B級ヒーロー くたびれハットマン   作:テムテムLvMAX

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Ⅲ話 ぶっつけ本番

『改めてご紹介をば、某(それがし)は仙刀斎、よろしくお頼み申す、くたびれ殿』

 

「そんな口調だった?」

 

『あれは余裕のない事態だった為に情けない姿を晒したまで……どうかご内密に……』

 

 

内密も何も俺にしか聞こえない声だからな。

 

俺はこの刀……仙刀斎の話を聞こうと思ってサイタマさんの家を出てZ市の廃墟街をフラフラと歩いている、何日か住めば怪人の集まるサイクルとサイタマさんが駆除していく安全な日とが分かってくる、今日は安全な日だ、道なりに怪人の亡骸が転がっているからな。

 

 

「仙刀斎、お前はどういう存在なんだ?」

 

『正体、ということでいいますと某は怪人を恨むあまり怪人を斬る怪人に成り果てた男……の、思念が宿り生ける刀となった、というのが答えでござる』

 

「……獣のや「そう言うことでござる」俺の髪の毛伸びる?」

 

「伸びないでござる」

 

 

俺のくたびれた帽子が入らなくなってしまうな、あはは。

 

でだが、そんな事あり得るのか?物理法則どうなってるの?って聞かないでくれ、この世界は超能力シスターズいるからほとんど何でもありだよ。

 

ま、そんな事よりも仙刀斎が俺の力になってくれるなら頼もしい、怪人の多い世界だ、力は強ければ強いほど良い。

 

 

「仙刀斎、俺に力を貸してくれるか?」

 

『元よりそのつもり、命の恩人に刀たる某が報いる方法は戦いのみでござる』

 

「俺さ、強くなりたいんだよね、生きるために」

 

『それよいお考え、だがお見受けした所……心技体、いずれも揃っておりませぬ、だが初めは誰でもそんなもの、修行をおつけいたしましょう』

 

「おお、頼もしい……ちなみにどんな?」

 

『某を抜いてくだされ、まずは刀に慣れてもらいまする……鞘はござらぬが』

 

 

人気のない通りで俺は言われた通りに刀を抜いた……鞘はないから形だけだが、仙刀斎はいわゆる物干し竿と呼ばれる長大な刀、刀身が長く刀と槍のような2つの使い方が出来る一方、使い手の技量が試される。

 

長いと言うのはそれだけ重い、俺は片手で抜いたが支えるためにすぐに両手で持った、それでもまだ満足に振れそうにない。

 

 

『筋力はおいおいと付くでしょう、某は技を教えまする、さぁまずは思うまま振ってみなされ』

 

「よぉ……し、おっとと……むうん!」

 

 

重く長いものを振り上げるとき腰に力を入れてグッと持ち上げると良いんだよね、って思ってやると思い切りが良すぎて後ろに倒れそうなほど振り上げてしまって。

 

 

__サクッ

 

 

……なに?刺さった?何に?

 

 

「いたいやん君」

 

『怪人…!?』

 

 

 

怪人だ、すぐに振り向くと魚の顔と甲殻類の手足を持つ白い腹の巨人が、刺さった仙刀斎を抜きながら俺を見ていた。

 

 

「いたいなぁいたいなぁ……、なぁ自分?ワテを通風鍋が大好き過ぎて鍋怪人になった海鮮スペシャリテ様と分かってやってる?」

 

 

そのまま痛風で死んどけよ……なんでこの世の中は過ぎたるは及ばざるが如しって言葉が通じないんだ、割と簡単に怪人になるじゃないか!

いやいやどうするこれもう修行どころじゃない、直ちに命に関わる事件だぞ、サイタマさんは今遠く離れた場所にいる、電話を持ってない俺はすぐに助けを求められない。

 

 

「自分、死ぬしかないやろ、傷の代償はデカいで?」

 

 

俺はくたびれた帽子を目深に被り集中する、逃げるため、生き残るため、目の前の脅威を乗り越えるため考えを巡らせる。

 

とにかく必死だった、死にたくない、その一心で精神が研ぎ澄まされ1秒が何倍にも引き伸ばされていく感覚がする、それでもいい考えは浮かばない、自分の中にある知識や経験が全く役に立たない。

 

 

『……仕方ありませぬ、某とくたびれ殿が生き残る道は一つ……『怪人』となるのです、くたびれ殿』

 

 

仙刀斎の言葉が聞こえる、加速した思考の中でもハッキリと。

 

正直俺もそれしかないと思う、だけどそんな事すればサイタマさんに面と向かって話せなくなる……。

 

 

「……よう見れば刀なんか持ってるからヒーローかと思えば、自分一般人やないか?んじゃあ……いたぶったろかい!!!」

 

 

胴体に激しく突き刺さるカニの爪フルスイング、俺はボールのように弾かれ上空に打ち上がる、回転して千切れそうになる四肢に必死に力を入れるが、たったの一撃で意識は無くなりそうだった。

 

だが不思議と手にした仙刀斎だけは話さず持っていた、まるで俺の体の一部のように。

 

 

『悩む気持ちは分かりまする、ですが、ですが!死んでしまっては!』

 

 

仙刀斎の不安がダイレクトに伝わる、念力での会話らしいが精神が繋がっているためか、言葉以上により強く伝わってくる。

 

 

「怪人ってのは……人間より強いのか」

 

『強い!圧倒的に!だからこそ某は……某は怪人に身をやつしてまで力を手にしたのでござる!』

 

「……俺は、心だと思う」

 

『……何が?』

 

「人が、人でいられる必要なものだよ」

 

『ならば!』

 

「……頼む」

 

『応ッ!』

 

 

力が漲る……だけど、それ以上に溢れるのは……!

 

空中で一回転し頬を染める血を払った、着地と同時に地面を蹴り低い姿勢を保ち怪人へと走り寄る。

 

仙刀斎を片手で振り回す、縦横無尽に斬り刻む、そして通り抜けた背後から回し蹴りを一撃、後から側頭部を蹴り飛ばし崩れたビル壁に叩きつけられた所へ仙刀斎を投げ、貫いた。

 

 

「……これじゃ、殺戮だな」

 

『これが怪人の力……人間では敵わぬ力でござる……しかし妙な……某は完全に怪人するつもりで居たのでござるが、まだ半分が人間でござる、これはどういう』

 

「多分、気合、サイタマさんに顔合わせられなくなると思ったから、半分だけになったんだろう」

 

『………ま、そういう事もござろうな』

 

 

壁に刺さる刀を抜き、刀身の血を払い鞘へと納める……鞘?なんで?鞘なかったよな?

 

 

『某が先ほどの海鮮スペシャリテの血肉を糧とし新たな鞘を作り出したのでござる』

 

「すご……」

 

『それ、某は元は怪人を斬る怪人、刀の鋭さは強き怪人を斬れば斬るほど増しまする、どうか覚えておいてくだされ』

 

 

なるほど、俺も、仙刀斎も、まだ伸び代があるってわけだ、ワクワクするね、いやしないか……取り敢えずこれで俺は力が手に入ったことだし。

 

 

「今日は通風鍋だな」

 

『た、食べるのでござるか……?』

 

「サイタマさんたまに怪人の素材食ってるから、イケると思う」

 

 

多分、多分、恐らく、直ちに問題はない、そう思う。

 

死ななければヨシ、そんな精神論で明日を迎えよう。

 

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