ポケモンロード バイオレット・レクイエム 作:とり。@pktorisky
そして目の前に立ちはだかり威圧感を放つ仮面の男と機械のポケモン、テツノカシラ。
「チャンピオンネモ。確かに君は強い。だがこの時代のポケモン勝負はスポーツのようなもの、道楽に過ぎない。あの地獄で生き残るために戦った我々に君は勝てない」
「生き残る…ために…壊して…傷つける…?そんなの…ポケモン勝負…じゃない…!」
仮面の男の言葉を否定しようとするネモ。しかし彼女のポケモンは次々と倒され、最早なすすべはなかった…
「今あの世へ送ってやる。タキオンカッター!」
「あ…ああ………」
テツノカシラから放たれる刃がネモの全身を引き裂く!!
「うわあああああああ!!!!」
叫びながら起き上がるネモ。彼女がいた場所はバトルフィールドではなくベッドの上。ここは病室であった。
「またあの夢…わたしは…わたしは…!」
ネモは両手で頭を抱えながら考え込むのであった…
ポケモンロード バイオレット・レクイエム
第13話 ぶつかり合う想い
「「ネモ!!」」
パルデア地方・テーブルシティにある大型病院。その中にある個室形式の病室にハルト、ペパー、ボタンの三人がやってきた。
「ハルト、ペパー、ボタン」
「パーモ!」
駆けつけてきた三人を見て小さく手を振るネモ。着ているのは普段の学生服ではなく入院着、トレードマークのポニーテールではなく髪も下ろしている。そして身体のあちこちに包帯が巻かれていた。
ネモのいるベッドの側にはてあてポケモンのパーモットも一緒だ。
「大丈夫なの!?」
「もう大丈夫…とは言えないかな…あまり身体も自由には動かないし。でもパーモットに介抱して貰いながら車いすに乗れば動けるくらいにはなったよ」
「そっか…ありがとねパーモット」
「モッ!」
「………」
普段は明るく元気なネモだが今日のネモは大人しい。いつもは明るく元気な四人の間に沈黙が訪れる。
「なあネモ。オマエが元気ないのって大怪我のせいだけじゃなくて…」
「やっぱりヴレイに負けた事、気にしてるん…?」
「…うん。ヴレイにはなすすべなく負けたし…それにラクアでの戦いでもロイたちをサポートするのがやっとで大して活躍できなかった。だからわたし、迷ってるの。本当にこのままでいいのかなって…」
「ネモ…」
「ねえハルト。わたしとポケモン勝負してくれないかな?」
「いやこんな時に…」
「こんな時だからこそだよ。わたしのモヤモヤもハルトと楽しい勝負をすればきっと晴れると思うんだ」
「…分かった。その勝負受けて立つよ」
「でもいくら戦うのはポケモンといってもその身体じゃ無理じゃねーか?」
「それなんだけど…ペパー。ちょっと手伝ってくれないかな?」
「手伝い?」
四人は病院近くの公園にあるバトルフィールドへとやってきた。
ハルトが立つバトルフィールドの向かい側には車いすに座ったネモ。その隣にペパーが立つ。ボタンは観客席の代わりに置かれているベンチに座って三人の様子を見守りつつ、ネモの要望によりスマホロトムでバトルの様子を録画することにした。
「ポケモンへの指示はネモが出す。オレはポケモンを繰り出したり交代したりをオマエの代わりにすりゃいいんだな!」
「そういうこと。よろしくねペパー」
「任せろ!今回はオマエの手となり足となってやるぜ!」
「いや足は使わないでしょ…」
「ハルト。準備はいい?」
「うん。それじゃあ始めようか」
ハルトVSネモのポケモン勝負が幕を開ける!!
-ポケモントレーナーの ハルトが 勝負を しかけてきた!-
「………」
「!?」
勝負が始まった途端、ネモとペパーはハルトの異変に気づき戸惑う。
(ハルトの目が変わった!?)
(なんつー威圧感…アイツは本当にハルトなのか…?)
(この殺意と気迫…まるで…)
「おい!ネモ!どいつを繰り出すんだ!?」
「あ!ごめん!行け!ルガルガン!」
「マスカーニャ」
ネモはまひるのすがたのルガルガン、ハルトはマスカーニャを同時に繰り出す!
(落ち着いてわたし…相手はハルト。いつも通りに戦えばいい…)
「ルガルガン!ステルス…」
「トリックフラワー」
ルガルガンの足元に種子が出現し爆発!吹き飛ばされてルガルガンは気絶する!
