ポケモンロード バイオレット・レクイエム 作:とり。@pktorisky
-わたしはタロ!イッシュ地方にあるブルーベリー学園に通っています!-
-このブルーベリー学園はポケモン勝負の進学校!なのですが…-
「ストロングスフィアはガンガン使うべきだ!!」
「いーや!ストロングスフィアは禁止するべきです!!」
校内にそんな激しい怒号が響き渡る。
-最近はとっても荒れ模様です…-
ピンクに染めたかわいらしいショートヘアが特徴的な女子生徒、タロは溜息をつくのであった…
ポケモンロード バイオレット・レクイエム
前編 スグリのいらだち
-大企業のエクシード社が発売した『ストロングスフィア』-
-『これを使えばポケモン勝負で簡単に勝てる!』と評判でブルーベリー学園でも大流行しています-
-ブルーベリー学園にはポケモン勝負のランキング制度がありますが、ストロングスフィアを使用したトレーナーたちは次々の順位を上げ、今は上位20人のうち12人がストロングスフィアの使用者という事態に-
-ストロングスフィアを使っていない生徒たちの不満が爆発。『ストロングスフィア推進派』と『ストロングスフィア禁止派』の真っ二つに分かれてしまった訳です-
「ストロングスフィアを使ったポケモンは苦しそうにしています!こんな道具を使うのはよくありません!」
「別にいいじゃねーかちょっとくらい!ってかポケモン勝負でダメージを受けたポケモンだって苦しそうにするじゃん?それと一緒じゃん!」
「一緒な訳ないだろう!それにストロングスフィアを使うとポケモンとの信頼関係が失われるという噂もある!」
「信頼関係ねえ…でも君たちはストロングスフィア推進派の僕たちに連敗してるじゃないか。確か君は30連敗して順位も23位から238位まで降格したって聞いたよ?」
「トレーナーが雑魚なせいでひんし状態にさせられまくってるお前の方がよっぽどポケモンから見損なわれてるんじゃねーか?」
「ぐぬぬ…しかし!ブルべリーグ上位のブルべリーグ四天王はストロングスフィアを使っていない!」
「時間の問題だと思うけどねー!もうすぐ俺たちは四天王への挑戦権を手に入れる!勝てば俺たちが四天王だ!」
「それに今は使ってないだけじゃねーかな?四天王もそのうち使うと思うぜ?」
「いえ!そんな事は絶対ありません!」
そんな激しい論争を繰り広げる生徒たちを隠れて様子見していたタロ。すると…
「おーい!タロ先ぱ…」
「アカマツくんストップ!」
「むぐ!?」
元気に手を振って話しかけようとしたのはタロの後輩のアカマツ。赤い髪の少年で常に手に持っているフライパンがトレードマークだ。
そんなアカマツの口をタロは慌ててふさいだ。思わずアカマツは顔を赤くする。
「…アカマツくん。一旦ここから離れましょう」
「なんで?って…もしかしてまた喧嘩?でもタロ先輩はストロングスフィアは反対だよね?」
「もちろん!わたし個人としては良くないと思います!」
「オレも反対!だから二人でガツンと言ってやろうよ!!」
「アカマツくん。わたしたちブルべリーグ四天王がそんな事を言ったら禁止派のリーダーに祭り上げられてしまいますよ?そうしたら推進派の反発ももっと強くなって…抗争がもっと大きくなってしまいます」
「…そうかなあ?」
「そうなんです!わたしは楽しくポケモン勝負を学びたいからブルーベリー学園に入学したんです。喧嘩をしたい訳じゃありません。だからなるべく穏便に解決したいんですよ」
「そっか…シアノ校長には相談したの?」
「もちろん。ですが…」
ブルーベリー学園の校長であるシアノにタロは事情を説明する。
「そうだねー僕個人としてはストロングスフィアはあまり好きじゃないかなー」
「ではストロングスフィアは禁止するのですか?」
「だけど僕みたいな大人がルールを押し付けるのも良くないと思うんだよねー。生徒たちの考えも尊重したいし、常識は時代と共に変わるものだからねー。だからひとまずストロングスフィアの禁止はせずに様子見かなー」
「オイラも同意見だねぃ」
ブルべリーグ四天王の一人でありサボり魔でもあるカキツバタが近くのベンチで寝っ転がりながら声をかけてきた。
「カキツバタ!またサボって…それより同意見って…あなたはこのままでいいと思ってるの?」
「ああ。ストロングスフィア推進派の意見も一理あるし、わざわざ禁止して反感を買うのも面倒だからねぃ。それに…」
「それに?」
「ここはポケモン勝負の進学校だ。オイラたち四天王まで勝ち上がってきたら実力で理解らせてやるのが一番手っ取り早いんじゃないかねぃ」
「流石は四天王!ストロングスフィアに頼らなくても勝てる自信しかないってことだね!頼もしいねー!」
