閃刀姫のヒーローアカデミア 作:スノアキ
『お待たせしました二試合目! 互いに各種目で大注目を浴びた二人の対決! 空飛ぶ多機能アーマーガール!! 閃機楼善!! バーサス! クレバー&クールガイ!! 轟焦凍!!』
リングに立つ轟君は、一段と気合が入っているように見えた。少し怖いくらいに。
「決着……思ったより早く決めることになったね」
「…………ああ」
『レディィィィィ! START!!』
「
「ッ───」
私が呟くのと同時。彼の右手が、私へと向けられる。屋内戦闘訓練の再演……いや、もっとひどい。私の体は、装甲ごと完全に氷に包まれていた。体操服越しに、体が冷えていくのが分かる。
「……間に合わねえか」
彼の言葉に、内心で訂正する。もし私が『カガリ』や今の装甲以外への換装を選んでいたならこの時点で勝負は決していたし、『カガリ』であっても私の体を覆うような大きさの氷を溶かすには多少の時間と体力が要る。間に合っていないわけではない。
本当に良かった。開幕から、この装甲を使うことを選んで。
「───
巨大な黒い鎧が、氷を無造作に砕いた。
『ヘイヘイヘイ……! ワッツハプン!? 轟が閃機を凍らせたと思いきや! 見たことねえ巨大なアーマーが出てきたぞ!?』
ジークは私の奥の手と言って差し支えない。他の装甲が私より一回り大きい程度なのに対し、ジークはゆうに数倍を超える。その大きさのため他の装甲とは異なり、さながらロボットに乗り込んだように操ることになる。今しがた氷を砕いたように、大きさの分馬力も高い。固有の術式は無いが、巨大な剣『クリンガ』、浮遊しビットと同じように操ることのできる盾『シルト』、そして4機のビット『ベグライター』を有する。なお、余談だがこれらの名前は兄と私の共同命名である。
しかし『ジーク』は、大きさと出力の分燃費も悪い。全開の『アフターバーナー』より少しマシ、というぐらいだ。仮にここで勝てたとして、続く試合で体力が残っているかは怪しいが……それでも、約束があるので。全力で臨ませてもらう。
……とはいえ、『クリンガ』は納刀状態の『アフターバーナー』や『
『ジーク』を見た轟君の動きは素早かった。氷を足場に、私との距離を詰める──接近戦の構え。実際、『ジーク』に勝つなら最善手と言える。ジークは他の装甲と異なり、どういう訳か私の姿が剥き出しになっている。だからさっきはすごく寒かった。とはいえ、大人しく拳を受けるわけにはいかない。
「ぐっ……!」
私へ向かってくる轟君の横合いから『シルト』をぶつけ、吹き飛ばす。とっさに地面から斜めに氷の壁を生やして場外は免れたようだが……早くもまともに一撃入れることが出来た。この調子でなるべく早く───違う。温存を考えるな。時間がかかっても確実に。
『ベグライター』を操り、光線を照射する。『ベグライター』は『ホーネットビット』とは異なり光線を用いて攻撃する。あちらよりも威力が強く(と言っても命や意識に関わるほどではないが)、その痛みが照射されている間ずっと続く。右手に当て続ければ、多少は氷が使いにくくなるはずだ。動きを制限する意味でも、4つそれぞれを四肢に向け照射する。
「近づくのは怖い。このままゆっくり詰めさせてもらう」
『シルト』を移動させ、轟君の身体を場外に向け押し出す。『ベグライター』の光線が外れないようゆっくりと。
「これで封じたと思われてんなら、心外だな……!」
声が聞こえた瞬間、巨大な氷山が形成される。『シルト』も『ベグライター』も氷山に飲み込まれた。上方向への移動によって『シルト』の回収を始めるが……『ベグライター』の方は無理だ。巨大な氷を内側から砕くほどの出力はない。『シルト』で氷を砕くにしても、氷漬けにされてしまっては上手く動かないだろう。早くも攻め手を一つ失った──そう考えている間にも、再び轟君は迫ってくる。
『シルト』はまだ氷の中。あと数秒もあれば間に合ったのに。『クリンガ』を構え、横薙ぎに払う───っ!?
