ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない   作:なはた

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第8話

 

「―――そ、それでここから一体どうなるんだろうと思って7巻読んだらもう感動の嵐で、涙が止まらなかった……」

 

「わたなれは本当に良い作品、そしてはるれなは最高」

 

「しっ、姉妹百合の良さを改めて認識させられた……血の繋がりがあるからこその他人では見られない激重感情がいい……」

 

「……分かる」

 

まさかここまで趣味嗜好が合う人と出会えるなんて思わなかった……凄く緊張したけど勇気を出してよかった、嬉しいへへへ……

 

 

小声でよく聞き取れないが、彼女―――名前は伊藤奏さんというらしい。伊藤さんは安心したように顔をほころばせており、彼女はずっと誰かと自分の趣味について語り合いたいと、そんな欲求を抱いてきたのだろう。だからこそきっと、今この状況が嬉しくて仕方がなくて……ただそれはこちらも同じだ。前世では少ないながらも共通の趣味を持つ友達と熱く語り合っていたが、今世ではそういう存在は一人もいない。いやシュタインちゃんも大切な友達だが、あの幼く純粋無垢な彼女にこういった濃厚な世界を進めても恐らく理解出来ないし……変に染めようものならあの親バカなボスがどんな反応を見せる事やら……俺としても会議案件は避けたい。せっかく努力してステッキの技をコントロールしたり、ラーメン大好きならぬエリザ大好きソフィアさんからの熱烈なアタックを回避してきたのにこんな理由でDEADENDなんて御免だ。

 

 

まあそんな事情はともかく……アニメショップでの出会いから約1時間程が経ち、無事意気投合した俺達はモール内のファストフード店でドリンクを買い店内で話に花を咲かせていたのだが……突然伊藤さんが「アッ!?」と大きな声を上げると、輝きから一転その表情に暗がりが広がっていき俯いてしまった。何事かと心配したが、しばらくすると彼女はゆっくりと顔を上げて。

 

 

「ご、ごめん……私、お母さんとの約束を忘れてた」

 

「……もしかして、これから会う予定でもあるの?」

 

「うっ、ううん……そうじゃなくて、その……」

 

 

伊藤さんは気まずそうにモジモジと体を揺らしている、どこか様子のおかしい彼女に俺は内心首を傾げていると……意を決したのか絞り出すような声で伊藤さんは言い放った。

 

 

「わ、私の着ている服がダサいってお母さんから指摘されて……それでお金あげるからちゃんとしたの買ってくるようにって言われた、忘れずに絶対買うのよ?って出かける前も強く釘を刺されたし……なのに楽しくてついうっかり……」

 

 

そう言って自嘲するように力なく笑う伊藤さん、母親からよっぽど念入りに釘を刺されたのか行かなきゃいけないという意志とまだお話していたい本音が彼女の瞳の中でせめぎ合っているように見えた。俺に対してそう思ってくれるのは嬉しいが、家族との破れない約束ならそっちを優先するべきだと感じる……ただそれなら。

 

 

「―――私も一緒に行く」

 

「……え?」

 

 

伊藤さんは驚いたように目を見開き、そして遠慮するように「そ、そんなの悪い……」とわざわざ自分の用事に付き合わせるのは申し訳ないと言わんばかりだった。別にこちとら何の予定も入ってない暇人だし、全然構わない。というか……俺としては疑問に感じる点が一つあって。

 

 

「……貴方の私服、ダサいとは全く思わない」

 

「ほっ、本当……!?」

 

「うん、むしろ良いセンスしてる」

 

「あ、ありがとう……!実は私もこの服、密かに自信あって……」

 

 

そして伊藤さんは悲しそうな表情を浮かべながら。

 

 

「なのにお母さんは否定してきて……辛かった」

 

「奏……」

 

 

一体母親は彼女の私服の―――胸元に「~自然をこの身に感じよう~ Enormous forest(バカデカい森)」と文字がびっしりと刻まれたTシャツの何が悪いというのだろう?背中には一面綺麗な森のイラストが描かれていて、伊藤さんの髪色と上手くマッチしている。とてもクールだ。

 

 

「……芸術は万人が理解できるものではない、そしてそれはファッションも同じ。優れすぎているというのも困るものね」

 

 

伊藤さんへのフォローの意味を込めて俺がそう呟くと、彼女はその言葉に納得してくれたらしく笑顔で嬉しそうにコクコクと頷くのであった。そして俺達は母親を納得させる為、一般的に合わせてセンスのレベルを調整し普通の服を買いに行く事に改めて決めた。やれやれ、大衆に合わせるのも苦労するね?

