柴田という主戦力が狙われていたかもしれない」
「そ、そうでしょうか?」
事実、この図書館戦争(?)とでも言うべき場においてエースだったのは、柴田美月というボインちゃんであった。
いや、別にスタイルの良し悪しが、魔法力の高低に関わるわけではないのだが……。
ともあれ柴田美月の魔法は今までの常識とは少々違いすぎた。
視線による術式投射とも違いーーー己の視覚に入ったもの全てに読み込んだ術を解き放てる。恐ろしく干渉力が高かった。
とはいえ柴田のような精神性が普通の女の子に殺傷力が高い魔法など使えないので移動魔法で吹っ飛ばされる程度だったのだが。
(一度の投射で10人ほどが5mは吹き飛ばされていたからな)
まさしく見つめるCat's Eye。
「マジックプレイイズダンシングというところか……」
「いや、私は美術部部員ですが別に父親の作品を取り戻す怪盗じゃないですし」
十文字の独り言は意外と聞かれていたようでツッコミを受けるも、とりあえず多くの反魔法主義団体員であろう作業着姿の連中はあらかた取り押さえた。
しかしーーー。騒動は終わらない。
「会頭!! 増援がぁっ!!!」
「三七上っ!?」
2年の後輩ーーー克人にとっては、そういう人間が倒れ伏した。
即座に誰かの移動魔法で救護されたが数秒後には、その場所に巨大なものが地面を踏みしめて立った。
白というよりも灰褐色の3Mほどの人型に獣を混ぜたような……魔法的にはゴーレムとでも言うべきものが現れたのだった。
軍事的には直立戦車の亜種とでも言うべきものが、現れたのだった。
当然、魔法を発動させた。だがーーー。
「ーーー」
「改変すべき情報領域が存在していない!?」
誰かの叫び通り、その現れたゴーレムにはエイドスが存在していなかった。となればーーー。
「むぅ」
ゴーレムの足元にでも改変をかけてすっ転ばせようとした十文字だが、それすら防ぐ様子だ。
ならば、術者から放出された自然現象としての魔法ならばどうだ。
誰かが放った空気弾や大講堂から見ていたのか七草の氷の弾丸が打ち出されるも。
「届きはするが、あの装甲はその程度の魔法を弾くようだな」
決して届いていないわけではないが、しかしダメージとしてのものはあり得ない。
「柴田、君にはあのゴーレムがどう見えている?」
「……ええっと……あのゴーレムのまわりにだけ、壁か何かができている、と思ってもらっていいでしょうかね。それらが魔法師の改変すべきエイドス領域を封じているとしか言えません。その壁も本体から半球状に5mほどの範囲で展開していますね」
まさか見解を問われるとは思っていなかったのか、戸惑うもしっかりとした声で返してくれたことに感謝する。
「魔法由来の技術によるものだとしても、かなり恐ろしいな……それ以外であれば更に恐ろしいが」
魔法師にとって改変すべき情報領域を封じるということが出来る兵器。
装甲が分厚いのか何かの新素材である可能性もあるが、ミサイルでもぶつければ別かもしれないが……。
「当然、機動するよな!!」
直立戦車のようなキャタピラではないが、それでもあれだけの巨体が速く移動してくる上に。
「実弾兵器か!!」
放たれる火力がかなり脅威だ。
「ビームでも放ってくれば手が着けられなかったわね」
千葉エリカの言、好材料ではあるが止める有効な手立てがない。
(せいぜい、あちらの予想される進行方向に落とし穴みたいな「罠」でも作ることだが)
「あの巨体でーーー」
「ーーージャンプする!?」
千葉と西城の驚きは当然だ。あれだけの巨体が殆ど予備動作なく跳躍したのだ。
「球状の
飛び上がったことであの巨体の脅威度がはっきりと柴田には分かった。
幸いというほどではないが、どうやら飛んでくる銃火器に関しては魔法で防御出来るが。
人間と同じくあらゆる方向に自由自在に攻撃を放てる「大火力」を携帯できる「人型兵器」に全員が苦慮する。
こんなSFよろしくな兵器が出来るなど完全に魔法師に対するカウンターである。
飛び道具を持ち高速で動く巨体。
そしてーーー魔法という武器を無効化する。
絶望的な状況だ。
「接近戦で決着を!!」
「あの装甲を破れるほどの得物ないし術剣があるならば、やらせている」
