ポケモンロード バイオレット・レクイエム 作:とり。@pktorisky
新月の夜…ネモが入院する病室に鳴り響く少女の声。その主は…
「あなたは…わたし!?」
「ふふっ」
ネモに瓜二つな少女は不敵な笑みを浮かべる…
ポケモンロード バイオレット・レクイエム
Chapter6 闇を乗り越えて
暗闇から現れた謎の少女。黒い制服を着ており、瞳が赤いところは異なるものの、その姿はまさにネモそのものであった。
(この子…どこから入ってきたの…?それにわたしそっくりってどういうこと…?)
「ふふ…混乱してるね。そんな事より…今のあなたじゃ特訓したところで焼け石に水。またハルトに一方的に負けることは目に見えている」
「………」
ネモは少女を否定できず、ただ黙って話を聞くことしかできなかった…
「その反応!やっぱり頭の中では理解していたんだね!そしてあなたはポケモン勝負でハルトを変えるために必要な事にも気が付いている」
「…ハルトにポケモン勝負で勝つこと。一方的に負けてるようじゃ心に響く訳がない」
「ご名答!だけどハルトに勝つために必要な事が分からずあなたは苦しんでいる」
「………」
「そんな迷えるメリープに教えてあげよっか?ハルトに勝つために必要なものを。もっともあなたも心の奥底では気づいているかもしれないけど?」
少女から感じる禍々しい黒いオーラ。この闇は触れてはいけないもの。ネモは理解していた。だが藁にも縋る想いでネモは少女に尋ねる。
「どうやってわたしに教えるつもりなの?」
「もちろん!あなたも大好きなポケモン勝負で!!」
少女はパチンと指を鳴らす。すると病室は暗闇に呑み込まれていき…バトルフィールドへと姿を変える!
「どういうこと…!?」
姿が変わったのは病室だけではなかった。ネモの服も入院着から着慣れた制服に変わっていたのだ。さらに異変はもう一つ。
「身体が…動くようになってる…!?」
「さあさあ!早く戦ろう!ふふふふふ!!」
-?????が 勝負を しかけてきた!-
「行くよー!ジャラランガ!!」
少女はうろこポケモンのジャラランガを繰り出した。
「あのジャラランガ…わたしのジャラランガにそっくり。じゃあわたしは…え!?」
ネモはいつの間に自分が両手にモンスターボールを握っている事に気が付く。そして二体のポケモンが勝手にボールから飛び出す!
「デスカーンにデスバーン!?この子たち、わたしのポケモンじゃない!それにこの二体って…」
かんおけポケモンのデスカーンにおんねんポケモンのデスバーン。二体を目にしたネモの脳裏にある戦いの光景が蘇る…
「この状況!パルデアのチャンピオンであろうお方がエクスプローラーズの雑魚ごときに苦戦した時にそっくりだねー!」
「………」
「ま、作戦を練ったのは親玉のスピネルってヤツなんだろうケド。あの三下トレーナー二人にあんな発想できるとは思えないし」
「く…なんでこの子たちが出てきたのかは分からないけどやるしかない!デスバーン!シャドークロー!」
しかしデスバーンは命令を無視。そしてデスカーンと共に不気味なオーラをまとい始める…
「やめて!そのわざは使っちゃ…!」
「みちづれ…使ったポケモンが戦闘不能になった場合、相手のポケモンも戦闘不能にしちゃうわざだね。ジャラランガ!スケイルノイズ!!」
「え!?」
ジャラランガは鱗を鳴らして広範囲に強烈な音波を発生させる。音波はデスカーンとデスバーンを容易く吹き飛ばし戦闘不能にする!
そしてデスカーンとデスバーンから発せられたオーラは棺桶のような形になり、ジャラランガを包み込み…ジャラランガは倒れてしまう!
