ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない 作:なはた
「―――ソフィア・コールドアロー!」
「ブレ……イク……ダー……」
魔法少女マジカルソフィア、彼女のまるで透き通った湖の如く透明感がありつつも同時に確かな意志の強さを感じさせる美しい声と共に空間に現れたのは、絶対零度の冷気を纏う氷の弓と一本の大きな氷の矢。ソフィアが弓を引き矢を放つとそれは一直線にソサエティ幹部ハザードが出した怪人ブレイクダーへ向かい、巨体を誇るその怪人は反撃の隙すら与えられないまま一瞬にして全身を凍結されてしまい……次の瞬間にはガラス細工のように粉々に砕け散った。
「チッ……!今日はここまでにしといてやる!」
ハザードは苛立ちを隠そうともせず、大きな舌打ちをつくと捨て台詞を吐きながらその場から消え去っていった。
「全く、懲りないものですね」
毎度の如く聞き慣れた台詞にソフィアは小さくため息をつきながら、凛とした立ち姿のまま変身を解くと同様に元の姿へと戻ったあすかと奏が明るい顔色を浮かべながら彼女の元へ駆け寄ってきた。
「コールドアロー何度見ても本当にカッコいいなぁ!弓道が上手な千代ちゃんに相応しい技だよね!ほらこう、この前見させてもらったときも的のド真ん中にスパーンって!」
「ささ、流石自宅に弓道場があるぐらいの弓道一家……」
「2人ともやめてください、私の腕なんてお母様に比べればまだまだ足元にも及びません」
「う~ん、そうかな……?私は千代ちゃんも十分すぎるほど凄いと思うよ!」
「ま、まあ千代のお母さんは学生時代に全国大会で優勝経験があって、今も弓道界で知らぬ者はいないほどの名人らしいから自信が持てないのも仕方ないかも……でもあすかの言う通り千代も凄い。ほっ、誇っていい……!」
「……ありがとうございます」
元気に励ましてくれる2人を見て、千代は自分の心がポカポカと温かくなるのを感じながら微笑み返す。彼女達は同じ魔法少女としてだけでなく、純粋に友達として深い友情で繋がっているのだ―――
「……それにしても、今日は会えませんでしたね」
「えっ、誰に?」
「ッ……!?あ、あすか、そこには突っ込まない方が……!」
可愛らしく頭にハテナマークを浮かべるあすかと察してしまったのか顔を青ざめさせる奏……あれ?何か今回のソフィアさん真面目じゃね?と読者の皆さんも疑問に抱いていた事だろう、いやソフィアこと古江千代という少女は本来真面目な性格の大和撫子なので決して偽ってはいない。ただ……例の彼女関連でちょっとだけ(???)
「―――決まってるじゃないですか!愛しのゴスロリ銀髪うすほそ美少女エリザですよ!結局この前はテ・マン耐久レースを行えずに去られてしまったので、私としてもお預けを食らった気分であれから1週間ずっと悶々とした日々を送っていますし……」
「あはは……」
「こ、これさえ無ければいいのに……」
バグってしまうのだ……千代の発言がよく理解出来ずもはや苦笑いするしかないあすかとまたかよと言わんばかりにげっそりした表情の奏、そんな引き気味の2人に構わず彼女は言葉を続ける。
「貴方と戦い合いならぬ戦い愛を交わし始めてもう早数ヶ月が経つにも関わらず、私は未だに貴方の事を全く知りません!ああ……!もっと見て話して理解して最終的には深い深い♡所まで触れ合いたいですー!!!」
変態魔法少女の魂の叫びは空の彼方へと消え去るのであった。
それから数日後の休日、『ソサエティ』アジトにて。
「―――シュタイン、打ち合わせ通りにお願いね」
「はい!おまかせくださいえりざさま!」
無邪気で可愛らしい笑みを浮かべながら元気に返事を返してくるのは、絹のように流れる金髪にまるで宝石の如く輝くエメラルドの瞳、それに何より特徴的な体中に繋ぎ目がある人造人間シュタインちゃんだ。俺は今彼女と一緒にソサエティ内の中央に位置する会議室への入口である巨大な扉の前に立っており……そう、とある野望を叶える為に。
「……行こ」
「れっつごー!です!」
俺は扉を開け足を進め、会議場所となる大理石のテーブルへ着くと中央のモニターに砂嵐が走りながら不気味なガスマスクを被る男……ソサエティのボスが画面いっぱいに映し出された。
『……エリザよ、どうやら私に話があるらしいな」
「…………ええ、一つ頼みたい事があるの」
響く低音ボイスと漏れ出る荒々しい呼吸音、何度前にしてもその禍々しいオーラについ圧倒されてしまう。まあアニメや映画パロにソサソサソーサ!とか若干イメージに対するノイズが混じり一瞬よく分からなくなるときはあるものの……結局の所コイツの目的は文明社会を破壊し、そして世界征服を成し遂げようと企む。要は純度100%な悪の存在なのだ、下手に怒らせようものならどんな罰が待ち受けているか分からない。
