閃刀姫のヒーローアカデミア 作:スノアキ
職場体験から時は流れ、6月末。期末試験を間近に控えた教室はいつものように騒がしかった。何せ期末試験の成績によっては林間学校に参加できず学校で補習だと言うのだから、特に成績が下位の人たちは焦る。といっても、雄英の偏差値を考えれば別に彼らだって勉強が出来ないわけではないはずなのだが。
とはいえ私も現代文に関しては不安がある。あまり余裕な態度ではいられない。
「あの、座学なら私お力添えできるやもしれません」
「「ヤオモモー!!」」
と、八百万さんが上鳴君芦戸さんにかけた言葉を切っ掛けに勉強会の流れが出来ていた。耳郎さん、瀬呂君、尾白君も八百万さんに声をかける。せっかくの機会だし、私も参加しようかな。
「八百万さん、私も良い? 現代文が少し」
そう言うと、八百万さんは感極まったような顔で口元を抑えていた。
「良いデストモ!!」
なんだか嬉しそうだ。
そんな具合で、八百万さん宅で勉強会が開かれることが決まり。
「ここがヤオモモの……?」
「大使館……?」
「いや、住所はここで合ってるよ……」
「超~豪邸!」
「財閥……」
「資本力……」
順に上鳴君、瀬呂君、尾白君、芦戸さん、耳郎さん、私の、八百万さんの家のあまりにも巨大な門を目にしての感想だった。
最寄り駅で集合して歩いてやって来る途中から、一向に途切れない塀があったのでそんな予感はしていたのだが……こうして見ると圧巻と言う他無い。
私たちが圧倒されていると、不意に門が開いた。その中には礼服に身を包んだお爺さんが立っている。
「耳郎様、芦戸様、閃機様、上鳴様、瀬呂様、尾白様でございますね」
耳慣れない呼び方に返事が遅れた。慌てて背筋を伸ばした私たちを見てか、お爺さんは微笑む。
「よくおいでくださいました。私、八百万家の執事の内村と申します。百お嬢様が首を長くしてお待ちしております、どうぞこちらへ」
内村さんの案内に、私たちはぎこちない足取りでついていった。
「森……?」
「いや、めっちゃ手入れされてる。庭だよこれ」
「家の中だよなこれ。庭のスケールがでけえ……」
尾白君、耳郎さん、瀬呂君の会話に頷く。この庭の手入れにどれだけの時間がかかるのか、考えたくもない。
そんな大きな庭を抜けた先。
「いやもう城じゃん」
「海外の観光名所に来た気分」
上鳴君の言葉に返す。八百万さんの家というのを知らなかったら写真を取っていたかもしれない。
家の中に通された後も、驚くことの連続だった。まずたくさんのメイドさんがずらりと並んで出迎え。八百万さんのお母さんが案内してくださることになったのだが、そこで飛び出した言葉。
「百は今、講堂で準備をしておりますの」
講堂。普通家の中にある部屋に対して使わない単語だ。私も両親が共働きなのに加えて、武光おじいちゃんというプロヒーローの親族の存在から経済的には恵まれている方だと自負していたが……さすがにスケールが違いすぎる。しかも講堂までまあまあ歩いた。
講堂に到着し、勉強会が始まって30分ほど。八百万さんは私たちのために個別の勉強プランを用意しており、おかげで授業で飲み込めなかった部分がずいぶんと理解できるようになった。だが、生徒6人に対し講師は八百万さん一人。さすがに大変そうに見える。
「あの、八百万さん。教えるの手伝えないかな、理数系は人に教えられると思う」
「閃機さん、申し出はありがたいのですが……いえ……そうですわね、十全に教えられなければ意味がありません。その分閃機さんの勉強時間は削ってしまいますが……お願いしてもよろしいでしょうか」
「復習みたいなものだし構わない、自分から言ったことだし」
「あ、じゃあ閃機私見てくんない? 二次関数の応用で詰まってて」
ということで、理数系科目については私も分担して教える側に回ることになった。上鳴君は大分苦戦しているようだったので、なるべく八百万さんが多くついてあげてほしいと思う。
それからまた30分ほど経過し、とうとう上鳴君が音を上げた。八百万さんの判断で休憩を入れることになったのだが、彼女が「じいや」と呼ぶとすぐに扉が開いた。まさかずっと待機していたのだろうか。本日幾度目かの驚き。
高級そうなティーセットが用意され、紅茶の上品な匂いが漂う。八百万さんによればハロッズというブレンドらしく、勉強の休憩に良い効果があるのだとか。それを抜きにしても、美味しい紅茶は気分のリフレッシュには一役買うだろう。
普段はおじいちゃんと一緒に緑茶を飲むことが多かったが、紅茶も中々良いな……と思うつつ、何の気もなしにクッキーを手に取り口に運ぶ。
……苦い? ───っ!?
