見知らぬ街、見知らぬ土地で、俺は転生していた……はっきり言って何もかも曖昧で、死んだ時すら覚えていない、何か大きなモノによって俺はここにいる、それだけ知っている。
「ここは……」
次の言葉がでなかった、ともすれば災害が通り過ぎた跡がある、何かしらの兵器を使った戦闘の跡、どちらとも言える傷跡残る街並は非常に不可解で、不穏で、恐ろしい気配を漂わせていた。
「空は……晴れてるんだな」
世紀末のような光景から逸らすように仰ぎ見た空は、青く突き抜けるような空、まるで俺が転生者でもなんでもない一般人に思える。
いや、よそう……。薄々と気がついているんだ俺は、ただ現実からひたすらに目を逸らしておきたかった、転生出来たと浮かれていたかった。
ここはとある地球のZ市、その中にある廃墟の街、人は居らず怪人がいる。
『ワンパンマン』と言う作品の舞台の一つ、恐ろしく強い怪人と呼ばれる化け物たちが跋扈し、それよりも遥かに強力で非常識な一般人……今はヒーローかもしれない人物がいる場所。
「見たくない……見たくない……」
神様仏様……、やっぱり神は来なくていい、そんな奴ボロスだけでいい、いやボロスだって来て欲しくない。
ただ今はこの現実になった常識の通じない世界でただただ平和に暮らしたい、現実さん、どうか俺に優しくしてほしい。
「いるじゃねぇか人間がよぉ……」
あ、あぁ〜〜来てる来てる来てる……背後から重い音を立てて来てる……道路の舗装にヒビを入れながら重く自信に溢れた足音立てて俺の方へ来ている、怖くて振り向けない、首がカチカチに固まって言うことを聞かない、いつの間にか身体が恐怖で固まって……終わりだ。
「怪人の多いこの街で暮らしてる奴に強い奴がいるって話だったが……こいつはハズレだなぁ、まぁいい殺しとくか」
転生初日、しかも転生してまだ十分も経ってない、俺はもう終わりです、次回の転生があることを期待して空へ顔を向けたまま死を受け入れるのみです。
__パァン!
突如として破裂音、すぐに衝撃波が襲ってくるがその前に誰かがそっと俺を守ってくれた、すぐにその正体を確かめようと目を開け顔を見ると……。
「お前……何やってんの?」
「は……ホントにハゲてる」
「んだとゴラァ!」
主人公サイタマ、ワンパンで全てを解決する男がいた。
やはりハゲてる、とても。
◆
「えー、つまり……気を失ってて更に記憶喪失?お前も災難だな……」
「ええ、そうなんですよ……全く困ってしまいました……アハハ……ハハ……」
現在、同所にあるサイタマさんのお宅に上げてもらい保護してもらっている、まぁ本人にその気は無いんだろうが。
改めて俺は転生者、だが俺の素性そのままを話しても自分でも説明がつかない幾つかの事情と、俺が持ついわば原作知識が転生者などと名乗ってはいけないと言っている。
よって俺は心苦しいがサイタマさんには記憶喪失だというフェイクを信じてもらった、実際嘘半分で真実半分なので許して欲しい。
テーブルを挟み向こうにいるサイタマさんは湯飲みの茶をすすりながら俺を見る、俺は正座で少し緊張気味にそれを見つめ返した。
「あ、所で行く当てとか……ある?」
「ないです……ええ、ないですね……」
「………そりゃそうだよな、どーすっかなぁこの部屋に泊めるには男二人は狭いし……」
あ、この感じ厄介払いと言うか無難に追い出されるかも……これはチャンスだ、世界最高の戦力であるサイタマさんの懐に入れば俺の当面の安全が確保される、幸いジェノス……後に現れるだろうハイスペックサイボーグがいない!つまりまだ原作1話が始まっていない!チャンスだ!
「すいませんサイタマさん!どうか俺をここに置いてください!」
「嫌だけど……」
「家事炊事買い出し雑用何でもやります、無給で」
「採用!」
よし!ジェノス!アンタが来たら交代するからそれまでは……ゆっくり来てくれよ……!
「ところでアンタ名前は?」
「あ……それも忘れてて」
「なら……くたびれた帽子かぶってるし、くたびれさん?」
「なんその……なん……それでいいです……」
……いつかヒーローネームがハゲマントになった時、盛大にイジっても怒られんよな。