『……言ってみろ』
「……ソサエティはこの現代社会、そしてそんなぬるま湯に何の疑問も抱かず浸かる人々に対し中指を立て既存の枠組みを全て破壊する組織」
『ああ、そうだ。愚かで醜い社会を一度消滅させ、ソサエティによる理想の新世界を作り上げる』
「でもこんな言葉があるでしょう―――敵を知り己を知れば百戦して危うべからず」
『何が言いたい』
「……つまり「ぼすー!えりざさまはじぶんのへやにぱそこん?とすまほ?というものがほしいみたいです!」
『……シュタイン』
俺の言葉を遮り、柱の陰から元気よくモニターの前へと現れるシュタインちゃん……当初の予定では「情報を得て敵である社会の弱点を把握すればソサエティにとって有利に物事が進むはず、だから私はPCとスマートフォンが必要だと思ってる」とそれ以外にも色々と所持するメリットを提示した上で、唯一と呼べるボスが甘くなる存在のシュタインちゃんに登場してもらい交渉の追い打ちをかけるつもりが完全に順番が狂ってしまった。彼女は純粋無垢でまだ実質子供のようなものだから仕方ないが……それにしてもこの状況はまずいな。
ガスマスク越しであるにも関わらず、ボスから俺に向けて強い殺気が放たれているのがひしひしと伝わってくる。
『……貴様、この私を前に現代社会を形成する上でかなりの比重を占め害悪と呼べる電子機器をアジトに置くつもりか……』
「…………」
……会議でモニター使ったりTVは置いてるくせに、と矛盾点について指摘したくなるもグッと堪えてこの怒りをどう抑えようものか必死に思考を巡らせていると。
「ぼす、えりざさまのおねがいはきけないのですか?」
シュタインちゃんがゆっくりとモニターへ近づき、ボスを上目遣いで見つめる形で尋ねた。
『議論の余地はない』
「……どうしても、ですか?」
『……ああ』
……ガスマスク越しなので当然表情なんて分からないが、二度目はほんの少しだけ返答するスピードが遅かったように感じた。これはつまり……
「……シュタイン、ちょっと来て」
「えりざさま?」
俺は彼女をこちらに呼び寄せ、こそっと耳元で囁きすぐに元のモニター前へ戻した。
『シュタインに何を吹き込んだかは知らないが無駄だ、私に怒りを抱かせた貴様の処罰。震えて待つが「―――め?」
……長い沈黙が場を包む、そして。
『……シュタイン、貴様今何と言った』
ボスがシュタインちゃんに問うと、彼女は両手を祈る形で握り真っすぐに見つめながら声を発した。
「ぼす、どうしても……だめ?」
『…………』
再度静寂が場に訪れ、約1分間に渡る沈黙の後……
『エリザよ、シュタインを連れてさっさと部屋へ戻るがいい。貴様の望む物はそこにある』
「……!」
『―――次は無いと思え』
そう言い放つとボスはモニターから姿を消して……俺はシュタインちゃんを連れて自分の部屋へ戻ると、何の技術を駆使した事やらPCとスマホが床に置かれていた。しかもご丁寧に最新型である……よっしゃあああああああああ!
これでもう悪の組織の敵幹部ではあるけれど、それ以上にオタクとして好きな作品の情報やファンアートを見れない虚しさから一人孤独に涙を流したり、諸星さんや伊藤さんと連絡先交換出来ないという事態に陥る事もないのだ。諸星さんとは会おうにもこの街でまた偶然再会する可能性に賭けるしかないが、家を知る伊藤さんとは可能になった。早速近いうちに会いに行くとしよう……内心喜びに満ち溢れる中、隣にいるシュタインちゃんが嬉しそうに笑いかけてくる。
「みっしょんせいこうですねえりざさま」
「ありがと、シュタイン」
「おやくにたててよかったです!」
俺があの場でシュタインちゃんに耳元で「こうすればいける」とアドバイスを伝えた甲斐があった……普段敬語を用いるキャラがふとした瞬間にその敬語を崩す破壊力ってのは凄まじいものだ、そこに上目遣いも加わるのだからあの親バカには効果抜群である。
「……それにしても」
「どうかいたしましたか?」
「……ううん、何でもない」
「?」
……シュタインちゃんは気づいていないだろうけど、最後ボスの声色がいつもより少しだけ上擦ってたのはまあ貸し借り無しのつもりで今回は墓場まで持って行ってやる事にした。というか前々から疑問に抱いていたが、魔法少女モノのボスで割とこういった一面を持つ奴は珍しいような?そもそも何故社会の破壊と世界征服なんて企んで……いやそんな物騒な思想、きっと理由を聞かされても理解出来ないはずだ。それにこの世界は普通の魔法少女モノと比べてもかなり変(例の青とか)だし、考えるだけ無駄か。
俺は疑問に蓋をして、心の奥底に封印した。
それよりも今日は祝うべきめでたい日だ、PCとスマホを手に入れた俺はようやく現代人の標準的レベルに追いついたのだから。約10日ほど前に出撃したきり、ずっと自室に籠っていたが……午後からお菓子でも買いに久しぶりに外出するか。
