魔力ゼロのTSメイド俺、魔法学校を作法で無双する   作:滝浪酒利

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第6話 闇部活

「殺したい奴がいるの」

 

 朝のカフェで、真っ黒な紅茶を口にしながら少女は言った。

 俺のアパートからほど近い、安価なカフェはお粗末なものだった。

 無人の店内を運営するのは魔法で作られた給仕用ゴーレムで、魔法冷凍料理が雑然と並ぶ朝食バイキングから、客は取った料理を自分の魔法で解凍して食べるのだ。

 俺の目の前には、冷めきったスクランブルエッグとモーニングトースト。

 そして完全無欠の優等生、トニトリア=アルバースがいた。

 

「だから、あなたに手伝ってほしい。ノクト」

「えと、急にそんなこと言われても……」

 

 返答に窮して口ごもる指先が、ついつい長い毛先を弄ってしまう。

 部屋で変身してから、俺はメイドのまま、半ば強引に近所の魔法朝食カフェに連れてこられていた。

 トニトリアは味も香りもしない真っ黒な紅茶を機械的に傾けながら、何を考えているのかイマイチつかめない無表情で問うてきた。

 

「嫌?」

「というか、ええと……誰を、何でそんなことしたいのかぐらい言ってくれないと、何も言えない」

「? 私の事情を知りたいの?」

「うん。というか、それをこそ知らなきゃ、なんにしても協力できないよ」

 

 行きたい場所あるから車出してくれる? のノリで殺したい奴いるから手伝ってと言われて、手伝う方がどうかしてるだろう。

 至極真っ当な俺の指摘に、トニトリアは初めて気づいたように「そうかも……」と呟いた。

 まさか天然とは、冷たい印象の美少女には最適な愛嬌だが、いかんせん今発揮されても文脈が物騒過ぎる。

 

「じゃあ理由から説明する。聞いてくれる?」

「はい」

 

 有無を言わさぬ無表情の圧に、俺は頷くしかなかった。

 

「私は、復讐のためにオクスホードに入学したの。――姉さんの仇を討つために」

 

 淡々と語る彼女曰く、美人で優しい大好きな姉さんだった。

 

「小さいころから魔法の才能があって、それに魔法自体がとても好きな人で、よく私にも教えてくれた」

 

 懐かしむように、トニトリアは瞳を少し細めた。

 

「私の実家はロックペーパー公アルバース家、公爵の家だから、姉さんは他の公爵家との縁談が決まってたし、こんな学校に通う必要もなかった。

 でも、姉さんは言った通り魔法が好きだったから、結婚を卒業まで先送りにして、親に無理を言って、受験入学したの」

 

 そして。

 

「オクスホードに入って一年目の冬に、姉さんは死んだ」

「…………」

「朝起きたら、霜の降りた窓辺に、学校から魔法の便箋が届いてた。ペラペラの紙に姉さんの名前と、他生徒の攻撃により死亡……それだけ書かれていた」

 

 通常、オクスホードに試験で入学する、才能と親の金に恵まれたある子供の死亡率は、おおよそ千分の一以下らしい。

 なぜなら入学前からすでに同じような富裕層が集まる学生コミュニティに所属を内定し、そこで単位を融通し合い、危険な授業も協力し、普段からグループで自衛することで安全に卒業するからだ。

 だから、オクスホードの高い学期中死亡率の内訳はほとんどが平民以下の出身者である。そのため、トニトリアの両親もオクスホードが危険な場所であると認識はしつつも、ほとんど娘の心配はしていなかった。なのに。

 

「姉さんの遺品が次々家に届くと、父さんも母さんも泣き出して、ふさぎがちになった。私も気持ちは分かった。服とか教科書とか家具とかが並んだのを見ると、そこにぽっかり、姉さんの形の穴が空いたみたいだったから」

 

 スクールコミュニティに所属できる上位の学生はほとんど死ぬことがない。しかし万が一死んでも、オクスホードは治外法権。犯人を訴えることもできない。

 そういう意味でこの学校の自由とは、全ての人間に平等に残酷なのだった。

 

