閃刀姫のヒーローアカデミア 作:スノアキ
「今回の試験、残念だが赤点が出た。従って───林間合宿は全員行きます」
「「「「「どんでん返し来たああああ!!!」」」」」
いつもの合理的虚偽らしい。赤点取った人ほど頑張ってもらわないと、というのはなるほど確かに。
ちなみに、赤点を取ったのは芦戸さん、上鳴君、瀬呂君、そして切島君。後半二人はチームとしてはクリアしたものの、個人の動きの部分で不合格になった様子。
「クリアできずで赤点取った奴よりハズい」
瀬呂君が机に突っ伏していた。
その後合宿のしおりが配られた。一週間の合宿ということで必要な荷物も多い。葉隠さんの発案で、どうせなら全員で買い物に行くということに。
「行ってたまるか、かったりィ」
「悪い、休日は見舞いだ」
「ノリが悪いよKY男共ォ!」
若干名不参加はいるみたいだけど。意外とそれに対して怒るのが峰田君なんだよな……女子相手だといつもアレだからアレだけど。とはいえ轟君は行かせてあげなさい。
という訳で、休みである翌日、私たちは木椰子区ショッピングモールへやって来た。
「色々買わないと……」
何せ、中学校まで毎日のようにトレーニングに勤しんでいた身だ。家族旅行や修学旅行とも趣を異にする今回の合宿、私が新たに買い揃える必要のあるものは多い。
各自分かれて行動し後で集合ということで、私は様々なお店を巡っていた。
「あら、楼善ちゃん。あなたも水着を買いに?」
水着を買いに訪れたお店では、蛙吹さん改め梅雨ちゃんがいくつかの水着を見ながら迷っていた。男性用水着の区画には障子君の姿も見える。
「うん。去年の夏よりちょっとだけ背伸びたし、筋肉も増えてると思うから新調しようと思って。動きやすいやつ」
「ケロ、閃機ちゃんらしい理由ね」
「まあ、あんまりおしゃれに関心はないかも。梅雨ちゃんは?」
「私も競泳タイプね。水場での訓練があるみたいだから」
「梅雨ちゃんは特に大事だね」
「ええ。でも可愛いものも買っておきたくて迷ってるの、どれが似合うかしら」
「梅雨ちゃん結構スタイル良いし、なんでも似合うんじゃない? 参考にならなくてごめん」
「いいえ嬉しいわ、ありがとね楼善ちゃん」
水着を買って梅雨ちゃんと別れ次のお店へ。目当ては新しい寝間着だ……他の皆がどうかは知らないが、普段使っているものを合宿で皆に見せるのはちょっと恥ずかしかった。別に思いっきりかわいいデザインとかでもないんだけど、まあ気分の問題。
適当な無地のTシャツを手にとってレジに並んでいると、今までの喧噪とは別種のざわめきがお店の外から聞こえてきた。その中に混じって、冷静に移動するよう呼びかける大人の声。
服を元あった場所に戻し、吹き抜けから1階を覗き込む。テープが貼られ、警察らしき人たちが人々を落ち着かせているのが見えた。
ショッピングモールは一時的に封鎖。モールの外で集合した私たちは、麗日さんから事の次第を聞いた。USJを襲撃した
休み明け、相澤先生から伝えられたことによれば、この件を受け合宿の行き先を変更。当日まで私たち生徒にも行き先は明かされないこととなった。せっかくの皆で行く合宿を前に、素直に楽しみと言い切れない不穏な空気を感じてしまう。
ともあれ時は普段通りに流れる。終業式も過ぎて夏休み、私たちはバスに乗り込み合宿先へと向かっていた。
飯田君が席順に座ろうと仕切るものの、せっかくなのだから自由に座りたいという反対意見が出て。相澤先生の一喝により、なしくずしに自由に座ることになった。
そんな訳で、私の隣は飯田君である。マスコミが侵入したと騒ぎになった日以降も話すことは多少あったが、じっくり話すのは久しぶりかも。
