閃刀姫のヒーローアカデミア 作:スノアキ
さて……どうしたものか。私は火力をほぼほぼ刀に頼っているので、騎馬戦となると攻撃力はガタ落ちする。組む相手は攻めに優れた相手が望ましい。中距離対応で耳郎さんや常闇くんあたりは有力候補……と考えていると、私に声をかけてくる人がいた。
「おいヨロイ女。お前俺と組め」
「人にものを頼む態度! 改めようぜ!?」
爆豪君である。隣で突っ込みを入れているのは切島君だ。
「分かった──というか、正直願ってもないけど。一応理屈を聞いてもいい?」
「騎手が騎馬から離れても地面に足付かなきゃアウトにはなんねえ。さっきミッドナイトに聞いた」
「で、閃機はあのアンカーあるだろ? あれなら爆豪が落ちる前に引き戻せるんじゃねえかと思って」
なるほど。爆豪君が鎧込みの私より重いってことはないだろうから、中々魅力的な案だ。
「加えてさっきの障害物競走で使ってたビットだ。あの
「交渉する気あんのかお前!?」
「了解。ビットとアンカーは同時展開出来ないから、それだけ気をつけて」
その後、轟君の氷対策として芦戸さんがもう一人の騎馬となることが決定。打ち合わせをしながら考える──私としても爆豪君の攻撃力は嬉しいが、お互い2位と4位。第ニ種目通過を狙うなら、1000万ほどではないが十分リターンのある騎馬となる。爆豪君のことだから、それも織り込み済みなのだろう。分かった上で、私を勧誘している……ありがたい話だ。精一杯やるとしよう。
「そういや閃機のアンカーってハチマキ取れたりしないの?」
「アームの形状的にハチマキだけ掴むのは無理かな……頭か首ごとになる」
「出来たら最強だったんだけどなー」
「どうせ開始直後は三下共が1000万に群がる。デクを狙うならそれから逃れて気ぃ抜いたところだ、ヨロイ女はそれまでビットで警戒しとけ。合図したらすぐアンカーに切り替えろ」
「合図は何か決めておく?」
「いらねえだろ、呼んだらやれ」
やる気が若干削れた気がしたが、自分の通過も懸かっているので気合を入れ直す。
そうこうしているうち、開始時間が迫っていた。
『3! 2! 1……! スタートォ!!』
マイク先生の合図と同時、いくつかの騎馬が緑谷君の騎馬へと向かう。思ったよりは少ない。
近づいてくるB組の人の騎馬をビットで牽制しながら、緑谷君の騎馬を追いかける。
緑谷君たちが障子君の一人騎馬とやり合っているところを好機と見て、爆豪君が合図した。
「ヨロイ女ァ!」
「
私の様子を確認もせず、爆豪君は爆破で空へと飛び上がっていった。そのままサポートアイテムで跳んでいた緑谷君の騎馬へと攻撃を仕掛けるが、常闇君の“個性”……確か
すぐさまホーネットビットに切り替えたその直後、ビットの視界にこちらへ向かってくるB組の人の騎馬を捉えた。
「爆豪君後ろ!」
「───オラァ!」
間髪入れず、爆豪君がノールックで背後へ向け爆破を放つ。
「おっと! 危ない危ない……さすがに欲張ったかな」
騎手の金髪の男子は怖い怖い、と呟いて退いて行った。
「閃機ナイスー!」
「有象無象はどうでもいい、狙うのはデクだ……
