ポケモンロード バイオレット・レクイエム 作:とり。@pktorisky
対峙するのはアカデミーの生徒のハルト、そしてアカデミー校長のクラベル。
ハルトが繰り出すマジシャンポケモンのマスカーニャに対し、クラベルはシンガーポケモンのラウドボーンを繰り出していた。
「ラウドボーン!フレアソングです!」
ラウドボーンは重厚感のある歌声に乗せて炎を放つ!
「トリックフラワー拡散!」
大量の種子を前方に向けて放つマスカーニャ。すると炎の歌はマスカーニャに届く前にトリックフラワーに引火、その場で爆発を起こす!
「なるほど…このような方法で苦手な炎技を防ぐとは!」
「マスカーニャ!」
ハルトはテラスタルオーブを取り出し掲げる!
(…!来ますか!テラスタル!)
「気を付けてください!ラウドボーン!」
「未来を切り開く!」
輝きを放ち始めるハルトのテラスタルオーブ。しかし…
「はあ…はあ…」
その輝きを目にしたハルトの脳裏に蘇るのは…激痛と共に自らの身体が結晶に蝕まれていき、自由も五感も奪われていく恐怖。
「うぐう!」
思わずテラスタルオーブを手放し、そしてハルトはその場に倒れてしまう!
「ハルトさん!大丈夫ですか!?」
「…大丈夫です…すみません…」
「いえ、謝る必要なんてありませんよ。ハルトさん自身の事が何より大事ですから」
(くそ…ネモたちがぼくの心を開いてくれたのに…あの恐怖はまだぼくの心を闇に引きずり込もうとするのかっ…!)
「ハルト」
バトルフィールドにやってきたのはボタン。ボタンに差し伸べられた手を握ってハルトは立ち上がる。
「ありがとう。カッコ悪いところ見せちゃったね」
「ううん。それよりハルト。特訓も大事だけど息抜きも大事。だから…えと…うちとお出かけしない?」
「お出かけ?」
ポケモンロード バイオレット・レクイエム
第20話 ガチグマとモモワロウ
ボタンに誘われたハルトがやってきたのはパルデア西部にあるカラフシティ。
『水の町』とも呼ばれており、青と白で統一された美しい街並みが特徴だ。
「カラフシティに来たのも結構久しぶりだな…それにボタンと二人で出かけるのもちょっと珍しいかも」
「確かに…ハルトと一緒に出かける時は大体ネモかペパーも一緒だったね」
「それにしても意外だな…ボタンからデートに誘うなんて」
「でででデート!?い、いや!う、うちそんなつもりじゃなくて!!それにペパーとかスター団のみんなとか!異性と二人で出かけるくらいうちだって普通にあるし!!」
「ふふ。冗談だよ」
「もう!…でも良かった。軽口叩けるくらい元気になって」
「そうだね…みんなには本当に感謝してるよ」
「うん。さてと…着いたよ」
二人の目の前にあるのはパルデアの中でも有名な料理店。
「ここってハイダイ倶楽部だよね…やっぱりデートじゃ?」
「ちーがーうー!待ち合わせ場所がここなん」
「待ち合わせ?」
「ハルトに会って欲しい人がいて…それでここに来たんよ」
「ぼくに会って欲しい人…?わざわざ一緒に来たってことはぼくが会った事が無い人ってことだよね?ネモやボタンと仲良しだっていうライジングボルテッカーズの人たちとか?」
「いい線行ってるけどちょっとハズレ。…お、きたきた」
ブロロロロ…という重低音がハルトたちに少しずつ近づいてくる。
「車のエンジン音…いや、これはブロロロームの走る音だ!」
走るのが大好きなたきとうポケモンのブロロロームをエンジン代わりにしたオープンカーが二人の前で停車。乗っていたのは年をとった女性と男性の二人組だ。
「久しぶりだねぇ!」
女性がボタンに挨拶しようとしたその時!二人のボールから突如ポケモンが飛び出し…ハルトに抱きついてきた!