「窓際座るかい? 俺は高速で流れていく景色というのは見慣れているからな……いや閃機くんもそうか!」
「1人で何を突っ込んでるの」
相変わらずの真面目さと微妙なズレっぷりだ。職場体験の後、彼の兄・インゲニウムを傷つけたヴィラン“ステイン”が捕まったことを受け、教室で決意を新たにしていたことも記憶に残っているが……その前後で委員長としての働きぶりが変わることもなかったし、きちんと整理はついているようだった。
と、そんなことを考えていると飯田君が声をかけてきた。
「差し支えなければ、閃機くんがヒーローを志した理由を聞いてもいいだろうか?」
「良いけど、どうして?」
「雄英に来てから、それぞれにそれぞれのヒーローを目指す理由があるのだと改めて理解してね。個人名は伏せるが、両親に経済的な助けをしたいと言う人もいた。もちろん理由に貴賤は無い、むしろ俺の方が感化されることもある。それに、委員長として皆のことはよく知っておきたいからな」
真面目……。彼を委員長に推した私の判断は間違っていなかったなあ、と我ながら思う。
「実は、飯田君と似てるんだ。家族にヒーローがいて、大おじ……お祖父ちゃんの弟が、知ってるかもしれないけどヨロイムシャって言って」
「ヨロイムシャ!?」
「わ」
おじいちゃんのヒーロー名を口に出した途端、通路を挟んで斜め後ろ……青山君の隣に座っていた緑谷君が大きな声を上げた。
「よ、ヨロイムシャってあのヨロイムシャ!?」
「う、うん、2人はいないと思うけど……」
「何十年も前から活動を続ける古参の人気ヒーローじゃないか! 個性は“練磨”、触れた鉄を重く剛くするシンプルな個性……自身の膂力には何も作用しないのに、重くなった鎧と刀を纏って現場を駆ける身体能力はまさに超人的! 加齢に伴って鎧の軽量化を図ってはいるけど老いてなおますます盛んな活躍ぶりで今でもチャート上位常連、戦闘だけじゃなく救助でも活躍する正統派ヒーロー! そのいぶし銀な雰囲気とは裏腹にファンサービスにも熱心でメディア露出も多く、タレント性を帯びたヒーローの先駆けと言われることも多い歴史に名を残すヒーローの1人! 十数年前から親戚の子供を可愛がっていると話すようになったけどまさかそれが閃機さんのことだったなんて……!」
「……話を戻すけど、そのヨロイムシャが私の憧れなんだ。私も、ヨロイムシャみたいなヒーローになりたいって思ってる」
「そうだったのか! まさかそんな共通点があったとは。お互い、憧れに胸を張れるヒーローになりたいものだな」
まだ続いている緑谷君の早口をスルーし、私と飯田君は頷きあった。
それからちょっとした雑談をしていると、一時間ほど経ったころバスが止まった。相澤先生の指示でバスから降りるが、パーキングエリアには見えない。かといって目的地にも見えない。
違和感を覚える私たちの前に現れたのは2人のヒーロー、名乗ったところによれば“ワイルド・ワイルド・プッシーキャッツ”。それと男の子が1人……誰だろう。
“プッシーキャッツ”のうち黒髪の女性が、遠くを指さして言う。
「ここら一帯は私たちの所有地でね。あんたらの宿泊施設はあの山のふもと」
その言葉に、違和感がより強くなる。もはや、嫌な予感と言って差し支えない。
「バス戻ろうぜ……? な?」
「今はAM9:30……早ければ、12時前後かしら?」
「ダメだ……おい」
「戻ろう!」
「12時半までに辿り着けなかったキティはお昼抜きね」
「バスに戻れ! 早く!」
「悪いね諸君」
土砂が、私たちを飲み込んだ。咄嗟に個性を使おうとして───相澤先生と、目が合った。この土砂だらけの中で“抹消”の維持を……???
