ポケモンロード バイオレット・レクイエム   作:とり。@pktorisky

12 / 12
 謎の組織『ユートピア』の事を探るべく、ハルト、ペパー、ボタンの三人はエクシード社でミーティングを行うことになった。
「エクシード社の秘密の地下室を調べたら…こいつが見つかった。お前たちも読んで欲しい」
 そう告げてアメジオがハルトたちに手渡したものは…
「これって…日記…?」
「ああ。その持ち主は…スピネルだ」
「スピネル…ラクリウムの事件の黒幕だったよね」
 念のために確認するハルトにうなずくボタン。
「でもこのデジタルの時代になんで紙の日記なんて…」
「紙媒体はデジタル媒体と違ってハッキングされない利点があるからな。だからこそ最後の機密情報は紙の日記にしたんだろう」
 ボタンの疑問に対してフリードが補足する。
「この中にユートピアの手掛かりもあるかもしれない。読んでみようか」
 ハルトたちはスピネルの日記を読み始める…

ポケモンロード バイオレット・レクイエム

Chapter4 第二の刺客



第12話 スピネルの日記

ー脅威の存在『救世主』ー

 法に反する大規模な活動を行う団体のことを、民衆は『悪の組織』と呼びます。そして悪の組織の間で伝わる箴言があります。

「帽子の少年少女には気を付けろ」

 この世界にはロケット団やフレア団など強大な力を持ち栄えた悪の組織がいくつもありましたが、いずれも帽子をかぶった少年少女によって壊滅させられているのです。

 

 この世の理が変わるような事態が起きると呼応するように現れる少年少女。ユートピアのフォーゼは彼らのことを『救世主』と呼んでいました。

 不本意ではありますが我々エクスプローラーズも『悪の組織』に該当するのでしょう。つまり我々の計画に呼応して救世主が出現する可能性は高い。

 ですが救世主にさえ接触しなければ計画は阻止されないとも言えます。

 私は救世主の監視を計画を実施する上での最優先事項としました。

 

ーインディとルーベラー

 エクシード社の新入社員のインディとルーベラをエクスプローラーズの私の部下として採用することにしました。

 二人とも裕福な家庭の出身で優秀な大学を卒業しています。

 ですが私が二人を起用した理由は彼らの出で立ちではありません。

 

 二人とも面接の際には彼らのご両親まで我が社にやってきました。

 そしてどちらのご両親も「自分の子供は習い事に勉学、何もかも徹底的に教育した。自分の言うことはなんでも聞く良い子だから必ず会社の役に立つ」と自慢げに語っていました。

 興味を持った私はインディとルーベラの二人に直接話を聞きましたが、どうやら二人とも夢や目的は持っておらず「親に言われたから」という理由でエクシード社に入社しようとしていたようです。

 

 我の強い人間は命令を無視し裏切る。

 その点、あの二人は自分の意思を持たず、自分で考えようともせず、ただ保護者の言うことだけを聞いて行動することしか知らない。

 周りの大人から良く思われるのが上手な子供「良い子ちゃん」とは彼らの事を言うのでしょう。

良い子ちゃんは本当に都合が良い。彼らなら私を疑うこともしようとせず、忠実な手駒となってくれるでしょう。

 

ー救世主ハルトの監視ー

 救世主には帽子の少年少女である以外にもいくつかの共通点がありますが、最大の特徴は異様な成長スピード。

 救世主と呼ばれるトレーナーたちはいずれも旅立ちから数週間から数か月という僅かな期間でチャンピオンを超えるほどの成長を遂げ、悪の組織を壊滅させているのです。

 

 そしてグレープアカデミーに入学した少年ハルト。彼は多くのポケモンを捕獲し短期間で高レベルまで育成、次々とジムリーダーに勝利するという急激な成長を遂げており、フォーゼの預言通り救世主になりつつあります。

 エクスプローラーズが彼と接触した時、私の望みは間違いなく阻止されるでしょう。

 

