ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない 作:なはた
『ソサエティ』が掲げるのは人々が築き上げてきた文明社会を破壊し世界征服を成し遂げた後、新たな秩序や価値観によって世界を再構築する事だ。だから毎度街のどこか、大小問わず市民が利用する場所に狙いを定める。今回ボスから命じられたのは街の公共図書館の破壊なのだが……もう今更説明は不要だろうけれど俺としてはその破壊行為を行う気など微塵もない、なので今回も例に漏れずただその場に佇んで魔法少女達の到着を待つ。
そしてそう時間がかからぬうちに魔法少女が駆けつけ、彼女らが戦闘に巻き込まない為に周囲の人々を避難させて……それらを全て終えたのを確認すると、俺は魔法少女達に「……来なさい」と短く告げ―――遂に戦いの火蓋が切って落とされた。
「リリィ・ハートバースト!」
「アメリア・フォレストソードスラッシュ……!」
リリィの放った無数のハート型のエネルギー弾とアメリアが大剣を大きく振りかぶり一閃、一直線に放たれた緑色の鋭い光の刃が同時に襲いかかってきて……エネルギー弾の魔力密度は以前と比べて明らかに上昇しており、しかも変化はリリィだけに留まらずアメリアも新技を会得している。
「……カウントレス・レーザー」
俺はエテルネルステッキを構え、応戦するようにレーザーを放つとそれらは空中で相殺され、衝突した魔力が大気を震わせ激しい爆風が巻き起こった……以前はかなり威力を抑え照射していたレーザーも今やその出力を約60%まで引き上げている。この現状に対し俺はどう感じているかというと、表情こそは何とかクール系を装っているものの……ハイ、心臓はバックバクで内心涙目であります!
……どこぞの軍曹のような語尾と化してしまったが、実際こうやって茶化さないと本当に怖いのだ。魔法少女と戦い始めて約5か月、明らかに彼女達は戦いの中で成長し強くなっている。まず大前提として、俺は超よわよわでありもしも打撃を一発でも食らったら全身の骨バキバキで即KO、放送事故な絵面でニチアサなら全国の女児先輩達大号泣というエンドが待っているのだが……その未来が実際に現実味を帯びてきてしまっている。
現時点で出力60%で互角、まあ大丈夫でしょと楽観視などしていられない。この調子で魔法少女らが更にその力を増していけば、いずれ俺が本気を出しても敵わなくなるときが訪れてしまう可能性がある…………死にたくない。こんな悪幹部な人生だが、それでもせっかく与えられた第2の人生なのだ。だから俺は生きていたい、そう思うのは人として当然の本能だろう……ただ、厄介なのは問題が魔法少女の強化だけでなくもう一つ存在する。それは。
「―――昨日もいつも通り貴方を想って夜が明けるまでシテいたら、また箱ティッシュを1ダースも消費してしまいました。消費量が激しすぎるあまり、使っているドラックストアの店員さんから『あっ!今日もティッシュを爆買いするヤバ女来たぞ!』と認知されちゃいましたよ。責任を取ってください!」
「……私、まだソフィアちゃんの発言をいつか理解出来るようになるって信じてるんだ……」
「し、しなくていいと思う……ていうかソフィア、エリザを見てニヤニヤしてないで早く一緒に戦って」
「……はっ!これは失礼しました!私は魔法少女マジカル・サファイアであり、3人のリーダーです。私達はエリザを倒し、屈服させた所でそのゴスロリ服を脱がしぶちおか……ぶち犯す使命があるのですから!」
「か、勝手にこっちまで巻き込むの頼むからやめてほしい……」
「信じてるんだよ……うん……」
疲れた表情を浮かべるアメリアと、まるで自分に言い聞かせるように力なく呟くリリィ……そう、もう一つの問題というのは言うまでもなく―――変態魔法少女ことソフィアである。
もういつもの事じゃん……と読者の皆さんも思っているだろうけれど、俺にとって何より己の貞操に関わる死活問題なのだ。最初の戦いからずっと狙われて続けている俺だが、最近……いや1ヶ月前ほど辺りからか。ただでさえタガが外れているソフィアの変態っぷりが、更にその勢いを増しもはや発情期の獣の如く戦闘の最中もずっとこちらに熱視線を向けてきている。今彼女が口から漏らした俺を犯したいという本音だって、前は一応言い直したりするぐらいの理性は働いていた。でも今やそのまま貫き通す始末、一体ソフィアの心中で何が起きたのか?
