閃刀姫のヒーローアカデミア   作:スノアキ

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#2 入学式改め個性把握テスト

 入学試験から一週間後。お茶を淹れていると、どたどたと足音がして兄さんが居間に突っ込んできた。兄さんの手には赤い封蝋の手紙が握られている。

 

「楼善!雄英から!」

 

 兄さんの言葉に、慌てて急須を置き手紙を受け取る。

 

「一人で見るかい?」

 

「別に良い」

 

 慎重に手紙を開けると、小さな機械が出てきた。

 

「投影機だね。今の合否通知ってこんなんなってんだ? 後で分解しよ」

 

 サポート科OBらしいことを呟く兄さんを他所に、ちゃぶ台に投影機を置く。

 

『私が投影されたァ!』

 

「「オールマイト!」」

 

 思わず兄さんと声が揃った。言わずと知れたナンバーワンヒーロー。だが何故雄英の合否通知に?

 

『オホン! 実は私、この春から雄英に教師として勤めることになってね』

 

「ええ!? すごいじゃないか楼善、オールマイトに教えてもらえるなんて! ああいや、受かってたらだけど」

 

 確かにすごい。けど、ナンバーワンヒーローを教師として拘束しても良いのだろうか? オールマイトが良いと判断したからやってるんだろうけれど。

 

『では早速、君の成績と合否を伝えよう……と言ってもまァ、手応えあったとは思ってるんじゃないかな!? 数・英・理・社は言う事なし、国語はやや落ちるが十分及第点! そして何より──』

 

 投影されているオールマイトが、バッと指で指し示す。表示されたのは実技試験の成績。

 

(ヴィラン)ポイント63点、救助(レスキュー)ポイント60点! 合計123点で、実技成績トップでの通過だ! おめでとう、閃機少女!』

 

「……やっ」

 

「──ヤッタァァァ楼善が受かったァァァァ! 焼肉行こう焼肉! お兄ちゃん奢るよ!」

 

「……兄さんうるさい。焼肉はいただきます」

 

 私が喜ぶより先に兄さんが感情を爆発させた。いつもながら血の繋がった兄とは思えないほど、私とは反対にやかましくて感情表現が豊かな人だ。

 しかし、救助ポイントなんてものがあったとは。確かにヒーローとしての資質を計るならそういうのも見るのが当然か。

 

『入学にあたっての準備など、細かいことは雄英公式サイトで確認してくれたまえ! 君と雄英で会える日を楽しみにしているよ!』

 

 そう言ってオールマイトはハケて行く。……投影が終わらない。故障だろうか、と思ったところで、オールマイトが画角に戻ってきた。

 

『申し訳ない、大事なことを伝え忘れていた! 実技試験1位、筆記試験も成績優秀ということで──閃機少女、君に入学式での新入生代表挨拶を頼みたい!』

 

 えっ。

 いや、肝心の国語が苦手なんですが……でも、こういうのって普通は学校側で台本を作るか、そうでなくても添削はあるはず……。

 

『勿論雄英は自由な校風が売りだからね、堅っ苦しい挨拶は不要だ! 君の思いの丈を、自由に綴ると良い! こっちで内容をチェックなんて野暮なことはしないさ!』

 

 終わった。

 

『では改めて、雄英で会おう! 閃機少女!』

 

 合格の喜びから一転、高い高い壁が目の前に降って湧いた私を、兄さんは心配そうに見つめていた。

 

「……頑張ろう、楼善。いつまでも苦手なままにしておくのも良くない。武光じいちゃんが言ってたけど、楼善には本を読む時間が足りていなかったらしいから──」

 

 兄さんは小走りで自分の部屋に向かうと、山のような数の本を抱えて戻ってきた。まさか。

 

「挨拶の原稿を書くためにも、いっぱい本を読もう!」

 

 ……兄さん。いくら私が個性の関係で機械いじりを嗜んでいると言っても、サポートアイテム開発最前線で働くあなたが参考にするような本はさすがに厳しいです。というかこういう時って小説が相場じゃないの?

