けっとう【決闘】名詞・動詞(スル)/個人間での名誉の侵害や遺恨などから起こった争いを解決するため、取り決めた方法で闘い、勝負をつけること。果たし合い
辞書を引いて見えてきた単語にやれやれと思いながらも、結局のところ……。
「石田君、この決闘、本当にやるのか?」
最終的な判断は自分に預けられているのだった。
「そういうのを奨励しているのが、風紀委員長だとお聞きしましたが」
「まぁ、そうだな。話し合いで解決できないことは実力で決めるーーー確かに一高で推奨されている方法だが」
素人…まだ魔法を習って日も浅い人間が、ベテランと立ち会ってどうなるかなど火を見るより明らかだ。
「アナタが下手に生徒会長などにチンコロしなければ、ここまで広まらなかったと思いますけどね」
チンピラヤクザの単語でやったことを認識させると委員長は呻く様子。
「アレは風紀委員会の部屋の掃除中に君の実力に関して話題が飛んで達也くんが……すまない。胸に秘めておくべきだった……」
どちらにせよ一科生に友達が出来ている司波達也の口から伝播していったのは間違いない。
だが、ここまで早かったのは結局の所、風紀委員の女ボスの耳に入ったからだ。
そして女ボスの配下になる予定の森崎が因縁つけをしてきたということだ。
ただでさえ司波達也という存在に心乱されているというのに、妙ちきりんな二科生がいるなど耐えられなかったというところか。
「まぁいいですよ。闇の帝王ヴォルデモートだって、運命の子ハリー・ポッターと決闘するときは作法を重んじているわけですしね」
「うーん、君の知識はどうしてもそういうところから来るのか……」
「すみませんね。モノを知らないシロートで」
とはいえ提示されたルールは、昨日のラブソング好きとジャズ・シンガーの戦いとは違い、ノータッチルールでの戦い。
原作では双子とチリチリパーマとが戦った形式だ。
どうせこっちに出来ることなんて殆ど無い。
しかし……。
(まぁ俺とケンカして溜飲が下がるならば、どうぞご自由にだ)
こっちだって別に無抵抗でやられるわけにはいかない。ただ、これで退学案件は。
「負けても勝っても退学勧告とか出さないから、全力で戦いなさい♪」
そしてデバイスに一家言あるということが知られた司波達也が、俺のデバイス……彼曰くのCADを検査するらしく何も拘らず提出する。
それを一目みた後にこちらの顔を見直し、またデバイスを見る司波達也。
最後に言葉と共に驚きの表情を見せる。
「アキラ、お前これ……!」
「古いデバイスであるというならば、そうなんだろうね。まぁ俺は入学できるなんて思わなかったし、何より最低限入試要項の術を登録して使えればいいやということで、これにしたんだ」
時期的に補助金なんて申請出来ずに、親に経済的負担を掛けるのもあれだったので、古くて安いモノを選んだのである。
「……そうか。まぁいいけどな」
彼にはもはや勝敗など見えているか、もしくは、どうでもいいのだろう。
そして検査項目に特に引っ掛かるものもなく、返却されて向こう側の決闘場へと赴く。
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決闘場として用意されたのは入学式の講堂として使用された体育館であった。
可変式の機構を備えて、その時々においてカタチを変える場所には多くのギャラリーが、詰めかけていた。
その大半が俺の情けなく負けて血反吐を吐く姿を期待しているのか、アキラが出てきた時に、とんでもないブーイングがあるのだったが。
(ユース時代に遠征で赴いたフランスのサンジェルマンウルトラスに比べれば全く以て迫力がなく、何も怖くない)
他人の陰口悪口を陰湿に叩くことにしか口を使わないから、こういう時の口舌に何一つ迫力がないのだ。
まぁそれはともかくとして出場に先んじていた森崎は表情を硬くしていた。
こういう場面では小次郎敗れたり!なわけだが、巌流島の決闘も知らなさそうだと思いつつ、無言でこちらを睨んでくる。
チンピラのように人を睨んだところで何が出来るってんだか。
審判役は十文字会頭らしく、目上の人間と魔法能力が高い人間を敬う森崎は一礼するようだが。アキラは特にしない。
苦笑する十文字、今にも掴みかからんとするとまではいかないが、礼儀知らずと思われているようだが、ルール説明がされる。
危険な魔法の使用は認めない。
接近戦は許されない。
決められた「土俵」から出たら負け。
場合によっては審判が割って入る。
以上を以て互いが移動できる移動マス範囲のマットで床が点灯する。
そこに移動して試合開始を待つ。原作通りというか何というか銃を懐から出さんとする所作を見せる森崎氏。
カウントが2ーーー1ーーーー
ゼロという音声が聞こえた後にアキラを衝撃が揺さぶる。
その結果として森崎駿は、イカサマ野郎の石田アキラをこてんぱんに倒して一高の名誉を守った功績を称えられ、審判役であり、十師族の十文字克人からも認められて奥義「十文字
……とは。
アキラが思うに、森崎駿の未来予想図ではそうなっていたかもしれないということであって。
現実は少々、厳しかった。
「ーーーなっ……!」
驚愕するは森崎。魔法の効果は正しく発揮されたはずなのに。
不動のままに立っている男に驚くしかない。しかも自分の魔法の行くすえも「見えてしまっていた」。
「いてっ、チクッとしたがーーーホイよ!!」
口舌は要らんのだが、それでも打鍵したデバイスの信号で魔法が解き放たれて森崎に向かう。
使用されたのは
「なめるな!ウィードぶっ!!!」
情報強化が少し遅れて、受け止めて散らばった空気圧が森崎の周囲で拡散する。よろめくが、それでもマスからは出ない。
根性を見せた様子だ。
(魔法の速度で速かれど、心の速度では石田の方が有利か)
何かしらの勝負事での場数では石田に分がある。審判役である十文字はそう感じつつも、最初の攻撃が何故「ああ」だったのかを疑問に思う。
事前に掛けられていた何かしらの防御策ではない。
そして、石田の方も自分の情報強化を終えたらしくーーー。
(なんだこの密度は……?)