1ヶ月前と言えばちょうど古江さんと知り合い、成り行きで彼女の自己研鑽修行に付き合ったり母親との確執を解消し親子の仲を取り戻せた、そんな出来事があった頃だ。まあ最も、この事がソフィアと関係してるわけはないのだが……(※超絶関係あります)
「……ハァ」
「ため息をつく姿もとても素敵ですね♡」
「…………」
もうやだこの子ぉ……貞操の危機の方が命よりも遥かに大きな問題なのではと感じている中、ソフィアは地面を力強く蹴り上げ。
「いきますよエリザ!私の宇宙を生み出すビッグバン級の愛を受け止めてくださーい!!」
「……絶対に嫌」
「―――ソフィア・コールドアロー!」
勢いよくこちらに向かって一直線に突っ込んできながら、ソフィアは手に握られた絶対零度の氷の弓を引き巨大な氷の矢を放ってきた。かなりの近距離なのが不安だが、相殺してもこちらに二次被害は発生しないはず……!
「カウントレス・レーザー……!」
俺は氷の矢を破壊すべく、漆黒のレーザーを照射した。空中で氷と魔力が激突する、だが……
「甘いです!」
「っ!?」
ソフィアはレーザーによって真っ二つに切断された隙間を器用にくぐり抜け、こちらへ飛び込んできた。まずい犯され……!?
「エリザ―――楽しみはまだまだ終わらせませんよ?」
「……え?」
ソフィアは俺の耳元で甘く囁くのと同時に、その手に握っていた何かを俺の足元へ落とすと大きく飛び上がり距離を離して仲間達の元へ華麗に着地した。
「ソ、ソフィア……!」
「ソフィアちゃん大丈夫!?」
「ええ、傷一つない無事そのものですよ」
リリィとアメリアが心配そうに声をかけるが、俺はというと思考が追い付かなかった。
「……ソフィア、どうして?」
「……どうしてとは?」
「言わなくても分かるはず」
俺に攻撃を加える事、それに……自分で言うのはとてもアレだがこの体を取り押さえソフィアが望むようなわいせつ行為を実行出来たはずだ。でも彼女は何もしてこなかった、千載一遇のチャンスをわざわざ放棄するなんて。俺の問いに対しソフィアは目を細めて微笑みながら何も答えず……ただ、目線をわざとらしく下に向けて俺もつられるようにそこに目を向ければ。
「……これは」
小さな長方形の物体……手帳?