 

 

 頭の中を活字まみれにする日々もとうとう終わる。今日は雄英高校の初日、つまりは入学式だ。

 ……緊張する。中学校は帰宅部可だったのを良いことに、すぐに帰っておじいちゃんの訓練場で筋トレをするのが日課だった。所属していた美化委員会も掃除の時間で仕事は済んでいたので、つまり私は全校生徒の前に立って何かをやるような経験が圧倒的に不足している。証書を受け取ってちょっと席の方を向くだけの卒業式でも緊張したのに、新入生代表だなんて。

 暗い顔でやたら広い廊下を歩き、やたら大きいドアを開けて教室に入る。私はA組に割り振られた。

 と、見覚えのある顔があった。右からニ列目の最後列の席。

 

「障子君。受かってたんだね、おめでとう」

 

「閃機か。同じクラスとはな、縁があるものだ」

 

 多腕のマスク男子、障子君は同じクラスだった。せっかく縁が続いているのだし、仲良くしていたい。

 障子君との挨拶もそこそこに、自分の席へ向かう。教室左端、前からニ番目の席。右隣の男子に見覚えがあると思ったら、肘からテープを出していた彼だ。一方的にビットで見ていただけなので話しかけはしないけど。

 

 入学式に備えて、なんとか仕上げた台本を確認していると、急に教室が騒がしくなった。

 

「机に足をかけるな! 雄英の先輩方や机の製作者方に申し訳ないと思わないか!」

 

「思わねえよてめー! どこ中だよ端役が!」

 

 前の席の金髪トゲトゲ頭の男子と、眼鏡の真面目そうな男子が何やら揉めていた。前の席がこういう感じの人か……。

 しかしどうしたものか。こういうとき新入生代表って何かやるべきなのかな? オールマイトはあくまで代表であって、「首席」とは言わなかったけど。私も人間なので、褒められれば嬉しいし怒られると落ち込む。人に褒められるような行動を心がけたい。よし、声をかけよう。眼鏡の彼はともかく、前の席の彼は言っても聞かなそうな感じがすごいが。

 

「あの、すいま」

 

「ム! 俺は私立聡明中学の……」

 

「聞いてたよ! あっ……と、僕緑谷、よろしく飯田くん……」

 

 ……眼鏡の彼が教室に入ってきたもさもさ髪の男子のところへ行ってしまった。いや、うん。ちょっと間が悪かっただけだ。どっちにしろ静かになったから私は別にいい。

 

「なんか、ドンマイ」

 

 隣のテープの彼は一部始終をバッチリ見ていたらしい。いたたまれなさに汗がどっと吹き出る。

 

「お友達ごっこしたいなら他所へ行け」

 

 突然、低い声が教室に響いた。声は教室前方側の廊下から聞こえてくる。

 

「ハイ静かになるまで8秒かかりました。時間は有限、君たちは合理性に欠くね」

 

 寝袋からぬぅと出てきた無精髭の男性。この物言い、まさか教師だろうか。

 

「担任の相澤消太だ。よろしくね」

 

 担任だった。

 

「早速だがコレ着てグラウンド出ろ」

 

 そう言って相澤先生が指し示したのは体操服だった。

 

 

「君たちには今から『個性把握テスト』というのをやってもらう」

 

 グラウンドに整列した私たちに、相澤先生はそう言った。……え? この後入学式では?

 

「あの、入学式は!? ガイダンスは!?」

 

 同じことを思ったのか、茶髪の女子が先生に尋ねた。

 

「ヒーローになるならそんな悠長な行事出る時間ないよ」

 

「えっ」

 

 思わず声に出てしまう。相澤先生が私をじろりと睨めつけた。

 

「どうした、不服か?」

 

「いえ、その……私、新入生代表として挨拶する予定なんですが」

 

「……」

 

「……」

 

 沈黙。

 

「……雄英は自由な校風が売り文句。そしてそれは先生側もまた然り」

 

 先生。今私の言葉を黙殺しましたよね先生。

 

「個性禁止、平均を作るための画一的な記録を取る体力テスト……非合理的甚だしい。実技のトップは閃機……いや、少し分かりにくいか」

 

「あァ? こいつが?」

 

 先生の視線と言葉に反応して、金髪トゲトゲ頭の男子が私を威嚇する。……この人が前の席かあ。

 

「爆豪、中学の時ソフトボール投げは何メートルだった」

 

「67メートル」

 

「個性使ってやってみろ。円から出なければ何しても良い」

 

 言われて、爆豪君は軽くストレッチしながら円に入る。

 

「んじゃまぁ……死ねえ!

 

 物騒な掛け声と共に、爆発。ボールは天高く飛んでいく。

 

「まずは自分の最大限を知る。それがヒーローの素地を形成する合理的手段」

 

 そう言いながら、相澤先生が見せた端末に記されていた記録は……705.2メートル。

 途端に、クラスの皆はどよめく。口々に色々と騒ぎ立てるが、その中の一つに相澤先生が反応した。

 

「面白そう、ね……ヒーローになるための3年間、そんな腹積もりで過ごす気でいるのかい?」

 

 ……どうもそんな気はしていたが。相澤先生は、やはり──。

 

「よし。トータル成績最下位の者は見込み無しと判断し、除籍処分としよう」

 

 めちゃくちゃ厳しいタイプの先生だ……!

