「はぁ? 何無視してんのよ!」
「お高くとまって、このブス!」
雑音が響く。
掴みかかった手を払いのけて、部活を終えた。
ロッカーのカギと追加した南京錠のカギを開けて、着替える。
後ろの気配に、横に避け、舌打ちと共に、バケツを放り投げて逃げる先輩たち。
はぁ……つまらない。
毎日の朝練、タイムはぐんぐんと伸びていく。
けど、このままはさすがによくないと、思ってしまう。
先輩の行為はドンドンエスカレートしていき、いつかするだろう実害を与える行為にまで発展している。
更衣室であるがゆえ、カメラを設置なんてできないし、そこで攻撃行動をとられると、私はどうすればいいのだろうか?
返り討ち? 間違いなく面倒なことになるのは分かる。
……はぁ。
今はいい。今は。
でも、いつか、どこか。
そう、いつかどうにかしなくちゃいけない……。
でも、今はただただ、面倒くさい。
気づくと、教室に向かう足を速めていた。
「あ、お、おはよう藍原さん」
「はい、おはようございます。川口くん」
務めた笑顔で言葉を返して、スタスタと歩いていく。
なんで、挨拶でどもるのか理解しがたい。
でも、あれ?
ふっと振り返って……彼の姿はなかった。
あれ、あの人誰だっけ?
さっき、名前を呼んだのに??
……。
まあいいか。疲れてるのかもしれない。
――早く、教室に向かいたい。
「おはよう、ユカリーン!」
「あ、はい、おはようございます! 春香さん」
後ろから飛び込むような姿に、未だ違和感を覚える。
キャラチェンにしても大胆すぎる、相沢春香さん。私の隣の席の人だ。
清楚で、お淑やかな、お嬢様はどうやらガワで、私と同じらしい。
「むーーユカリンもはっちゃけようよー」
「えっと、はい、その――」
「あーー! ゴリラ女がいるぞ!」
「バカ、クラスメイトに何を……」
「あ、こっち見たよ、見てよあのおぞましい顔」
……幼馴染たちの声が響く、なんというかとんでもないタイミングで、首だけぐるんと回ったように見えましたよ相沢さんの。
「へぇ? 誰が、ゴリラ、女、かな!!」
「すみません、すみません、二度といいましぇん!!」
「ぷぷ、いいましぇーん」
「ぶっ殺すぞ、てめぇ!」
幼馴染三人は正座させられ、顔に赤い紅葉が咲き乱れる。
「なんで、俺まで……」
「ふふ、止めなかったので、同罪ですって」
「理不尽だぁ……」
金川くんに事実を話すとしおしおと崩れる。
こうなった日常を、今は待ち望み始めている。
友達になった相沢さん。
性別のせいか、いつの間にか遠縁になっていた幼馴染たち。
今はその一時が、すごく暖かく感じた。