ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない 作:なはた
「お、おい見ろよあの子!めちゃくちゃ可愛くね!?」
「ああ、何て美しいのかしら……!」
「うぁぁぁ、び…美少女が道を練り歩いている」
梅雨入りを控え春の爽やかで心地良い気候も残り短くなってきた、そんな5月下旬の金曜日。街中を歩く人々の中に思わず誰もが振り返ってしまうような美しい少女の姿が……まるで宝石のような輝きを放つ美しき銀の髪、人間離れした整った容姿と抱きしめればポキッと折れてしまいそうなか細い小柄さ、そして黒で彩られたゴシックロリータドレ―――ではなく胸元にデカデカと「Ⅰam a very badgiri☆」(私は超悪い女の子です☆)と刻まれた英字Tシャツを着ている。
「でもあの子……服がめちゃくちゃダセェな」
「ああ、何て壊滅的なファッションセンスなのかしら……」
「圧倒的顔面偏差値の高さから首より下のIQ低下っぷりに一番戸惑ってるのは俺なんだよね、凄くない?」
「……ふふ、新刊楽しみ」
TSうすほそ魔法少女こと俺は悪の組織『ソサエティ』の幹部エリザとして、マジカルリリィ、マジカルアメリア、そして名前を呼んではいけないあの青を含めた魔法少女達と戦闘……いやそう呼ぶにはアレは少々一方的すぎるような……まあそこら辺はともかく。別に毎日のように彼女らと戦っているわけではない、ヘレンやハザードといった他の幹部も存在する為出撃は交代制である。今日の幹部会議でボスからの命令によりハザードが行くと決まったので、俺は非番で一日暇な事が確定したのだ。
元より前世では休日は一日部屋中に籠り、ロクに日光も浴びないようなインドア生活を送っていたぐらいなので性に合っているし同様にインドアで過ごす選択も悪くはない。だがしかし、それだとただでさえよわよわな体がなまってしまい……最終的にはちょっと走るだけでぶっ倒れその拍子に骨をバキバキに折るという地獄な結末を迎えるであろう。だからこうして軽い運動もかねて、好きな漫画の新刊を買いに本屋へ向かっているというわけだ。エンタメ系は元いた世界と変わらず同じ作品が存在しており、転生においてここが一番感謝した点である。
今の俺はもちろん変身状態ではなく私服姿で、魔法少女には強い認識阻害の魔法がかかっており解除時の姿であれば魔法少女達から突然の魔女狩りならぬ魔法少女狩りに会う目もない。だが恐らくその阻害魔法は向こうにも備わっているだろうから、結局の所例え街中ですれ違ったとしてもお互いに気づく事は不可能に近いであろう。俺にとっては有難い話だ……一応もしもの事態に備えて、ポーチの中にエテルネルステッキの機能である縮小化を使用し仕舞ってあるのだが出す機会が無いのを祈るばかりである。
「ダサダサ系美少女か……!たぎるぜ……!」
「ここは昔、原宿竹下通りのファションリーダーと呼ばれた私があの子にオシャレとは何たるかのイロハを叩き込んであげなきゃダメなようね……そしてあわよくばそのお礼にフフフ……」
「しゃあっ」
例の青や公園でこちらを熱の籠った瞳で見つめてきていた母娘のように、超絶美少女と化してから人の視線を浴びる機会がかなり増えたのだが……何故か今向けられているのはまるでおもちゃの着せ替え人形をどう自分好みにカスタマイズするか、そんな子供のようなワクワクと大人の汚い欲望が入り混じるカオス感情に思えた。一体何が起きてるか知らないけれど、早く本屋へ向かうとしよう……というかそれにしても。
俺は目線を下に向け、心の内でそっと呟く。
「Ⅰam a very badgiri☆」
―――この服、ちょっとカッコ良すぎでしょ。我ながらハイセンスすぎる。
そして街の本屋に辿り着き、俺は無事に目的の新刊を確保する事が出来た。表情にこそ出さないものの、内心上機嫌で異空間に存在するアジトへ帰る唯一の手段である霧を出す為に人影の無い路地裏へ一歩足を踏み入れると……そこには。
「うぅ……どこにいるのママぁ……」
そこには小さな女の子が地面にペタリと座り込んでおり、その目元は先ほどまでずっと泣いていたのか赤く腫れてしまっていた……恐らく年齢は4~5歳くらいだろうか?彼女の周囲に母親らしき大人の姿は見当たらない。つまり迷子である。
そして女の子はこちらの存在に気づきお互い目が合うも、すぐにプイッと逸らしてしまった。だがしかし、強がってはいるものの彼女が浮かべているまるで捨てられた子犬のような弱弱しい表情…………俺は無言で彼女の元へ歩み寄っていく。
「ッ……!?」
女の子は怯えるようにビクッと体を震わした、知らない人が怖いのは当たり前である。小さな子供にとっては特にだ、だからこそ……俺はその女の子に目線を合わせるようしゃがみ込み柔らかな声を放つ。
「……大丈夫、怖がらないでいい」
「…………」
「お母さん、探してるの?」