同輩である七草ほどの目利きではないが、十文字とて掛けられた魔法に対する見識はある。
情報強化を終えた石田の身体はまるでーーー。
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「ーーーアイツは本当に人間なのか?」
魔法師とか云々以前にホモ・サピエンスかどうかすら疑うものが、「いまの」石田アキラにあったのだ。
「た、達也君?何を言っているの?」
後輩は気が触れてしまったのではないかと思わせる発言。だが言わんとすることは真由美とて分かる。
先程までは普通の人間ほどの情報密度に見えていたのだが、情報強化を施して自身を「強くした」石田アキラはーーー。
「魔法を掛けてみなければ詳細には分からないけど、相対している人間からすれば超大型巨人でも相手にしているかのように感じるんじゃないかしら?」
「俺はどちらかと言えば……本当に巨大な樹。そんなものあり得ないと分かっていても、何だか宇宙空間にまで幹を伸ばすものを想像しましたよ」
ーーーそんな風に二人からは見えていたのだった。
だが、現実に眼の前にいる石田アキラは明らかに人間程度の大きさしかないし、見たままに、その通りだ。
15歳の少年……まぁ普通だ。達也と同じくらいか少し低いぐらいの背丈に、去年まではフットボーラーである。
経歴を思い出して達也は頭を掻きむしりたくなる。
そんな素人でしかない人間が、こんな風に今まで……この世に生まれてから魔法師として訓練してきた連中をぶっ千切るのか?
森崎はあんまり好きになれない達也でも、この戦いではちょっとだけ森崎を擁護したくなる。
「おまけにアイツがもっているCADは本当に旧式どころか旧世代の旧型だ」
「で、ですよね! それなのに、こんな風に……なんて……」
焦るように言う中条あずさも分かっている道理。
石田アキラが持っていたものは2020年代までに発表された情報通信機器で例えるならば、自分たちが持っているのがスマートフォンなのに対してーーーポケットベル相当のレベルなのだ。
それを使ってドカドカと爆撃レベルに圧縮空気の弾丸を打ち出すアキラ。
魔法陣を用いて「空気の情報」を練り上げる様子もなく、殆どノータイムで放たれるそれは「手打ち」の「軽打ち」ではない様子だ。
先程まではアキラにブーイングを浴びせていた一科生たちは静まり返っている。こういう時こそ森崎を応援すべきだと思うのだが、見えている現実の非情さと『デタラメさ』に何も言えないでいる。
そんな森崎は、特化型のCADを持つことをやめて汎用型で防御術を発動して防戦一方だ。
どうやら彼の特化型に防御術は登録されていなかったようだ。
「深雪、森崎の防御術は「硬い」か?」
「いいえお兄様、森崎君の術は基本的に「軽い」です。一科生としては合格点ですが、彼の生家の魔法特性ゆえか「重さ」「硬さ」を競う実習では自分よりも成績が下の同級生たちに負けることが多いです」
試合の様子を見守っていた妹の非情な言葉は現実とリンクしており……。
「ッ!!!」
アキラの攻撃を必死に防御していても既にマス外付近まで追いやられている森崎は己に位置固定の術を用いるまでに追い詰められている。
「GO GO! アキラー!!!」
石田アキラを応援したいということで、今回の生徒会業務から外れていたアンジェリーナがエールを上の席から届ける。
それに応えたわけではないだろうが、エア・ブリットの攻撃が多角的に打たれる。
もはや「違う魔法」にも思えるそれが森崎を襲う。
(殆ど息継ぎ無しに魔法を連発・連射出来るか、アイツはーーー)
一科生の意地ゆえか……それだけの砲撃を受けてもまだ耐えている森崎であるが汗は絶え間なく流れて、表情は強張っているーーーどころか恐怖で歪んでいる……と見るのはあまりにも彼を低評価しすぎだろうか。
そう考えていると。
「ーーー」
遂に意識を失ったのか前のめりに倒れた森崎。何度か緩衝マットにバウンドする様子。
重々しく倒れ伏して痙攣しながら白目を剥く状態は明らかにマズかった。
そんな無防備な森崎に、数多の空気弾が向かい最悪の結末を誰もが予想する。
魔法のキャンセルをするには遅すぎて、明らかに石田もマズイ!という表情をした時に。
横入りするように空気弾と倒れた森崎の間に影が割り込んだ。
「ーーー」
影が展開する多重障壁。受け止める音が重々しく響く。いや明確に音がしているわけではないのだが情報領域が壊れていく音と空気が破裂する音が凄まじいのだ。
6秒間の砲撃ーーーそれに耐えきった影……審判役である十文字克人は、重々しく息を吐いてから告げる。
「石田、お前の勝ちだ。お前の魔法は確かなカタチで森崎に
明確な勝敗を告げて戦いを終結へと向かわせるのだった。