アッシュは裏解決屋の事はほぼ知りません
ヴァン・アークライドから見たアッシュ・クロードの第一印象は。
「なんか危なっかしい兄ちゃん」。
それだった。
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最初に会った時。
アッシュはまだ、
《モンマルト》へ来始めたばかりだった。
疲れた顔。
愛想笑い。
染み付いた謝罪癖。
誰かが大きい声を出すと、
肩が揺れる。
ヴァンはそういう人間を見慣れていた。
“追い詰められて壊れかけてる奴”。
そういう匂いがした。
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だから。
最初は少し気にしていた。
仕事で店へ寄った時。
アッシュが皿を運びながら、
客へ何度も頭を下げている。
「すみません!」
「お待たせしました!」
必要以上に下手だ。
ヴァンはコーヒーを飲みながら、
小さく呟く。
「……生きづらそうだな」
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だが。
何度か店へ通う内に、
少し印象が変わる。
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ある日。
アッシュはビクトルに怒鳴られていた。
「だからタイミング見ろっつってんだろ!!」
「すみません!!」
しょんぼりしている。
普通なら。
そのうち消える。
ヴァンはそう思っていた。
だが。
次来た時もいる。
また怒鳴られてる。
さらに次もいる。
しかも。
少しずつ成長している。
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「……へぇ」
ヴァンは少し感心した。
根性だけはある。
いや。
違う。
多分。
ここへ居たいのだ。
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ヴァンは人を見る。
仕事柄、
他人の嘘や本音へ敏感だった。
だから分かった。
アッシュは、
ポーレットへ好意がある。
分かりやすいくらい。
視線でバレている。
隠せていない。
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だが。
途中から変わっていく。
店の空気を見て動く。
客を見ている。
ユメへ自然に接している。
料理へ熱が入っている。
“女目当て”だけじゃなくなっていた。
そこはヴァンも好感を持っていた。
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ある時。
ヴァンは営業後に店へ寄った。
すると。
厨房でアッシュが真剣な顔をしている。
料理の試作だった。
ビクトルはいない。
なのに手を抜かない。
何度も味を見る。
失敗する。
作り直す。
その姿を見て、
ヴァンは少し笑った。
「お前、ほんと真面目だな」
アッシュが飛び上がる。
「ヴァ、ヴァンさん!?」
「いや潜入捜査じゃねぇんだからその反応やめろ」
「だって気づかなくて……!」
ヴァンは試作を一口食べる。
少し考えて。
「……悪くねぇ」
アッシュの顔が明るくなる。
その反応が、
妙に犬っぽかった。
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ヴァンは思う。
この男。
かなり自己評価が低い。
多分。
昔かなり潰されたタイプだ。
だから。
褒められる事に慣れてない。
認められる事にも慣れてない。
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でも。
だからこそ。
今の《モンマルト》が、
アッシュにとってどれだけ大事かも分かる。
居場所なのだ。
ようやく見つけた。
自分が“いていい”と思える場所。
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だからヴァンは、
あまり茶化さなかった。
珍しく。
本当に珍しく。
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ただ。
時々ニヤニヤしながら言う。
「で、いつ告るんだ?」
「ぶっ!!?」
アッシュが盛大にむせる。
「な、なな何の話ですか!?」
「分かりやす過ぎんだろ」
「ち、違っ……いや違わないですけど……!」
耳まで真っ赤。
ヴァンは笑う。
「まぁ焦んな」
「お前、不器用だけど誠実だしな」
「……え」
「ちゃんと見てる奴は見てるだろ」
その言葉に。
アッシュは少しだけ黙る。
ヴァンは気づいていた。
アッシュは、
まだ自分を信じ切れていない。
だから。
ほんの少しだけ。
背中を押してやりたかった。
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ヴァン自身。
綺麗な人間ではない。
だからこそ分かる。
この男は。
多分、
誰かのためなら命を投げ出せるタイプだ。
しかも。
躊躇なく。