何、これっ、辛い? しょっぱい? 何!?
慌てて紅茶でクッキーを飲み下す。見れば、周りの皆も同じような様子だった。それを不審に思った八百万さんもクッキーを口にし……顔を歪めたかと思うと、慌てて講堂を出ていった。
衝撃的なクッキーの味にやいのやいのと言いつつ、八百万さんが戻ってくるのを待つ。が、中々戻ってこない。
仕方ないので私と、この中では一番成績の良い尾白君で手分けして勉強会を再開するが……八百万さんが戻ってこないのが気になるのか、皆身が入っていない様子だ。そうこうしているうち、耳郎さんと芦戸さんがお手洗いに向かい席を立った。
その後も、集中しきれないなりに勉強を続けるが……上鳴君が限界を迎えつつあった。挙句の果てには最終手段としてカンニングを挙げる始末。
「上鳴君。本気で言ってるわけじゃないよね?」
「え!? あ、お、おう勿論勿論。冗談に決まってらぁ、へへへ……」
慌てたように頭を掻く上鳴君だったが、不意にはっとした顔をして私に向き直った。
「悪い閃機、俺……とんでもねえこと真剣に考えてた。や、勉強で疲れてテンション変になってたのもあるんだけどよ……駄目だよな、ヒーロー目指してるやつがカンニングとか」
「いや、反省してるなら良いんだけど……」
「女子に注意されたから慌てて良いカッコしてんのコイツ。まぁ嘘ではないんだろーけど」
態度の変わりように若干驚いていると、瀬呂君がからかうように言った。
「言うなよ瀬呂ォ~!」
「悪いって、ほれクッキー」
「お、さんきゅ──じゃねえ! それさっきのヤバクッキーだろ!」
「ダッハッハッハ!」
そんなやり取りを眺めていると、ようやく八百万さんが戻ってきた。芦戸さんと耳郎さんも一緒だ。
「お待たせして申し訳ありません、少々母と話しておりまして」
「やっぱしサボってたね」
「何の話してたの?」
「上鳴君が……」
「待って閃機、言いふらさないで!?」
そんな風に騒いでから、また勉強会が始まった。少しして運ばれてきたケーキは、今度こそお高くて甘い素敵なものだった。
時は経ち、筆記試験も終わって演習試験当日。クラスでは、ロボ相手の戦闘だという話が出ていたが……それにしては雰囲気が物々しい。というか単純に先生の数がやけに多い。
相澤先生の首元の捕縛布から現れた校長先生の説明によって、その疑問に答えが出た。演習試験内容の変更……具体的には、タッグを組んで2対1での先生との模擬戦。しかし。
「組み合わせ発表の前に、少々説明することがある。クリア条件は我々教師にハンドカフスを掛けるか、ペアの片方だけでも会場から脱出するか。しかし、このルールでは閃機とペアになった者が有利すぎる」
「そっか飛べるから」
誰かの発した言葉に頷いて、相澤先生は続ける。
「閃機にハンデを設けることも考えたが、今回の想定は『格上のヴィランとの遭遇』。ハンデは設定に則さない……協議の結果、閃機には1on1での演習に臨んでもらう。そのため3人チームが1つあるぞ」
……!? 私1人で! いや、確かにそのルールなら私とそのペアはかなり有利だけど。
「先生、質問よろしいでしょうか!?」
「なんだ飯田」
「学校側で設定されたペアでの試験! つまりこれは屋内戦闘訓練と同様、ペア相手との連携が出来るかも評価に含まれるのでは!? 単独での試験というのは閃機くんにとっても我々にとってもアンフェアかと!」
「
「丁寧な回答ありがとうございます! 失礼しました!」
なるほど。正直私はそこまで気が回っていなかった、指摘してくれた飯田君は流石だ。
その後、演習のペアと相手となる先生の組み合わせが発表された。私が1人な分の3人チームは蛙吹さん・切島君・常闇君となったようだ。普通に強いチームに見える。で、肝心の私の対戦相手なのだが。ここにいるのはイレイザーヘッド先生、オールマイト先生、校長先生、13号先生、プレゼント・マイク先生、エクトプラズム先生、ミッドナイト先生、スナイプ先生、パワーローダー先生で9人。私の相手をする先生はここには不在の様子。
「お前にとって明確に格上となる相手を用意するにあたり、あるプロヒーローに協力願った。多忙のため、試験会場で合流する手筈になっている」
そういうことらしい。私たちはチームごとに分かれてバスに乗り、それぞれの会場へと向かう。
私にとって明確に格上のヒーロー。それこそ
そんなことを考えていると、間もなくして会場に到着した。バスを降りると……上空から、人影。