「カキツバタ…あなた、四天王最強の自分のところまでは勝ち上がってこないだろうと見越してわたしたちに押し付けるつもりですよね!?」
「タロ…オマエたちなら推進派にも絶対勝てる!信じてるぜぃ!」
「そういう時だけ仲間面するの良くないと思います!!」
「って感じで…」
「あはは…シアノ校長とカキツバタ先輩らしいや」
「…アカマツくん。自分の置かれている状況を理解していますか?このままだと四天王一番手のあなたが推進派と何度も戦うハメになるんですよ?」
「…そうだったー!オレが負けたらストロングスフィアが凄いって証明されちゃう!?責任重大じゃん!?」
「はあ…」
「どうしよう!?って…」
タロとアカマツの隣をすたすたと小柄な少年が通り過ぎていくことに二人は気づく。
「スグリ?喧嘩してるみんなの元へ向かってるっぽいけど…」
「なんか…嫌な予感がします…」
「スグリさんが来たぞ!」
「我らストロングスフィア禁止派のリーダー!」
「そしてブルべリーグ最強のチャンピオンだ!」
「ガツンと言ってやってくださいスグリさん!!」
「…まだそんな道具に頼ってるの?はっきり言うけどお前たち…弱いだろ?」
「めっちゃ挑発してる…」
「あちゃー…」
相変わらず隠れて様子見している二人。アカマツは唖然とする一方でタロは頭を抱える。
「何ぃ!?」
「でもお前たちは全員ストロングスフィアを使うまではランキング下位だった事が道具に頼らないと勝てない弱いトレーナーだって証明してる」
「そうだそうだー!」
「そんな道具の事を考えてる暇があったらもっと自分のポケモンと向き合えば?」
「チクショー…チャンピオンだからって調子に乗りやがって…!」
「…なんだかスグリ、前の荒れてた頃に戻っちゃったよね…」
「そうですね…」
-ブルーベリー学園に入ったばかりの頃のスグリくんは心優しくて、ちょっぴり臆病な男の子でした-
-ですが姉妹校のグレープアカデミーとの林間学校を期にスグリくんは苛烈な性格に豹変。ポケモン勝負も強くなってブルべリーグチャンピオンにまで登り詰めたのです-
-スグリくんの性格が変わったのは林間学校でライバルができ、強い執着心を抱いてしまったことが原因だったようです-
-そんなスグリくんのライバルがグレープアカデミーに通うハルトさん。スグリくんより少し年下で背丈は同じくらいの小柄な男の子です-
-ハルトさんは交換留学でブルーベリー学園にやってきて、そしてブルべリーグにも挑戦。わたしたち四天王だけでなく、スグリくんにも勝利しチャンピオンとなりました-
-その後色々あってスグリくんとハルトさんは仲直り。スグリくんも以前の優しい性格に戻ったのですが…-
-一年前、ハルトさんは突如行方不明となってしまいました-
-一度はブルべリーグを辞退したスグリくんでしたが、ハルトさんが行方不明となった一か月後にゼロからリーグに再挑戦-
-再び勝ち上がって空席となっていたチャンピオンの座に返り咲いたのです-
「わたしたちが進級して一年生が入ってきた後も、新入部員にかなり厳しめに指導しているようですし…心配になりますね…」
「もしかして…スグリがまたやさぐれちゃったのも、ハルトが行方不明になったショックのせいなのかな…?」
「そうかもしれませんね…」
「ネリネはそうは思いません」
「うわ!ネリネ先輩いつの間に!?」
二人の会話に入ってきたメガネの少女ネリネ。ブルベリーグ四天王の一人で見た目通り真面目で几帳面な性格だ。
「スグリはやさぐれてしまったのではありません。恐らく…」
「我々が弱いとは聞き捨てなりませんねえ!」
口論を繰り広げるスグリたちの元へ背の高い眼鏡をかけた男子生徒がやってきた。遠くから様子見するタロたちも耳を傾ける。
「ボーマ先輩!」
「ストロングスフィアを活用して校内ランキング6位まで登り詰めた猛者!」
「オレたちストロングスフィア推進派の希望の星だ!」
「道具に頼る我々が弱い。貴方の話には論理性が無い!ストロングスフィアを禁止するべきというなら!その理由を論理的に語っていただきたい!」
「論理的に…わかった。じゃあお前たちにも分かるように説明してやるよ」
「ほう…」
推進派と禁止派の生徒たちは空き教室に移動。右側に推進派、左側に禁止派と分かれて向かい合うように机を並べ替えて着席する。その様子はまるで…
「なんか裁判所みたいだね」
教室の端にセットされた傍聴席に座り、隣に座るタロに話すアカマツ。
「それではストロングスフィア禁止派と推進派による討論を始めます。議長はこのネリネが務めましょう」
向かい合うスグリとボーマの間に立つネリネが二人に告げる。