爆豪君、妙な所でクレバーというか手堅いというか。轟君の個性なら、緑谷君の騎馬に妨害するついでに周りの騎馬を氷漬けにするぐらいは訳ないだろう。
様子を見ていると、上鳴君の放電で周りを痺れさせた上で、どうやってかそれを回避した轟君が動けなくなった周りを凍らせていた。多分八百万さんが作った何かだろう、えげつない組み合わせだ。
「うおお……! 離れてて正解だったなありゃ!」
「今だ前進! ヨロイ女ァ!」
「
緑谷君の騎馬が轟君の騎馬と相対したところへ、爆豪君が空から襲いかかろうと飛ぶ。常闇君の黒影は轟君たちの方を相手している、今なら……と、思ったのだが、そう上手くはいかなかった。
パキパキ、と音がして、氷の壁が爆豪君の行く手を阻む。咄嗟に爆豪君が爆破で壁を壊そうとするが、厚さ故に穴を開けるには足りず。三度爆豪君が私を呼んだのを合図に、『ウィドウアンカー』で彼を回収、同時に芦戸さんが壁を溶かし始める。
「何のマネだ半分野郎!」
「俺のポイントだ」
轟君の騎馬、最後の一人は飯田君……逃げに徹されると苦しい。彼らに1000万を取られるのは爆豪君の私怨を抜きにしても避けたいし、こちらのポイントが取られることは尚更避けたい。緑谷君たちもそれは同じ……そして轟君の騎馬はこの三組の中では一番ポイントが低い。積極的に取りに来るはず。
だが、予想に反して轟君たちは動かない。緑谷君の騎馬の位置取りがいやらしいのもあるだろうが……何を考えている?
「緑谷もそうだが……隙を晒せば爆豪が来る。迂闊には動けねえ」
「爆豪は緑谷の方狙いそうだけどな……」
「……皆。悟られるのを防ぐため、詳細は言わないが……俺は奥の手がある」
「マ……ジ?」
「だが反動もある、残り時間の長い今は使えない」
「なるべく待ってから仕掛ける、ということですわね」
「分かった。頼むぞ飯田」
「位置取りで轟くんたちは牽制出来てる……! それに!」
「轟と爆豪が互いに抑止力となっている。同時に来られれば黒影の相性上苦しかったが……。しかし騎手の二人は無論、飯田と閃機……あの二人も、1000万を守る上で大きな障壁。どうする緑谷」
「……飯田くんは初速を捕まえられればなんとかなるかもしれない。閃機さんは……こっちの手札が足りない。あの電撃でアイテムが壊れてなければ……」
「忸怩たる思い! 次は改善します」
「い、いや、責めたわけでは……! けど幸い、閃機さんはかっちゃんの騎馬だ。かっちゃんは多分、自分の手で取りに来るはず……さっきの様子を見る限り、ビットとアームの同時使用も出来ない。仮にアームでハチマキを取ろうとすれば、轟君たちに隙を見せることになる。もちろんブラフの可能性もあるけど」
「閃機ちゃんが取りに来る可能性は低いってことか……!」
『漁夫の利を嫌ってか轟が氷でフィールドを区切ってから早くも5分が経過ァー! その間睨み合いが続く膠着状態! ヘイヘイちょっとチキりすぎじゃねえのォ!? 残り時間はあと1分だぜぇ!?』
マイク先生のその実況が聞こえた瞬間、轟君の騎馬が動いた。ぐ、と飯田君が踏み込んで。
『な───!? 何が起きた!?』
遅れて理解する。
「やってくれるじゃねえかクソメガネ……!」
爆豪君がものすごくキレている!
