ニチアサ系世界に転生したTS魔法少女は悪の幹部をやりたくない   作:なはた

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第9話

 

―――母親の麗子さんお手製のハンバーグはとても美味しかった、こちとら「腹が、減った…」と孤独な人の代表的台詞を内心呟きながらアジトで一人毎日寂しい食生活を送っていた身なので、複数人で食卓を囲むというのは前世以来の事であり味だけでなく心も温まる良き時間を過ごせたと言えよう。ただ……

 

 

「……まさか女子の部屋で夜を過ごす日が訪れるだなんて……」

 

 

ニ階の伊藤さんの部屋にて、俺は未だ止む気配の無い横殴りの雨が窓ガラスを激しく叩きつけるのを眺めながらボソッと呟いた。麗子さんに聞いた所この家には部屋の空きが無いらしく、急な来訪でお世話になってる立場としては睡眠を取れるなら別にソファーでも構わないと伝えたのだが……麗子さんはまるで予め言葉を用意していたかのように、どこかわざとらしい様子で「それなら奏の部屋で翔子さんも一緒に寝ればいいと思うわ!布団は用意しておくから!女の子同士、夜のパジャマパーティーね!ふふっ♡」と提案してきたのであった。年齢=彼女いない歴なDT戦士の俺が異性と同じ部屋で就寝を共にするのは流石に達成不可の高難易度クエストすぎる、それにいくら友達とはいえ今日知り合ったばかりの人と一緒にだなんて向こうも嫌だろうと伊藤さんの方を見てみると……

 

 

「パ、パジャマパーティー……!パーティーって事はつまりここっ、これで私もパリピ女子の仲間入り……???」

 

 

頬を赤らめ瞳をグルグルとさせながら謎理論をかましつつも、OKと言わんばかりに大きく何度も頷いていた。そんな伊藤さんの様子に少々疑問を抱いたけれど、こうなっては俺も断るわけにはいかず……今に至るというわけだ。俺は先に風呂をいただき、彼女が部屋に来るのをクッションに座り待っているのだが……改めて女子の部屋にいるという状況がどうにも落ち着けずキョロキョロと回りを見渡してしまう。

 

 

壁にはアニメのポスターが何枚も貼られており、本棚にはびっしりと漫画やライトノベル……勉強机にはアニメショップで意気投合するきっかけとなった缶バッチに描かれたのと同じ俺と彼女の推しキャラのアクリルスタンドが置かれている。アッ何か落ち着くわ~、と油断して気を抜いた瞬間……ふと視界の隅に自分が今着用しているパジャマの袖が映り込んだ。

 

 

「……これ、サイズが合うから着れたけど元々伊藤さんの物なんだよね」

 

 

ふわりと、鼻腔をくすぐる柔らかな香り。お下がりや新品ではなく、間違いなく伊藤さんが普段から着用しているであろうそのパジャマからは彼女自身のものと思われる女の子特有の甘く優しい良い匂いがした……え?さっきからいちいちドギマギしててキモい?

 

……誠に申し訳ございません、こちとらTSする前は女子とまともに会話すら交わした経験の無い陰キャ男子高校生だったんです……このまま伊藤さんに動揺を悟られてはいけない。これでも一応クール系美少女橘翔子の認識で彼女には通っているのだから、それならば……俺は深く息を吸い込み、そして例の暗示を唱える。

 

 

「俺はクール系のうすほそ美少女翔子、俺はクール系のうすほそ美少女翔子、俺はクール系のうすほそ美少女翔子―――そう、私は翔子よ」

 

 

ちなみにこれはソサエティのアジトで行っていた『俺はクール系敵幹部のうすほそ魔法少女エリザ』暗示の応用である、後うすほそ要らねぇだろって意見には今回も断固反対させてもらいますそこが重要なんです。

 

 

そして唱え終えた瞬間、ちょうど俺の後にお風呂に入っていた伊藤さんが部屋へやってきた。あぶな。

 

 

「お、お待たせ翔子……ウェッ!?」

 

 

だがしかし、伊藤さんは入ってくるなり突然奇声を上げてその場に硬直してしまった。

 

 

「……どうしたの?」

 

「なな、何でもない……自分のパジャマを着てる姿を見てると何故か恥ずかしさがこみ上げてきて、それにお風呂上りの翔子の汗が流れる火照った体が―――って私エリザに対する千代みたいな事言ってる……!?こ、これは違うからっ……

 

 

伊藤さんは俺に聞こえないレベルの小声でブツブツと何かを呟きながら、自分用のクッションを取って近くにへたり込むように座りそして黙り込んでしまった。彼女の顔は髪の隙間からチラリと見える耳まで真っ赤となっていて……俺は内心首を傾げつつも、このまま2人きりの部屋で沈黙が続いては気まずくなってしまうので俺は視線を本棚の方に向け。

 

 

