次の試合に勝てば、国立。
いわゆる全国大会に出場になる。
僕の目標で、同時にどこか虚しい目標だった。
自業自得の結果だが、僕は孤立している。
開き直っていても、僕が先輩たちに嫌われているのはわかっている。
これほど、生意気でバカな奴を嫌わないわけがない。
「やっぱすげーなー新田ー」
「はは、恐悦至極。とでもいえばいい?」
「は! 言ってろ?
スマブラでは別だかんな!」
部活もないのに、わざわざ待ってくれている座間とだべりながら帰る。
いつも以上にほっとしている自分に嫌気がさす。
自分で選んで、全力を出すと決めて、また中途半端なことしてる気がする。
赤信号に止まる。
びゅんびゅんと車の風を感じる中、
座間がにやにやと笑いながら言いやがった。
「でもさーあまりにガチじゃん。
小学生以来だっけか?」
「……僕にも色々あったんだ」
「へー。やっぱ藍原さんのため? それとも、破壊神《相沢》の方?」
「は?」
突然のバカの物言いにイラっとした。
元々、僕たちが言い始めた相沢への『破壊神』という呼び名。
僕たちを咎めて、説教してくれていたとわかった今では、不快に思える。
「図星か。
まあうん、二人ともめっちゃかわいいし、キレイだからなー。
うんうん。わかるわかる」
「……お前は何を言ってる?」
首を上下にして、腕を組むバカを見て、ため息を吐く。
――そんなんじゃない。
僕が藍原に思うのは、羨望だった。
そして、相沢に思うのは……なんだ?
『あんたら! 今度こそマジにやりなさいよね!
ユカリンだって、頑張ってるんだから!!』
そう言われたのは僕に、じゃない。
『さい、ってーー!!』
そう言われた。あの時、僕はどう、思った??
……今の僕は、相沢に誇れるだろうか?
僕は、何をしてるんだ??
「……なあ新田ー」
「ん? なんだい?」
珍しいにやにやの無い、真剣な表情にビクリとする。
「お前さー今、サッカーやってて、楽しいのか?」
「は?」
楽しいか??? そんなの……。
「昔言ってただろ? 楽しければそれでいいってさ。
あんとき、つまんない時の顔してたろー」
……どうしてわかった。その言葉が出なかった。
当たり前だった。
今、僕自身がその気持ちを問うていた時だった。
だからこそ、その時間に空白が生まれて、失敗をした。
「っ! あぶねえ!!」
「は!? 何して……!? 座間!!」
突然、突き飛ばされて、轟音が響いた。
トラックが僕の居た位置を通過して、店に突っ込んでいた。
同時に、突き飛ばしたはずの座間は、力なく倒れていた!
「おい! おい!! しっかりしろ!! おい!!」
「い、ってえ。ちぃ、ドジったーー」
足を抑えながら表情を歪めている。
足を見る、青くはれ上がっていて、足首が太ももと同じぐらい腫れあがっている。
慌てて、携帯を取り出して119を押す。
つながるまでの音が遠く、長く感じた。
携帯を持つ手が震えて……息が浅くなる。
早く、繋がれ……っ!
「●●交差点で事故です! すぐ来てください!!」
つながったと同時に、場所を伝えた。
座間の顔が、青い。
今はアドレナリンが出ているだろうが、間違いなく足が折れている座間を僕は励ますぐらいしか、できなかった。
「救急車は呼んだ。すぐ来る。だから耐えてくれ」
「はは、おおげさだな……」
「大袈裟じゃない、少なくとも足は腫れてる。おとなしくしろ」
「……マジかよ」
白い壁、何もない病室。
6人の病室だが、他に人もおらず、実質個室状態の中、座間は両手を頭の後ろに回してベッドに寝転がっていた。
足は吊り、見るからに痛々しかった。
「ちぇー全治1ヶ月だってさー。
新田の試合と金川の試合に、藍原さんの応援行きたかったぜー……」
「……ごめん」
ぶー垂れながら、僕の取ったノートを書き写しながら座間はいった。
胸の奥が強く傷んだ。
僕が、ぼーっとしていたから。
「は? 前、藍原にさー。
友達だから、当然だって言ったの、お前じゃん」
3年前のアレのこと?
確かに、僕はそういった。
「それとこれとは――」
「違わねえって。
友達で、反応できたから、体が動いた。そんだけ。
……国立って言うんだっけ? 控えてんだろ。練習しなくていいのかよ。
国立の応援までには絶対治していくからさー」
まったく、このバカは。
救いようのない、お人好しめ。
「……わかった」
だけど、僕には——
ずるい答えしか、返せなかった。