「モモワーイ!!」
「ガウー!」
「モモワロウ!?ガチグマ!?」
レストランに入った一行。テーブルに並ぶたくさんの料理。『ポケモンのいない世界』における『中華料理』のようなものだ。
そして隣のテーブルにはポケモン用の料理も並べられている。ポケモンたちもボールから出して一緒に食べる事にした。
「いいんですか?こんなにおごってもらっちゃって?ここって結構な高級料理店だったような…?」
「遠慮せずに食いな!あたしたちみたいな年寄りは若者が美味しそうに食べてるのを見ると元気が出るもんなんだよ!」
「もぐもぐ…そうだよハルト…もぐもぐ…せっかくタダで食べれるなら…もぐもぐ…食べないと勿体ない」
「アギャア!」
ボタンは早速料理を頬張りながらハルトにそう語る。ポケモンたちも美味しい料理を食べてご機嫌なようだ。
「…ボタンって意外と図々しいところあるよね」
「ん?ペパーにも似たような事言われたような…?」
「自己紹介が遅れたね。あたしはダイアナ!冒険家だよ!」
つなぎ姿が印象的な老婦、ダイアナは元気にハルトに自己紹介する。
「わたくしはハンベル。以前はアメジオ様の執事をしておりました」
執事服が特徴的な老夫のハンベル。丁寧な物腰でダイアナとは対照的だ。
「初めましてダイアナさん。ハンベルさん。ぼくはハルト、ボタンの友達です」
「二人ともラクアで一緒に戦ってくれたん。特にハンベルさんはうちやネモのピンチを救ってくれたんよ」
「ネモとボタンのピンチを…あ!」
ハルトの脳裏に蘇ったのは先日ネモとポケモン勝負した時のこと。
『前にヨノワールがパートナーのトレーナーに助けてもらったことがあってね、育ててみたくなったんだ』
そしてポケモンたちのテーブルに目を向けると、そこにはネモが先日のポケモン勝負で最初に繰り出したのと同じポケモン、ヨノワールの姿が。
ハルトはハンベルのヨノワールに近づくとまじまじと観察する。
「この子がネモの言っていたヨノワールか…よく鍛えられていますね。ネモたちのピンチを救ったってのも納得です。パルデアのチャンピオンランクになれるくらい強いかも…」
「ほう!一目見ただけでポケモンの力量を見定めるとは流石だねえ!」
「ははは。買いかぶりすぎですよ」
「えと。話を戻すね。ラクアでの戦いでモモワロウとガチグマを見て気になってはいたんだけど、聞きそびれちゃって」
「あの時は戦いが終わった後も慌ただしかったからねえ」
「それからも色々あって忘れかけてたけど…この前ハルトが話してくれたでしょ?未来にタイムスリップした時にモモワロウとガチグマとはぐれちゃったって。それでピンと来たん。あのモモワロウとガチグマはハルトが捕まえた子だったんじゃないかって」
「未来にタイムスリップ…?何やら複雑な事情があるようですね…」
「苦労しているトレーナーは雰囲気が違う。あの子から感じるトレーナーとしての気迫…あの若さであたしたちよりも多くの修羅場を乗り越えてるかもしれないね」
「それでぼくをダイアナさんとハンベルさんに会わせたんだね」
「そして見事大正解!お手柄じゃないかボタン!」
「えへへ…」
「…未来の世界に行った後、一番気がかりだったのがモモワロウとガチグマのことだったんだ。二人とも無事で本当に良かった…」
モモワロウとガチグマの頭を撫でるハルト。二体とも嬉しそうだ。
「お二人とモモワロウたちが出会った時のこと、教えてくれませんか?」
「もちろんだよ!」
「わたくしはキタカミの里のとこしえの森で彷徨っているガチグマと出会いました。その後戦いを経てガチグマはわたしのことを認めてくれたのです」
「とこしえの森か…ぼくとガチグマが出会ったのと同じ場所だ…」
「あたしがモモワロウと出会ったのもキタカミの里だね。里の人たちをキビキビ操っていたからねえ。懲らしめてやったんだ!」
