君の神様になりたい   作:香椎

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短いです。


間話 今は昔③

 

 薄く伸びた影が、夜風に吹かれては揺れる。

 眺めた空には、星々に紛れて一等強く輝く月があった。遠く果てに浮かぶ惑星に想いを馳せては、虫の輪唱が耳に馴染んだ。

 

「カナタぁ?」

 

 ふと、背後から声がする。見やれば、かぐやが眠そうに体を引き摺りながら、僕の元へ這って来た。

 

「ごめん、起こしたかな」

「んーん……眠れなかったから」

 

 なんて、あくびをしながら隣を陣取るかぐやに、僕は目を細める。普段なら膝の上にでも乗って来そうなものだが……随分と、聡い子だ。

 

 二人、縁側に並んで。かぐやは寝ぼけ眼で空を見上げていた。その瞳に映るのは、彼女の生まれた故郷だ。

 

「……綺麗だね」

 

 ぽつり、と漏れた言葉は夜に溶けていく。

 今宵は満月。かぐやの瞳の中を、淡く滲んだ光が覆い尽くしている。瞬きすらも忘れて、その顔は少し哀愁が漂っていた。

 雲一つもない空を見上げる彼女が、何を想っているのか僕にはわからない。知ろうとすることも憚れたから。

 

「ああ……」

 

 ただ、その横顔が少し印象的で。僕はろくに月も見ずに、生返事で返した。

 

「……ん、なぁに〜?」

 

 僕の視線に気づいたかぐやが、照れくさそうに問う。ぼーっとしていたせいで、言葉はすぐに出なかった。特に、何かあるわけでもなかったし。ただ、なんだろう。

 

「……かぐやの方が超綺麗なんだろう?」

 

 かつて、同じように月を眺めた日に、月に張り合っていたかぐやを思い出した。

 一瞬惚けたかぐやだったが、やがて思い出したのか、ほんのりと頬が色づいた。

 

「お、覚えてたんだぁ……忘れていーよ、恥ずかしいから」

 

 なんて、彼女は言うけれど、簡単には忘れられそうにない。

 

「大切な思い出だよ、全部」

 

 いつの間にか、風は止んでいて。虫の声も聞こえずに、僕の声だけが闇夜に響いた。

 言ってから、少しだけ後悔する。

 共有した時間の分だけ、思い出が増えた。本当に、両手では抱えきれないほどの幸せを彼女から貰ったと思う。それは、簡単な言葉では言い表せられないほど複雑で、不明瞭なものだから。

 もし、それを君が忘れていたらと。そう考えるだけで、胸の奥が少しだけ痛んだ。

 

「……いじわる」

 

 けれど、かぐやは拗ねたように唇を尖らせるだけで。その様子にふっと笑みが溢れる。

 

「かぐやにだけだよ」

「……ずるい」

 

 悔しそうにかぐやは口を噤んで、二人の間に静寂が流れた。

 まるで世界に二人だけのように、静かで穏やかな時間。かつての孤独感はない。隣を見れば、かぐやがいたから。

 そうやってかぐやを見つめていると、かぐやもまた僕を見た。視線が交差して、少しの沈黙の後。二人して短く息を吐いた。

 

「……いつか、楽しみにしててよね」

 

 何が、とは言わない。彼女もまた、あの日の言葉を覚えているから。

 

「ああ、楽しみにしているよ」

 

 僕は今度こそ月を眺めながら、そう答えた。

 いつになるかわからないけれど、それまで楽しみに待っていよう。いつか、ちゃんと君に出会えることを。

 

 




なんて、少しだけ夢を見てしまっただけ。
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