閃刀姫のヒーローアカデミア 作:スノアキ
体育祭から2日が経った。登校すると、クラスでは登校中に声をかけられたとかどうとかで盛り上がっていた。私はと言えば、自転車登校なのに加えて雨でレインコートを着ていたためか声をかけられることはなかった。
そんな騒がしい会話も、相澤先生が教室に入ってきたことでピタリと止んだ。
「今日のヒーロー情報学はちょっと特別だ───『コードネーム』、ヒーロー名の考案をやってもらう」
「「「「「胸ふくらむやつ来たあああああ!!!」」」」」
「というのも先日話したドラフト指名に関係することでな、1年の時に来る指名はあくまで将来性に対する“興味”みたいなもんだ。卒業までにその興味が削がれればサヨナラってこともままある」
「頂いた指名がそのまま自分へのハードルになるんですね!」
「そうなるな。で、その指名の集計結果がこう」
示された集計結果は、体育祭の1位と2位である爆豪君・轟君が圧倒的。3位の常闇君にさえ大差をつけていた。私への指名は50件ほど。50人のプロが私に興味を示してくれたと考えればありがたいことではあるが、4桁指名を貰っている二人がいるとつい比べてしまう。第一種目で1位だった緑谷君でさえ指名ゼロなので、やはり世間的には最後のトーナメントの印象が強いのだろう。
「で、これを踏まえ指名の有無関係なく職場体験に行ってもらう。ヒーロー名をつけるのはそのためだ。一応仮のものではあるが───」
「下手なものつけると地獄を見ちゃうよ!」
教室に入ってきたミッドナイト先生が言葉を引き継いだ。
「この時の名が世間に認知され! そのままプロ名になってる人多いからね!」
「まァそういうことだ、そのへんをミッドナイトさんに査定してもらう」
各自にホワイトボードが配られ、自身のヒーロー名を考える時間となった。
どうしようかな、武光おじいちゃんから貰ってヨロイなんとかにする……? いや、それはちょっと気が引けるな。うーん……。名前をひっくり返してゼロ。違うな、別に私っぽくはない。閃刀、エンゲージ、うむむ……。
あれこれ悩んでいる間に、いつの間にか出来た人から発表、ということになってしまっていた。一番手は青山君。
「輝きヒーロー I can not stop twinkling✩」
「「「「「短文!!」」」」」
「Iを取ってCan'tに省略したほうが呼びやすいわ」
そこ?
場の空気が乱れる中、続けて手を挙げたのは芦戸さん。
「リドリーヒーロー エイリアンクイーン!」
「2! 血が強酸性のアレを目指してるの!? やめときな!」
完全に大喜利の空気になってしまった。というか、『エイリアン』って超常黎明期以前の作品じゃなかったっけ? ミッドナイト先生もだけど芦戸さんはよく知ってるな……。ちなみに私は母がレトロ趣味なので、付き合って多少は昔の娯楽が分かる。マニアというほどではないが。
さて、その空気に待ったをかけたのが蛙吹さん。
「梅雨入りヒーロー フロッピー。小学生の時から決めてたの」
「カワイイ! 親しみやすくていいわ!」
おお……オシャレだ。しかも可愛らしい。おまけにまともなネーミングが来たことで空気が戻った。
「じゃあ次俺で! 剛健ヒーロー 烈怒頼雄斗!」
次は切島君。中々ゴツいというか、彼らしいのが来た。聞けば、昔のヒーロー“紅頼雄斗”が彼の憧れなのだという。おじいちゃんなら知ってるかな?