「最近の百合作品から一昔前のまで、揃えてて凄い。奏は本当にこのジャンルが好きなのね」

 

「え……?う、うん、翔子には話したけど私にとって可愛い女の子がイチャイチャするのは最高の癒しだから……」

 

「それなら……」

 

「しょ、翔子……?」

 

 

俺は立ち上がり本棚へと向かい、今伊藤さんが特にハマっているらしく同様に自分も好きな百合漫画のとある一巻を手に取り戻った。彼女は突然の行動に疑問を抱いている様子だが、俺はクッションを伊藤さんの座る真横に置き自分もそこへ腰を下ろす。お互いに肩が当たるぐらいの至近距離だ。

 

 

普段ならこんな真似は出来ないだろうが、今の俺……いや私はクール系のうすほそ美少女翔子であるから問題はない。

 

 

「ち、ちか……」

 

「……ねぇ、しましょう?」

 

「すすっ、するってナニを……!?」

 

 

伊藤さんの顔を覗き込むように見つめ、優しく囁く形で声を掛ける……焦りを浮かべる彼女だが俺は続きの言葉を紡ぐ。

 

 

「そ、それってもしかしてエッ「―――漫画、一緒に読も」

 

「…………」

 

 

俺と伊藤さんは共通の趣味を持つ者だ、さっきどこか様子が変だったからもしかして落ち込んでいるのかなと心配になり……なので好きなもので元気を出そうって作戦さ!

 

 

「フフ、やっぱりこの作品は良い」

 

「……いっ、1ミリも期待なんかしてない、ホントに全然……」

 

 

伊藤さんは大切な友達だからね!これで少しでも元気になってくれるといいなぁ。

 

 

 

 

 

「―――や、やっぱり上伊那ぼたんはキャラの描写が繊細で何度読んでも面白い……!」

 

「分かる」

 

 

読み始めの当初こそ、むしろ更にテンションが下がっていた(理由不明)伊藤さんだが俺がページをめくっていくうちに徐々にオタク魂に火が付きお互いにこのキャラが良いだのCPが良いだの色々と語り合って……一冊だけでは物足りなくなり、何冊か読み終わって時計を見れば既に夜の24時を回った頃であった。土曜とはいえ流石に時間が時間なので寝ようと決め、伊藤さんは自分のベッドへ、そして俺は麗子さんが用意してくれた布団を部屋に敷きお互い横になる。

 

 

俺は天井を見つめながら、未だ降り注ぐ雨の音を聴きながら脳内で今日の出来事について振り返っていた……まさかアニメショップで出会った女の子とその場で意気投合し、家にまで泊まることになるとはね?人生何が起こるか分からないとはこの事だ。でも趣味について語り合える、そんな友達が今世でも欲しいと思っていた俺にとってこの出会いは間違えなく幸運だったと言えよう。

 

 

そんな風に感じていると睡魔が襲ってきて、目を閉じようとしたそのとき。

 

 

「……しょ、翔子、まだ起きてる……?」

 

 

暗闇の中、ぽつりと伊藤さんが声を漏らした。先ほどまで語っていた際の明るいトーンとは違う、どこか沈んで思い詰めたような声色。

 

 

「起きてる、どうしたの奏?」

 

「え、えっと……少し聞いてほしい話があって……変な質問だけど、翔子は自分の前に立ちはだかるような。そんな大きな存在っている……?」

 

「……大きな存在、ね……つまり強敵って事?」

 

「う、うん……」

 

 

本人の言う通り、正直曖昧で突拍子も無く答えにくい質問だ。しかし、伊藤さんの声色は真剣そのもので本当に悩んでいるのがよく伝わってくる。だからこそ何とかして応じたい、学校のテストで、スポーツで勝ちたい人物がいる。もしくは部活動……いや彼女は部には所属していないとモールで話したときにサラリと言っていたか、自分の前に立ちはだかる存在で連想するのは勝負事ぐらいなものだが……「貴方は何でそんな事を聞くの?」とつい尋ねたくなったが―――どうしてだろう。それは俺が聞いてはいけないような気がした。

 

 

「……強敵」

 

 

改めて伊藤さんの事情については触れずに純粋にその質問に答えるべく、ワードを反復するように呟く。そして脳内で熟考し、やがて思い浮かんだとある人物……そう。あの「完堕ちアヘ顔Wピース」などというニチアサどころか深夜アニメでも規制が入るような台詞を平然とのたまう、変態青色魔法少女ソフィアだ。あの恍惚とした表情でこちらの貞操を狙ってくる様、もう思い出すだけでも恐怖で泣きそう。

 

 

「……私にはいる、こちらの精神を削ってくる本当に恐ろしい相手が。何度会っても、底の知れない存在。ええ、紛れもない強敵」

 

「そっ、そっか……翔子にもそういう人がいるんだ。た、大変そうだね……?」

 

「そうね、凄く苦労してる」

 

