ボニャテッリ家とやらに生まれ変わったらしい 作:義眼の人
今話にはLibrary of ruinaのネタバレが含まれます。後ギネスおめでとう。
前話でもそうでしたがこの時点のヨシヒデが親方をお父さんお母さん呼びしてるのは分かるんですが本人いないとこだと困るので独自設定として〇〇お父さんなどと呼んでます。違和感あったらごめんなさい。
前回微妙に間違えてたことが感想で発覚しましたので少し直しました。
あーー……と声を出しながら戻ったばかりの廊下でへたり込む。
煙草の火は消えかけていた。携帯灰皿に押し付けて消火し、スキットルの酒を煽る。
「きつい……」
思わずそんな言葉が漏れる。だが仕方ないだろ、本当にきついのだ。立ち上がる気力もないまま自分のボロボロになった体を見下ろす。いくら予知があるとはいえ、無傷で乗り切ることなんてできそうもない。
なぜ私がこんなにもボロボロになっているのかというと、翼戦争に参戦しているからである。
なまじ前世の知識があるせいで、たかが企業戦争、なんてどこか舐めてた自分を殴りたい。ガチモンの戦争である。
さらに言えば、私は使い勝手がいいのか結構な頻度で駆り出されるのだ。
押されている前線に放り込まれ、そこを押し上げたと思えば今度は奇襲作戦に参加させられ、直後に一級フィクサーと決闘させられたときはきっと目が死んでいただろう。
アンダーボス殿は私のことを便利なサポートキャラだと思ってらっしゃる節がある。いや、この場合はゴッドファーザーさんなのか……?まあ、どっちでもいいが。
蜘蛛の巣って窓際部署と思ってたけどもしかしてそんなことない……?
そう思いながら帽子を深く被り仮眠を取ろうとする。もはや自分の廊下に戻るのも面倒だ。
ついさっきまでG社のやべーやつと戦っていたのだ。少しぐらいなら許されるだろう。
にしても、蠅の王って喋れたんだな。それが一番の驚き。
そんなことを考えていると、小さな足音が聞こえ、帽子を上げる。すると目の前でヨシヒデちゃんが心配そうに立っていた。
「どうしたの?ヨシヒデちゃん」
「お母さん、怪我、大丈夫……?」
「心配してくれてありがとね。大丈夫だよ」
「ほ、ほんとに……?足から血がたくさん出てるけど……」
「ほんとほんと」
ちょっと体溶けたぐらいだよ。
にしても子供の成長は早い。
いつの間にやらヨシヒデちゃんも大きくなった。時折頭を撫でると、もうそんな年じゃない、と言われるようになった。でも顔は嬉しそうにしている。可愛い。
因みにそれで調子に乗って撫で続けると怒られる。可愛い。
ちょうどその時無線で呼び出しが来た。思わずため息をつく。またあ?と言いたくなるのをグッと堪える。大丈夫とカッコつけた手前こんなことを言っては面目が立たない……今更かもしれないが。
動きたくないなー、と思いながら煙草の箱を振って中身を確認する。まだそれなりにあるから補充は良いだろう。
そうして動こうとしたところでやっとヨシヒデちゃんが私に包帯を巻いてくれていることに気付いた。これにも気づかないなんて気が抜けているのかもしれない。
「包帯、ありがとね」
そう笑いかけるとヨシヒデちゃんは申し訳無さげな顔で、
「ごめん、あんまり上手く巻けなかった……」
と言ってきた。
「もー、ほんとこの子は!」
「わっ」
ワシャワシャとヨシヒデちゃんの頭を撫でる。勿論撫でる前に手の血は拭っている。こんないい子を血で汚すなんてそんなそんな……。
「上手い下手は関係ないの。ヨシヒデちゃんが私のために何かしてくれるってだけで嬉しいの!」
首を傾げられる。まだ良く分かんないか、と苦笑しながらまた頭を撫でる。
「ヨシヒデちゃんにもいつか分かるよ」
そう言って立ち上がり、軽く衣服を整え、帽子を被りなおす。そろそろ行かなければ粛清されてしまう。
「じゃ、ちょっと行ってくるね。戻ったら稽古でもしよっか」
そう言って軽く手を振り、扉に向かう。
「あ、その……」
そう声をかけられたので扉に手を掛けたまま後ろに視線を向ける。
ヨシヒデちゃんは少し口ごもってから、
「い、行ってらっしゃい!」
そう言った。ほんとうちの子可愛い。
「行ってきます」
そう笑って返して、私は扉を通った。
戦いの日々に染みる癒しだ。
親方には一人よく分からない人がいる。
ついさっきまで目の前にボロボロで床に座っていた、私に剣を教えてくれる人。
