『君が遺した食卓』   作:狂った自販機

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ユメとアッシュ2

今の

ユメにとって、

アッシュは“変な人”だった。

 

頼りない。

 

すぐ怒られる。

 

ちょっと鈍臭い。

 

でも。

 

毎日いる。

 

雨の日も。

 

忙しい日も。

 

怒鳴られた次の日も。

 

辞めない。

 

 

「アッシュ、おさらにくっついてる」

 

「えっ、うわ本当だ!?」

 

「またじぃじにおこられる」

 

「やめて怖い事言わないで」

 

そんな会話が、

少しずつ増えていった。

 

 

最初は。

 

ユメも自分から近づく気はなかった。

 

でも。

 

気づくと、

アッシュの近くへ行ってしまう。

 

理由はよく分からない。

 

なんか。

 

放っておけなかった。

 

 

ある日。

 

営業前。

 

アッシュは厨房で、

真剣な顔で野菜を切っていた。

 

「……」

 

ユメは後ろからじっと見る。

 

ぎこちない。

 

遅い。

 

危なっかしい。

 

でも。

 

前よりちょっと上手い。

 

無意識にアッシュに気づく。

 

「うわっ!?」

 

「あ、ごめん…びっくりした?」

 

「ユメちゃん心臓に悪い!」

 

ユメは少し笑った。

 

アッシュが固まる。

 

「……今笑った?」

 

「わらってない」

 

「いや笑った!」

 

「わらってない」

 

ちょっと嬉しそうだった。

 

 

ある日

 

アッシュは盛大に指を切った。

 

「いっっっ!?」

 

「アッシュ!?」

 

ユメが飛び跳ねる。

 

おじいちゃんが怒鳴る。

 

「何やってんだ馬鹿!!」

 

「す、すみません!!」

 

指から血。

 

アッシュは慌てて止血する。

 

ユメは不安そうに見ていた。

 

 

閉店後。

 

ユメはこっそり厨房へ行く。

 

アッシュは一人で洗い物をしていた。

 

 

「……いたい?」

 

アッシュが振り返る。

 

「あー、ちょっとね」

 

笑っている。

 

でも。

 

少し痛そう。

 

ユメは少し迷ってから、

ポケットをごそごそした。

 

小さな絆創膏。

 

うさぎ柄。

 

「これ」

 

「え?」

 

「ママがくれた」

 

アッシュが目を丸くする。

 

「……俺に?」

 

ユメは小さく頷く。

 

アッシュはしばらく固まった後、

ふっと笑った。

 

「……ありがと」

 

なんだか。

 

すごく嬉しそうだった。

 

 

 

ユメは少しずつ、

アッシュへ話しかけるようになった。

 

「アッシュまたまちがえてる」

 

「えっどこ!?」

 

「しお」

 

「あっぶな……ありがとう……」

 

「どじ」

 

「否定できない」

 

 

営業中。

 

ユメは店の隅で絵本を読んでいた。

 

だが。

 

客が増えてくると、

少し寂しくなる。

 

ママは忙しい。

 

おじいちゃんも怖い顔してる。

 

そんな時。

 

アッシュがこっそり来る。

 

「ほら」

 

「?」

 

小皿。

 

少しだけ切った果物。

 

「内緒な」

 

ユメは目を丸くした。

 

「……いいの?」

 

「ビクトルさんにはバレないように」

 

「ばれたら?」

 

「死ぬ」

 

真顔だった。

 

ユメは吹き出した。

 

 

またある日。

 

ユメが眠そうにしていると。

 

アッシュが気づく。

 

「眠い?」

 

「……ねむくない」

 

完全に眠そうだった。

 

アッシュは苦笑する。

 

「ほら」

 

しゃがむ。

 

「背中乗る?」

 

ユメは少し迷う。

 

でも。

 

そっと背中へ乗った。

 

温かかった。

 

広かった。

 

ゆっくり歩くアッシュの背中は、

不思議と安心した。

 

 

「軽いな〜」

 

「ユメちいさくないもん」

 

「女の子は軽いって言われると嬉しいいもんだよ」

 

「ほんと?」

 

「ほんと」

 

即答だった。

 

そんな何気ない会話が

なんだか嬉しかった。

 

 

その頃には。

 

ユメの中で、

アッシュはもう“怖い人”ではなくなっていた。

 

ただ。

 

まだ少しだけ。

 

不安はあった。

 

いつかいなくなるんじゃないか。

 

ママを泣かせるんじゃないか。

 

そう思っていた。

 

 

だから。

 

ある雨の日。

 

ユメは聞いた。

 

閉店後。

 

二人で店番していた時だった。

 

「……アッシュ」

 

「ん?」

 

「どっかいく?」

 

アッシュがきょとんとする。

 

「え?」

 

「いなくなる?」

 

小さな声だった。

 

不安そうだった。

 

アッシュは少し黙る。

 

そして。

 

ユメの目線までしゃがんだ。

 

「行かないよ」

 

「……ほんと?」

 

「うん」

 

アッシュは笑う。

 

少し照れ臭そうに。

 

でも。

 

真剣に。

 

「俺、ここ好きだから」

 

「ユメちゃんも」

 

ユメは目を丸くした。

 

胸が少し熱くなる。

 

なんだか恥ずかしくて。

 

でも。

 

嫌じゃなかった。

 

 

「……じゃあ」

 

ユメは小さく、

アッシュの服を掴む。

 

「アッシュも、かぞく?」

 

その瞬間。

 

アッシュの呼吸が止まった。

 

厨房奥で。

 

皿を洗っていたビクトルの手も、

ほんの少しだけ止まっていた。

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