警戒心が揺らいでくれたらしく、女の子はポツポツと語り始める。
「……うん、いつの間にかはぐれちゃって。それで探そうと思ってここに入ったら暗くて怖くなっちゃったんだ、お母さん……どこ……?」
不安が押し寄せて来たのか、今すぐにでも彼女は泣き出してしまいそうだった……市民の平和を脅かす存在である悪の幹部でありながら何ともらしからぬ行動だとツッコミを入れられても仕方がない。だが、とてもじゃないが見過ごすなんて。
「……じゃあ、私が一緒に探してあげる」
「……いい、の?」
「ええ、2人ならきっとすぐに見つかるはず」
「おねーちゃん……!」
―――人として出来ないのだ、希望と見つけたと言わんばかりに目に光が灯り嬉しそうに俺を見てくる。これは何としてでもその期待に答えなければ。
「貴方、名前は?」
「わたしは愛音!」
「……愛音、お母さんを探しに行きましょう?」
「うん!」
愛音ちゃんは元気よく立ち上がり、しゃがみ込んでいた俺もゆっくりとその身を上げようとした所……体幹0なザコの俺はそのままよろけ思い切り転んで体を地面に強打する形となってしまった。
「痛ったあああああアアアア!????」
「おねーちゃん!?」
「―――別に平気、問題ない」
「今すっごい声出てたよ!?」
クール系キャラ大崩壊に焦り、内心激痛に耐えながらも何とか必死に装う俺であった。そしてその叫び声を聞いたのか、こちらに勢いよく走ってくる足音が聞こえ……俺の目の前に現れたのは。
「―――大丈夫!?叫び声が聞こえたから急いで来たけど、どこか怪我とかしてないかな!?」
突然現れ倒れた俺に対して、心配そうに声を掛けてくる制服姿の少女。まだこの世界に来て日が浅いので詳しくはしらないが、街中でよく見かけるこの制服はきっとこの近くにある中学校の物だろう。つまり中学生だ……どうしよ、小さい子ならまだしも年齢が近い異性と喋るのは陰キャコミュ障にはかなりキツイんだけど……そんな悲しき事情を知らずに彼女は人助けの善性に満ち溢れた表情で俺に手を差し伸べてくる。まぶしい……
「……ひ、1人で立てるから」
「でも凄く辛そうだよ?無理しないでいいからね?」
「……無理なんて……全然してない」
……強がったけれど、結局立ち上がる事が出来ず彼女に肩を支えてもらう形で助けてもらった。
「……ありがと」
「お礼なんて要らないよ!困ってる人がいたら助けるのは当たり前だもん!」
良い子だなぁ……女子の柔らかい体の感触やら良い匂いやらで、動揺を隠すのが精一杯だった俺が情けない。ホントDTでごめんなさいでした……
「おねーちゃん、大丈夫……?」
「もう平気、心配かけてごめん」
俺は頭を撫でてあげると、愛音ちゃんは「えへへ……」と嬉しそうに頬を赤らめながらその顔を綻ばせた。そして俺達2人を優しい笑みで見守ってくれていた中学生の子はふと疑問を抱いたように、頭にハテナマークを浮かべながら尋ねてくる。
「そういえば、どうして2人はこんな路地裏にいたの?」
「えっと、それはね―――」
愛音ちゃんが事情を説明すると、それを聞いていた彼女はウンウンと頷きながらやがて力強く宣言するように。
「なら私も愛音ちゃんのお母さん探しを手伝うよ!」
「ホント!?」
「……いいの?」
「もっちろん!だって私はこの街を守るまほ……う、うん!助け合いの精神ってやつだね!?わっ、私はそれを何よりも大事にしてるんだ!あはは……」
立派な心持ちだ、まだ中学生なのにしっかり者すぎて凄いなぁ。一瞬言いかけた言葉が少し気になるけど、別に引っかかる事でもないだろう……そして彼女は真っすぐな瞳で俺を見つめ、元気に。
「―――私の名前は諸星あすか!アナタのお名前は?」
「エr……橘翔t…………橘翔子よ」
「翔子さんかぁ、可愛いお名前だね!」
あぶねぇ……咄嗟に思いついた偽名を名乗り誤魔化したが、諸星さんが特に不思議がる様子も無く受け入れてくれてよかった。まあ橘翔太と伝えて女の子だと思ってたら実は男の娘だった!?と誤解されるのもナシかアリかで言えばア……ごめんなさいつい性癖が漏れ出てしまいましたわ。バカテスの秀吉、アストルフォ、オトメドメインの湊くん、それ以外にも紹介しきれないほど素晴らしいキャラが沢山いますわ。男の娘とは世界を照らす希望の象徴ですのよ。
まあ語り出すとキリがないので、ここまでにしよう……そして諸星さんは太陽のように明るい笑顔を浮かべながら。
「よろしくね!翔子さん!」
「……ええ、よろしく」
諸星あすかさん、色鮮やかなショッキングピンクの髪を持つ元気で人助けに嫌な顔一つせず、それどころか自ら望むほどの溢れる善性を持つ少女……そして俺達は初対面のはずなのに何故かどこかで会ったような気がして―――
この出会いが将来、どれほど重要な意味を持つのか……このときの俺はまだ知る由もなかった。
諸星あすか…彼女は一体何カルリリィさんなんだろうな…(すっとぼけ)
次回に続きます。