……だがしかし、俺はこの決断をすぐに後悔する事になるのであった。
「……あつい、溶ける。死ぬ……」
時刻的にちょうど真上へ登った太陽に照らされ、苦痛の声を漏らしながらウォーキングデッドな如くゾンビのようによろよろと歩く俺―――完全に甘く見ていた。今は7月上旬、梅雨も明け本格的に夏が到来しており地獄のような暑さ。普通の人でもしんどいというのに、このよわよわな体ではもはや拷問と呼べよう。
一旦涼しい所へ入ろうと決めたその瞬間。
「……や、ばい」
意識が朦朧とし、視界が上下に揺らぎ始めた……熱中症だと己の頭で理解する。これは「判断が遅い」と言わざるを得なかったようだ……某おにころ系作品のキャラの台詞を脳内で引用しながらゆっくりと体が地面へ倒れていき……
「―――危ない!」
「え」
透明感のある声が響き、俺は地面に倒れるギリギリの所で体を支えられ転倒を免れるのであった。
「……ふぅ、間一髪ですね。大丈夫ですか」
「……ちょっと、フラついただけ……」
「随分と顔が赤い……恐らく軽い熱中症ですね、すぐに涼しい屋内へ行き座った方が……ちょうどそこにカフェが。一緒に行きましょう、歩けますか?」
「……うん」
俺は上手く回らない頭でコクリと頷き、体を支えられながらカフェへと歩き出し……そこでようやくその人物の顔を見るとまだ恐らく中学生ぐらいの少女だった。朦朧としながら尋ねる。
「どうして、そこまでしてくれるの?」
するとその少女は、まるで当たり前と言わんばかりに。
「困っている人を助けるのは当然の事ですよ」
そう答えた。
「―――橘さん、具合はどうですか?」
「……だいぶ良くなった」
「ふふ、それなら安心ですね」
そう言って微笑みを向けてくれる少女―――名前は古江千代さんというらしい、カフェへ入り席に座って水を飲み空調の効いた涼しい空間の中でしばらくすると意識もハッキリとして落ち着いてきた。わざわざここまで付き合ってくれた古江さん、恐らく10人中10人が美しいと答えるであろうかなり整った容姿の美少女である。ネイビーブルの髪色にスラッとしていてスタイルも良い、可愛い系というより綺麗系で……しかし何故だろう?同時に強い恐怖心を抱いてしまうのは……いやそんな事を思うだなんて助けてくれた恩人に失礼だ。我ながら反省だな……
「本当にありがとう―――千代」
「ッ……!?」
俺は純粋に礼を伝えたのだが、古江さんは何故か突然驚いたような表情を浮かべると頬を赤く染め……かと思いきやまるで己を戒めるように自分の頬をパチンと強く叩き、そして落ち込んだように顔色を暗くしてしまった。えっ何感情のジェットコースターですか……?
「……大丈夫?」
困惑しつつも、心配になって声をかけると。
「……私には恋焦がれるほど愛しい想い人がいます、人を恋愛的な感情で好きになったのは生まれて初めての事でした。それほどまでに彼女の存在は私にとって鮮烈なものだったのです、なのに……」
「……なのに?」
「他の人に!貴方に一瞬でもときめいてしまいました!一体何故でしょう!?いえ、確かに貴方はとても可愛いうすほそ美少女ですが―――それでもこの行為は裏切りに値します!ああ……私は人間失格ですね……」
「…………」
思わず言葉を失う俺だったが、何とかしてフォローを振り絞り口に出す。
「……別に人間失格じゃないと思う、その、誰かを好きでもテレビに映るアイドルや俳優をつい可愛いとかカッコいいって思う事ぐらいはあるでしょう?今の貴方はそれ。わ、私は芸能人級に可愛いから……」
自分でも一体何を言ってるんだと思っています……いや可愛いのは客観的に見ても事実だしお許しください。
「……私の不貞を許してくれるのですか?」
「え、ええ」
不貞って結婚してる場合に使う言葉じゃ……ツッコミを我慢しながら古江さんを励ましてあげると、彼女は落ち込みながらも何とか顔色が良くなっていった。そして彼女は人差し指で1の形を作ると覚悟を定めた真剣な表情で。
「……ありがとうございます、この業を私は一生背負っていくと今ここで誓いましょう。純愛万歳です」
「…………千代は本当にその人の事が好きなのね」
遂にツッコミを諦めた俺は先ほどの熱中症状態を上回る疲労感を感じながら、死んだ目で言うと彼女は顔を赤くし恍惚とした笑みを浮かべて。
「フフ、当然です。諸事情あって名前等は明かせませんが……ちなみに私は彼女の良い所を1000個は挙げられる自信がありますね、聞きたいですか?聞きたいですよね??何時間でも話して差し上げますよ!」
「……私、悪いけどこの後用事があるからここで「それではいきましょう!まず一つ目はですね―――」
ひええ……
こうして俺は何故か初対面にも関わらず、話しているとまるで己に刻まれたトラウマが疼くような少女―――古江千代さんと出会ったのであった。帰りたい……