 そこで私はルーベラとインディに救世主ハルトの監視を命令、そして今後のエクスプローラーズの計画は全て救世主ハルトとの接触を避けるように立てることにしました。

 幸いにもエクスプローラーズでのプランニングは私の担当です。

 ギベオン様にも上手く話を通すとしましょう。

 

ーライジングボルテッカーズのロイー

 我々の計画の上で障害となっているのがライジングボルテッカーズですが、その中でもロイは帽子の少年である点が救世主の特徴に当てはまっています。

 一方でカントー地方のレッドなど歴史に名を残す救世主と比べると、その成長スピードはあまりにも遅く、対するハルトは驚異的な成長を遂げています。

 やはり我々の脅威となる救世主はハルトである一方で、ライジングボルテッカーズの皆さんは少し腕が立つ普通のトレーナーに過ぎないでしょう。

 引き続きハルトへの警戒を最優先事項とし、ライジングボルテッカーズは適宜対処しながら計画を遂行しましょう。

 

ーアカデミー襲撃計画ー

 ラクアでの計画の実行にはアカデミーに眠るデータが必要となります。

 そんな中、救世主ハルトの監視を続けているルーベラから、ハルトはこれから一か月に渡りイッシュ地方のブルーベリー学園へ留学するとの報告が入りました。

 救世主と接触せずにアカデミーのデータを盗む機会は今だけ。アゲート、オニキス、サンゴの三人にアカデミーへの潜入、そして襲撃計画の実施を依頼するとしましょう。

 

ーストロングスフィア計画の始動ー

 ライジングボルテッカーズの社会的信頼を失わせるため、マスコミへの根回しが完了。愚かな民衆たちは彼らを敵とみなすでしょう。

 そしてフォーゼから「救世主ハルトを抹消した」との連絡もありました。これで脅威は全て無くなり、準備は万全。

 これよりストロングスフィア計画を始動する…救世主がいなくなった以上、もはや誰も私の計画を止めることはできない!

 

 日記を読んだハルト・ペパー・ボタンの三人は話し始める。

「ハルトって結局エクスプローラーズとは一度も戦ったこと無いんよね?」

「うん。まさかぼくを警戒して接触しないようにしていたなんてね…」

「それにスピネルって奴もユートピアと繋がってた!」

「ラクアでの戦いもストロングスフィアのことも…全部ユートピアが影で操ってたのかも…」

「あとスピネルがハルトの事を救世主って呼んでるのも気になるな。確かヴレイやレフティもハルトを救世主って言ってたよな?」

「うん。それに預言って言い方してるのも気になる…まるでハルトが凄いトレーナーになることを最初から分かっていたような…」

「うーん…でもハルトが救世主って呼ばれてるのは分かる気がするな!オレとマフィティフを救ってくれたし!」

「それにスター団のことだってハルトのおかげでハッピーエンドにできたし!」

「まるで物語の主人公だな!!」

「…主人公とか救世主とか…ぼくはそんな大それた人間なんかじゃない…」

「…ハルト?」

 暗い表情を浮かべながら小声で呟くハルトにペパーとボタンは違和感を覚える。

「…続きを読もうよ。まだ何か分かることがあるかもしれない」

「あ、ああ…」

 

ーストロングスフィアの有用性ー

 ラクリウムにはポケモンに大きな負荷を与えることと引き換えに、身体能力と知能を一時的に向上させる効果があります。

 そしてラクリウムを持ち運べるようにし、誰でも簡単に使えるように改良したものがストロングスフィアです。

 

 メガシンカやテラスタルなどポケモンを強化する方法はいくつかあります。

 しかしそのほとんどが「一部のポケモンにしか使えない」「一部のトレーナーにしか扱えない」「必要な道具の量産が難しい」といった欠点を抱えています。

 そのためいずれも一般販売はされておらず、実技試験の合格や資格を持つトレーナーからの推薦を条件にするなど、弱いトレーナーを足切りすることで供給のバランスを保っています。