「そ、らァッ!」
轟君は左から迫るクリンガに右手を向け、氷の柱を伸ばした。柱が『クリンガ』に到達し、刀身が凍り始めた───その瞬間、轟君は跳躍するとぐるりと右手を回す。右手から出ている氷の柱に引っ張られ、『クリンガ』はがくん、と不自然な軌道を描いて空を切った。
轟君はそのまま距離を詰める。装甲を足場に、私の目の前に彼は立っていた。
「この距離ならあの浮いてる板も使えねえだろ。終わりだ」
パキ、と音を立てて『ジーク』が凍っていく。
「そうだね。ジークの時間は終わり」
言うが早いか、私は『ウィドウアンカー』を呼び出し轟君を捕まえる。そのまま、『ジーク』から『カガリ』へと換装。巨大な『ジーク』の装甲が消えたことで私たちの身体は宙へ投げ出され──『アフターバーナー』が、火を吐いた。
「ぐ、うぁっ……!」
このまま場外の壁まで轟君を押し付け、私は場内まで飛んで戻る。そういう算段だったんだけど……轟君は自分の背後に巨大な氷壁を作り出し、場外を免れていた。よくやるよね、あのスピードで壁に背中から叩きつけられたら絶対痛いのに。
しかし、まだこんなに大きな氷を出せるなんて。もう少し消耗させてから使いたい手だったんだけど。
そのまま推進を続けることも考えたが、また装甲ごと凍らされかねない。私は大人しく退き、轟君と距離を取る。
「ジークは攻略された……じゃあ、これかな。
呼び出したのは黄色の鎧。背後から生えているアームの先が巨大な拳状になっており、瓦礫の撤去や近接戦闘に適した形態。なお、拳パーツは兄の命名により『
「えらくシンプルになったな」
「飛んだところで、決定打を与えるには近寄らないと意味がないし。さっきみたいに一度動きを止めないと、轟君に遠距離攻撃は当てられそうにない。カガリは相性が悪いしね」
「そうか」
言い終えて、轟君は地面を蹴った。同時、私の目の前に氷の壁が現れる。地面を伝っての形成だろう、視界を塞がれた───けど轟君にとってもこれは邪魔なはず。横か後ろから来る? ここで炎を使ってくる可能性も……いや、横だろうと後ろだろうと壁があると動きが制限されてしまう。どっちにしろこれは砕くしかない……!
『巌』を振るい氷を砕く───視界の端に、氷を足場に迫る轟君の姿。
「横か……!」
「冷静で助かるぜ、閃機……!」
左のアームを振りかぶるが、瞬時に凍らされてしまう。目の前で起こっている動きを見逃してくれる相手じゃない。おまけに地面から生えた氷に取り込まれたせいで身動きもほぼ取れない……!
「終わりだ、今度こそ!」
ああ、くそ。今度という今度は、彼の言う通りだ。
轟君のストレートが、私の身体に吸い込まれるように放たれた。
『閃機さん行動不能! 轟君二回戦進出!』
わぁっ、という歓声が、やけに遠くに聞こえた。閃機は鍛えているようだったし、パンチ一発で決着が着くとは思っていなかったんだが……冷気で体力が消耗していたか。閃機は立ち上がろうとはするものの、力が入らないようだった。
白い息が、絶え間なく口から出ていく。俺もかなり冷えた……早いとこ暖めねえと。
控室に戻って、毛布を羽織りながら「左」で暖を取る。……炎を見ていると、嫌でも試合前のことが思い出された。
お母さんの力だけで勝ち上がる。俺はそう決めて……実際、ここまで勝ってきた。それで良い。このまま行けば、親父を……。
けど。閃機と戦っている間、何度もそれが揺らいだ時があった。閃機は強かったが、オールマイトや緑谷みたいな圧があったわけじゃねえ。ただひたすらに……閃機は、本気だった。俺はあいつの個性をよく知らねえが……あれ以上の奥の手があるようには見えなかった。あいつの今持ってる全部で、俺と決着を付けようとしていた。その目を見るたび、決心が揺らいだ。
───
思わず炎を消した。親父の声が聞こえた気がして。
……左を使わなくたって、勝ちは勝ちだ。使わなきゃ、無いも同じ。だから、これで良い。これで、良いはずだ。
負けた。医務室のベッドでぼうっとしながら、ただその言葉だけが頭の中を巡っていた。悔しいとも、少し違うと思う。私は全力を出して、私が思いつくかぎりの有効な手を使って、負けた。それは純然たる事実で、そのことに否やは無かった。その事実だけが、私の腹の中で横たわっている感じがした。
怪我はそう酷くなく、すぐに治してもらった。だが治癒の分と試合の分で体力を随分消耗していたらしく、少しベッドで休むことになっていた。
「先生、試合ってここから見れませんか?」
「駄目よ、ゆっくり安静に。身体を横にしてしっかり休まないと」
「はい」
リカバリーガール先生への頼み事はにべもなく断られてしまった。仕方がないのでやっぱりぼうっとしているしかない。そうしていると、『ジーク』使ったこと、おじいちゃんに怒られるんだろうなあ、という考えが出てくる。