 

 

「しょ、翔子の私服も凄くカッコいい……」

 

「フフ、そうでしょう?」

 

「う、うん……!」

 

 

こうして「I am a very badgiri ☆」な超悪い女の子こと俺と、「~自然をこの身に感じよう~ Enormous forest」なバカデカい森こと伊藤さん(???)の二人は3階にあるレディースファッションショップへと向かったのだが……まさかの事態に。一体何が起こったかというと……

 

 

 

「とても似合っていますよ!それはもうシフトが終わった後につい食べちゃいたくなるぐら―――何でもないです」

 

「…………」

 

 

白い上品なレースがあしらわれた長袖のブラウスに、深いネイビーのフレアスカート。そこには可憐で清楚な超絶美少女―――というか俺である。性認識は前世の男のままだから、こういった女性らしい、しかもまるでお嬢様のような恰好には正直抵抗があり複雑で仕方がないのだ。どうしてこうなった……と思わず頭を抱えたくなるが、俺は悪くないと声を大きくして否定したい。

 

 

伊藤さんの服を選びに店内へ入った瞬間、何故か鼻息を荒くしてこちらに歩いてきた女性店員さんにアナタにオススメのコーディネートはこちらです!と勢いよく進められ断る暇もなく試着室にぶち込まれてしまい……今に至るというわけだ。ちなみに伊藤さんは俺が使用した隣の試着室でまだ着替えている最中である。

 

 

「ハァ……ハァ……今はまだ業務中だから我慢しなきゃダメよ私」

 

 

まるで理性と必死に戦うように己の体をギュッと抱きしめる店員さん、いや業務中じゃなかったらいいわけじゃないですからね??ていうかマジで怖いんだけど伊藤さん早く出てきて……そんな俺の願いが通じたのかカーテンが開かれ。

 

 

「わ、私にはこんな可愛らしいの似合わない……」

 

 

伊藤さんは羞恥心からか頬が赤く染まっている、自信なさげな様子の彼女だが……淡いピンクのカーディガンにチェックのスカートを合わせており伊藤さんの持つ可愛らしさを存分に活かせている。このコーディネートも例の俺を襲おうとしている女性店員のオススメなのだが、やるじゃないかと言わざるを得ない。ファッションとは何かの見本例だ……その瞬間、脳内にふと沸いた疑惑。

 

あれ?もしかして自分のセンスっておかしいんじゃ……い、いやコレも良いってだけで俺のだってオシャレだよね!絶対そうだって……半ば強制的に言い聞かせていると伊藤さんがこちらを見て硬直している事に気が付いた。

 

 

「……奏?どうしたの?」

 

「ウェッ!?ななっ、何でもない……」

 

 

伊藤さんはただでさえ赤い顔を更にオーバヒートと言わんばかりに真っ赤にさせながら、アタフタと手を振っている。まさか俺を見て照れているとか……いや自分で言うのも何だけど、この可愛さだから大体の人はそうだろうが彼女の場合は当てはまらないだろう。何故なら先ほど、ファストフード店で語っている最中に伊藤さんは熱くなりながら「や、やっぱり三次元は二次元に及ばないと思う……二次元の女の子にしか私は萌えない……!」と断言していたのだから。きっとまあ。

 

 

私の好みのお嬢様コーデ……しかもまるでアニメのキャラかと錯覚するぐらい可愛いなんて、ここ、これは反則……

 

 

―――俺の勘違いだろう。

 

 

「奏、すっごく似合ってる。可愛い」

 

「うぅ……」

 

 

伊藤さんは弱弱しい声を漏らしながら、カーディガンの裾をギュッと掴み顔を俯かせた……え?とりあえず女の子の服は可愛いって褒めておけば大丈夫ってネットで見たんだけどもしかして間違えた?いやお世辞とかじゃなく本当に似合ってるんだけど俺DTだから悲しい事に何とコメント出していいか分からなくて……

 

 

色んな意味で内心泣きそうになっていた俺だったが、伊藤さんは上目遣いでこちらを見つめると。

 

 

「う、嬉しい……!ありがとっ……!」

 

 

心の底からの本音と言わんばかりに、はにかんだ笑顔を見せてくれた。伊藤さんは上下共に購入し……ちなみに俺もコーディネートされた服を購入したのである、何故かと聞かれれば店員さんが「あの子が試着した服……じゅるり」とまるで極上の料理へ向けるように瞳を卑しく光らせていたからです。お洋服を守らなければと思った所存でございますハイ。

 

 

そしてお店から出て、近くの時計を確認すれば18時をちょうど過ぎた辺りで夕方から夜に移り替わる時だ。6月ともなれば日は長く外はまだ明るいが、後30分もすれば暗くなるだろう。

 

伊藤さんも俺と同様に時刻を確認すると……悲しむような、惜しむような、色々な感情が入り混じる表情を浮かべていた。そして。

 

