ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない   作:なはた

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第12話

 

「―――81個目はあの見るからに滑らかなツルツルたまご肌です!特にほっぺたはまるでプリンのようにぷるっと柔らかそうで是非一度は触れてみたいですね!」

 

「……そう」

 

「そして82個目は小柄なうすほそ体型である事から、ほっそりとしつつも思わず見惚れてしまうような美しい脚線美です!是非一度は触れてみたいですね!」

 

「……そう」

 

 

空調の効いた涼しいカフェの中、俺は古江さんによる想い人の良い所語りを聞かされていたのだが、50個目に突入した辺りで某究極生命体の如く考えるのをやめて以降は「そう」botと化していた……ていうか「是非一度は触れてみたいですね!」で締めるのもはや何回目だよ。もしかしなくてもこれ82個全てで言ってないか……アッ頭働かせちゃった、ダメだもう考えないって決めたんだから……

 

 

俺が必死に思考を廃しようとする中、それまでずっと恍惚とした笑みでマシンガントークを繰り広げていた古江さんが突然ピタッとその口を閉じ沈黙した。そしてまるで世界平和の命運を賭けた会議にでも臨むかのような、そんな重々しい表情を浮かべながらこちらをじっと見つめてきて……えっ何また感情のジェットコースターですか……??

 

 

「……橘さん、人の外見には内面が表れる、とよく言うでしょう?」

 

「……性格が悪い人は顔から陰湿さがにじみ出てるってアレ?」

 

「ええ、そうです。心と体は別々なようでその実密接に繋がっているのです、故に真に美しい人間とは外見ではなく内面が魅力的な人を指すと私は思っています」

 

 

古江さんは真剣な顔色のまま、言葉を続ける。

 

 

「そんな美しく気高い心を持てれば、彼女はきっと私に振り向いてくれるはずなのです……今の私には、圧倒的に内側の深みが足りていません。彼女という至高の存在に相応しい人間になるために、私は自分を根本から変える必要があります」

 

「…………」

 

 

確かにそのニトロを積んで加速し続けるようなワイルドなスピードで、重い愛を向ける古江さんには一旦ブレーキを踏み己の感情を見つめ直す事は悪くないと俺も感じた。アプローチされてる例の彼女も、古江さんからの愛に正直ビビってるだろうしそっちの方がお互いの為だと―――うん。どうしてだろう?マジでそうするべきだと心の底から強く思ってしまう。本当に何故……そして彼女は何やら決意したように、瞳に燃え盛る炎を宿らせながらこちらを真っすぐに見つめると……

 

 

「決めました―――私、今から自己研鑽の修行を行う事にします!」

 

 

そう、高らかに宣言するのであった。

 

 

「立派、偉いと思う。頑張って、じゃあ私はここで「善は急げです!行きましょう橘さん!」

 

 

覚悟を決め、絶対に成し遂げると言わんばかりに燃え盛っている状態の古江さんに俺は腕を掴まれそのままカフェから出るのであった……もう帰してぇと言いたくなったが、代金は古江さんが「貴方をカフェへ連れてきたのは私です、だからここは支払っておきますね」と奢ってくれたので断るに断れず……俺を助けてくれたときもそうだが、根は良い人だしこういったイケムーブもサラッと出来るんだよな。その整った容姿も相まって、恐らく学校ではかなりモテてるはずだ。

 

 

好きな人に対してもこうやって冷静な見方が出来ればいいのに……恋は人をおかしくさせるとよく言うが、まさにこの事か……そんな感想を抱きながら彼女に連れて行かれた場所。それは―――

 

 

「……こちとら読書しに来たってのに、俺はあの子から目が離せねぇよ……」

 

「ああ、何て可愛いんだ……」

 

「本ならぬオホンッ♡って彼女を喘がせたいわー!!」

 

「ここではお静かにお願いします」

 

「アッすみません……」

 

 

街の公共図書館である……修行とか言うから、もしや滝行にでも連れて行かれるのかとヒヤヒヤしたけれど流石にそれは無かった。後職員の方が今言ってたけどマジで図書館ではお静かにね??読書用の椅子に座り、古江さんを待っていた俺だが少しすると彼女が戻ってきて……ただ、両手いっぱいに本を抱えながらだが。

 

 

「……それ、全部読む気なの?」

 

「安心してください、そこまで時間はかかりません。自慢じゃないですがこれでも私は速読な方なので」

 

 

いや速読にしてもその数は……不安を抱きつつも、彼女は本をテーブルに置くと早速その中から一冊を手に取り開いて読み始めた……そして驚いた事に凄まじい速さでページをめくり読み進めている。時折「ほう……」、「なるほどこういう心の持ち様もアリですね……」と真面目な声色で呟いてる事から、内容もしっかりと理解しているのだろう。

 

 

凄いな古江さん、精神だから自己啓発や哲学本でも読んでいるのだろうけどそういったジャンルの本なら尚更時間がかかるだろうに……俺はその能力に素直に関心するのと同時に興味が沸き、彼女が読んでいる本の題名をチラッと見ると……

 

 

『What is usuhoso ?(うすほそとは何か?)』

 

 

……俺は秒で視線を逸らし、テーブルに置いてある別の本を手に取りその題名を確認した。

 

 

『わからせおじさん達から学ぶ、わからせの極意』

 

 

……再度本をテーブルに置き、別の本を。

 

 

『これで愛するあの人も腰ガクガク!最強バリタチセ○クステク!』

 

 

…………やっぱこの世界おかしいわ、何で公共の図書館にこんな本置いてあるんだよ法律ぶっ壊れてんのか……俺は死んだ瞳で古江さんの方に体を向けて、彼女に尋ねる。

 