「モモワロウー?人やポケモンを操っちゃダメって言ったよねー?」
「モモ!モモー!!」
叱るハルトに対し、モモワロウは何かを訴えかけるような仕草をする。
「ハルト。もしかしたらモモワロウは里の人を操ってハルトを捜させようとしてたのかも」
「…!」
「モモ!」
ボタンの推察に対してモモワロウは頷いた。
「今思えば…ガチグマはハルト様、あなたを捜していたのかもしれませんね」
「モモワロウとガチグマがダイアナさんとハンベルさんをパートナーに選んだのも、二人ほどの実力者ならハルトを助けてくれるかもって思ったのかも」
「そっか…ふたりともありがとう。ぼくを助けるために頑張ってくれて。でもモモワロウ!それでもキビキビはめっ!だからね!」
「モモ…」
「ダイアナさん。ハンベルさん。ありがとうございます。モモワロウたちのパートナーになってくれて」
「礼なんていらないよ!あたしもモモワロウが仲間になってくれたおかげで旅がますます楽しくなったからねえ!」
「わたくしも同感でございます。ガチグマのおかげで多くの新しい経験を得られました」
「それと二人にお願いがあります。これからもモモワロウとガチグマのパートナーでいてくれませんか?」
「え!?」
「それは構いませんが…本当によろしいのですか?」
「元々はあんたが最初に捕まえたポケモンなんだろう?あたしはてっきりモモワロウたちを返して欲しいってお願いされると思ってたんだけど…」
「確かに最初に捕まえたのはぼくですけど、そのあとぼくがタイムスリップしちゃったせいでお二人と一緒にいる時間の方が長くなっちゃいましたからね。特にモモワロウとぼくが一緒にいれた期間は2週間もないくらいですし」
そしてハルトはダイアナやハンベルのポケモンたちと仲良く遊んでいるモモワロウとガチグマに目を向ける。
「何よりモモワロウもガチグマもダイアナさんとハンベルさんに懐いていますし、お二人のポケモンたちと楽しくしてる。ポケモン自身が幸せな事が一番大事ですから」
「…自分よりもポケモンの幸せを第一に考える。素晴らしい心がけです」
「承知したよ!これからもあんたの分まで責任をもって育てさせてもらうよ!」
「もっとも我々はもう老いぼれ。先は長くありません。天寿を全うした際にはまたハルト様の元へ戻ってくることになるでしょう」
「何言ってるんだいハンベル!あたしはあと60年は旅を続けるつもりだよ!あんたにも最期まで付き合ってもらうからね!」
「ダイアナさん…何歳まで生きるつもりなん…?」
「ははは!これは長旅になりそうですな」
「ふふ。60年も経ったらぼくもおじいちゃんだ」
(60年後か…)
ハルトの脳裏にとある記憶が蘇る。
(ぼくが未来で見たレポートによると今から60年後にテラスタルエネルギーの暴走が起きるという。この楽しい時間も…そう長くは続かないのか…?)
「…ハルト?どしたん?」
「あ、いや。なんでもないよ」
食事を終えてハイダイ倶楽部の外に出る四人。ダイアナとハンベルはオープンカーに乗り込む。
「それじゃあよろしくお願いします。ガチグマ。モモワロウ。いい子にするんだよ?」
「ガウ!」
「モモ!」
「会いたくなりましたらいつでもお呼びください」
「フルスロットルで駆けつけるからね!」
そして二人はモモワロウたちをボールに戻し、出発する!
「それじゃあまたね二人とも!」
「お元気で!」
「はい!さようならー!」
「お疲れ様でスター」
手を振ってダイアナたちを見送り終えたハルトとボタン。
「じゃあぼくたちも…」
「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおん!!!!」
突如大声が周囲に鳴り響く!