「ふふっ」
「…………」
ソフィアは嬉しそうにその笑みを深め……よく分からないが拾えという意味だろう、今回は彼女が手を出してこなかっただけで実質……俺の負けだ。素直に従うしかない。
「……戦いは、終わり」
俺は敗北感と無事であった事への安堵が複雑に入り混じり、何とも言えない感情を抱きつつ足元に落ちている手帳を拾い上げると霧の中へと姿を消した。
「……計画通りですね♡」
ソサエティのアジトにて。
「これ……学生手帳だ」
改めて確認すると、黒い革製の手帳で表紙には金文字で『市立桜川中学校 生徒手帳 2年B組』と刻まれている……これは恐らくソフィアのものだ。という事はつまり彼女は中学生であり、そしてソフィアがそうであるなら他のリリィとアメリアも同い年か近い年齢の可能性が高い。幼さの残る顔立ちや体型からして恐らく高校生ではないだろうとは思っていたが……
「何でソフィアはわざわざこんな物を俺に拾わせたんだ……?」
理解出来ない言動の多い彼女だが、今回はいつにも増して本当に訳が分からない。わざわざお互いに認識阻害がかかっているのに、何故敵側に己の正体に関してのヒントを知らせるような真似を……困惑一色であったそのとき。
『―――エリザよ、直ちに会議部屋へ来い』
「ッ!?」
アジト内にボスの声が響き渡り、そしてその内容は直々の召集命令だった。このタイミングなら用なんて一つしかない……俺は会議部屋へ向かい、巨大モニターが存在する中央部分へと足を進めるとそこにはガスマスクを被ったボスの姿が大きく映し出されていた。
『来たか』
「……よく考えればアジト内なら監視カメラの一つや二つ設置していて当たり前だった、別にそこに関して文句を言うつもりはない。でも……私の部屋に監視カメラはつけてないでしょうね?」
俺は睨みつけるように訪ねたが、ボスはその表情こそ分からないが心底興味無いと言わんばかりに『当たり前だ、ハザードやヘレンはもちろん貴様も戦闘以外の事になど興味ない』と返してきた……シュタインちゃんの名前が入ってない辺りあの子の部屋には監視カメラつけてそうだなコイツ。まあそこに触れたら怒り買うどころの話じゃ済まないだろうし、心の内に留めておくとしよう。
「カメラで見ていたなら私の持っている物が何なのかも理解しているはず、ならわざわざここへ私を呼び出した理由は何?」
『……この私の計画を邪魔するあの忌々しい魔法少女共の正体に近づいたのだ、ならばやる事は決まっているだろう……』
ボスの強い殺気がガスマスク越しでもひしひしと伝わってくる、まさかその学校を破壊しろと俺に命じるつもりか?そんな事……したくない。
緊張から額に汗を流す俺だったが、続いて出てきた言葉はあまりにも予想外なもので。
『エリザよ、貴様に任務を与える。桜川中学校に生徒として潜入し―――魔法少女共の正体を暴くのだ、戸籍の偽造と転入手続きは既に終えている。早速明日から初めてもらうぞ』
「…………はぁ?」
俺はクール系キャラとボスの目の前である事をすっかり忘れ、思わずそんな言葉を吐いてしまうのであった……ちなみにこの後俺の態度にボスがお怒りになられたので、急ぎシュタインちゃんを連れてきて何とか許してもらう事が出来ました。ありがとうシュタインちゃん。
そして翌日。
「えー、今日からクラスに新しいお友達が加わることになりました。正直めちゃくちゃ可愛いので先生お持ち帰りしたくなりま―――みんな、仲良くするように!」
桜川中学校2年B組、何かサラッととんでもない事言いそうになってたように聞こえた担任の佐藤ゆき先生に促され、陰キャである俺にとって正直めちゃくちゃ気乗りしない学校生活に内心大きくため息をつきながらも教室の中へ入ると……
「えっ!?」
「な……!?」
教室の後方と中央付近から、信じられないとばかりに心底驚いたような大きな声が二つ同時に上がり……何事だとそちらを見れば。
「……あすかっ、それに奏……!?」
諸星さんと伊藤さんが目を丸くして椅子から立ち上がっていて、俺も2人と同じように驚愕していたのだがこれだけに留まらず……
「―――橘さん」
「その声……」
湖のような透明感のある澄んだ綺麗な声はあまりに既視感がある、俺がその声の主の方へ目線を向けるとそこにいたのは……窓際の席で凛とした姿勢で座り、冷静沈着で穏やかな微笑みを浮かべるネイビーブルーの長髪の少女―――古江さんであった。
俺の大切な友達である諸星さん、伊藤さん、古江さんの3人が居る事に思考が全く追い付いてくれない中、古江さんはまるでこの事を予期していたかのようにその笑みを深めて。
「ようこそ桜川中学校へ、これから……いっぱい仲良くしましょうね♡♡♡」
第2章スタートです!そして次回は1週間以内の更新予定となります!