空気が重い。
ピリピリとした張りつめた空気。
そして、もうインターハイは直前。一ヶ月を切った。
最後の追い込み。
自然と、出場選手である先輩たちは、気合が入ってるように思える。
「ラスト! 気合入れてけ!!」
先生の怒号に、応え、先輩たちは加速する。
仕方なく、私も加速していくが、私に近づいていた先輩たちはドンドン離れていく。
「う、わぁああああ!!」
叫び声のような雄たけびに、呼応するように足音が響く。
好きで走ってるわけじゃない。
タイムが縮むのは楽しいけど、どこかツマラナイ。
そんな毎日を過ごし、漠然とした朝練が終わり。
ロッカーそのものがなくなっていた。
「は?」
声が出た。
南京錠を何度も殴った跡や、傷だらけのロッカーは理解できたが、
ロッカーそのものを奪うとは思ってはいなかった。
「もう、隠してあげられないか。
いやだなーもう」
明確に沸いたのは、邪魔という感情だった。
毎日、毎日。
何もしないから、調子づいて。
練習もせず、足を引っ張り続けるだけ、引っ張って。
ほんっと、邪魔。
「ロッカー、返してください」
外に出て、体操服のままの私をあざけり笑う先輩たちの姿に、
言いたくない、言葉が漏れた。
「じゃあ、先輩たちの名前出すわ。
それで、もうこんな部活止めるから。覚悟しといて」
血の気の引く音と、生意気だーって言葉の雑音が聞こえるけど、もうどうでもよかった。
あいつらなんて、もうどうでもいい。
はやく、教室に戻りたかった。
はやく、春香に、あの三人組に会いたかった。
「ユーカ……どうしたの?
なにか、あったの?? 怖い顔してるよ?」
すぐ、春香は私の状態に気づいてくれた。
笑顔がすぐ曇って、心配した表情になってしまって、少し、申し訳ないけど。
「ううん、なんでもないの。
ごめんね、インターハイ。出ないことにした」
「「「「「ええええ!!?」」」」」
教室で叫び声が轟いた。
というか、私たちの会話みんな聞いてたんだ。
意外だ。
「はぁ? なんで、どうして?? はぁ??」
「藍原さん、どうして? 頑張ってたのに!?」
心配するように近づいてくる友人たちのようなモノ。
クラスメートたちは、雑音をわんわん言うが、聞きたい人の声は、沈黙を保ったままだ。
春香は、難しそうな表情のまま、周りに声をだした。
「私たちの会話だから! 邪魔しないで!
でも、みんな言うことは最もだよ。
どうして? 毎日朝練、頑張って来てたじゃん!」
その言葉と同時に、結局春香もみんなと一緒だと思えてきた。
なんだろう、裏切られた。そんな感覚。
「なんかね。疲れちゃったの。
理由は、ごめん。まだ言えないかな」
「そう、なの?
でも、毎日辛そうにしてたのは知ってた。
でも、あんなに頑張って、走ってたのに。ホントにいいの?」
すごく泣きそうな顔で、春香は言う。
でも、春香の中の私は、そんな特別な人だったとわかって、少し困ってしまう。
「はっ? らしくねえなー藍原」
言葉にしたと同時に、座間くんが困った顔で近づいてくる。
なんだろう?
何の雑音を叫ぶのだろう??
結局、彼らも他の人と一緒なのだろうか??
「そうだね。座間の言う通りさ。
何もせず、泣き寝入りなんてらしくない。
僕たちなら、いつでも準備できてるのに」
「ああ、俺たちにしたように、相沢さんと共に向かえばいいだろうに」
意味が、わからない。
なんで? 泣き寝入り??
「着替え、捨てられたんだろう?
なら、保健室に向かって事情を説明するだけでもいい。
制服は貸してくれるだろうし、言いにくいなら俺たちの性にすればいい」
は? あ、そうか。今、私体操服……。
しかも、カバンも何も持ってない。
「そんなの、友達に、そんなことできるわけ……」
「なら、そんなこと言わなくていいし、
復讐したいわけでもないんでしょ?」
新田くんがふふふっと笑いながら言う。
目が、全く笑っていなかった。
「それは……」
「女性は陰険とはいうが、ここまでとは思ってなかった。
手伝おう。友達だろう?」
手を差し出す金川くん。なんだろう。
どうして、こんなにも胸の奥が暖かいのだろう?
「ダメ、お前らだけは絶対ダメ。
いい? こいつらに手伝ってもらうだけじゃダメ。
わたしも行くからね。
後で、洗いざらい、吐いてもらうからね」
むっとした表情で、春香が近づいてくる。
握りしめていたのか、何かが砕け散る音と共に、私と三人組の血の気が引く音がした。
結局。
お咎めはなかったし、インターハイには出場した。
先輩たちは、反省はしてるけど、多分またやらかすような気がする。
でも、もうどうでもいいかな。
先生たちの説得と、春香たちが走る姿を見たいと言ってくれたから。
私は、自分のために走れる。
そして……。
並みいる強豪をぶっちぎり、中学生女性の学生記録を叩き出して私は優勝した。
「ユカリーーン! おめでとーー!!」
「「「ゆっかりーんwww」」」
でも、この人たちがいるなら、私はもう大丈夫。
そう、思えた。
……それはそうと、半笑のバカ三人は、春香と一緒にしばくと決めた。
みんなのところに戻ると、三人の頭には大きいたんこぶがあって、笑ってしまった。
まったく、この人たちは……。
「ありがとう」
――本編終了です。
次の話からは後日談とか差し話とかになります。
ここまで読んでいただいた方、ありがとうございます。