「轟狙いだな!? 閃機は緑谷の警戒頼む!」
「走れてめぇら! 黒目は氷溶かす準備!」
「あ・し・ど・み・な!」
轟君の騎馬へ走る最中、ビットが緑谷君の騎馬も同様に走っているのを捉えた。
「緑谷君たちも来てる、ついでで取ってくるかも!」
「上等だ来てみろやクソデクゥ!」
「可能性の話な!?」
当然、緑谷君たちの方が轟君たちとの距離は近い。一瞬の攻防の後、緑谷君の手が轟君のハチマキへと伸びる。
「1000万! 緑谷が───」
「違う! 爆豪君そのまま轟君を!」
切島君の声を遮って叫ぶ。『ホーネットビット』様々だ……轟君が1000万を奪った直後、ハチマキの位置をすり替えたのが見えた。
「んなこた分かってらヨロイ女ァ!」
「閃機!」
轟君も黙って取られるはずがない、氷を出そうと右腕を構える、が。
「出始めは薄いよなあ氷がよォ!」
「上鳴さん!」
あまりに爆豪君に寄られすぎていた。八百万さんの呼びかけで上鳴くんが放電。
「効くかよアホ面が……! 寄越せ1000万!」
しかし爆豪君これを受けてなお突き進みハチマキを掴む。凍らされる前に即座に『ウィドウアンカー』で回収。若干高度が危うかったが、爆豪君の爆破で事なきを得た。
「爆豪ポイントは!?」
「んなとこでヘマすっかよ」
彼が額に巻いたハチマキに印された数字は、8桁。
『残り時間僅かで怒涛の展開! そんでもってカウントは5! 4!』
轟君と緑谷君、両方の騎馬が向かってくる。芦戸さんが足元に酸を巻き、ビットの光弾と爆豪君の爆破で牽制。
『3! 2!』
光弾の一発一発は多少痺れる程度だが、連続で当てれば動きを阻害する効果は十分に見込める。加えて爆破と酸……というか酸の時点で防御面は十分とさえ言えるのではないだろうか。爆豪君が攻めっ気強いからあまり意味が無かったが。
『1!』
そうして、私たちはポイントを守り抜き。
『TIME UP! 早速上位4チーム見てこう───1000万を確保したブッチギリTOPはコイツら! 爆豪チーム!」』
第ニ種目の1位通過が、決定したのだった。
さて、続く3チームはと言うと。
『第2位緑谷チーム! 1000万は奪われたもののいつの間にか轟チームのハチマキ持ってやがる! 強か!』
『第3位は鉄哲……アレェ!? 心操チームひっそりと逆転!』
『第4位は轟チーム!
おや。心操と言えば普通科の彼だ。親しいと言えるかは微妙だが、ともあれ知人がこうしてアピールの場に立てているのは喜ばしいことだろう。
第二種目が終われば、昼休憩とレクリエーションを挟んで最後の第三種目。なるべく食べてしっかり体力を回復しておこう。
「峰田さん上鳴さん! 騙しましたわね!?」
レクリエーションにて。私たちA組女子一同は、卑劣な罠にかかりチアリーダー姿でスタジアムに立っていた。葉隠さん以外目が死んでいる。
「本戦まで張り詰めててもしんどいしさ……いいんじゃない!? やったろ!」
葉隠さん普段透明だから分かりにくいけど結構スタイルいいな……だから元気なのでは。
逆にその……アレ仲間の耳郎さんはあんまり元気がない。いやめっちゃ怒ってるから元気ではあるけど。
どうでもいい話は置いておいて、第三種目のことだ。
マイク先生が告げたところによれば、トーナメント形式のガチバトルとのこと。
……組み合わせ次第じゃ轟君・爆豪君・緑谷君全員とやることになるかもしれない訳だ。勝つ前提の話だけど。もちろん他の皆相手も気は抜けないし、B組の人たちも情報がない分警戒が必要だ。うまく体力をセーブしたいところだけど、多分そう上手くはいかないかな……。
と考えていたのだが、なんと尾白君とB組の庄田君が出場辞退を宣言した。誰かの個性で、騎馬戦終盤までの記憶が無い、と。この二人が組んでいたのは……青山君と、心操君か。
二人の出場辞退は受理され、5位の拳藤チームの推薦で鉄哲チームから鉄哲君と塩崎さんが繰り上がりで出場することとなった。
