僕にとって、日常はつまらないモノだった。
だいたいのことは、やればできてしまうからだ。
学校にいって、友人と話して、部活動をして。
小学生の時点で、大分、面倒と思う気持ちが強くなってきた。
「新田くーーん」
運動も十二分にできた。
小学生高学年になって、女子たちから黄色い声をいくらでも浴びた。
だけど、そんな日常は、あまりにもつまらなかった。
「きゃー素敵ーー!!」
よくもまあ、こんな声が出せるよ。
出されたパスをダイレクトに決めた自分に酔いたいのに、
この声で、現実に戻ってきてしまう。
「おーい新田ー。サッカー終わったら、かえってスマブラしよーぜー」
座間。
僕の唯一のノイズ。
金川と一緒で僕の友達で幼馴染だけど、彼だけは何を考えているのか、分からなかった。
明確な悪意があるわけでもない。
だけど、彼には何もない。
金川みたいに機械が得意なわけでも、運動が得意というわけでもない。
もう一人の幼馴染みたいに、足が速いわけでも、紅一点とかそういうのでもない。
だけど、目が離せない。
離したら、どこかに飛んで行ってしまいそうな、そんな危うさを感じた。
「えー、座間が僕相手に務まるのかい?」
「言ったな。絶対倒してやるからなぁ!!」
でも、僕はこいつと一緒にいるのが、一番楽しいと思えた。
中学生になった。
入学式になって、区画が分かれた幼馴染二人と合流できる。
座間とバカなことするのも楽しいが、
運動能力が唯一追いついてくれる金川との日常は楽しいかもしれない。
もう一人の……藍原はどうだろう?
正直、女性は苦手。
黄色い声は耳に痛いし、どこか飾っていて、見下してくる。
記憶の彼女は、そういう奴ではないけど……人は変わると十分理解できてしまったから。
「新田!? にバカ」
「やっほー金川。同じクラスだねえ」
「来たな。幼馴染三人組、集結だ!
っておい、誰がバカじゃ!?」
驚いた表情に、昔の面影……ずいぶんデカくなったなー金川。
なんとなく、脛蹴っとくか。
「いった!? 何をする!!?」
金川の反応は、すごく楽しくなった。
数日たって、クラスになじむと、理解できてくるものがある。
「ひゃっはー!!
次はこのバケツの水を仕込もうと思うんだ!」
「……やめといたほうがよくない?
雑巾にしときなよ。
その方が掃除が楽だよ?」
「そもそも、するなと言っている!」
でも止めないんだね。この前の黒板消しのときもそうだけど。
金川も変わったなー。
だけど、この時間。嫌いじゃない。
むしろ、初日とかと違って、女どもが群がらなくなった。
彼らとの一時が、一番ほっとする。
「え、あ、やべ!!」
座間が仕込む途中でドアが開けられ、このクラスの清楚枠と呼ばれた、相沢さんに水をかけてしまった。
……ハンカチはあるけど、これを渡していいのか?
また、うるさく言われるんじゃないか??
今が、壊れてほしく、ない。
「うわ。座間、ひどすぎじゃない??
あー、大丈夫相沢さん……」
気づいた時には、言い訳を並べながら、逃げ始めていた。
むしろ、逃げたほうが女子はこわい。
「おいこら、逃げんな!! ゴラァ!!!」
こわっ!??
わたくしとか言ってた姿は形をひそめ、鬼の形相でこちらに走ってくる。
悪鬼羅刹が宿ったと、今なら強く実感できるほどに。
――彼女を陰口で、『破壊神』と、いつしか僕たちの間で呼ぶようになった。
「ひょえぇーー!! 相沢がキレた!!」
「だから、僕はやめようと言ったじゃないかー!!」
「なんで、俺まで!!」
僕たちは逃げた。
彼女を直視もできなかった。
なにより、水でぬれて下着が見えて、どうしてもそこに目が行ってしまう。
事故で、そこまでしたら、言い訳なんてできない。
『責任取って』
小学生の時の、女子の意味わからない言葉がよみがえる。
理解しがたい、形状しがたいナニカ。
そう、思うと足はそのまま逃げ続けていた。
毎日、なんとなしに部活動に向かう藍原を見ると、
僕はこのままでいいのかーと自問するときがある。
サッカーもプログラミングも好きで、だけどみんなとのバカな日常も好きだった。
どっちつかずで、なんとなく過ごしている僕には、なんというか、理解できない。
熱を持つこと。
それが僕に必要だと思えるけど、彼らと一緒の間以外に、熱を持つことがなかった。
「器用だな。これでゲームができるのか?」
「……できないけど、僕、別にゲーマーってわけじゃないよ?」
「えっ!?」
「僕だって殴ることぐらいできるよ?」
「暴力反対!」
まったく。金川ほどじゃないけど、僕はある程度運動はできるほうなんだよ?
まあ、あそこの3年連続インターハイ出場決定した人と比べたりはできないけどさ。
エースとは呼ばれても、県大会準々決勝敗退が最終成績の僕じゃ比べるのもおこがましく思えるし。
「しかし、残念だったなー新田」
「んー?? 何がー?」
「最後の大会だ。惜しかったな」
思い出していたのが察されたのかな。それとも顔に出てた?
つい、笑みがこぼれた。
やっぱ、こいつらバカでも、よく見てる。
「まあ、個人競技じゃないからね。
足をひっぱられたら、こんなもんだよ」
「……高校に入ったら、俺もサッカーをやろうか?」
「やめてよね。今更ド素人が入っても変わらない。
なにより、金川にはバスケがあるでしょ?」
そりゃあ、金川が入ったら勝てるだろうけど、それはそれ。
金川は最後は全国大会に出場したバスケ選手。
サッカーでも通用するかもしれないけど、それはそれだ。
「ふふふ、仕方がない。このわたくしめが人肌脱ぎましょうか!」
「あ、座間は結構です。マジで邪魔」
「おい!!」
その言葉に笑う。
悔しいと思えたのは、最後の大会だけだ。
練習をもっとやってたら違った?
いや、それでも代り映えはしないなー。
毎日、汗だくになって走りこんで、笑顔を見せてる藍原のような奴が、
浮かばれるほうが理解できる。
僕のような、半端モノは……半端でいいだろう?
ああ、次はなにしようかなー。
高校は結局みんな同じ場所みたいだし、
「あんたら! 今度こそマジにやりなさいよね!
ユカリンだって、頑張ってるんだから!!」
今度は……真面目にやってみるか。
なんとなく浮かんだ、相沢は破壊神ではなかった。
これにて、走る少女。閉幕――。
続きは、『勝つ義務』にて。
1000文字制限で、色々と加筆調整が入っております。はい。
気になる方は、カクヨム版をご確認ください。
敬具。