「お、タイミングぴったし。どーも始めまして、ホークスです。君がロゼさんね、今日はよろしく」
「ホークス……!?」
前期ビルボードチャート3位。ニュースを見ていれば毎日のように名前を聞く、九州を拠点としつつもその個性を以て日本全国で活躍する“早すぎる男”。ある意味ではオールマイト先生と同じかそれ以上に、学校の試験などで拘束していいヒーローではない。
「やー、正直あんまり後進育成ってのに関心は無いんだけどね。お仕事なもんで」
赤裸々に語るホークスは軽い調子で続ける。
「まあそういう話は置いといて、試験のルール説明ね。俺にハンドカフスをかけるか、ステージから脱出すればクリア。ハンデとして、俺はこの体重の半分の重さがあるおもりをつけます」
戦闘も視野に入れられる、というルールか……いや無理でしょう。爆豪君と緑谷君の相手がオールマイトって発表された時も思ったけど、無理でしょうそれは。
「そんじゃ、そろそろ時間だし準備しようか。受験者はステージ中央からのスタートね」
「……はい」
冷や汗が滲む。なんだって私はナンバー3ヒーローを1人で相手しなきゃいけないんだ……いや、落ち着け。あくまで試験……負ければ不合格と言われたわけでもない。「格上のヴィランと遭遇」というシチュエーションで、どれだけ適切な対処が出来るかだ。
『皆位置についたようだね』
と、そこで放送が入った。マイク先生が試験を担当しているためか、声の主はまさかのリカバリーガール先生。まあ実況するわけではないものね。
『それじゃ、今から雄英1年期末テストを始めるよ! レディィィィ……』
「よーい」とかじゃないんだ──雑念。集中しろ。
『ゴォ!』
「
ガキン、と金属音が響く。私の『
「容赦ないですね」
開始直後に背後からの急襲。雄英の試験ならそういうことしてくる、とは思ったけど!
「ブレーキかけるのも早いからね、心配無いよ!」
そのまま圧され気味に打ち合いが続く。羽根による剣のブースト、他の羽根による撹乱。数も含め、ホーネットビットの上位互換と言ったところか。どうする、飛ぶか? 相手の土俵へ? しかしこのままなら一方的に上から攻撃される。
「
目の前のホークスから目を外さずに、ビットを呼び出し3機を彼の背後に向かわせ───。
「面倒そうだね、それ」
ホークスの羽根が、5機のビット全てを刺し貫いた。温存を考えて手元に残しておいた2機も含め、全て。
「そういう小物の扱いで負けるわけにはいかないのよ、プロなんで」
飄々と言い放つホークスは余裕たっぷりで、しかし油断しているというわけではなかった。
……カフスをつけるのは無理そうだな。どうにか意表を突いて逃げるしかない……ホークスがどこまで私のことを知っているかだな。体育祭は見ていたのだろうか? 雄英から情報提供はあった? 最悪を想定して動け、相手をヴィランだと思え。自分をプロヒーローだと思え───公に見せた手は全て知られていると考えたほうが良い。雄英に入ってから一度も使っていない手が望ましい。手数と嫌がらせを担う『ホーネットビット』が破壊された今、閃刀機の並列使用が特色である『アマツ』では届かない。何か、まだ見せていない手───あれがあったか。
打ち合いで弾かれた勢いのまま距離を取り、私は換装する。
「
『シザーズクロス』は『カイナ』の専用術式。拳パーツ『
ホークスの刃と『巌』で打ち合う。……長くは保たないな。刃を線でそのまま受け止めなければいけないのが苦しい。
「剛翼対策って感じ? それ。発想としちゃ悪くないけど……」
「ぐっ……」
装甲の隙間を縫って、私の肩に羽根が突き立った。深い傷ではない。手加減されている──無論ナンバー3に全力で来られれば私に成すすべなどないだろうが、なんとなくいい気分はしなかった。
「さっき君も似たような手使ってたでしょ? それに見た所、そのアームの可動域はそんなに広くない」
「ッ、
羽根を刺されたままでは恐らくマズい。先ほど剣に使ってみせた通り、羽根は推進限として使用できる。こちらの行動をコントロールされる前に、背中にある『アフターバーナー』の推進ユニットからの熱で焼くしかない……!
「おっと炎! 良い火力してるね」
羽根を焼くついでにホークスへと突貫するが、軽々とあしらわれる。成人男性相手に同じ得物じゃ分が悪いか──なんて、泣き言だ。増強系を相手にした時どうするつもりだ、私は! だからこその『アフターバーナー』だろう……!