おじいちゃんが『ジーク』を使うなと言い含めていたのは、ひとえにその大きさ故だ。『(公共の場で個性は使うべきではないが、とりわけ)ジークは使うな』という意味だと、私は解釈してはいるのだが……大きな怪我をさせる可能性が特に強い装甲なので、雄英だろうがどこだろうが緊急時以外で使うな、という意味だったとしても仕方ないとは思う。
少ししてリカバリーガール先生のお許しを頂き、私は観客席へ戻った。
「お疲れ! デカい鎧すごいなアレ」
「おつかうぇ~い」
一番に声を掛けてきたのは瀬呂君だった。上鳴君は若干個性の副作用が残っている。
「負けちゃった。やっぱり轟君強い」
「そうは言うが、閃機の戦いぶりも目を見張るものがあった。特にあの大きな鎧から赤い鎧……カガリだったか、あれに換装した時などは思わず声を上げたぞ」
障子君が試合を振り返ってそう褒めてくれた。隣の甲田君もうんうんと頷いている。
「ありがとう。今やってる試合は、切島君と……B組の人だ」
「鉄哲っつーらしい。切島と個性丸被り」
「そういや閃機、一つ前の試合見てない? すごかったよアレはアレで」
耳郎さんが半笑いで語るところによれば、自分で開発したアイテムの使用を許されているサポート科の生徒が「公平を期すため」と対戦相手の飯田君にも装備させ……制限時間めいっぱい、飯田君から逃げながら自作アイテムの解説をしていたらしい。それは、確かにいろいろな意味で凄い試合だ。
その後は、私はいち観客として体育祭を見るに終わった。爆豪君と麗日さんの試合など、見応えのある試合は多かったが……一番驚いたのは二回戦、轟君と緑谷君の試合だった。
二人が何事か話した後……轟君が、炎を使ったのだ。しかしその後、決勝が終わっても轟君が炎を使うことはなかった。何故今まで使わなかったのか、何故あの時だけ炎を使ったのか。轟君の内心は、分かるはずもないが……表彰式で暴れていた爆豪君の気持ちは、少しだけ分かる気がした。
さて。体育祭を終え、家に帰る。兄と、多忙なはずの父と母も出迎えてくれて……さらには。
「……!
背筋が伸びる。憧れのプロヒーロー、私の師、私の原点。おじいちゃんが、縁側で胡座を組んで座っていた。
「おじいちゃんも見てくれたよ、楼善の頑張ってるとこ!」
兄がそう言う。緊張と、少しの高揚感。おじいちゃんに、今日のことを見られていた。
「莫迦を言うな
「父さんは素直じゃないんだから……楼善、凄かったよ。自慢の娘だ」
お父さんが私を抱き寄せて頭を撫でる。もうそんな年じゃない、とは言わなかった。
されるがままになっていると、おじいちゃんが口を開いた。
「プロからの指名ドラフトだがな……俺は呼ばんぞ」
「えっじいちゃん何で!?」
「いいよ兄さん、私も行こうとは思ってない。コネみたいに思われても嫌だし……私自身、おじいちゃんと一緒にっていうのにはまだ納得できないところがあるから」
「
だからまあ、とおじいちゃんは言葉を続ける。
「俺と一緒に仕事をしたいなら、来年までに十分力をつけることだ。誰にもコネや贔屓を疑わせんようにな……ふん、生半可なことではないぞ。何せ俺は───」
「『
「……ふ。台詞を取りおって」
数十年の長きに渡りヒーロー活動を続け、今なお日本で十指に入る老練なるヒーロー。ヨロイムシャ、本名を
ヒーローとしては本当に尊敬できる人、なのだが。年に似合わずやたらと自分の人気を誇るところは、大人げないな、とは思っている。
THE・反省
この話書きながら思ったのですが。轟が緑谷に宣戦布告したのってあくまでオールマイトとの関わりを疑ってたこと(に起因する対抗意識)が理由じゃん、と……。
一応屋内戦闘訓練で勝負してるので、「氷だけで一番になるために勝つべき相手」として認識していてもおかしくはないとも言えるのですが、気付いた時すごい冷や汗出ました。控室行くタイミングとかもそうですが、該当する話だけ見て前後の描写の確認をおろそかにしているとこういうことになるようです。学びました。
お察しの通りストックが切れているわけですが投稿時間は
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書き上がったらいつでも
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朝(7時か8時)
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12時
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午後(15時)
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夜(19時か20時)
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24時