「いきなり何なん!?」
「ハイダイ倶楽部の中からだ…行ってみよう!」
店内に再び入るハルトとボタン。二人の目の前に広がっていた光景は…
「この料理も!この料理も!名前は知らねーけど!!」
「めっちゃ美味いぞおおおおおおおおおおおお!!!!」
「…へ?」
テーブルの上には大量の料理。そして感極まって泣きながら叫ぶ身長2mを軽く超える大柄な男がそこにいたのであった。
「…確かにハイダイ倶楽部の料理は美味しいけど…泣くほどなん!?」
「この時代は最高だな…こんな美味い飯が食えるなんて!ヴレイはこの身体に味覚の機能なんていらないって言ってたけど付けてくれて大正解だぞ!」
「…あいつの気持ち、ちょっと分かるかも」
「え?そうなん?」
ハルトは未来世界のエリアゼロの研究所の事を思い出す。
「ハルト。これを」
そう言ってフトゥーAIは手のひらサイズの物体をハルトに手渡す。
「何ですかこれ?グミみたいな…?」
「人が一日に必要な成分が詰まった栄養カプセルだ。研究所で育てられている植物も食べられなくはないが、それだけでは栄養素が全く足りない。これを食べて栄養補給するといい」
「分かりました。頂きます」
栄養カプセルを口の中に入れて噛むハルトだったが…
「美味いとか不味いとかじゃなくて…味がしない…」
「テラスタル病の激痛とかに比べたら全然マシだけど…それでも半年以上あれしか食べられなかったのもしんどかったな…」
「それでペパーのサンドウィッチを食べて大号泣したん…」
「って待って。今あいつヴレイって言ってなかった?」
「…まさか!?」
慌ててハルトとボタンは大男の前に行き男の姿を確かめる!
「クォークボディ…機械でできた身体…!」
身長2mを軽く超える筋骨隆々で肩幅も広い大男。顔の右半分を鉄の仮面で隠しており、身体は人工皮膚で覆われているが、その一部は機械が露出してしまっていた。
「ってことは…ユートピア!?」
「おお!救世主のハルト!それにその仲間の…確かボタンって名前だったかな!」
「…あんたの名前は?」
「おではユートピアのパワー担当!剛腕のライドウだー!」
「剛腕のライドウ…あ…!」
ボタンはペパーやジニアと一緒にアカデミーを調査した時、アカデミーの地下へ向かう大きな足跡があったことを思い出す。
「アカデミー襲撃事件にはネモやハルトが戦ったヴレイの他にも足跡が大きな共犯者がいた。まさかこの人が!?」
「オマエたちとは一度話してーと思ってたんだ!こんなところで出会えるなんて今日はラッキーだなあ!」
「白々しいな。ぼくたちがここに来るのを知ってて待ち伏せしてたんじゃないの?ここに来た目的は何?」
「目的?そうだな…おでがここに来た目的は…」
「目的は…?」
「うめえメシを食うことだー!!!」
「…は?」
「未来にはうめー食いモンが全然ねえ!だからヒマな時はこうやってこの時代のうめーモンを食いに行ってるんだ!!」
「…そんな馬鹿げた話を信じられると思う?アカデミーを滅茶苦茶にしたことにエクシード社での戦い。あんたらは今まで散々暴れまわってるんだよ?」
「うーん…確かに。でもおで嘘なんて付いてねーんだよなあ…」
「オイラはその兄ちゃんの言ってることは本当だと思うんだい!」
「ハイダイさん!?」
店の奥からやってきたのはふくよかで朗らかな男ハイダイ。ハイダイ倶楽部の店主でカラフシティのジムリーダーでもある。
「兄ちゃんはいい食いっぷりだった!嘘を付いたり企んでたりしたら飯も不味くなっちまう!あんな美味そうに食えるわけがないんだい!」
「いやどういう理屈なんそれ!?」
「一理あるような無いような…」
「そうだ!ポケモン勝負で確かめるってのはどうだい!?」
「いいね!メシも好きだがポケモン勝負も大好きだ!やろうぜ!ポケモン勝負!」
「ポケモン勝負をすれば分かり合える…か。分かった。受けて立つよ。ハイダイさん。バトルフィールド借りていいですか?」
「もちろんだい!」
そして一行は街中にあるバトルフィールドへと移動する。
「ボタン。ユートピアはまたパラドックスポケモン軍団で襲ってくるかもしれない。その時は頼んだよ」
「えと…できる範囲でなんとかする」
「審判はオイラがするんだい!ルールは1VS1のシングルバトル一本勝負!準備はいいかい!?」
「はい!」
「もちろんだ!この勝負でおでが嘘ついてねーって事を証明してやる!」
「それでは試合開始だい!!」
To be continued…
-次回「二律背反の想い」-