「まだ火力が上がるか!」
ぐ、と『アフターバーナー』を押し込む。肩に羽根はまだ刺さっている感じがするが、動く様子は無い。おそらくこの後が最大の好機、最大出力で地面からの距離を稼ぐ!
「やああああああっ!」
「っと、良いのかい? わざわざ空に連れてきてもらっちゃったけど!」
未だ余裕を崩さないホークスに、なるべく不敵に口角を上げて言う。
「だから良いんです───
私の言葉に対し、ホークスの判断は早かった。羽根が熱に晒されるのも厭わず刃の後押しに使い、私を地面へと吹き飛ばす。すぐさま周囲を確認───私から、視線を切った。
私は地面に落ちる、その寸前。換装を解除し、『ハヤテ』へと換装する。
私の個性の性質……「換装の際モノが装甲と干渉すると、モノが吹き飛ばされる」*1。では、干渉したモノが
答えは、「私の方が吹き飛ばされる」だ。何やらバグじみた挙動であり、意図して使ったことは殆ど無いが──故にホークスはおろか雄英にも知る人の居ない、完全に初見となる一手!
狙い通り出口方向へと吹き飛ばされた私は、『ベクタードスラスター』で角度を調整し再び『カガリ』に換装。『イーグルブースター』も起動し、『アフターバーナー』と組み合わせた正真正銘の最高速度を出す。なるべく空気抵抗を減らすように『アフターバーナー』を掲げ顔は下を向き、頭から出口へと突っ込んでいく。これで駄目だったらもうお手上げだ。背後は見ない。
時間が引き延ばされているような感じがした。私たちはスタート地点のステージ中央から殆ど動いていない。決して短い距離ではないが、それでも『アフターバーナー』と『イーグルブースター』の二重の加速ならさほど時間はかからないはずなのに。次の瞬間にでもホークスの羽根が私を捕まえるのではないか。そんな気がしてならなかった。
『報告~。閃機、条件達成!』
だから、自分が出口を越えていたのに気付いたのはアナウンスが響いてからで。
「ぐぇ」
うっかり着地に失敗して、私はごろごろと地面を転がった。まったく締まらないことだ。
「ありゃ、随分派手に行ったね。大丈夫?」
「はい、ありがうわぁ!?」
当たり前のような顔をして私に手を差し伸べるホークスが、そこに居た。
「やー、タッチの差だったんだけどねー。ビットが無いのは頭では分かってたんだけど、破壊されたビットがどれくらいで再度使えるようになるのかは知らないから。最悪の場合考えちゃったね」
「……ホークスが頭の回転も早くて、こちらとしては助かりました。けど、タッチの差……ブラフも初見の小技も最高速度も使ってようやくです。間に合ってよかった」
「むしろこっちとしてはちょっとしょげてるけどね。トップスピードも初速も勝ってるのに間に合わなかったんだから……と、ごめん電話。突破おめでとう、俺はこれで失礼」
そう言うとホークスは電話に出ながら飛び去っていった。まさしく嵐のようと言うべきか。
バスに乗り込み、ぼーっと空を見ながら思う。奇跡のような勝利だった。純粋な格上相手、使えそうなものを全部使ってルール上の勝利をようやく勝ち取った。実戦だったらもっと長い距離を逃げるなり、あるいは打倒するなりしなければならない。いや、ホークス並のヴィランがいるとはそうそう思えないけれど。
明らかに手加減されていたし、勝ったは勝ったが素直に喜びきれない自分が居た。
とはいえ、さすがにここまでやって赤点ということは無いと思いたい。もしそうだったらさすがに泣きそう。あとは、全員で合宿に行ければいいんだけど……試験に集中していて、他の組のアナウンスがあったかは聞き逃した。皆は大丈夫だろうか?
THE・ホークスが来た
作中では飛行能力に加え剛翼がホーネットビットと近い部分があるので白羽の矢が立った感じ。
メタ的には「飛行能力を持ってて」「雄英に来てもおかしくはなくて」「原作でいっぱい描写があって書きやすい」という三条件に合致するのが彼だったからです。リューキュウとかでも多分いけなくはないと思うんですがドラゴンとどう戦わせるかあんまり考えたくなかった。あと大きさ的に試験にならない可能性がある。
THE・手加減ホークス
ホークスは自分から「こういうハンデが~」と言うタイプではないと思うので本編には書けませんでしたが、おもり以外にも同時に使う羽根の数、羽根の出力、振動による探知の無視(ブラフに引っかかったのはこれ)など様々な制限を課していました。そういう制限が無かったら普通に勝ち目はありませんし、試験にならないので……という話。