「ネリネさんまで何やってるんですか…なんでこんな展開に…」
呆れ顔になりながらタロは様子を見守る。
「ではまず禁止派のスグリから。貴方の考えを話してください」
議長を務めるネリネに頷いてから、スグリは立ち上がり説明を始める。
「ストロングスフィアの問題点は大きく分けて二つ。一つ目は細かい指示ができなくなること…ストロングスフィアを使った後、ポケモンは自分で考えて技を出すようになる…トレーナーは簡単な指示を行うことしかできない」
「いい事じゃねーか!アタック!って言うだけで楽に勝てちゃうんだぜ!」
推進派の一人、リーゼントの男子生徒が立ち上がって嬉しそうにそう語る。
「そう…トレーナーが未熟なら確かに有効だな」
「な…お前!?このオレが未熟だって言うのか!?」
「ああ、そうだよ。前にお前のポケモン勝負を見たことあるけど…以前はタイプ相性を考えずに適当に指示を出していつも負けていた」
「ギクッ!」
「でもストロングスフィアを使うようになってからお前は勝てるようになった。それはストロングスフィアのおかげで強くなったんじゃない。馬鹿なトレーナーに足を引っ張られなくなったおかげで勝てるようになっただけなんだ」
「ぐむむ…」
「初心者同士の戦いならともかく、上級者同士の戦いでは的確な状況判断が求められる。でもストロングスフィアに頼っていたら大雑把な指示しか出せない…戦略的なポケモン勝負が全くできないのが致命的過ぎる」
「…ねえあんた。もしかしてタイプ相性分かってない?」
別の禁止派の生徒がリーゼントの生徒に尋ねる。
「だってえ…ポケモンのタイプって18種類もあるんだぞ!?あんなの覚えられねーんだよーッ!でもストロングスフィアを使えばわざわざタイプ相性覚えなくて済むじゃん?」
「戦況を的確に判断し、ポケモンを信じて戦うのがポケモントレーナーの役割。それを放棄するとか…お前がいる必要なくない?」
「うう…じゃあどうすりゃいいんだよ!?オレは一生弱いままでいろってのか!?」
「人より劣ってると思ってるなら努力しろ!足りない分何倍も!何十倍も!何百倍もだ!ポケモン勝負は楽して勝てる程甘くないんだよ!」
「くっ…」
「何百倍も努力しろか…スグリが言うと説得力あるね」
そう語るのは傍聴席に座るブルべリーグ四天王のアカマツ。その隣に座っているのは同じくブルべリーグ四天王の少女で彼の先輩であるタロだ。
「スグリくんは…元々ブルーベリー学園でも成績は良い方ではありませんでした。ですがライバルのハルトさんに勝ちたいという気持ちで努力を続け、あっという間にブルべリーグチャンピオンまで登り詰めましたからね…でも…」
(あの無茶な努力を本当に肯定していいのでしょうか…?)
タロはかつてスグリが吐きそうになるほど必死に特訓していた事を思い出す…
「異議あり」
禁止派のリーダーであるボーマが立ち上がった!
「スグリ君。確かに君は死ぬほど努力をしてブルべリーグチャンピオンにまで登り詰めた。だけどその後に留学生のハルト君に負けたそうじゃないか?」
「………」
「結局あなたの努力は無駄だった。世の中は才能が全て!努力なんて時間の無駄!だったらストロングスフィアを使って無駄な努力の時間をカットした方が私はタイパが良いと思いますけどねえ!」
「アイツ…スグリが一番気にしている事を…!」
「嫌な事を突いてきますね…」
手を強く握って怒りをこらえるアカマツ。一方でタロは冷静に見守り続ける。
「…確かにハルトに負けた時、俺は絶望した。でも後から分かったんだ。あの努力は無駄なんかじゃなかったって」
「…何?」
「必死に努力をしたからこそ俺は自分の限界を知ることができた。自分に才能があるかは限界まで頑張ることで初めてわかるんだ」
「………」
「だけどストロングスフィアに頼ったら努力しなくなって…才能があったとしても弱いまま成長しなくなってしまう。だから俺は禁止するべきだと思うんだ」
「限界を知るための…」
「努力…」
推進派・禁止派共にスグリの話を聞き心に響く物を感じる。そんな様子を見てアカマツとタロも優しく微笑む。
「…では禁止すべきだと考えるもう一つの理由をお伺いしましょうか」
「もう一つの理由はポケモンへの負荷が大きく人とポケモンの絆が失われるから」
「まさかポケモンが可哀そうだからという非ィ論理的な理由じゃありませんよねぇ?」
「…議長、証人を呼んでいい?」
「もちろんです」
おどおどした様子の男子生徒の小柄な男子生徒が入ってきた。
「お前は…!」
男子生徒の姿を見てボーマ、そして推進派の生徒たちはざわつき始めるのであった…
To be continued…
次回 中編「ストロングスフィア・タクティクス」