 

 -第一種目 50メートル走-

 

 二人で並んで走るせいで換装できない、『イーグルブースター』や『ハヤテ』の『山颪(ジェットパック)』は隣の、先程のもさもさ髪の男子……緑谷君とぶつかってしまう。かといって『カガリ』は炎のせいで周りの人が危ないし。

 仕方がないので普通に走ることに。早くも個性把握テストの意義が見えてきた……。

 

 -第ニ種目 握力-

 

 これも普通にやることに。『閃刀機』の中に『ウィドウアンカー』というワイヤーつきアームがあるのだが、このアームはUFOキャッチャーの三本腕アームみたいな構造なので握力計を握るのには不向きそうだった。これも言ってみれば弱点か。

 

 -第三種目 立ち幅跳び-

 

 これは一人で測るので気兼ね無く換装出来る。『ハヤテ』に換装し『山颪』で飛行したところ、相澤先生からその状態をどれぐらい維持できるかと問われる。ただ飛び続けるだけなら夜まで保ちますと答えると、記録は無限となった。

 

 -第四種目 反復横跳び-

 

 『ベクタードスラスター』で横移動も考えたが、スラスターの方向転換が追いつかないと判断し普通に計測。いざこうして測ってみると、実技成績トップの割に出来ないことが多いな、私……。

 

 -第五種目 ボール投げ-

 

 『ホーネットビット』の突起をボールに刺して飛ばす。記録は私がビットを操作できる限界の600メートル。先ほど爆豪君の爆破にも耐えていたボールなので若干不安だったが、鋭いものへの耐久性は普通なようだ。……600メートルが限界って、実際の現場のこと考えると物足りないような。ちょっとネガティブになってるかもしれない。

 

 -第六種目 持久走-

 

 『ハヤテ』に換装して『山颪』と『ベクタードスラスター』で飛んだ。良いのかな、とちょっと思ったが高身長ポニーテールの女の子が滅茶苦茶やってるので気にしないことにした。

 

 -第七種目 上体起こし-

 

 『ベクタードスラスター』で何かできないかと思ったが、スラスター本体も装甲も地面と干渉してしまうので大人しく普通に計測。さすがにペアの相手の顔面を『ウィドウアンカー』で掴んで巻き取り、なんて真似は出来ない。一瞬考えはしたけど。

 

 -第八種目 長座体前屈-

 

 特に有効な個性の使い方は思いつかなかったので普通に計測。

 

 こうして、個性把握テストは一通り終わった。さすがに最下位は無いと思うが……と若干不安になっていると、緑谷君が暗い顔をしているのが見えた。彼は出席番号が私のすぐ後なので、順番的にあまり確認できていない。周りの反応から窺った限り、彼が目立った記録を残していたのはボール投げぐらいだったか。しかし彼でなくとも、誰か一人は除籍になってしまう……。

 

「んじゃパパッと結果発表。順位は単純に各種目の評点の合計。ちなみに除籍はウソな

 

 相澤先生が流れるように告げたその言葉に、もはや驚きの声を上げる人さえいない。

 

「君らの最大限を引き出す合理的虚偽」

 

 やたらイイ顔で、相澤先生はそう言ってのけた。この先生とやっていけるかな私。順位は8位だったが、もうなんかどうでも良かった。いやテストの内容自体に意味はあったと思うけど。

 

 

 余談。後から聞いた話では、入学式の新入生代表挨拶、B組の推薦枠の男子が直前に頼まれてアドリブでやりきったらしい。私のこの数週間の苦労って一体。




THE・砂藤不在
苦渋の決断。21人にすると色んなところで細かい調整が入ってしんどいことが予想され、色々考えて彼を不在に。料理上手なナイスガイは、腐らずに別の高校のヒーロー科で自分を鍛えています。

THE・席順
砂藤がいないことで障子から一個ずつ前にズレ、爆豪の後ろに閃機イン。「ひ」で始まると爆豪と緑谷の間になっちゃうんですね。マジで偶然です。

THE・8位
割と有効に個性を使える場面が無かったので
個性が扱いやすくて本人も鍛えてるっぽい尾白>一部種目でのみ個性が輝き女子としてはそこそこ鍛えてる閃機>鍛えてるけど個性自体はテストにあまり寄与しなさそうな切島
と判断しこの位置に。
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