「はい。お疲れ様でしたー」
少女はジャラランガをボールに戻す。一方でネモも無言でデスバーンたちをボールに戻す。
「なんで…なんでそんな事ができるの!?」
「そんな事って?」
「あなたはデスバーンがみちづれを使ったことを分かっていた!このまま攻撃したらジャラランガが犠牲になってしまうことも!なのになんで攻撃したの!?」
「じゃあ逆に聞くけどさ…あの戦いでハンベルって人が助けてくれなかったらどうするつもりだったの?」
「………」
「あの戦いの敗北条件はパーモットがひんし状態になること。つまりジャラランガみたいに犠牲にしても問題ない他のポケモンを切り捨ててさっさと先に進むのが合理的。でもあなたはその判断ができなかった。なんでだろうねー?」
「大切なポケモンを犠牲にするなんて…そんな事できるわけ…!」
「でもそのせいで余計な苦戦を強いられたよね?少なくともあの戦いでは仲間を犠牲にする判断を下せたドットって子の方が覚悟はできてたと思うけどなー」
「…ハルトは…ハルトだったら…そんなことしない!だからわたしだって!」
「ふうん…じゃ!次の勝負戦ってみよっかー!」
ネモの右手に現れるモンスターボール。嫌な予感がするネモであったが、他に繰り出せるポケモンはいない。恐る恐る投げたボールから現れたのは…
「こふおおおおーっ!」
「コバルオン!?」
「聖剣士と呼ばれる伝説のポケモンのコバルオン!味方としては超頼もしいねー!」
「っ…!」
コバルオンを目にしてネモの脳裏に蘇るのはヴレイとの戦い…そしてコバルオンによく似たパラドックスポケモンのテツノカシラの姿であった。
「なんでさっきから…こんなのばっかり…!」
「まーた嫌な記憶を思い出しちゃったねー。さてさて。こっちはこの子たちを使わせてもらおっかなー?いっけー!」
少女はウインディとタイカイデンを繰り出した!
「今度はポケモン二体!?それにタイカイデンにヒスイのすがたのウインディって…ハルトと同じポケモン…!?」
「ウインディはかえんほうしゃ!タイカイデンは10まんボルト!!」
「かわして!!」
コバルオンは素早い身のこなしで炎と電撃の攻撃を回避する!
「今度は言う事を聞いてくれた!ウインディにせいなるつるぎ!!」
コバルオンのツノが伸び、剣のような形状に!素早い斬撃がウインディに命中する!
「よし!効果は抜群!」
「やるねえ。だったらウインディはフレアドライブ!タイカイデンはサンダーダイブ!」
ウインディは炎をまとい、そしてタイカイデンは上空に飛び上がってから雷をまとって攻撃を構える!
「引き付けて!至近距離まで近づいて来た所をせいなるつるぎで決めるよ!」
「ふふっ」
少女は不敵な笑みを浮かべた後…ウインディたちと共にコバルオンに向かって接近してきた!攻撃を放とうとするコバルオン!
「コバルオン!ストップ!」
攻撃を止めるコバルオン。ウインディたちの攻撃が炸裂しコバルオンは倒れてしまう…
「あーあ。何で攻撃をやめたの?」
「だって…あのまま攻撃したらあなたまで巻き込まれて…」
「人を傷つける事はできないってこと?でもそのせいでコバルオンは無駄に犠牲になってしまった。それだけじゃない。エアカッター」
「!?」
突如空から風の刃がネモに向かって降り注ぐ!