リアンお父さんと違って絵本を読む以外も色々してくれるし、マティアスお父さんと違って私の大事なものも大事にしてくれる。カリストお父さんと違って私に考えを押し付けてくることもないし、ヨルお母さんみたいに私を嫌わない。
他の親方と違って私のことを可愛がってくれる人だ。リアンお父さんは……可愛がってくれるとはちょっと違う気がする。
まあともかく、ヴァレンチーナお母さんは他の蜘蛛の巣の親方とは決定的に違うと思う。
でも、私には分かる。きっと
あの人のことが気になって、他の親方達に聞いてみたことがある。
マティアスお父さんは、あいつは何考えてるか分かんねぇ。娘ちゃんはあんま近寄っちゃ駄目だぞ。と言っていた。
カリストお父さんは、彼女は独特の感性を持っています。芸術作品のアドバイスを彼女に聞くと新しい視点で意見をくれるので、聞いてみるのも良いでしょうね。と言われた。
塩見お母さんは、この奈落で明るく振る舞う気味の悪い女だ、と言っていた。
リアンお父さんは、彼女は変り者だ、とだけ言っていた。
「結局よく分かんない……」
そう呟く。
だがよく分からなくとも私の大好きなお母さんには変わりないのだ。それで良いだろう。
ふと、いっそのこと私をここから連れ出して、助けてくれればいいのに。と、そう思ってしまった。
あんまり我儘言ったらダメだよね、と頭を振り、考えを振り払う。
それでも、頭の片隅でどうして助けてくれないんだろう、と思ってしまう。
それを誤魔化すように、早く戻ってこないかな、と呟きながら椅子に座って待つのだった。
親指を見るといつも思い出すことがある。あのくそったれの煙戦争で戦っていた時の話だ。
最後の一人を切り殺し、死体を見下ろす。ため息が漏れる。何人殺したんだか。そう思いながら振り向くと、目の前に剣を振り上げた男が立っていた。咄嗟に防ごうとするが間に合わない。
まあ、死にはしないだろう。そう思って攻撃を受けようとする。が、直前に銃声が響き男の動きが止まり、そのまま倒れこむ。
「無事か?」
銃声がしたほうから声がかけられる。そちらを見ると、親指特有の真っ赤な服を着て煙草を咥えた金髪の女が歩いてきていた。
親指である、と分かった瞬間に目をそらし、軽く頭を下げる。
女は一瞬立ち止まり、ああ、と言葉をこぼす。 煙草を手で持ち、煙を吐いてから
「別に階級なんか気にしなくていい」
そう笑う。口からは?と出かかったのを必死に抑える。
「それは、どういう意味だ?」
「……?文字通りだが」
なんだこいつ。ひたすらにそう思った。
今更親指は目上の指示の意図を聞くのもタブーだったと思い出したが処罰する気もないようだしもういい。
「どのみちここは戦場だからな。階級なんて気にしてる間に何人か死ぬ」
無言で話を聞く。
「そもそも、誰かに敬われるのって昔から苦手なんだ。嫌われ者の性だ」
そうと笑って俺にまだ戦えるかと問いかけてきた。
聞きたいのはそんなことじゃないんだが。そう言いたくなるが堪えて問題ないと答える。下手に何か言って怒りを買いたくない。
戦場に戻り、敵を殺す。
ふと戦いの合間に視界に入り込んだ彼女の戦いが見えた。俺は目を疑った。
彼女は戦場を駆け回っていた。深く斬りつけられそうになった味方の元へ素早く割り込み、攻撃を反らして素早く反撃する。
「無事か?」
「は、はい!」
「次も助けられるとは限らない、しっかりしろ!」
それだけ言い残してまた駆け出し別の味方を助ける。自分が走っても間に合わない距離なら弾丸で援護する。
それを戦場中を駆け回り、自らも敵を殺しながらしているのだ。嫌でも視界に入る。
「はっ、やらせると思うか?」
「ちっ、あと少しだったのに……」
彼女の銃声と剣を振る音が戦場に響く。負傷した味方の前に立ち、追撃を仕掛けようとした敵兵を攻撃し撤退の援護をする。
「早く下がれ」
「ぐっ、……すまん、助かった……」
囲まれると手近な奴から斬りつけ、さらにその近くにいる敵兵を加速しながら斬る。それを囲みがなくなるまで延々と繰り返す。
「くそっ、アンダーボスでもない親指に……」
「……こいつ、まさか例の13連勝の……」
そうして敵兵すべて倒し囲みを突破する。
「ここは、アタシの狩場だ!逃げられると思うなよ!」