ミッドナイト先生には憧れを背負うことの重さを忠告されたが、切島君は「覚悟の上っス!」と答えていた。時代が遠いのも多少はあるだろうが、そう言い切れるのはかっこいいと思う。
その後も続々と皆がヒーロー名を発表していく。その中で、衝撃を受けたヒーロー名があった。
「
「名前! いいの!?」
ヒーロー名って本名そのままで良いんだ。そんな気づきを、轟君は私に与えてくれた。
私はホワイトボードに書き込み、黒板前に向かった。
「閃空ヒーロー ロゼ」
「こっちも名前! いいのね!?」
「はい」
その後、爆豪君を除きつつがなくヒーロー名の発表が終了。改めて、職場体験の詳細が相澤先生から説明された。
さて、50件と少しの指名。どこを選んだものか……こういう時は初心に帰って考えると良い、と聞いたことがある。
私の目標、というか原点は「おじいちゃんみたいなヒーローになる」ことなのだが……では、「おじいちゃんみたいなヒーロー」とはどんなヒーローだろうか。
おじいちゃんは名の通りの鎧武者の如きコスチュームからは意外なことに、救助においても多くの実績を残している。おじいちゃんの個性“練磨”は、触れた鉄をより重く、剛くする個性。だからおじいちゃんは全身を鎧で覆い、得物に刀を選んだ。しかしさんざん私が叩き込まれた通り、人を相手するにあたって刀の威力は鞘に収めてなお過剰とも言える。おじいちゃんは加減が上手いのでその辺りの心配は要らない訳だが、新人の頃からそうだった訳では無かったそうだ。
同じように、私も救助の訓練を積むべきだ。加減を覚えるのも大切だが、怪我人の救助が出来ないヒーローなど話にならない。
以上のような経緯で、締め切りギリギリまで指名を貰った事務所のことを調べ、職場体験当日。
「よろしくお願いします、クラストさん」
「呼び捨てで良いさ! 今は同じ事務所のヒーローだ」
前期ビルボードチャート7位。シールドヒーロー“クラスト”の下へと、私はやってきていた。
「会って早々ですが、聞いても良いでしょうか。どうして私に指名を?」
「構わないとも! 第一種目で活躍していたこともあるが……一番は、君の個性は幅広いことが出来るが、それが
「分かりにくい?」
「うむ。例えば、同じく第三種目まで進出していた八百万君がいるだろう? 彼女はあからさまに幅広いことが出来る個性だ。それを持ってヒーローを目指したなら、恐らく幼い頃からその使い方についても習熟してきたことだろう。彼女には無限の選択肢があるが、それゆえにその選択肢を適切に選ぶ力も自然と育つ。翻ってロゼ、君の場合……有限の、使い方の分かりやすい選択肢が与えられている。この場合、その持ち主はどうなりやすいと思う?」
「……すでに分かっている使い方に囚われて、応用する力が育たない」
「そういうことだ。ああすまない、別に意地悪を言いたいわけではなく……私もそうだったんだ。私の個性は
クラストさんは手の上に盾を出してみせた。手に対して垂直に現れたそれは、ぱたんと倒れた。物理法則に従うらしい。
「私はこの盾を、誰かを守ったり助けることに秀でた恵まれた個性だと思っていた。いや、実際それも正しくはあるんだが……名前が盾だからといって、守ることだけに使えるわけじゃない」
クラストさんは席を立って、割り箸を持って戻ってきた。
「よく見ていてくれ」
次の瞬間、割り箸の線に沿うように薄い盾が現れ、ぱきりと割り箸が割れた。
「この通り、物体に干渉するように盾を出すことで攻撃手段として活用できる。別に細かい狙いを定めなくとも、掴んで投げればそれだけで立派な武器だ」
クラストさんは語る。これは、確かに……私には足りない部分かもしれない。
「まあ君と私では個性が似ても似つかない、直接参考になる部分は無いかもしれないが……こういう発想による戦い方があるのだと、伝えたくなってね」
「ありがとうございます、とても参考になります……それと、ええと、個性を使ってもいいですか」
「構わないよ」
「では、失礼します。
私は『シズク』に換装し、その術式を起動する。
「ジャミングウェーブ」
私の手のひらの上には、半透明の膜が浮かんでいた。
「なるほど……! 今度は私が、君がウチに来てくれた理由を聞く番だな。察するにこれは……」