「私有地につき個性の使用は自由だよー! 今から三時間! 自分の足でおいでませ───この“魔獣の森”を抜けて!」
こうして、私たちは崖下へと(思いの外優しく)運ばれた。
何を急いでいるのか、峰田君が駆け出したその先に不気味な獣。
「「マジュウだーーー!!?」」
「静まりなさい獣よ下がるのです」
すぐに口田君が前に出て個性を使うが、効いた様子はない。
よくよく見れば身体から土がこぼれている───それに気付いた直後、轟君・飯田君・緑谷君・爆豪君が一斉に攻撃を仕掛け魔獣を撃破した。
「雄英こういうの多すぎだろ……」
「閃機さん、例のビットは使えますか? 空から見られれば効率的に進めるかと」
八百万さんがそう尋ねてきた。まあそれが出来れば確かに良い手なんだけど……。
「……一応やってみる。八百万さんのカロリー無駄遣いするのはまずそうだし」
私は『ホーネットビット』……ではなく、『ハヤテ』の脚部分に格納されている攻撃用ビット『
「そう甘くは行きませんか……」
「多分体育祭の時の対空攻撃よりも密度が高い。私が直接飛んでも怪我するだけかな……ホーネットビットは地上の探索に使う方が良さそう」
「皆、食料はどれだけ持っている? それから轟くん、君の氷を溶かしたものは飲み水に使えるか?」
「試したこと無かったな……昔お母さんが個性でかき氷作ってくれたことあっから、多分使えると思うが。一回沸かしてからの方が安全かもな」
「おいクソメガネ、始まったばっかで飯抜き前提たぁ弱腰じゃねえか」
「先ほど上から見た時かなりの距離があった。最悪を想定したほうがいざというとき慌てなくて済む」
「ケッ」
その後も飯田君が指揮を取り、前方を『ホーネットビット』3機と耳郎さん、後方を『ホーネットビット』2機と障子君で警戒しながら進むことに。
索敵役の私がダウンするわけにはいかないので、消耗しないよう戦闘には参加せずビットの操作に専念。
適宜休憩を取りつつ森を進む。手持ちの水の残量に渋い顔をしていると、轟君が話しかけてきた。
「閃機、今ちょっといいか」
「何?」
「体育祭でのことだ。俺、炎使わなかったろ。謝りたい」
「それは良いけど……どうして急に?」
「あん時、緑谷のおかげで……区切りをつけるために、踏み出す勇気を持てた。それで、お前や爆豪に
「いいよ、その様子だと相応の理由があったみたいだし。……爆豪君にも謝りに行くの?」
「さっき謝ってきた。途中でキレられて最後まで言えなかったけど」
「だろうね」
「と……悪い、飲み水作るんだった。八百万がボトル作って持ってるから、飲み物無くなったら八百万に」
「分かった、ありがとう」
そんなこともありつつ。結局、宿泊施設に辿り着いたのは午後4時40分のことだった。全員疲労困憊だ。
3時間ぐらいという話はなんだったのかと思えば、あれはプッシーキャッツならということだったらしい。とはいえ、向こうの想定よりは早く着いたようだった。
今日は食堂で夕食を取り入浴、就寝ということになった。ご飯はとても美味しかったが、どうもプッシーキャッツ側で用意してくれるのは今日だけらしい。残念。
その後、案の定峰田君が風呂を覗こうとしたのをプッシーキャッツの“マンダレイ”の従甥・洸汰君が阻止してくれた……のだがうっかり
翌日、朝の5時。相澤先生の説明するところによれば、今回の合宿の目的は全員の強化及びそれによる仮免許の取得。爆豪君を例にしたデモンストレーション……私たちは技術や身体能力は伸びていても、“個性”そのものはさほど強化されていないという。そこで行うのが個性伸ばし訓練、と。
“プッシーキャッツ”の1人、ラグドールさんの個性は「サーチ」。これにより各人の個性の詳細を把握し、ピクシーボブさんの「土流」でそれぞれに合った鍛錬を行う場所を作るのだそう。で、私をその「サーチ」で見てもらった所。
「すごいね君“個性”の中身がギッシリ! でもいっぺんには難しいね、どれ伸ばそうか!」
「まあ……閃機はそういう話になるでしょうね」
相澤先生は予想通りという顔で頷いていた。まあ、私自身やけに多岐に渡る能力の個性だとは思っている。
「ウィドウアンカーを鍛えたいです。救助、拘束、一番ヒーロー活動で強い能力だと思うので」
そう答える。かくして、私に課された訓練は。
「……」
ピクシーボブさんの作った雲梯のような形のものに、私は『ウィドウアンカー』を使ってぶら下がっていた。ぷらーんと。