「うっっああああああっ!!!」
攻撃を喰らい痛みで悶絶するネモ。苦しみながらネモが空を見上げると…そこにはれっかポケモンのファイアローの姿があった。
「さっきあなたが私を切る事を躊躇しなければコバルオンは犠牲にならなかったし、あなたも今の奇襲を喰らわずに済んだ」
「こんな卑怯な手…!」
「卑怯?そんな事言っていいの?これ、あなたが大好きなハルトが考えた作戦なんだよ?」
「…はっ!」
(そういえばペパーが言ってた…ハルトはユートピアとの戦いで自分の身を囮にして大怪我を負いながらも隙を作って敵を倒したって…)
「今の状況に関しては少なくともハルトを躊躇なく斬れたユートピアの方が上手。ついでに言うとハルトだって勝つために必要なら躊躇なく相手を殺せるんじゃないかな?」
「ハルトが人を殺める!?そんな事ありえ…」
そう言いかけた途端、ネモの身体が震え始める。殺意に満ちたハルトの目を見た時の恐怖が蘇ってきたのだ…
(あの時ハルトはヴレイと同じ冷たい目をしていた…今のハルトだったら本当に…)
「さてさて!自分に必要なものが何なのか!もう分かったかなー?いや、本当はとっくに分かっているんじゃないかな?」
「必要なものが…分かってるって…!?」
「だってあなた言ってたよね?敗北から得られる実りもあるって。エクスプローラーズとの戦いにヴレイとの戦い、そしてこの前のハルトとの勝負。それぞれの戦いの後にあなたは考え、ある結論に至った。だけどその結論を認めたくなかったんだ」
「………」
「あなたに足りないもの。それは冷徹さ!勝つために仲間を犠牲にすることも!己の身すら手駒の一つと割り切ることも!躊躇なく人を斬ることもできない!!」
「ハルトは人の命を奪う事も躊躇しない連中と戦ってるんだよ?そんな生半可な気持ちでハルトと並び立つことできると思ってるの?甘ったれてるんじゃねーよ!!」
「………」
「その甘い考えを捨てちゃいなよ。ただ敵を叩き潰す事だけを考えろ。勝つために手段を選ぶな。敵を殺すつもりで戦え。そうすればあなたはもっと強くなれる」
「もっと…強く…」
「そう。こんな風にね」
少女が指を鳴らすとネモの目の前にあるビジョンが流れ始める…それはある少女がポケモンを使役し戦う姿であった。
「これが…甘さを捨てた…未来のわたし…」
敵を倒すためには手段を選ばないビジョンのネモ。勝つためなら仲間を犠牲にすることをいとわず、敵のトレーナーを殺めることすらいとわない。
『あははははは』
ハルトの隣に立ち、笑いながら次々と敵をせん滅するビジョンのネモ。
「わたしは…わたしは…!」
だがビジョンのネモの瞳には光が灯っていなかった…
「こんな強さなんていらない!!わたしは…甘さを捨てない!!!」
「パーモット!エレキフィールド!!」
ネモの叫びと共に現れたパーモットは拳を地面にぶつける!するとフィールドが電気に包まれ始める!!
「甘さを捨てた未来のわたしがやっていたのはただの殺し合い!わたしが大好きなポケモン勝負とは全然違う!!」
「何が違うんだい?ポケモンを使って相手を傷つけ合うことには変わりないじゃないか」
「ポケモン勝負はね。共に戦って人とポケモンが分かり合って…そしてぶつかり合うことで人と人も分かり合える。ポケモン勝負をすれば勝っても負けても笑顔になれる。人と人、人とポケモン、ポケモンとポケモンが友達になれるんだ」
「友達ね…」
「だけど甘さを捨てたわたしは相手を否定し憎んで命を奪い合っていた。その痛みが新たな憎しみを生み出し、終わりのない奪い合いが繰り返される…そんな悲しい未来には何の意味も無い!!」
「でもこのままじゃキミは強くなれない。ハルトを救うのは諦めるのかい?」
「諦めない!わたしの信じるポケモン勝負で強くなる方法を見つけてみせる!いっぱい勝負して…いっぱい頑張って!そしてハルトにもわたしの信じるポケモン勝負を伝え続ける!何度でも!どれだけ時間がかかろうとも!」