「はい。体育祭では使っていませんでしたが、クラストさ……クラストの
「いや、長々と語ったのが恥ずかしいね! 創意工夫に手を出す前に救助の基礎を固めに来たわけだ、穴があったら入りたいよ全く!」
はっはっは、と豪快に笑うクラストさん。本当に恥ずかしいらしく、若干顔が赤い。
「いやしかし、これほど多くの能力を有する個性とは思わなかった。ヨロイムシャも自慢する訳だ」
「え?」
「うん? ヨロイムシャの大めい*1なんだろう? チャート発表で会うたび自慢してくるからね、実は前から君のことは知っていたよ。君のお兄さんのこともね。勿論それで指名したわけじゃあないが」
「……何やってるのおじいちゃん……」
今度は私が顔を赤くする番だった。
そんな一幕を経て、本格的に職場体験が始まる。簡単な事務仕事のやり方を教えてもらった後、ブリーフィングを行い街のパトロールに出向くことに。
「この街のヴィラン犯罪発生件数は、かなり低いそうですね」
「自分で言う事でもないが、チャートトップ10のヒーローの事務所がある街だからね。翻って言えば、ここで何かしでかそうとするヴィランは相応の勝算を持ってるわけだ」
うちのおじいちゃんはめっちゃ自分で言ってますけどね、とは言わなかった。
「ま、基本的には平和なものさ。私たちの行うパトロールは第ニの意義を果たすためのものだ。何か分かるかな?」
「市民に安心感を与えること。困っている市民が居れば助け、信頼関係を築くこと。おじい……ヨロイムシャも言っていました」
「流石によく分かっているね。ヒーローとはヴィランを倒す仕事である以上に、人を助ける仕事だ。オールマイトの華々しい活躍も……おっと」
そこで言葉を切って、クラストさんは走り出した。慌てて追いかけると、向かった先には泣いている男の子がいた。
「坊や、大丈夫かい? どこか痛いのかな?」
クラストさんはしゃがんで目線を合わせ、落ち着いた声で尋ねる。男の子は「くらすと……?」と、驚いた様子で目を見開いた。
「ううん、いたいところないよ。ママとともだちとばらばらになっちゃって」
「迷子か……ロゼ、君に任せよう。個性を使って、彼を家族と友達のところへ送り届けてやるんだ」
「分かりました。きみ、お母さんや友達がどんな見た目か教えてもらえる?」
クラストさんと同じように、しゃがんで目線を合わせる。けど、男の子はびくっと震えて、クラストさんの脚の後ろに隠れてしまった。
「……おねえちゃん、だあれ……?」
『ロゼ、笑顔ですよ笑顔!』
耳につけたインカムから、サイドキックの方の声が聞こえてきた。クラストさんだって中々厳つい顔だと思うのだけど……こればっかりは認知度と実績の差だろう。
私は指で口角を上げて、男の子に笑ってみせた。
「職場た……見習いヒーローのロゼです。クラストとは、ええと、お友達なんです。怖くないですよ」
「くらすとのともだち……! えっとね、ママは、かみがあおくて、きょうはしろいふくきてた! ともだちはあたまにねこのみみがあるよ!」
「ありがとうございます。
私はホーネットビットを5方向に散開させ、この子の母親と友達を探す。友達の方は分かりやすい特徴があって助かった……と、黙っていると不安かな? ホーネットビット5機分のカメラ映像を見ているので、正直これ以上やることを増やすと頭が痛くなりそうなのだけど……まあ、
「今日は……お出かけですか? どこかで遊ぶのですか?」
「きょうはね、かがくかんにいくんだ! まえもいっかいいったけどちょーたのしかったから、きょうはともだちもいっしょ!」
「それは素敵ですね。きっと見つけますので、もうちょっと待ってくださいね」
「そういえば、さっきのちっちゃいきかいっておねえちゃんのこせー? かっこよかった! ねえねえあれなんていうの?」
「ええ、私の個性です。ホーネットビット、と言います。色々なことが出来て、私もお気に入りです。かっこいいと言ってくれてありがとうございます……っ、クラスト、見つけました」