 

 対するストロングスフィアは原材料のラクリウムがラクアから溢れ出ているため、大量生産が非常に容易。

 例えばテラスタルオーブを1個作るのに掛かる費用でストロングスフィアを100個は作ることができます。

 そして何よりポケモンの知能が強化されるおかげでトレーナーが指示を下さなくても適切な判断をして戦えるようになる。

 安く買えてどんな弱いトレーナーでも簡単に強くなれることがストロングスフィアの強みの一つという訳です。

 

ーストロングスフィアの軍事活用ー

 ストロングスフィアを使ったトレーナーとポケモンはある程度強くなる。

 一方でストロングスフィアを使ったとしても弱いトレーナーとポケモンではジムリーダーやチャンピオンといった強豪トレーナー、特にテラスタルなどポケモンを強化する手段を有する相手に勝つのは厳しいでしょう。

 しかしそれはあくまでも競技としてのポケモンバトルに限った話です。

 

 強力なテラスタルポケモンであっても、もしストロングスフィアで強化されたポケモンが百体同時に襲い掛かってきたら勝つことはできないでしょう。

 そう、ストロングスフィアの最大の強みは量産が容易で大量のポケモンを同時に強化できる。つまり人海戦術ならぬポケ海戦術に長けている事なのです。

 

 特にストロングスフィアが最大限の力を発揮できるのが戦場です。

 スポーツとしてポケモン勝負をする場合は公平に1対1で戦わなければいけませんが、戦争にはルールなど存在しない。

 10対1だろうが100対1だろうが敵の命を奪えば勝ち。ストロングスフィアでのポケ海戦術を発揮するのに最適です。

 しかしテラスタルなどは数に限りがありポケ海戦術には不向き。戦場において最も強力なのはストロングスフィアと言えるでしょう。

 

 また一人のトレーナーが一度に使役できるポケモンの数は1体か2体、多くても3体が限界です。それより多くなると口頭では指示が追いつきませんからね。

 一方でストロングスフィアを使ったポケモンは自分で判断して戦うようになる。

 トレーナーが指示を出す必要が無くなるため、より多くのポケモンを同時に使役することも可能。

 しかもトレーナーに必要なことはポケモンを繰り出すこととストロングスフィアを使うことだけ。ポケモンの知識や戦闘経験が無くても簡単に扱える。

 たとえ幼子であろうとストロングスフィアとポケモンを持たせれば立派な兵力にできるわけです。

 

 ストロングスフィアにはポケモンの身体に大きな負担がかかる問題点もありますが、この欠点も最初から捨て駒にする前提でポケモンを使えばいい。替えとなる戦力は草むらで簡単に補充できますからね。

 このようにストロングスフィアはポケモンを軍事兵器として効率よく使うことができる。

 ストロングスフィアの一般販売はその有用性を知らしめるためのデモンストレーションに過ぎないのです。

 

 既にストロングスフィアの有用性に気づき、我々にストロングスフィアの独占契約の打診を申し込む軍事国家や過激派テロ組織も現れています。

 そしてこれから行われるラクアでのライジングボルテッカーズとの戦いは戦争を想定したプロモーションにうってつけです。いい宣伝になるでしょう。

 

ーラクリウムのメガシンカへの応用ー

 一部のポケモンは人と強い絆で結ばれることでメガシンカすると言われています。

 しかし絆など非科学的なものが存在するはずが無い。人工的にメガシンカを再現することも必ずできるはずです。

 そこで進化に必要なエネルギーをラクリウムで補う事ができるのではないかと考え、メガシンカの分析を始めました。

 そしてメガシンカを疑似的に再現する装置「メガラクリウム」の開発に成功しました。

 

