ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない 作:なはた
「……呆れた、また来たのね貴方達」
まるで宝石のような輝きを放つ美しき銀の髪、人間離れした整った容姿と抱きしめればポキッと折れてしまいそうなほどか細い小柄さ、そして黒で彩られたゴシックロリータドレスも相まって西洋の人形を想起させよう。だがしかし、その可愛らしい見た目と裏腹に彼女は世界を悪に染め上げ支配しようと目論む悪の組織『ソサエティ』の幹部―――名はエリザ。
目の前に立ちふさがる3人の魔法少女に彼女は顔色一つ変えず感情の籠ってない紅い瞳を向けると、魔法少女達はその圧に思わず体を震わせる。他の幹部達は作り出した怪物を仕向けて来るのに対し、エリザは手に持つ漆黒の『エテルネルステッキ』を武器としているのだ。ここだけ聞くと怪物よりマシなんじゃないかと思うだろうが、それは大きな間違いで……彼女がステッキを軽く一振りするだけで周囲の空間が歪み、圧倒的な魔力が無数のレーザーとなり的確に打ち抜いてくる。
今まで何度か戦ってきているけれど、毎回エリザには手も足も出ず負けてしまっているのが現状だ。何故か彼女はその後、人々や町を傷つける事はせず黙って姿を消しているという点には首を傾げるが……それでも気が変わりいつ危害を加えるか分からない。どうあれ魔法少女にとっては必ずや倒さねばならない存在だ。
その信念が震える体に鞭を打つ。
「今日こそ貴方の好きにはさせないんだから!」
エリザの放つ圧にも負けず高らかに声を上げたのは、ピンク色のコスチュームを身に纏った魔法少女―――マジカルリリィ。
「リッ、リリィの言う通り……私、魔法少女になるとき決めた……この町のみんなの笑顔を絶対に守ってみせるって……!」
リリィに続くように、たどたどしくもその内側には力強い信念を感じさせる緑色のコスチュームを身に纏った魔法少女―――マジカルアメリア。
「ええ、2人の言う通りです。私達は魔法少女、弱きを助け強きを挫く……いくらエリザがドチャシコ可愛いゴスロリ銀髪うすほそ美少女だとしても平和を脅かす敵である事に変わりはありません」
そして青色のコスチュームを身に纏う冷静沈着で頼れる3人のリーダーこと魔法少女―――マジカルソフィア。
「ソフィアちゃん今なんて??」
「う……うすほそ……?」
「―――リリィ!!!アメリア!!!エリザを犯しに行きま……ではありません倒しに行きますよ!!!!」
「う、うん……」
「うるさ……」
地面を蹴りこちらに向かって飛んでくる魔法少女達(約1名何故か赤面している青)にエリザは分かりやすく大きなため息をつきながら。
「……ふーん、ま、好きにすれば」
そう言って気だるそうにステッキを振るのであった―――結果はというと現実は残酷かな、『エテルネルステッキ』から生成される魔力をレーザー状にして放つ技で照射されるレーザーは数にして20をも超え防御技を持たぬ彼女達にとっては実質難攻不落と言っていいだろう。
地面に倒れ伏し悔しがるリリィとアメリア(約1名何故か恍惚とした表情を浮かべている青)を見てエリザは追い打ちをかけるように。
「……何度やっても無駄、貴方達では一生私に勝てない」
一切の感情を持たぬ瞳でそう言い放ち、漆黒の霧の中へ消え去って行った。魔法少女達は各々が持つマジカルジュエルによって変身している、敵の出現や場所もジュエルが感知し知らせてもらう事で即座に向かう事が出来るのだ。他の幹部達は当然何かしら悪事を働こうとしているが……エリザだけはただその場に居るだけで何かしようとする気配が無い。今までもそうだったけれど、結局今回も……
マジカルリリィは虚空を見つめながらボソッと呟く。
「エリザ、貴方は一体何がしたいの……?」
「今日もまたエリザの極太レーザーを前に成すすべもなく敗北してしまいました、あのサイズは流石にデカすぎますよ!受ける女の子の気持ちをもう少し考えてほしいものですねフフフ……」
「この人がリーダーでいいのか……少し不安になって……きた……」
『ソサエティ』のアジト内にて。
「…………」
エリザは幹部として与えられている自室に戻ると。
「変身解除ォォォ……」
まるで悪霊の唸りかの如く禍々しい声を出しながら、黒のゴシックロリータドレスから男物の制服を着たぶっかぶかの姿へと戻りそのまま床に倒れた。その様はさながら帰宅して玄関で電池が切れて動けなくなる限界社畜OLである、悲しいなあ。
ここまで来れば察しの良い読者は……いやまあというかあらすじに書いてあるので、恐らく皆さん既にご存じだろうが……このエリザという銀髪美少女敵幹部の正体はこの世界にTS転生してしまった元一般オタク男子高校生である。
「子供を庇ってトラックに跳ねられて死んだと思ったら、女神様的な存在に魔法少女モノの世界に魔法少女として転生させてあげましょうとか言ってきてさ?TS転生ってだけで俺の大好物だってのにそれに加えて……魔法少女!銀髪うすほそ美少女!チート武器付き!とかもう欲張りセットだよ。カロリー摂取しすぎて腹爆発しちまうっての!ぶるああああああ……何か悲しくなってきたからやめよ」
『美味しい話には裏がある』ということわざがあるが、彼こと……橘翔太のTS転生にはとある大きな問題があった。それは。
「―――エテルネルステッキさん!今日もありがとうございます!貴方がいなかったら俺マジで魔法少女からの打撃一つで死んじゃうんすよ、ホントこれからもよろしくお願いしますね……」
肉体がよわよわすぎて仮に肉弾戦になろうものならパンチ一発で瞬殺されるレベルの雑魚なのだ、なのでこの銀髪うすほそ美少女の生死は全て女神様からの転生特典であるエテルネルステッキ一本に託されている。
ちなみにこのエリザは上で説明したように本来は魔法少女なのだが、味方側として戦ったら魔法少女モノで必ずや一度は訪れるであろう敗北ノルマを恐れてしまい敵サイドで幹部としての道を選び今に至る。生きる為だし、骨バッキバキに折れる魔法少女とか絵面的にも完全アウトだ。もしニチアサでやったら女児先輩達が悲鳴を上げる放送事故と化すであろう。
「俺としても進んでじゃなく仕方なく望んだ道だし、だから市民や街に危害は加えず魔法少女達にも出来る限りレーザーの威力を抑えて撃ってるのに……強すぎだろコレ、毎回地面に倒れる姿見ると申し訳なさと罪悪感で胸がいっぱいになるんだけど……」
色々と不遇だが、これから最も恐れる事態というのは。
「あの魔法少女の子達ってまだ成って1ヶ月ぐらいみたいだし、今はまだまだだけどもし……もし将来俺の力をあの魔法少女達が上回ってきたら……」
―――それはもう死である。
「…………愛してるよ、エテルネルステッキさん。だから頑張って俺を守ってね?」
死んだ瞳でステッキに頬ずりするエリザ、見た目は可愛いのでまだギリギリ絵になってるのが救いである。よかったね!
TS銀髪うすほそ美少女ことエリザの戦いは続く。
次回から地の文は主人公視点となります。