ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない 作:なはた
『ソサエティ』へようこそ。第一のルール、ソサエティのことを口外するな。第ニのルール、ソサエティのことを口外するな。
この新入り幹部向け説明書類は、ニヒリズム、アナーキズムなどを掲げ人間達が築き上げてきた文明社会を破壊する存在。『ソサエティ』のボスであるタイラー・ダーデンによって制作されています。
「…………ファ○ト・クラブお好きなんですか?って言いたいけど、それを直接本人に聞こうものなら恐らくというか絶対タダじゃすまないんだろうなぁ……」
ボスはこのアジトにはおらず、幹部会議でも中央に大きく映し出される画面越しでガスマスクを被った姿しか見た事がない。一体どこに身を潜めているのやら。
俺は大きくため息をつき、書類の次をめくる事はせずそっと閉じた。忠誠心の無い部下で申し訳ございません、一応入った初日に読了済みではあるのでどうかお許しください……TSうすほそ魔法少女こと俺。橘翔太改めエリザが女神様の手により転生という形でこの地に降り立ち、これから正義の魔法少女として頑張っていくぞー!と上機嫌でスキップしながら道を歩いてたらうっかり足を滑らせ転んでしまったのだが……単なる軽い転倒にも関わらず、全身が悲鳴を上げて激痛に悶え苦しみ己の肉体のよわよわっぷりを痛感する出来事であった。そして一度は訪れるであろう魔法少女敗北ノルマを恐れ、泣く泣く敵組織に加入してから今日で約2週間が経過していた。
俺は幹部としてまだまだ日が浅いが、もう既に魔法少女達と何度か戦闘(一方的な蹂躙)を交わしているのが現状だ。他幹部達は怪人を作り出すものの、魔法少女の力によって倒され撤退するというニチアサ的ノルマを繰り返しており俺の戦績は優秀だとボスからお褒めの言葉を頂いたりもした。元より望んだ立場じゃないし、魔法少女達が傷つくのを見て喜ぶとかそんなサディスティックな性質は微塵も持ち合わせていないから全然嬉しくないんだけどね……
「アジトに戻ってきてから色々と考えてみたけど、結局魔法少女が俺の持つエテルネルステッキの力を上回ってきたらそれはもう完全に詰み。パンチ一発食らって即お陀仏……あ、考えたら辛くなってきた、もぅマヂ無理。頬ずりしよ……」
ベッドに横たわりながら、俺は愛しのステッキさんに先ほどと同様に死んだ瞳で頬ずりを行っていると……大きな魔力を持つ存在がこちらに向かって近づいてくるのを察知した。距離にして約30mといった所、20秒もしないうちに部屋へ辿り着くだろう。
俺は目線だけ下に向け自分の姿を確認する……女神様のご厚意で持ってこれた前世の高校生活で着用していた男物の制服、今やダボダボだがこれを着ていると心が落ち着くのである。しかし、クール系幹部として通っている自分がこんな姿を見られるわけにはいかないのでステッキで瞬時に変身し、ベッドから飛び起きて椅子に座る。当然姿勢はまるでお嬢様の如く上品でおしとやかに、後はこのワードを3回口に出して唱えれば完成だ。
「俺はクール系敵幹部のうすほそ魔法少女エリザ、俺はクール系敵幹部のうすほそ魔法少女エリザ、俺はクール系敵幹部のうすほそ魔法少女エリザ―――そう、私はエリザよ」
唱え終わったのと同時にドアが開かれる、何とか間に合ったな……元陰キャでコミュ障の俺が可愛い女の子を演じるなんて必死に自己暗示でも掛けないと出来ないのだ。素直に泣きそう、後うすほそいらねぇだろって言う意見には断固反対そこが重要です。
そして俺の前に現れたのは。
「うふふ、エリザは今日も可愛いわねぇ」
「……何、用が無いなら出て行って」
「もうっ、つれない子ね。でもまあそういうお堅い所も逆に弄り甲斐があって私は大好きよ?つい―――泣かせたくなっちゃう」
「…………」
名はヘレン―――まるで澄んだ湖のようなライトブルーの瞳と腰まで伸びる長い紫色のロングヘア、スラッとしたモデル体型と本人も己の魅力を最大限活かすかの如く背中が大胆に露出した青のロングドレスを着用している。彼女は俺と同じ『ソサエティ』幹部のうちの1人で、俗っぽい表現になるが男が吸い寄せられるような美しさだ……ただまあ、今ちょうど浮かべている嗜虐心に満ち溢れた表情を見ても同じ事が言えるのは恐らく一部のM男だけだろう。
ヘレンは生粋のサディストで、人間が苦しみもがく姿がたまらなく愛おしく感じるらしい。そういう性癖は是非とも外に出さず心の中だけで留めておいてほしいものだ。
「そんなに嫌悪感丸出しでゴミを見るような目で睨みつけないで、お姉さん興奮しちゃう」
「……貴方、実はドMなの?」
素直な疑問に対し、ヘレンはただでさえ赤く染まった顔を更に色濃くして。
「蔑みや抵抗心は私にとって最高の興奮材料なの、だって私を嫌いなのに屈服せざるを得なくなったときに見せるあの己のプライドがへし折れた顔……ホントたまらないわ。思い出しただけで……あ♡」
ヘレンは体を大きく震わした後、何かに達してしまったのか恍惚とした笑みを浮かべていた……一体ナニが起きたんでしょうね。てかこんな女幹部ニチアサ基準どころか、一般魔法少女モノでも余裕でアウトでは??