「……」
キュルキュルと音を立てて、『ウィドウアンカー』の巻き取り機構が作動する。私の身体が上へと登っていく。巻き取りきったら、ワイヤーを伸ばしまたぶら下がる。
他の皆が裂帛の気合で個性伸ばしに臨む中、私の場所だけやけに間延びした空気が漂っていた。
「不満そうだな」
「いえ……分かるんですよ。私の個性も機械っぽいけど身体の一部というか拡張なので、こうやって懸垂みたいにすれば鍛えられるのは分かるんです」
「ならいいじゃないか」
「私だけ遊んでるみたいで釈然としません。いえ効いている感じはしますが、絵面が遊んでいるようです」
「ヒーローが見た目気にして鍛錬をおろそかにするんじゃない。本当ならより重い装甲の状態でやってもらうところを、そもそもの牽引力が足りないから体操服でやってるんだ。そこ自覚しろよ」
言い返せない。くそう、自分はアングラヒーローだからって……。
しかも何が嫌って、近くに給水所が設置されている(さすがに水分補給は必須だ、特にA組にはオレンジジュースを燃料にする飯田君もいるし)。なので時々水を飲みに来たクラスメイトが「おー、やってるやってる」みたいな顔で私を見てくる。いたたまれなかった。途中からB組の人も来るようになったので余計に。これも訓練の一貫なのか? そうであってほしかった。
そんな鍛錬を続けて、気づけば太陽がそこそこ傾いていた。瀬呂君が水分補給にやってきたが、鍛錬に戻る様子は無い。私の視線に気付いたのか、瀬呂君は手をひらひらと振って答えた。
「もーテープ出ねえの。正真正銘限界」
「そうなんだ……すごいね……」
「閃機もそれずっとやってるけど、さすがにしんどそうだな」
「うん……普通に使う分には、手を出して引っ込める、ような感覚なんだけど……ずっと手を出して引っ込め続けるのは、しんどいでしょ。それと、同じ」
「マジに筋トレみたいだな……」
会話を終え、再び懸垂を──と、そこで私に走る違和感。いや、別に大げさなものではない……くしゃみが出そうというだけだ。ただ状況は良くない。かなり疲れている。今くしゃみしたらアームが緩んで普通に落ちそうだ。『ウィドウアンカー』の射程はそれなりに長いので、当然今使っている雲梯モドキもそれなりの高さがある。しかも今は上の方にいた。ここから落ちるのはさすがに危ない。なるべく早く降りっ「へぶしっ」。あ。
アームが緩む。私の身体が自由落下を始める。やけにゆっくり、空が遠くなっていって───。
「うおっととと!?」
気づけば、瀬呂君の顔が間近にあった。少し離れた地面に紙コップが転がっている……どうやら、瀬呂君が受け止めてくれたらしかった。
「あっぶねー……閃機、大丈夫か?」
「うん。瀬呂君こそ重くない?」
「え!? いや全然!?」
「そう? 結構筋肉ついてきてると思ってたんだけど」
「……」
「……?」
「あ、とりあえず地面降ろすな」
「ありがとう」
ついでなので私も水分補給をして、アンカー懸垂を再開する。にしても、私重くないのか……私の鍛え方が不十分なのか、瀬呂君が鍛えているのか。まあでも……重いと言われてもそれはそれでちょっとな。瀬呂君がああ言ってくれたのは良かったかもしれない。
「オイ瀬呂ォ……見てたぞオイラァ! 何青春してんだよお前ぇ……!」
「……選択肢ミスったかな? 閃機表情薄いから読めねー……」
「聞けよ! 困ってる女子助けてよりにもよって
「や、ちげーって。男子でも女子でも助けるでしょ今のは。峰田もそうでしょ」
「オイラのキャラデザを見てもそれが言えるかな!?」
「それはマジでゴメン」
まあでも、と瀬呂は呟く。
「閃機実際カワイーよな。間近で見ると余計に」
「██████████!?」
「人語話せって。狙ってるとかじゃなく、客観的評価としてよ?」
「それなら分かる」
「急に落ち着く」
「明日はオイラ給水所で張ってようかな。疲れた女子がオイラに倒れ込んでくるかもしれねえ」
「相澤先生に見つかってどやされるのがオチだな」
「だよなあ……真面目に頑張る方が皆オイラのこと見直して惚れてくれるか!」
「今評価が低い自覚はあんのな。ま、明日もがんばろーぜ」
「おう!」
THE・フラグ
立ちました。入試の障子君(1話のあとがきにも追記してますが原作では彼は緑谷と同じ会場だったのに気付いてませんでした。すいません)、体育祭前の心操君との関わりとかは恋愛要素を入れると決める前のアレだったので普通に友達です。