出場を辞退……尾白君自身のプライドの問題、とも語っていたが。私だったら……どうだろう。轟君とのことがあるから辞退はしないだろうけれど、ではあの約束がなければ? ……うーん、それでもやっぱり辞退はしないかも。屋内戦闘訓練は色々な制約があったので、皆と本気でぶつかれる機会というのはここまでなかった。この二週間、頑張って準備をしてきたのもある。やはり私は、それらの好機を逃したくはない。
などと思考を巡らせていると、トーナメント表が発表されていた。私の1回戦の相手は……あら、轟君だ。2試合目。もし勝ち上がれば次は緑谷君か心操君。どうなるにせよ中々ヘビーな組み合わせだ。
で、まあ。そのへんの話が終わればレクリエーションなわけで。
「なんで皆そんなノリノリな訳……」
「ね」
私は耳郎さんと一緒にしゃがみ込んでやり過ごしていた。体力の温存という打算もあるけど。
轟君相手にどう立ち回るか考えているうち、レクリエーションの時間は終わっていた。さっさとチア服を脱ぎ、体操服に着替える。
第一試合、緑谷君と心操君の試合は途中で抜け出して控室に向かわないといけない。二回戦に進んだ時のことを考えると、一回戦は奇数試合に配置された方が次の対戦相手の手の内を多く見られて有利だ。怪我などで休まなければいけないことを考えなければだけど。
緑谷君が動きを止め、突如として場外へ向かって歩き出し……何が起きたのか、突然の爆風。彼が場外負けを免れたところで、私は控室へと向かった。
轟君について考える───個性把握テストの時のことだ。氷を使った後、彼はそれを炎で溶かしていた。氷と炎、両方が彼の個性だ。でも、彼は炎をこれまでの種目で全く使っていない。何か理由があるはず……例えば炎は氷よりも燃費が悪くて、氷ほど大規模には使えないとか。例えば炎は氷よりも制御が難しくて、大きな火傷を負わせてしまうかもしれないとか。そういう事情はいくらでも思いつく。
ただ、使ってこないだろうと楽観的に無視するのも難しい。彼の氷と炎の個性の調和は完璧だ。以前の屋内戦闘訓練で、轟君の身体には僅かに霜が降りていた。氷を使い続けるのには限界があるはず。あの時は私の『アフターバーナー』で溶かしてしまっていたが、それはつまり炎を使えば同じ事ができるということ。
私と轟君の相性は、3:7ぐらいで私が不利だと思っている。
もし、そこに炎を攻め手として加えられたら。ギリギリ『シズク』の『ジャミングウェーブ』なら炎に対処できるかもしれないが、それは『カガリ』の『アフターバーナー』による氷への対応を捨てることになる。各装甲固有の『閃刀術式』は、並列使用出来ない。
……あとは。唯一、物理的な力押しを視野に入れる事のできる装甲があるが……おじいちゃんから基本使うなと言われてしまっているからなあ。あれは加減が難しいし、私としても気は進まない。進まない、けど。大人しく負けるぐらいなら、おじいちゃんに叱られた方がマシ……かもしれない。使わなかったら使わなかったで、轟君との決着にまたケチがついてしまうし。
うん、使おう。抱え落ちが一番カッコ悪い。どのタイミングで使うかは吟味する必要があるけど……体力のことを考えるなら初手で使ったほうがいいよなあ。追い詰められてから使うのは余分に体力を消耗するだけだし……うん、初手が一番合理的だ。
方針を決めたところで、係員の方が私を呼びに来た。
さて、いきなり一世一代の大勝負……行こう。勝利を掴みに。
THE・順位
ポイントを厳密にやると頭おかしくなりそうだったのでアバウトに。細かいところは物間チーム心操チームあたりの動きでいくらでも変わると思うので、そのあたりで補完していただければ……。
THE・瀬呂ごめん
めちゃくちゃ割を食ってます。単純なワイヤーアクションの練度とかテープゆえの拡張性とかで下位互換には全くなっていないと思っているので、そのうち彼との関わりも書きたいです。合宿あたり?
THE・かっちゃん
デクへのムカツキがヨロイ女へのムカツキを上回ってます。物間からの煽りも受けてないので冷静に