進言してきた千葉はそのうちの一人かもしれないが、やはり少しだけ考えた末に。
「石田をこちらに召喚する。お前たちは何とか凌げ!」
端末を使い「コンゴトモヨロシク」な仲魔でも呼び出すかのように十文字は動いた。
魔法のシロウトでしかない石田アキラを呼び出してどうにかなるようなものだろうか?そう感じる人間は多い。
しかし、こんなデタラメを解決出来るのも魔法師としてはデタラメな人間ではなかろうかと思ってしまうものもいる。
そんな訳で……。吹き抜ける風のごとくやってきたのは美月にとってのヒーローである。
「やってきたはいいですがーーー大ピンチですか?」
「中ピンチとか戯けて返してやりたいところだが、状況は悪い」
3分後にやってきたアキラとアンジェリーナの姿、姫抱きでの登場に美月がムッ、とするもとりあえず……。
「成程、アレには魔法が通らないんですね」
「分かるか?」
「だって皆さん移動魔法や加重魔法を掛けようとしてもエイドスの改変の式が砕けているじゃないですか」
案外、観察眼は悪くないようだ。
「それじゃ、やるべきことは1つですね。グレネードランチャーでもブッパしてくれば怖かったですが……」
サブマシンガン程度の火器ならば。と言って軍事とかにも詳しいのか?と思いながらも自己強化の魔法と気流でも纏ったのか石田アキラは吶喊する。
あまりにも突然のことで反応が遅れたが、無謀にも突撃をかましてきた相手に灰色の巨人が当然反応する。
向けられる手から展開する銃口だが、一瞬の体捌きで右に移動する。
向けられていたのは右手の銃なので可動域の関係で腕がストップした。
(完全な人型兵器を模したとしても人体の可動域全てを再現するのは、この時代の軍事技術でも難しいようだな)
当然、魔法師を相手にする以上、色々と考えたようだが。
『おのれっ!!』
女…と思しき声が聞こえる巨人も流石に機動しながらの射角の確保を試みるもーーー。
「石田君に後れを取るな!!」
再び女顔なーーーあるいは童顔な少年の号令だか声。
どうやらアキラの意図は伝わったようで全員が機動力で撹乱していく。
確かに相手はこちらを圧倒するだけの機動力と防御力、搭載できる火力は……まぁ
確かに放たれる銃弾は怖いが、どうやら発動させた術者自身に掛けられた「魔法」までも5mの球状領域に入り込んだからとキャンセルされるわけではないようだ。
となれば、やりようはあるわけで。
「我掲げるは降魔の剣!!」
高速でやってきた相手に動揺した隙を突いて、既に足元に接近を果たしていたアキラは、自らの手に「固定」した手刀剣を下から振り上げた。
装甲は分厚く、大半の魔法を弾くだろうがーーー。
(外部に露出せざるを得ない火器に関してはどうだよっ!!)
耳障りな音を響かせながら、マシンガンや切断具らしきものが一纏めになった巨人の武器を切り裂き、砕いてから……飛び上がった勢いを借りて、巨人の腕を取っ掛かりに顔というかセンサー部分らしきところを手刀剣で砕こうとするが。
巨人がそのままに飛び上がった。
「アキラ!!」
このまま俺を叩き落とすなりシェイクで潰すつもりか。なるほど有効な手立てだ。
アンジェリーナも意図に気付いて、なにか落着を緩衝しようと魔法を発動させるも。
『させるものか!』
「そりゃこっちのセリフだ」
そのアンジェリーナを狙い左腕の武装を展開しようとした最中、ロールするように移動して電磁力場の剣を突き刺して。
「じゃあな!」
その後には自由落下のそれになる。
無謀すぎるそのダイブだが……。
纏っていた風を利用して減速。ちょうどアンジェリーナが作った物理障壁のごとく風を内部に貯めたことで、後ろにパラシュートのような減速機構が出来た。
軟着陸のコースに入るも……。
『貴様もろともだっ!!』
その言葉と突き刺した放電する剣から察するに随分と深い位置にまでアキラは突き刺していたことを自覚する。
つまりは……既に戦闘能力自体は喪失しているようだ。
とはいえ、状況は悪い。
如何に落下速度が同一であっても加速するように落ちてくる灰巨人のアンチマギエリアに入り込むと流石に自己固定の術式ではないだけにパラシュートが砕け散る。
錐揉みというほどではないが、バランスが崩れる。
