ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない 作:なはた
「―――まさか翔子さんがこのクラスに転校してくるなんてね!しかも、奏ちゃんや千代ちゃんとも知り合いだったなんて色々驚く事ばっかりだよ!」
「う、うん……私もビックリ……」
「……ええ、そうですね♡」
昼休み、桜川中学校の中庭のベンチにて。諸星さんはショッキングピンクのツインテールを揺らしながら、その瞳をキラキラと眩しく輝かせていた……そんな彼女に同意するように小さく頷く伊藤さんとゆっくりと目を細め柔らかに微笑みを浮かべる古江さん……彼女の語尾にハートマークが付いてるような気がするのは100%俺の気のせいだろう。うん間違いないね。
……諸星さんの言う通り、俺自身もこの偶然には心底驚いていた。ボスからの命令を受け気の進まない学校生活へと足を踏み入れることになった身としては皆がいてくれたのは凄く喜ばしい、なにせ陰キャコミュ障の俺にとって中2の2学期という既に形成されたコミュニティの中で友達を一から作るとかマジでしんどいからだ……でもまあ正直、今世に限って言えば陰キャか陽キャかといった問題は些細な事でどちらにしろ苦労する羽目になるだろう。何故かというと。
「―――み、見て!あの子が噂の橘さんよ!」
「キャー!超絶美少女ー!!」
「まるで雪のように白くプニッとしてそうな太ももが太陽に照らされ美しく輝いてるわ!ペロリスト検定、通称ペロ検(???)1級持ちとしては是非とも味わいたい極上の一品ね!舐めさせてもらえるか本人に頼んでみようかしらー!」
「可愛い(結婚しよ)」
遠巻きに俺を眺めてキャーキャー言っている女子生徒達……何かマーレの戦士もどきが混じっていたように感じたのは気のせいとして……彼女らだけに留まらずクラスでも授業中に全方位からクラスメイト達の熱視線を受け、担任の佐藤先生は『橘さん、転校初日で何か困りごとがあるなら先生が一緒にご飯でも食べながら聞きますよ?まあ先生が本当に食べたいのは貴方―――何でもありません』と領域展開して裁判にかけたらジャッジマンに即『ギルティ(有罪)』判決を受けそうな、生徒に対して劣情を抱く激ヤバウーマンと化す始末であった。
こんなカオスな状況でまともに友達なんか作れるわけはなく……だからこそ、邪な想いの存在しない純粋な交友関係を築けている3人の存在は本当にありがたい。友情万歳!友情最高!
「しょ、翔子と同じクラス……!こ、このチャンスを活かして親密になっていつか私の家で叶わなかったリベンジエッチを果たしてみせるへへへ……」
「近距離で、しかも戦闘のリスク無しで愛しの彼女を合法的に眺める事が出来るだなんて……ああ♡脳がとろけてしまいそうです♡♡」
だがしかし、現実は非情かな。喜ぶエリザだが実際の所は3名のうち2名が頬を赤らめ内心発情状態なのであった。カワイソ……
「―――今日も学校疲れたなぁ、もういつもの事だけどこれが後4日も続くと思うと嫌になっちゃうよぉ」
「…………そうね」
午前に引き続き、360度全方位から突き刺さる視線によって精神を削られながらも何とか午後の授業を乗り切り無事放課後を迎え現在下校中。ていうか今日がまだ月曜なのマジで辛いんだけど……?魔法少女の正体探しとかって言われてもクラスの人に「貴方は魔法少女ですか?」とド直球で尋ねるわけにもいかなくて、どう探していいか全く分からないしそもそもそれ以前に既に俺自身がギブアップしそう……まあ俺の心中は一旦置いといて、どうして諸星さんと2人きりなのかというと伊藤さんは母親からの買い物を頼まれており、そして古江さんは弓道のお稽古があるらしく先ほど別れたからである。
いやそもそも俺の場合、帰る場所が異空間に存在するアジトなので本当はこうして一緒に下校する必要もないのだが……こういった時間は大切にしたいと思っているので、3人には適当に誤魔化して在りもしない家の場所を伝えた。その近くになったら別れて転移すればいいだろう、騙している形で申し訳ないけれど……
「でもね、私には楽しみにしてるイベントがあるから苦手なお勉強とかも頑張ろうって思えるんだ!」
「イベント?」