 しかしメガラクリウムを1個作るのに、ストロングスフィアに換算するとおよそ1000個分という膨大な量のラクリウムが必要となります。

 これでは量産が容易で簡単に扱えるというストロングスフィアの最大の強みを潰してしまい、あまりにもコストパフォーマンスが悪い。

 今から改良するとしてもライジングボルテッカーズとの決戦には間に合わないでしょう。

 

 ですが人間もポケモンも利益が無くなれば裏切るもの。

 現在は私と協力関係のあるユートピアも、いずれは私を裏切るでしょうし、私からラクリウムを力づくで奪おうとする輩も現れることでしょう。

 敵への対抗策が私には必要であり、メガラクリウムが量産できるようになれば切り札となりえます。

 ライジングボルテッカーズの始末が完了した後は、メガラクリウムの改良に力を入れることにしましょう。

 

ー新たな時代の幕開けー

 人やポケモンは利害が一致した場合のみ共に行動する。

 そして共に行動する利点が無くなれば人もポケモンも容易く裏切る。

 愚かな民衆共が友情や絆と呼ぶものは所詮は幻想に過ぎないのです。

 

 ですがこれからはラクリウムを奪い合う戦乱の時代が始まります。

 他者を疑い合い、憎しみ合い、奪い合い、そして殺し合う。これこそが人間やポケモン…ありとあらゆる生物の本来のあるべき姿。

 戦争の世が始まることで私の考えが正しいことが証明されるのです。

 

 そして戦争に勝つためにはラクリウムが必須となり、人間共はラクリウムを手に入れるために私に媚びを売り顔色を伺うようになるでしょう。

 ラクリウムの力を与えて人を生かすことも、与えず国を滅ぼすことすら私の思うがまま。私はこの世の全ての生命の実権を握る真の支配者となる。

 この世の全てが私にひれ伏すのです!

 

 スピネルの日記を読み終えたハルトたち。フリードとアメジオも三人の会話に加わる。

「スピネルはラクリウムで何がしたかったのかは最後まで話さなかったが…」

「世界中で戦争を引き起こすこと、そしてラクリウムを利用した軍事ビジネスで世界を支配することが目的だったとは…!」

「ひどい…ひどすぎるし…!!」

「スピネルは絆を強く憎んでいるようだったが、絆の否定のためにここまでするとは…」

「もしラクアでの戦いでオレたちが勝てなければ…今頃世界中で戦争が起きて多くの人やポケモンの絆…そして命まで失われていただろうな…」

「考えただけでもぞっとする…本当に勝てて良かった…」

「さて、そろそろ話をユートピアの件に戻すとしよう」

「日記の後半にはユートピアのことはあまり書かれていなかったな」

「だが分かったこともある。ユートピアは世界中で戦争を引き起こそうとしていたスピネルすらも利用していた。それだけオレたちは強大な敵と戦っているということだ」

「覚悟ならもうとっくにしてるぜ!ダチが頑張ってるのにオレだけ何もしないなんてもうゴメンだ!できることならなんだってやる!」

「うちも!人もポケモンも…これ以上ひどい目に合わせたくない!」

「お前たち二人は問題無さそうだな。…ハルト、お前は覚悟できているのか?」

「………」

「みなさあん!」

 会議室の中にジニアが慌てて入ってきた!

「あれ?ジニア先生?いつの間に部屋出てたのか?」

「校長先生から連絡があって離席してましたあ。それよりビッグニュースです!ネモさんの意識が戻りましたあ!!」

「本当か!?」

「やったね!」

「良かった…」

 ネモの無事が分かって大喜びなペパーとボタン。一方でハルトはホッと胸をなでおろしたのであった。

 

 その頃、テーブルシティにある病院の病室では…

「………」

 ベッドの上でネモはぼんやりと窓の外を見つめ物思いにふけっていた…

 

Chapter4 第二の刺客 ~Fin~

-次回 外伝「ブルべリーグ・コンフリクト」ー

-前編 スグリのいらだち-

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。