高校3年生の最後の大会。
奇しくも、夏冬の全国をかけた両大会で因縁状態になった松田の高校との試合。
お互いシードで決勝で戦い。
ずっと僕の学校が勝利してきた。
僕にボールが来る。
それと同時に、松田がにやりと、僕と対峙した。
何度も戦って、お互い癖は知っている。
なにより、よく知っているのは、お互いがすごく負けず嫌いだってことだった。
「今度は俺が勝つ」
「ああ、今度も僕が勝つ」
だからこそ、真剣な表情で何度も勝ち続けてきたからこそ、
少しずつ、少しずつ追いつかれていることを知った。
なんとか、突破してゴールできたが、恐らく時間の問題になる。
漠然と理解できたのは、松田の技術を真似しきれなくなってきた。
動作を真似できても、反応も行動も後手に回る。
なにより、いつもと違い、僕の体に合わせた動きの最適化が必要になるという意識が生まれた。
そのままマネできない。動けないのだ。そのまま。
――筋力不足。
すべて、フィジカルという、もっとも重要な体の能力で負けていた。
「ちっ!?」
「うぉおおお!!」
もう、松田のドリブルにはおいつくことすらできない。
無駄のない、走るのとまったく同じ速度、ボールが一切足元から離れないドリブルに、仲間たちは突破され味方のゴールネットを揺らされた。
足のはやさすら、松田に十二分に劣ってしまっている。
「よっしゃぁああ!!」
手を上げて、得点のアピール。
相手の士気は上がっていき、少しずつ、明確に。
僕の中で、炎のようなものが芽生えた。
「はぁああ!!」
僕らしくない、決死のスライディング。
なんとか、松田のドリブルを止めることができたが、息が少しずつ上がっていく。
だが、松田の息は僕ほど乱れてはいなかった。
4対5。
1点ビハインドの後半ラスト5分。
フェイントやターンなどの技術を使ったが、とうとう僕は最後の最後でボールを奪われ、奥まで蹴りだされてしまった。
明確な、敗北だった。
ロスタイムまでの時間、最後の最後までゴールを狙ったが、
僕は、ゴールを奪うことはできなかった。
長いホイッスル。
試合終了のホイッスルだった。
「はぁ、はぁ、はぁ!! くっそ!!」
四つん這いになって、息を大きく吐く。
衝動的に地面《ピッチ》を叩いた。
滝のような汗はいつも通りではあったが、これほどの汗をかいたほどではなかった。
松田も息はあがっているが、肩で息するほどじゃない。
……そのこと自体がとても悔しかった。
「やっとだ、やっとお前に勝てた。
ありがとう。新田。俺はこれでさらに成長できる」
「く、おめでとう。
そして、ありがとう。
僕も熱を持てたよ……プロで待ってるわ」
「ああ、国立で優勝しよう。そして、プロでまた会おう」
僕にはプロのスカウトが来ていた。
多分、松田は明確に目に留まっただろう。
なら、次はプロの世界だ。
胸の奥の穴に、明確に暖かい、烈火のような熱がたまった。
負けた事実より、
僕の努力の無さを理解できた。
もう、油断はしない。肉体改造をしなくてはいけない。
これからは、プロの世界で松田と戦う。
今度は、負け、ない。
「おつかれさま」
観客席のベンチに逃げた僕に、タオルを頭からかぶせた人がいた。
声から、すぐにわかった。
「ダメだった。僕は頑張れたかな?」
「うん、知ってるよ。
だから、そう俯いちゃダメ。
新田が頑張ったの、私はわかってるから」
相沢さんが後ろから抱きしめてくる。
『あんたら! 今度こそマジにやりなさいよね!
ユカリンだって、頑張ってるんだから!!』
そう相沢さんに中学時代に言われて、本気で頑張って、ここまで来て、負けた。
いや、松田からしたら、ずっと頑張って来て、今やっと勝てたのか。
府に落ちる。
努力は、人を裏切らない。
たとえ、今は負けていても、間違いなく勝てる。
そうなんだとするなら、理解もできた。
毎年少しずつ、追い付かれていたのか。
それを理解せず、僕は松田より努力を怠ったからだ。
でなければ、追い付かれるわけはない。
そう思うと、今の僕は滑稽だな。
「大丈夫、大丈夫だから、
今はネガティブになっちゃってるだけだよ。
ユカリンだって、落ちるときはあるし、新田だってそうなだけだよ。
少し休んで、また頑張ろう。
金川も座間もユカリンも、私だって手伝うからさ」
「うん、ありがと。
今度、松田と戦うのは、プロでだと思う。
もう、僕は負けない」
タオルで隠された僕の顔からは大粒の涙が零れた。
やっと、理解できた。
悔しさと、後悔。
僕は、やっぱり天才じゃない。
だけど、努力は絶対、僕を裏切ることはないんだと、はじめて知った。