「ユーカリーン!!」
「おっと、どしたの春香??」
走り終えて、クールダウン中。
私の親友、相沢春香は笑顔で抱き着いてくる。
受け止めて、コロコロ笑う今の姿からは、中学時代の猫かぶりは消えていた。
春香いわく、こっちのがらしいと思ったみたい。
「ねね、新田が試合に出るらしいんだー、面白そうだから観戦しにいこー」
新田?
中学の時に、県大会で負けて笑ってた……幼馴染の??
1年生から試合に出れるって、すごいじゃん。
……言ったら自慢になるから言えないけど。
「ん。わかった。
シャワー浴びたら行くよ。
場所はどこ?」
「サッカーだから、第一グラウンドじゃない?
全国に向けての試合だから、結構気合入ってるっしょー」
「んー? どうかな。新田ってどこか本気でやってる感じないし」
正直、彼が本気になることはないんじゃないかな。
小学生のある事件から、彼は本気を出さなくなった……。
だから、なんとなく、そう思える。
「にひひ。それは見てからのお楽しみさー。
座間に場所取らせてるから、ゆっくりで大丈夫だけど、
ささ、ユカリンはシャワー浴びてきて?」
「……そっか。わかった。
じゃあ先にいっててね。座間をパシリにしちゃダメだよ?」
「ひどいこと言うなー! パシリになんてしないよー」
春香が言うってことは、久々に彼の本気が見られるのかもしれないね。
小学生以来になるけど、どうなんだろう?
十で神童、十五で才子、二十歳過ぎれば只の人ってことわざもあるし。
幼馴染たちの中で、一番すごかったのは新田だし、
でもね、ジュースを買わせたり、購買でパンを買わせるのは、パシリっていうんだよ?
試合を見て、私たちは言葉を発することはできなかった。
彼を幼いころ、天才と呼んでいた人たちの記憶がよみがえる。
『手加減しなさい!
新田くんみたいに、誰でもなんでもできるわけじゃないのよ!!』
そう言われて、真面目にやることのなくなった新田の本気は、凄すぎた。
10対0。
8得点2アシストって言うらしい。
サッカーは詳しくないけど、明確に相手はもうやる気を失っている。
これは試合じゃない。ただの虐殺に近かった。
「きゃー素敵ー! 新田くーーーん!」
女子たちの声援は聞こえても、アイツは全く見向きもしない。
ただ、ただ全力にボールを追って、ゴールに叩き込み続けている。
よくある、声援に応えた感じはない。
無表情で、氷のように冷たかった。
「……どうして?」
記憶の彼は、そこまでやる人ではなかった。
空気を読まない人ではあったが、人の気持ちを理解できない人ではなかった。
真剣勝負と言えば聞こえはいいが、戦意を喪失している相手に問答無用なほどボコるタイプでは、なかった。
「……私のせい、なのかな?」
「春香の? そんなことはないでしょ。
試合をする以上、手加減は失礼ではあるから」
呟くような春香の言葉を拾って、返す。
おかしいといえばおかしいが、勝負をする以上、手加減なんて侮辱以外のなにものでもない。
だけど、相手がやる気を失したのに容赦なく得点を重ねるのは、明らかに度が越していた。
あまりにも、らしくない。
……後で、声をかけてみようかな。
ちょっと気になるし。
私は、あいつらに助けられたんだし、今度は私がおせっかいを焼いても、いいよね?