俺を転生させるときに女神様が「ちなみに魔法少女系としての世界観レベルはニチアサね!」とか親指グッドサイン立てて言ってたのに……俺の肉体の件といい、もしかしてあの女神信用しちゃいけなかったんじゃ……疑惑がよぎり思わず頭を抱えたくなるがキャラを保つ為に必死にこらえる。
「ねえ、お姉さんの……見てみたい?」
「…………絶対嫌」
こちらを誘惑するように流し目を向けてくるヘレン、前世では綺麗なお姉さんに迫られてそのまま筆おろしされる事が俺の夢の一つであったけれど……相手が相手なのもあり実際にそのシチュエーションになると正直恐怖でしかない。いや今や女の子だから筆おろしとは表現しないが……まあそこら辺は置いといて、ヘレンは口で言ってるだけでなく本当に可愛い女の子が好きらしく完全に俺を狙っているのだ。
TSして体がザコザコだわ変態敵幹部お姉さんに目を付けられるわで、現状女の子になったリミットを全く感じられてないのがとても悲しい。
「さっきも言ったけど、用が無いなら早く出て行って」
「はいはい、まあお楽しみは後に取っておいた方がいいものね?」
「そんな楽しみ取っておくだけ無駄だから早くゴミ箱に捨てなさい」
「……ふふっ、捨てても貴方が自ら手を突っ込んで回収して私に差し出してくるぐらいになるようお姉さん頑張るわ」
ヘレンはそう言い残すと、目を細め微笑みながら部屋から出て行った。張り詰めていた空気が和らぐのと同時に全身から力が抜けていくのを感じる……ただでさえ将来への不安で絶望してたのに、女神様はどれだけ俺を曇らせれば気が済むんだ。曇らせるのはライナーだけにしてくれ。
このままベッドで睡眠を取っても良いが、それでは体力こそ回復すれど心の傷は癒えてくれないだろう。ならば……
「―――決めた、あそこへ行こう」
俺にとっての数少ない安らぎの場所へ。
このアジトは異空間内に存在しかなりの広さを誇るが、結局居るのは幹部勢の俺とヘレンと……俺を敵視して会うたびに色々言ってくる緑髪でスーツ姿の両耳にピアスを付けたホストみたいな見た目のハザードという男幹部だ。彼についてもヘレンと同様陰キャコミュ障な自分にとっては相性が悪すぎて、マジで話すたびに内心ビビってる。明日予定されてる幹部会議で顔会わせると思うと今から憂鬱で仕方がない。
変態サディストお姉さんとオラオラホスト系とか「どうしてオタクに優しい職場じゃないんですか!」と文句を叫びたくなるが、まだギリギリ我慢出来ている理由があり、それは……唯一俺にとって心を許せる存在がいるからだ。
しばらく足を進めると、部屋の前に辿り着いたのだが……何やら煙が扉の隙間から漏れ出している。一瞬驚いたものの、彼女の事だからおかしくはないかと冷静になり俺はそのまま扉をゴンゴンと叩いて。
「エリザよ……開けて、シュタイン」
「―――はい、エリザさま」
扉の向こうから返答が聞こえると、ゆっくりとその扉が開いていき……
「なんのごようでしょうか、エリザさま」
中から現れたのは、絹のように流れる長い金髪にエメラルドのような輝く緑の瞳を持ち、絵本の中から飛び出してきたかのように可愛らしい…………体中に繋ぎ目があるだけの女の子だ。
……いや流石に無理があるか、俺は本当に可愛いと思うんだけど……改めて彼女、シュタインはボスが作り出したという自我を持つ人造人間(ロボット)だ。今はまだ調整中らしいが、いずれは幹部として魔法少女達と戦う存在になるらしい。
「……エリザさま、わたしのかおをじっとみつめておられますがどうしたのですか。もしかしてかおになにかついてるでしょうか?」
「……何でもない、ただシュタインは本当に人間みたいでロボットなのが信じられないってだけ」
「ぼすはてんさいですからね!」
シュタインはまるで自分事のように胸を張っている、自分をタイラー・ダーデンとか名乗る奴が頭良いとは正直思えない。しかしまあ……
―――可愛いからどうでもいっか!
そう、俺にとっての癒しとはこの金髪ロリロボットことシュタインちゃんだ。可愛いとは絶対、可愛いとは正義である。
一応組織キャラ紹介回です。
ちなみにここで出れなかったオラオラホスト系ことハザードさんも次の幹部会議回で登場となります。