 

「……ねぇ、千代」

 

「はい?何ですか?」

 

「読んでる途中にごめん、一つ聞きたい事がある」

 

「聞きたい事?」

 

 

表情こそいつもと変わらないものの、俺は優しい声色で古江さんに問う。

 

 

「貴方にとってその本は……自分の人生に役立つもの?」

 

 

それに対し彼女は。

 

 

「―――ええ、とても参考になりますよ」

 

 

そう、晴れやかな笑顔を浮かべながら言い放つのであった……貴方が良いならわたくしはもう何も言いませんわ……

 

 

 

 

 

 

「フフフ、私の中で世界に対する見識が深まり彼女の攻略への道が少しだけ見えてきた気がします」

 

「……なら、良かった……」

 

 

彼女は持ってきた本を全て読み終え、図書館の外へ出た俺達。満足と言わんばかりにホクホク顔の古江さんに力無く言葉を返す俺、近づくどころか更に遠のいた気がするんですけどそれは多分指摘しちゃダメですね……午後から出かけて熱中症で倒れかけ、そんな所を彼女に救われてからまだ約3時間しか経っていない事実……あまりにも濃密すぎる古江さんとの関わりに内心驚いている中。古江さんが足を止めて、こちらにクルッと振り返り頭を深々と下げてきた。

 

 

「……どうしたの千代?」

 

「橘さん、私に付き合ってくださりありがとうございます。おかげさまで私の進むべき道がより鮮明に見えてきました」

 

 

……まあ割と強引だったし、それにその道は絶対に間違っているからやめた方がいいと思うとは口に出さないでおくとしよう……

 

 

「そのお礼と言ってはなんですが、もし良ければこれから近くの臨海公園へ行きませんか?距離もだいぶ近いですし、それに是非橘さんに見て欲しい私のお気に入りの絶景があるんです」

 

「……別に、構わないけれど」

 

「本当ですか!それでは早速行きましょう!」

 

 

古江さんはパァッとその顔を明るくさせ、上機嫌に歩み始めた……絶景って一体何なんだろうか?

 

 

こうして俺達は街のはずれにある、海に面した臨海公園へと訪れた。そして、海側へ足を進めるとテラスが見えてきて……

 

 

「―――これは」

 

 

思わず感嘆の声が口から漏れ出る……時刻がちょうど夕方な事から、水平線の彼方へと沈みゆく大きな夕日が遮るもののない広大な海面をどこか神秘的なオレンジ色へと染め上げていた。それに視覚だけでなく、聴覚も静かに響く波の音によって心地良く刺激される。

 

 

「どうですか?」

 

「……ええ、綺麗ね」

 

「ふふっ、気に入ってもらえて良かったです」

 

「ここにはよく来るの?」

 

「街のはずれですし、今日のように偶然近くまで来たとき以外は殆ど足を運びませんよ。でも……そうですね……」

 

 

古江さんは隣で海を眺めながら、ボソッと呟いた。

 

 

「―――家に居るのが嫌になったときは唯一例外でしょうか」

 

「……家?」

 

「あっ……!?い、今のは何でもありません忘れてください」

 

 

古江さんの潮風に吹かれながら、沈む夕日に照らされたその横顔はまるで絵画のように美しく……だがしかし、同時に見ている者に切なさを抱かせるものであった。

 

 

「そ、それにしてもこの光景は本当に美しいですね!」

 

 

必死に取り繕っているが、動揺を隠しきれておらずたどたどしい。そしてやがて場に沈黙が訪れた、あれだけ明るかった彼女がただ辛そうに黙り込んでしまったのだ……古江さんが浮かべたあの表情が脳裏に焼き付いて離れない。今日出会ったばかりの俺が人のそういった事情に踏み込むのは間違っているだろう、色々振り回されて苦労した事実には変わりないけれど、でも結局最初に遡れば危うく意識を失い俺の体ではもしかしたら生命の危機になりそうな所を助けてくれた……

 

 

「……貴方の自己研鑽修行」

 

「橘さん……?」

 

「―――今日だけじゃなくこれからも付き合う」

 

「え……!?いっ、いいんですか!?」

 

「うん」

 

 

命の恩人なのだから―――古江さんの顔に喜びの光が灯る。

 

 

「……ありがとうございます、橘さんは優しい人ですね……」

 

「そんな事はない、ただ私は……」

 

 

 

夕日をバックに、俺は古江さんの目の前に立ち真正面から彼女を見つめて。

 

 

「―――貴方に悲しんでほしくないだけ」

 

「……っ、は、はい……」

 

 

こうして俺達は連絡先を交換し、また会う約束をしてその場で別れたのであった……出かける前にスマホの初期設定を済ませておいて良かった。やっぱり現代機器は最高だね!

 

 

……それにしても、連絡先を交換する間も別れるときもずっと古江さんが太陽にも負けないぐらい顔を真っ赤にしていたのは何でだろう?

 

 

 

 

「い、いけません! 私の心にはエリザという絶対の光があるというのに、またもや他の人に胸を高鳴らせてしまうなんて……! あの夕日に照らされながら放つ橘さんの美しい顔と台詞。あれはもう反則では―――ってだからダメと言ったでしょう!?ああ……私はこれで業を二つもこの身に背負ってしまいました……」

 

 

古江千代は頬を染めながら。

 

 

「……どうして、私は橘さんにときめいてしまうのでしょうか……?」

 

 

そう、一人呟くのであった―――




答えは割と簡単なんですよね…

次回は古江家でお家デート(?)回です!
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