(最初はゼナファアーマーかザナッファーみたいな機構かと思ってみればファルシェスの砂時計なものらしいな)
しかし、これが厄介な限りだ。エイドス改変を主とする魔法師の魔法では自ずと限界がある。
その改変の為の式が空間に放たれた瞬間に、それは砕け散るという理屈は、魔法師には脅威だろう。
そうこうしているとかなりの命の危機である。
迫りくる地上への激突死に対して言葉が再生される。
ーーー実体的なコンセントレーションを持ち合わせた白魔術は、もし武器化できたら最強だったろうね。ーーー
ーーー訓練によって制御された白魔術こそが最大の脅威です。ーーー
ーーー研ぎ澄まされた妄想を実現する力こそ、魔王の力。そしてこれもあるいは別の見方がありますね。
ーーー願いごと、とーーー
エビ男の言葉に対する回答。
という疑問にケシオン・ヴァンパイア疑惑のある
アキラは集中を開始した。深く深く自分の理想を捩じ込んでいき、現実を塗り替える……。
自分自身の「情報領域」に改変を、いや「改竄」を行う。
それは物理法則を超越し、精神という物理的に存在しないものの総称でありその中の「時間」すら改変し……世界の法則そのものをダイレクトに書き換えて実現を果たす。
ゆえに、落ちてきた同級生で後輩が魔法が効かないというのに着地した際に……階段を二段飛ばしした程度の音しかしなかったことに驚くものも多い。
いや、適切な表現ではないかも知れないが、そうとしか思えないほどに、見事な着地であった。
同時に、その現象の不可解さに首をひねるものも少数ながらいたりする。
(まぁ跳躍したとはいえ、そこまでの高さはなかったか「わっぶっ!!」
内心の考えが校舎より少し高い程度だったか?と結論づけようとした際に、見上げていたのだが衝撃を前後から感じたあとには柔らかな感触を胸板と背中に感じる。
「大丈夫ですかアキラくん!?怪我とか魔法による後遺症などありませんか!?」
「アキラは五体満足ネ♪流石はワタシのダーリン、ワタシのビッグなボインで癒されて♪」
なんだこの
「「「い、石田ぁあああ!!」」」
こんな風に男共の
気付いた全員がそちらに注意を払うもーーー。
「上だ!!」
誰かの言葉で見るとーーー。
「飛行できるタイプもいたのか……!?」
鳥というよりもコウモリを模したのか被膜を思わせる羽をつけたタイプの灰巨人の一体。
校舎の屋上よりも少し高いところに陣取りながら……。
巨大な砲を向けていた。砲の先端の光が見える。
どう考えても証拠隠滅の為だろう。部品1つからも、出自を、出どころを辿れることを考えれば当然だ。
灰巨人の肩に乗る青髪にエルフのような耳をした少女が、残骸と化したものの操縦者と見た。
一瞬の判断、号令はーーー十文字会頭に託された。
「全員!!放たれる砲の威力と衝撃から身を守れ!!全体防御!!」
その命令を受けて……。
対物・耐熱の障壁などが灰巨人を中心にして円状に幾人もの手で分厚く展開された。
それから1秒後に放たれたのはレールガンだろうものだった。
(レーザービームでも放ってくると思ったんだがな)
爆風と飛び来る高速の礫から美月とエリカ、レオを守っていたアキラだが、障壁の向こう側に見える光景に目を焼かれそうになりながらも、何とか耐え抜いた。
10秒後……爆風と礫の嵐をやり過ごすと、爆心地から周囲360度見渡す限りの全てが煤だらけになっていた。
「助かったよアンジェリーナ」
「ウウン、ワタシも助けられた方ヨ♪」
アンジェリーナに言われてから少し考えるに、この子が本来の魔法科世界におけるビームの発端だったはずだと気付く。
フォノンメーザーは正確に言えば音波ーーーなどと思ったところで、意識を上に向けると既に居ない飛び去った灰巨人を追うことなど不可能で、あとは官憲の仕事か?と思ったところで……。
図書館棟のどこかが爆発して、盛大な爆発音がする。
(今日は何かと爆発する日だな)
後ろを振り向くと、ガラスが盛大にダイヤモンドダストとなって散り砕き煙がもうもうと上がり……そこから、司波達也が司波深雪と抱き合いながら出てきた。
そして、それを追うように青髪の剣士と見える……具体的にいえばキリトの嫁(爆)を思わせる人間が出てきた。
剣呑な様子から察するに、戦いはまだ続くようだ……。