 

「……きょ、今日は本当にありがとう」

 

「……別に、礼を言われる事なんて何もしてない」

 

 

そう返すと、彼女は首を横に勢いよく振り必死に否定しているようだった。

 

 

「わ、私人見知りで特に知らない人と話すなんて少しでも出来ない、それで緊張して色々変な事口走っちゃったのに……翔子は引きもせずむしろ寄り添ってくれた。もうこんなチャンスは二度と訪れないと思って……だから私もその手を取るように答えて、その結果―――今日初めて出会った人なのが信じられないぐらい凄く楽しかった……!」

 

「……私も同じ、貴方と出会えて良かった」

 

「そそ、それってちなみに嘘じゃない……?」

 

「全く、嘘なわけないでしょう?100%偽りのない本音よ」

 

「そっか……そっか……!」

 

 

伊藤さんは俺の言葉を噛み締めるように何度も頷き、そんな姿を見て俺も表情にこそ出さないが喜びの感情が溢れ出てきた。だからこそ、悪の組織の都合上スマホを所持出来ないのがとても悔しい。諸星さんの件はあのとき急いでいるようだったから、仮に持っていても交換出来たかは分からないが伊藤さんとは……何が文明社会を破壊するソサエティだよせめてPCぐらいはOKにしろよぉ……!

 

 

だがそのくせに何故か異空間でありながら電波が立っていて、テレビが部屋に置いてある矛盾っぷり。まあそのおかげでアニメ等が視聴出来て流行には何とかついていけてるのだが……やはりテレビだけでは今のデジタル時代において情報量に欠ける―――決めた。アジトに帰還したらシュタインちゃん経由でボスにせめてPCだけでも許可を取ってもらおう、彼女のお願いなら断れないだろ……怒り心頭な俺だったが右手を包み込むような温かい感覚で途端に現実へ引き戻された。驚いて見てみれば。

 

 

「しょ、翔子……私達、また会えるよね?」

 

 

両手で俺の右手を握り、大きな瞳を不安で揺らがせながらこちらを見つめてくる伊藤さん……そんな彼女を見て俺は呆気に取られたのと同時に頭で何をするべきか理解した。

 

 

「絶対にまた会える、それに……このやり取りをするにはまだ少し早いんじゃない」

 

「し、翔子……?」

 

 

俺は真正面から伊藤さんの顔を見つめ返す、そして残された左手を彼女の両手に優しく添えるように重ねて。

 

 

「―――貴方を家まで送る、別にお別れはそこでもいいでしょう?」

 

 

そう告げると、伊藤さんは何故か目をグルグルとさせながら。

 

 

「は、はひぃ……」

 

 

そう力なく答えるのであった、一体どうしたんだろうか……疑問を抱きつつも一緒に家まで向かうと徒歩30分ほどで閑静な住宅街に佇む一軒家に辿り着いた。よし、無事に送り届けられたな―――と思って帰ろうとしたのだが。

 

 

「あらあら~、ホント凄い雨ね。まるで台風みたい、いきなり降ってくるものだからお母さん驚いちゃったわー。翔子さんもタイミング良かったわねぇ」

 

「…………」

 

 

その瞬間、突然予報に無い大雨が降り始め玄関前で呆気に取られていると伊藤さんの母親―――麗子さんが現れ俺を中に入れてくれた。そしてリビングでお茶菓子を出されもてなしを受けるという今に至る……未だ止む気配の無い荒れ模様だが、俺はやろうと思えば人気のない路地裏に行きそこからアジトへ転移可能なのだ。まあそこまでの道のりの最中によわよわな俺では、強風に煽られ転倒しそのまま大怪我なんて未来が容易に視えるから出来ないけれど。ザ~コ♡で悲しいですよ本当に……

 

 

「……ありがとう、麗子」

 

「いいのよ!だって奏のお友達だもの!それに今日はもう雨止みそうもないし全然泊まっていっていいからね~」

 

「お、お母さんッ……!?」

 

「……いいの?」

 

 

笑顔を浮かべながら親指でグッドサインを作る麗子さん、気さくで良い人だな……実際俺にとっては生死に関わってくるので本当にありがたい話だ。再度お礼を述べると、麗子さんはうふふと微笑みながら伊藤さんの方をチラッと見て。

 

 

「それに―――何だか面白くなりそうだしね!」

 

「?」

 

 

「お、お泊り……翔子とお泊り……」

 

 

伊藤さんとの一日は終わりを告げたかと思いきや、むしろまだまだ―――これからなのであった。




魔法少女と敵組織幹部のお泊りイベント発生(なお、お互いに正体を知らないので成立する模様)

次回はアメリア編の中編となります!
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