自然に会話を終えられたと思ったのだが、子供はなんでも疑問に思ったことを聞く……さすがにしんどいが、ともあれこの子の母親と友達らしき二人を見つけることが出来た。人を探している素振りもあるので間違いないだろう。不要になった4機のビットに帰還命令を出しながら、クラストさんに報告する。
「よくやった、ロゼ! 場所は?」
「南東方向に300メートルほど先です。ビットを通じて、あちらにも連絡を入れます」
「さすが、良い個性だな。では、一緒に彼を連れて行こうか。君、お姉ちゃんがお母さんと友達を見つけてくれたそうだ! 一緒に行こうか!」
「ほんと!? やった、ありがとうくらすと、ろぜ!」
クラストさんは少年と手を繋いで歩き出した。それを追いかけつつ、ビット間での通信によってお母さんに連絡する。
『そこの方、こちらです。聞こえますか? 私はロゼ、プロヒーロークラストの見習いサイドキックです。お子さんを探しているとお見受けしますが、間違いありませんか? ……はい、息子さんはこちらで保護しています。そちらから北西方向……
程なくして、コンビニの駐車場でお母さんとお友達と合流することが出来た。
「ありがとうございます、ありがとうございます……!」
「お役に立てたのなら幸いです」
何度も頭を下げるお母さんを見送ったところで、クラストさんが声をかけてきた。
「よく頑張っていたと思うぞ。少年が不安がらないよう声をかけたのは特に良い点だ」
「……子どもの相手の仕方はよく分からないので、不安でしたが。良かったです」
「おや、そうは見えなかったが」
「父や母、兄が私にしてくれたのを思い出しながら話していました。家族のおかげですね、私は末っ子なので」
「ほう! 家族から貰ったものを泣いている子供にまた渡す、素晴らしいヒーローの在り方じゃないか! 私は良いと思うぞ! 感動した!」
クラストさんは言葉通り波々と涙を流していた。こういうところが人気の秘訣なのだろうか……私とは真逆だ。
その後も困っている人を助けたり、質の悪いナンパをしていた男性たちをクラストさんが圧だけで撃退したりということがあり……途中で、前触れもなく緑谷君から一斉送信で位置情報だけが送られてきた。恐らくその場所で何かがあったということは分かるのだが……クラストの事務所があるこの街は、その場所……保須市からはかなり遠い。『カガリ』で行けなくもなかったが、さすがに単独行動の許可は出ず。結果、クラストの名前で警察に連絡をするに留まった。その後、保須市でヴィラン“ステイン”が暴れ逮捕されたのは……きっと無関係ではなかったのだろう。
翌日以降も、パトロールの様子に変化はなく。一度、ひったくりの捕り物があったが『ハヤテ』で追いかけて『ウィドウアンカー』であっさりと確保。希望通り救助における意識すべきことなどもいくつか教えてもらい……喜ばしいことに大きな事件は無いまま、私の一週間の職場体験は終了した。
職場体験を終え、久々の雄英。
「「アッハッハッハマジか!! マジか爆豪!!」」
何やら騒がしいと思ったら、爆豪君が見事な8:2分けで登校してきていた。ベストジーニストのところへ行ったらしい。切島君と瀬呂君が大爆笑しているのも頷ける。
「震えてんじゃねえぞヨロイ女気付いてっからなァ!」
バレた。私はあんまり表情に出ないとよく言われていたので、爆豪君はあれで中々周りをよく見ていると思う。
さて、お久しぶりのヒーロー基礎学。今回は演習場で地形踏破力を競うレース形式。緑谷君が以前とは段違いの機動力を見せ話題を攫うも、まだ不慣れなのか落下してしまっていた。私? 飛べるんだから踏破も何もないよ。
で、終わった後の着替えの時間でのこと。
大声で峰田君が何事か喚き散らかしていたのが壁の穴から聞こえてきたので、耳郎さんが穴越しに制裁を加えた……のは良いのだが。耳郎さんが、なんとも説明のつかない複雑な表情で私を見ていた。
……そういうことか?
「教室戻ったら峰田君斬ろうかな」
「ステイよ楼善ちゃん」
マウントレデイの事務所で女の真実を見たとかなんとか言っていたのはなんだったんだろう。何も変わってないな彼。
お察しの通りストックが切れているわけですが投稿時間は
-
書き上がったらいつでも
-
朝(7時か8時)
-
12時
-
午後(15時)
-
夜(19時か20時)
-
24時