インターハイの一か月前。
みんな、自分を魅せるため、または能力を監督である先生にアピールしている。
私はどうだろう?
正直なところ、親に言われて乗せられて、流されるままにやり続ける部活動。
走るのは好き。
でも、走らされるのは、なんとなく、苦手。
「後、10本! 気合入れていけ!」
「「「はい!」」」
先輩たちは最後の夏になる。
一ヶ月前で、私への嫌がらせも苛烈になる。
でも、それは、あの必死に私に食らいつこうと走る人たちじゃない。
後ろで、舌打ちをしている人たちだった。
後、3本。
息が乱れてきてる。
だけど、手を伸ばされても、その手を掴んではあげられない。
それを手にしてしまったら、
私は、私ではなくなる気がした。
「ユーカリン! 一緒にパフェ行こうぜー」
部活動が終わり、家路に付こうと思った矢先だった。
唐突に袖をつかまれ引っ張られた。
声からして、春香?
「う、うん。わかったから、引っ張らないで」
舌打ちが薄く聞こえる。どんどん遠ざかっていく。
やっぱり、この時間が一番安らいだ。
「はい、スーパージャンボパフェ! お待ちどーさまでーっす」
「おーあざっすー!
ユカリンたべよー!」
「あ、うん。いただきまーす」
大きいパフェだった。
カロリー、いくつだろう?
正直なところ、これを別腹に入れたところで、どれだけの運動をすれば消費できるのかわからない。
でも、おいしそうに食べている春香を見ると、ふっと笑みを浮かべてしまう。
(うえーユカリーン。ダイエット手伝ってーー)
なんとなく、失礼な光景が浮かんでしまう。
「ふふ、ユカリン。たのしー?」
「え、うん。楽しいし、おいしい。
正直、ここまで大きいとは思わなかったけど」
解けかけのアイス。添えられたポッキーもおいしく、なんというか冷たいはずなのに、お腹の中が暖かくなる。
だけど、そんな時間はすぐ変わってしまう。
私の、せいで。
「お、かわいい子はっけーん」
「お、いいねえー。相席、いっすかーー??」
半笑で近づいてくる、いかにもチャラい人たち。
ピアスをして、髪を染め、ガムを膨らませる姿をみて、体がびくんっと跳ねた。
「だ、ダメー! と、友達を待ってる、からさー」
「えーいいじゃん、紹介してよ友達」
春香が意を決して言っても、ぐいぐいと詰め寄る二人組。
私に、手が、伸びた。
「あーさーっせん。ここ俺たちの席なんっすけど~」
とぼけた、聞きなれた声。
声がしたほうへと振り向くと、気だるげな様子で座間くんが近づいてくる。
「すみませんね。この二人は僕たちの連れでさ。
席取りありがとう、ってあーダメじゃんか。
先食べてるなんてさー。
おねえーさん。このパフェ三つ追加でお願いしますー」
ずかずかと軽い足取りで、席の伝票を取り、ウエイトレスのお姉さんに渡して追加注文する新田くん。
「はー? んなわけ……」
「まぁまぁ、気持ちはわかりますが、俺たちのこと待ち切れなかったみたいでー」
するすると男たちと私の間に入り込み、金川くんは外へと彼らを連れ出した。
「は? え? っと??」
「まっ、口合わせてよ。
パフェぐらいは食わせてくださいなっと」
座間くんが春香の隣に座り、テーブルの奥からフォークを三つ取り出す。
いつのまにか、新田くんは笑顔で座間くんの隣に座る。
「はは、まあちょっとだけ。
ここのパフェおいしいって有名なのにいっぱいでね。
しかも女性ばっかりで、入りにくかったんだけど、二人がいたからついね」
新田くんが笑いながら、座間くんからフォークを受け取りながら、フォークをくるくると回し始める。
「えっと、あのー」
「わりぃ、詰めてくれるか?」
「あ、はい、どうぞ金川くん」
フォークを受け取りながら、私の隣に座り、所帯なさげに、彼はメニュー表に目を落とした。
「パフェくったら出てくから、その後はお二人でどうぞ」
「うまそうだなパフェ」
「しかも、それスーパージャンボパフェじゃないか。僕もこれにしとけばよかったよ」
少し騒がしかったが、いつもの三人とは違って、なんというか、らしくない。
数分たって、三人はパフェを食べきって、出ていく。
伝票をさらりと取り、清算していった。
「え、なによ、あいつら。なんで? ここに」
「あはは、後でお礼言わないと。助けてくれたみたいだし」
「そ、そうね。うん。学校でお礼言わないと……」
確実に、彼らは助けてくれた。
幼馴染だから?
それとも、春香を助けにきたのかな?
……実は照れ隠しとかじゃなく、本当にパフェを食べに来ただけ??
とにかく、これで今日も普通に終われてよかった。
後日、二人で三人組にお礼を言おうと近づいた。
「あーうん、気にしないで、パフェ食べたかっただけだし」
「そうだぜ、新田のやつが食べたくてたまらないーーってなったのに雰囲気で入れなかっただけだからさ」
それだけじゃない。
男たち二人についても、しっかりお礼をしないと。
「まあ、言いたいことはわかるが、
俺たちが言うのは、これだけだ。
友達だろ? 助けるくらいする」
ははは、と笑う三人組。
「うん、でもありがとう」
「はは、どーいたしまして」
微笑む三人組を見ていると、顔がほころんだ。