「だから、決めたの。私がやると。私もオクスホードに入学して犯人を探して殺すと」

 

 なぜならばと問うまでもない。許せないからだ。

 姉を奪い、父と母の笑顔も奪った者を、このまま見過ごすことはできないのだから。そう語るトニトリアの横髪に、ばちばちと魔力の火花が弾けた。

 

「何をやっても誰を殺してもいい、そんな自由がこの学校の法律なら、責任だけは取らせてやる。この手で、必ず」

 

 そうして、俺はトニトリアの口から経緯を聞き終えた。

 まだ一口も朝食を食べていない胃袋が、どんよりと重たくなっていた。

 

「えと……」

 

 思わず同情や慰めの言葉が喉から出そうになって、慌ててひっこめた。

 失礼だと思ったからだ。世の中には、決して本当の意味では分からないし、安易に分かってはいけないこともある、彼女の復讐の理由はきっとそういうものだ。

 だから、社交辞令のように薄っぺらい道徳のお仕着せは、失礼な気がした。

 

「あの、じゃあ……お姉さんは、この学校の一体誰に殺されたの?」

 

 すると間を置かずに、トニトリアは言った。

 

「演劇部」

 

 一瞬、俺は何を言われたのか分からなかった。

 あまりにも予想外な単語過ぎて、思考が停止する。

 そんな俺を余所に、トニトリアは語った。

 

「オクスホードの部活動について、知ってる?」

「ああ、うん。……色々あるのは知ってるけど」

 

 そう言われてみれば、毎日いたるところでフットボール部とか箒レース部とか魔法植物部とか、いかにも魔法学校らしいクラブの勧誘チラシや看板が飛び交っていた。

 しかし入部しようと思ったことはなかった。こんな殺伐とした学校で青春を過ごせる気がしないし、なにより各部活紹介欄には必ず部員死亡率の記載があるのが怖すぎる。

 

「オクスホードの部活は二種類あるの、一つは、自治警察部が許可した表の部活。

もう一つは、自治警察部の許可を取ってない闇部活」

 

 オクスホードは、学校側が生徒の活動を規制することは一切ない。

 だから生徒同士が自らルールを作って運用することで、なんとか日々の生活が成り立っているのが現状だ。

 生徒たちが「自由」から身を守るためのやむを得ない自治組織、その中でも最も大きなものがオクスホード自治警察部だと、トニトリアは語った。

 有志の生徒が集まり結成した最大規模の警察活動は主に、王国法に照らし合わせた犯罪行為を取り締まりの対象として活動しているそうだが、いかんせん税金で運営される国の治安組織と違いあくまで部活動のため手の回らない現実があり、実際に オクスホードでは低単位取得者居住区を中心に犯罪が横行しているようだ。

 

 そこで話が逸れたと、トニトリアは指先を宙で回して話題を戻した。

 彼女が言いたのは、つまり部活動を設立する際に、学校への届け出は必要ないが、自治警察部への届け出が必要とされるということで。これにより、警察に認可された部活と、そうでない部活の二種類に分かれるということだった。

 

「警察に届け出をしない部活は、違法集団に認定されて潰されるから……でも、最初から大量殺人や麻薬密売のような犯罪行為を目的にする部活は、端からその許可が取れない。

 だからいっそ開き直って無許可の部活動として、自治警察部と真っ向から敵対しながら活動する、それが闇部活」

「……」

 

 なんで学校の部活動がポリス&ギャングの世界観やってるんだ。俺は閉口した。

 トニトリアは指を折りながら、有名らしき闇の部活を列挙した。

 ハッピーキモチイイ麻薬園芸部、シーザーファイトクラ部、ネクロマンス死体家具職人部、リリス売春パパ活クラ部、マスターオーダー共産主義修道会……。

 そして。

 

「シェイクスピア殺人演劇部――それが姉さんを殺した、闇部活の名前」

 

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