「え…!?」
「嘘!?瞬殺!?」
「攻撃を仕掛けた瞬間が全く見えなかった…速すぎんだろ…!?」
「………」
あまりにも速すぎる展開に困惑するネモ・ボタン・ペパーの三人。一方でハルトは黙ってその様子を見つめている。
「…あ!ごめんルガルガン!戻って休んで!」
ペパーはネモの指示に合わせてルガルガンをボールに戻す。
「相手がマスカーニャなら次はこの子!アブリボン!」
続いてネモの代わりにペパーはアブリボンを繰り出す!
(くさ・あくタイプのマスカーニャはむしタイプにはかなり相性不利。セオリー通りの判断だけど…)
「アブリボン!かふんだんご!」
「トリックフラワーをぶつけて」
爆発する作用のある花粉を放つかふんだんご。そして同じく爆発作用のある種子を放つトリックフラワーが同時に放たれ、フィールドで激突!攻撃は相殺し爆発を起こす!
「く…!」
(互角!?相性はむしタイプの方が有利なはずなのに!?)
すると爆発の煙にまぎれ、マスカーニャがアブリボンに急接近する!
「しまっ…」
「アクロバット」
素早い足技と爪による斬撃が炸裂!アブリボンも気絶してしまう!
「また瞬殺かよ!?」
そしてポケモン勝負を見守るボタンもこの展開に衝撃を受けていた…
(ネモがまるで歯が立ってない…前にネモとハルトが戦った時はハルトが少し優勢くらいだったのに…この一年でこんなに実力差が生まれたというん…!?)
「はあ…はあ…はあ…」
「あ…アブリボン!よく頑張った!戻って休んでくれ!」
ネモの代わりにペパーは励ましの言葉と共にアブリボンをボールに戻す!
「はあ…はあ…はあ…」
「おいネモ!大丈夫か!?オマエ…手が震えてるぞ…!?」
「!?」
ペパーに告げられネモはようやく自分の身体の異変に気づく。息が上がり、震えが止まらない手。その感覚にネモは覚えがあった…
「…ごめんなさい…この勝負、降参…します」
「…え?…え?えええええええええええええええええ!?」
ネモの降参にボタンは思わず大きな声で叫んでしまった。
「ポケモン勝負大好き人間のネモが途中で勝負をやめた!?いつもなら勝っても負けても絶対に最後まで勝負するのに!?なんでなん!?やっぱり勝負が一方的だったから…?」
「違う!!ポケモン勝負は相手との対話。もし一方的に負けたとしても相手の戦術や手持ちポケモンから実りは得られるから、勝ち目の無い勝負でも降参はしないよ」
「じゃあなんで…?」
「だってハルト…対話してくれないんだもん…」
「対話…?」
「今のハルトの戦いから感じられるのは拒絶と殺意…ただ目の前の障害を排除する事しか考えていないみたいで…怖くて…『もう戦いたくない』って思っちゃったの…これじゃポケモンたちの力を引き出すことなんてできない…」
「だから降参したん…?」
ネモはボタンの問いかけに頷く。
「ネモの言いたいこと分かるぜ。隣にいただけのオレすら正直ビビっちまった…」
「こんな勝負…ユートピアとの戦いと一緒…全然楽しくないよ…」
「………」
「なあハルト?ユートピアとの戦いならともかく、相手はネモなんだぜ?そんなに殺意むき出しにならなくても…」
「…できないんだ」
「できない?」
「ここは平和な世界。相手は友達。気張る必要はない。頭の中では理解している。でも…身体に染みついてしまっているんだ…戦いは生き残るための手段だって」
「生きる残るための手段…?」
「だからもう…ポケモン勝負が楽しいものなんて思えない…」
「ハルトはそんなこと言わない!!」
暗い表情で告げるハルトに対し、ネモは声を荒げる。
「わたしの知ってるハルトはね。いつも目をキラキラ輝かせていた!どんなピンチでも諦めないし!どんな状況でもワクワクを抑えられない!エリアゼロでの戦いの時ですらあなたはポケモン勝負を楽しんでいた!」
「………」
「そんなハルトが相手だからこそあなたとのポケモン勝負は最高に楽しくて…わたしはハルトが大好きだった!なのに…わたしの一番の宝物!最高のライバルは何処に行っちゃったの!?」
「いい加減にしてよ!!!」
それまでの暗い様子から豹変するハルト。その怒りに満ちた大声が鳴り響く…
「救世主とか…主人公とか…一番の宝物とか…最高のライバルとか…!どうしてみんなぼくに理想を押し付けるんだよ!!!ぼくは…みんなが思っているよりずっと弱い…キラキラ輝くヒーローなんかじゃないっ!!!」