そうして、その戦いには勝った。だが、俺はこう思っていた。あんな戦い方してれば、すぐ死ぬだろう、と。
しかしそこから幾らかの日がたった頃、親指が陣地で走っているのが見えた。そして、
「ヴァレンチーナ様、一人陣地を抜けてきたものが。恐らく決闘の申し込みかと」
そう言っているのが聞こえた。
高名な御方は大変そうだな、そう嘲笑っていると、
「またぁ?」
「おら、行ってこいヴァレンチーナ様」
「だからその呼び方やめてって……いや、もういいや」
そんな会話をしながらこの間の女が歩いていた。
正直に言って驚いた。もう会うことはないだろうと思っていたのだ。
にしても、あいつ相当名の知れた奴だったんだな。周りに興味なくて知らなかった。
「お前、あいつに助けられたクチか?」
そう言って先程あの女と話していた男が話しかけてくる。
「……あいつが勝手に助けにはいってきただけだ」
「は、やっぱりな!」
思わずやっぱり?と聞く。そいつは面白そうな顔で決闘している女、ヴァレンチーナを見ながら言う。
「あいつな、味方なら誰でも助けてるんだよ。目上でも目下でも、他人でも誰でも」
「は……?」
思わず口から漏れる。ここは都市だぞ。そんなことをするやつが生き残れるはずがない。
そのままを口にすると、そいつはやはり面白そうに言う。
「もちろんあいつは助けられる範囲はよく分かってる。まあ、自分が多少怪我する程度でも助けるようだが。そして、その範囲がかなり広い程度には実力があるのさ」
あれ見ろよ、と決闘中のヴァレンチーナを示す。敵の動きを読み、的確に攻撃を逸らす。角度的に逸らせないものは軽々と躱し反撃する。それは、一目見るだけでかなりの強者と分かる戦いぶりだった。
「親指の異端者、だったか?」
そう男が呟く。
「異端者?」
「そう。親指なのに目下のために自分が怪我をしてでも助ける戦場の英雄」
彼女の剣は徐々に加速していく。少しずつ決闘相手の防御が間に合わなくなる。そして、最後には相手の命を奪った。
周囲が沸くのを気にも留めず彼女はこちらへ戻ってきた。早いとこ立ち去ろうと思ったが、流石に親指が近寄ってきたときに露骨に逃げたら面倒事になりかねない、と視線を合わせないようにして残ることにした。
「これで14連勝だった?」
「まあ、そんなもんじゃない?」
と、特に興味もなさげに煙草の火を携帯灰皿に押し付けながら言う。
そこで俺の方を向く。俺の
その後首を横に振り、いや、リアンさんがこんなとこいるわけないよね……?いや、いないとは言い切れないのか……?と小声で言っている。
「前から気聞きたかったんだが、お前何であんな助けて回ってんだ?」
彼女の様子に首を傾げながらも男が問いかけた。
「昔親に言われたことがあってね。善行を心掛けてるんだよ。後単純に寝覚めが悪い」
と言う。男は更に追求しようとしていたが、ヴァレンチーナの無線機が鳴り、溜息をつきながら私はこれで、と言って去っていったので、俺もその隙に男から離れた。
印象が変り者の親指からただの変り者へと変化した彼女とはその後の戦場でも、会うことがなかったし、フィクサーとして活動している間に名前を聴くこともなかった。
そこから更に時間は進み現在、俺はある計画のために入り込んだ場所で親指について話していた。
「階級が違うってだけで目も合わせられないなんだよな。まあ、俺が昔会った親指は変わり者だったけど」
「変わり者?」
首をかしげて聞いてくる。
「ああ、親指なのに目下だろうが助けに入って、階級も気にせず話す奴がいたんだよ」
「……今まで見てきた親指とはずいぶん違うのね」
「そうなんだよ!あんな奴後にも先にも会ったことないんだ!」
思わずそう言う。そいつはそうなのね。と興味深うに言って、その後二言三言会話続けた後、ゲストの対応に向かう。
さっき招待状が見せた親指のゲスト達を思い起こし、あの時の女、ヴァレンチーナがいないことを確認し、安心して息を吐く。
そして、そんな甘えた考えを持った自分に嫌気が差す。
全てを捨ててでも、復讐をする。そう決めただろ。
友情出演:一般9級フィクサー
これをしたいがためにこっそりLibrary of ruinaタグを付けました。未プレイの方は煙戦争に参戦してた前作主人公とだけ言っておきます。
全話の感想で一番好きだったのは偽恥にママみを感じて粛清されそうになってたやつです。凄く笑った。