「あっ、翔子さんは転校してきたばかりだから知らないんだったね。実は―――10月の始めにこの学校で文化祭があるんだよ!私のクラスは何の出し物になるんだろー、今からワクワクしちゃうなぁ……!」
「……文化祭、ね」
無邪気に笑う諸星さん、表情からだけでも文化祭が好きというのが十二分に伝わってくる。だがしかし、対象的に俺は憂鬱とばかりにその顔を曇らせて……今でも鮮明に思い出せる前世でのトラウマ。それは高校1年生のときの文化祭での出来事だ、俺のクラスは出し物がメイド喫茶に決まり当日女子達がメイド服を着用して接客を行っていた。男の俺の仕事は当然裏方で女子達と関わるような事も本来なら無いはずなのだが、前に話したエロハーレムラノベの挿絵を見てイジってきた前の席のギャル、彼女が仕事の最中にも関わらずいきなり皿洗いする自分の前にやってきて耳元でボソリと「疲れてるならさ、特別にウチが―――ご奉仕して癒してあげよっか♡」とからかうような口調で囁いてきたのだ。普通なら勘違いしてドギマギする所だろうが、俺はプロDTだからそんな愚かな真似はしない。あのギャルはただ面白がって、陰キャの俺をからかってきただけに決まってるのだから。
……いや何で読者の皆さんは揃って呆れてるの?長い自分語りの割に結局ただの自慢じゃねぇかボケ?こちとらギャルに弄ばれた被害者ですよ一体何を言ってるんですかね……
「……えへへ」
脳内困惑一色だったそのとき、隣を歩く諸星さんが突然嬉しそうにふにゃりとその顔を綻ばせた……「どうしたの?」と俺が尋ねると彼女は笑顔でこちらを見つめてきて。
「こうやって翔子さんとまたお話出来てるのが嬉しくて……ほら、公園のときはお互い連絡先も交換出来ないままお別れになっちゃったでしょ? 私、あれからずっと会いたいなぁって思ってたんだ」
「あすか……」
……文明の利器であるスマホを手に入れたのは諸星さんと会った後の事で、連絡先を交換出来た伊藤さんや古江さんとはちょくちょく会っていたものの、諸星さんとは愛音ちゃんの母親探しをしたあの日きりであった……
「……私も」
「え?」
「私も―――あすかとまた会いたいって思ってた」
自然と口から出た嘘偽りのない本音、そんな俺に対し諸星さんはゆっくりと自分の手を伸ばしてきてそのまま俺の手をギュッと握り。
「お互いがそう思ってて、またこうして会う事が出来たなら……それは、とっても素敵な事だね」
そう、耳心地の良い優しい声色で返してきた。
「……そうね」
「もしかして、私と翔子さんって運命で結ばれてるのかも? ……なんちゃって!あははっ」
諸星さんは冗談めいた口調で言ってきたが……例え同じ街にいようが中々人同士がバッタリ出会うなんて確率は低い、まして俺は敵幹部な身なのだから余計だ。
諸星さん……人助けに嫌な顔一つせず、心の底から人々を救いたいと思っているその高潔さ。愛音ちゃんの母親を見つけられた後に彼女から優しいと言われ、自分なんかにその表現は当てはまらないと否定した俺に対し『ううん、翔子さんは優しくて善い人だよ。自分でそう思えなくても、私が断言してあげるからね!』と笑って肯定してくれた。俺はその言葉と笑顔に救われたのだ。
「本当にそうかも」
「……へっ?そ、それって」
「ええ、私とあすかは―――運命で結ばれているのかもしれないって事」
普段は表情を硬くしているけれど、今だけは……俺は大切な友達である諸星さんに微笑みを向けた。
「ッ!????」
この後、あのとき叶わなかった連絡先の交換を見事果たし俺はある種の達成感に包まれながら諸星さんと別れるのであった。
「……うぅ」
諸星あすかは橘翔子と別れた後、一人帰り道を歩いていたのだが……その顔は耳まで真っ赤に染まっていた。
「か、軽い冗談のつもりで言ったのに……」
『ええ、私とあすかは―――運命で結ばれているのかもしれないって事』、あの言葉が今も脳内で反復され続けている。やめてと言っても止まってくれない。
「この胸のドキドキは……一体何なんだろ……」
それに何より、そのときに浮かべた彼女の温かく柔らかな微笑みが目に焼き付いている。
「翔子さん……」
己の内側に灯る未知の感情に対して、戸惑いにも近い諸星あすかの呟きは誰にも聞かれる事なく夕焼けの空へと消え去るのであった―――
次回からマジカルリリィ編です!