「ハルト…」
「…はっ…ごめん…」
「………」
感情を吐き出して我に返り、大切な友に怒りをぶつけてしまったことを後悔し、謝るハルト。四人の間に再び沈黙が流れるが…
「…あなたが変わってしまったのは…行方不明だった一年間が原因なの…?」
そう告げて沈黙を破り、問いかけたのはネモであった。
「あなたの身に何があったの?答えてよ!!」
「ネモ!やめて!!ハルトの心の傷をえぐらないで!!」
「やだ!!わたしたち友達でしょ…?だったらあなたが背負う痛みを…ちょっとくらい分かち合わせてよ…!」
「…悪いボタン。オレもネモと同じ気持ちだ」
「ペパーまで!?」
「確かにオマエに何があったのかは聞かない方がいいかもしれない。でも…ダチの苦しみを一生見て見ぬふりをして過ごすなんて…オレも嫌だ!!」
「ネモ…ペパー…」
『…ハルト、お前は覚悟できているのか?』
ネモとペパーの想いを聞き、ハルトの脳裏に蘇ったのはフリードの言葉であった。
(恐怖から逃げ続ける訳にはいかない…か…)
「分かった。話すよ。この一年間で起きたこと全てを…!」
大喧嘩を終えた四人はネモの入院する病室に戻ってきた。まだ傷が癒えていないネモをベッドに戻してあげた後、椅子に座るハルト。
「フィ!」
そんなハルトの隣にちょこんと座るのはむすびつきポケモンのニンフィア。ボタンのパートナーだ。ニンフィアはリボンのような触覚をハルトの腕に巻きつける。
「ニンフィアには心を和らげる力があるから…少しは話しやすくなると思う。でも無理はしないでね…うちはやっぱりハルトに傷ついて欲しくないし…」
そう告げるとボタンはハルトの手を優しく握りしめる。
「ありがとうボタン。でも…ぼくも覚悟を決めなきゃ」
小刻みに振るえるハルト。ボタンにはハルトが抱える恐怖が伝わっていた。ハルトはゆっくりと深呼吸をした後、ついに口を開く。
「始まりは…一年前…キタカミの里で…ぼくはあいつと出会ったんだ…」
一年前、キタカミの里のてらす池…
「モモワロウ!じゃどくのくさり!ガチグマ!ブラッドムーン!!」
何者かと戦うハルト。彼が指示を出したポケモンは『しはいポケモン』のモモワロウ、そして『アカツキ』と呼ばれる特別な姿のガチグマ。
それぞれの必殺技が二体のパラドックスポケモンのテツノコウベに炸裂!テツノコウベたちは戦闘不能になる!
「珍しいポケモンを探しにキタカミに来たけど…まさか怪しい奴に襲われるなんてね!」
ハルトの前に立ちふさがっていたのはフードの付いたローブで身を隠した男であった。
「本当は闇討ちで消すつもりだったのだが…こうもあっさり俺のパラドックスポケモンたちを倒してしまうとはな」
「あんたは一体何者なんだい?」
「俺はチーム・ユートピアのヴレイ。未来を導く者」
「へえ!チーム・ユートピアね…!」
「…随分と楽しそうだな。君は自分が置かれている状況を理解しているのか?」
「どうだろうね?でもどんな時でも楽しまなきゃ!それに…謎の組織との戦いなんて!まるで物語のワンシーンみたいでワクワクするじゃないか!」
「…理解できないな。その前向きさも君が救世主である所以か…だが!」
ヴレイは右手を高く上げて指をパチンと鳴らす!すると…
「!?」
(今のは何!?目の前が急にぐにゃっと曲がって…)
「君は我々にとって最大の脅威。悪いがこの時代から消えてもらう!」
するとハルトの背後に機械が現れる。まるで古いゲーム機のような見た目をしているが…ハルトはこの機械に見覚えがあった。
「タイムマシン!?何でここに!?」
そしてタイムマシンが輝き出すと周囲の景色が歪みだし、空に巨大な渦が発生する!
「やば…うわっ!!」
「モモ!?」「ガウ!?」
渦の中に吸い込まれていくハルト!モモワロウは咄嗟に毒の鎖を繰り出し、ハルトの腕を掴もうとするが、渦の勢いはあまりにも凄まじく届かない!!
「うわああああああああああ!!!」
「モモモー!!」「ガウウー!!」
そして巨大な渦はハルトを飲み込むと消滅。何事も無かったかのようにのどかな景色へと戻っていく。取り残されたモモワロウたちは呆然とするしかなかった…
「ふふふ…さらばだ。パルデアの救世主よ」
To be contined…
-次回「輝きが支配する世界」-