「はあ…キミって本当に甘ったれてるね。しかも頑固でわがまま」
少しずつ広がっていくパーモットの放ったエレキフィールド。エレキフィールドが広がるたびにバトルフィールドに満ちていた闇は少しずつ消え始めていた…
「でもその甘ったれた信念、嫌いじゃないよ」
そして少女の姿も暗闇と呼応するように少しずつ消えていく…
「…さっきから不可解な事が起きてておかしいと思ったんだ。やっぱりこの世界は現実じゃなくて夢の世界…いや、わたしの心の闇を映し出した悪夢の世界だったんだね。そんなことができるのはあのポケモンだけ…」
「キミはこの悪夢の世界の外にいるパーモットにエレキフィールドを指示した。エレキフィールドには眠りを妨げる効果がある。間もなくキミはこの悪夢の世界から脱出できるという訳だ」
消えかかっている少女の背後には漆黒のポケモンの姿があった。
「さてさて。やーっと覚悟ができたみたいだね…あがいてみなよ!キミのその甘ったれた信念を貫き通してみせろ!!」
「…うん!」
少女の問いかけに対して力強く頷くネモ。その瞳にもう迷いは無かった。同時に悪夢の世界と少女は消滅。
「………」
そしてネモは『あんこくポケモン』の異名を持つポケモンの名を呼ぶ…
「ダークライ…ありがとう」
「フッ…」
影の中へと姿を消すダークライ。ダークライは表情を変えないポケモンだが、ネモにはダークライがかすかに微笑んだように思えたのであった。
「パーモ!」
「パーモットもありがとね。わたしを眠りから覚ましてくれて!」
目を覚ましたネモの側に寄るパーモット。窓から刺す朝の陽ざしがネモの病室を少しずつ照らしていくのであった…
「ダークライに会ったですって!?」
その後、昨晩に起きた出来事をネモはクラベル、ペパー、ボタンの三人に伝えた。
「ダークライって?」
「あんこくポケモンのダークライ。新月の夜に活動し、人やポケモンを悪夢に誘うと言われています」
「悪夢に誘うあんこくポケモン…滅茶苦茶ヤバヤバちゃんだな…」
「そんなダークライは幻のポケモンと呼ばれるほど珍しいのです。パルデアでの目撃例はごくわずか…その目撃例すらいずれも確証が無いものばかり」
「昨日の夜は新月だったけど…それでもパルデアにダークライが現れたのは異例ってことですか?」
「はい。学会発表レベルの事態ですよ。しかし何故ダークライがネモさんの目の前に現れたのでしょう?」
「あんこくポケモンって言うくらいだし…今のハルトは心に強い闇を抱いている。そんな心の闇に引き寄せられたとか…?」
「それだったらハルトの前にダークライが現れるんじゃねーか?」
「確かに…ハルトはうなされてたけど、あれはダークライのせいじゃなさそうだし…」
「あのダークライは…わたしの心の闇に呼応して現れたと思うんだ」
「ネモの…」
「心の闇…?」
「あの子はとっても世話焼きな子で…迷うわたしに活を入れるために悪夢の世界に誘った…そう感じるんだ。都合の良い解釈かもしれないけどね」
「世話焼きで活を入れてくれたって…ダークライってそんなキャラだっけ?いや、うちダークライの事あまり知らんけど」
「別にいいんじゃねーか?都合の良い解釈でもさ」
「人もポケモンも性格はそれぞれ異なります。もしかしたら世話焼きなダークライもいるのかもしれませんね」
「さてと…覚悟は決まった!わたし!ハルトともう一度勝負する!」
「…戦えるのか?今のアイツと」
「うん。今のままじゃ…ハルトは取り返しのつかない過ちを犯してしまう。そんな嫌な予感がするんだ。だからその前に!」
「わたしの信じる楽しいポケモン勝負をハルトにぶつける!そしてハルトの笑顔を取り戻してみせる!」
To be contined…
-次回「託された切り札」-