 

当然詳細はぼかしつつ、実感の籠った俺の言葉に伊藤さんは納得しどうやら話す気になってくれたらしく……自身の胸の内をゆっくりと打ち明け始めた。

 

 

「わわ、私も同じ……絶対に超えなきゃいけないのに、逆立ちしても届かないような圧倒的な力を持った存在がいる。つい昨日も挑戦した、私なりにこれならいけるって自信があった。ずっと負けっぱなしだからどうしても今回は結果を出したくて……」

 

 

伊藤さんの声が、悔しさで震えている。

 

 

「で、でも……その人は私の考えなんてまるで最初から全てお見通しだったみたいに私の計画を粉々に打ち砕いた、最低限の目標にすら届けない。自分の未熟さが情けなくて……私、本当にこのままでいいのかなって怖くなった……」

 

 

俺は伊藤さんが心配になり、布団から起き上がってベッドの彼女の顔を見ると……こちらと目が合い、そしてその瞳からは大きな一粒の涙が零れ落ちるのが暗闇ながらに確かに分かった。

 

 

「ひゃっ……しょ、翔子……!?」

 

 

俺はそんな悲しむ彼女の姿を見て、沸き上がる感情を抑えきれずにベッドへと駆け寄り両手をそっと包み込むように握りしめた。伊藤さんは驚きの声を上げながら、慌ててリモコンで部屋の明かりを点けると……潤んだ瞳が鮮明に俺の視界全体に入り込んできた。

 

 

「……奏、私は貴方が誰に挑んでいるのか詳しい事情はよく分からない。でも……」

 

 

俺は真っすぐに伊藤さんを見つめて。

 

 

「今日、一緒に過ごしてよく分かった。奏は優しくてとても善い子、そんな貴方が自分を曲げる必要なんてない」

 

「…………」

 

「……きっと今回はたまたまその相手側の運が良かっただけ、だからそんなに自分を情けないだなんて責めないで。私は誰よりも頑張ってる奏を心の底から応援してる……貴方なら絶対に次はその大きな壁を乗り越えられるはず、私が保証する」

 

 

俺の言葉を受けて伊藤さんは呆然としていたが、やがてその瞳にじわじわと力強い炎のような光が灯っていくのが分かった。

 

 

「…………私、決めた」

 

 

そう言って、彼女は俺の手をぎゅっと握り返すと凛とした表情で。

 

 

「わ、私は絶対に諦めない……どんなにその相手が強くても、もっともっと自分の力を磨いて絶対にいつか勝ってみせる……!」

 

「うん、その心意気」

 

「がっ、頑張る……!だって今までやられた分一発ぐらいは入れないと気が済まないからっ……!」

 

「一発どころかボコボコにぶちのめしてやりなさい」

 

 

伊藤さんはまるで霧が晴れたような、爽やかな笑みを浮かべるのであった……俺の直感がまるで自分の発言を含めてこの会話がとんでもねぇとザワザワしているのは何でだろうか?

 

 

まあ―――ただの気のせいだろう。

 

 

 

 

翌朝、昨晩の嵐のような大雨が嘘と言わんばかりに窓の外には青空が広がっていた。梅雨の晴れ間というやつだろうか、差し込む太陽の光がやけに眩しい。麗子さんが用意してくれた朝食を二人で美味しくいただいた後、俺は借りていたパジャマを丁寧に畳んで返し、伊藤さんと一緒に玄関まで向かうと……彼女は名残惜しそうにこちらを見てきた。

 

 

「しょ、翔子……もう行っちゃうの……?」

 

「もう雨は止んだ、それに本当なら昨日の時点で貴方とはお別れだったじゃない」

 

「……そ、それは」

 

「…………でも、そうならなくて良かったと私は心の底から思ってる。楽しかった」

 

 

俺はそんな本音を優しく伝えると、伊藤さんは嬉しそうに頷き……そしてどこか恥ずかしそうに体をモジモジとさせながら。

 

 

「……し、翔子が言ってくれた言葉、私ずっと忘れない。あの高い壁を乗り越えられるように、一生懸命頑張る」

 

「ええ、貴方ならきっと大丈夫」

 

 

温かな空気に包まれながら俺は。

 

 

「……また会いましょう、奏」

 

「……うんっ……!」

 

 

伊藤さんは満面の笑顔を咲かせてながら手を振ってくれて、スマホやPC等の現代機器を持ち合わせていない俺だがここに来ればいつだって彼女と会える。その事実が心を明るく照らすのだ……そして俺はとある決意を固めるのであった。何かというと。

 

 

「……アジトに帰還したら早速PC、そして近いうちにスマホも絶対許可させてやろ」

 

 

頼むぞシュタインちゃん、ボスへの説得が通じるかどうかは全て君の手にかかっているのだから。

 

 

 

 

「街のみんなの、それに何より私を応援してくれた翔子の為に……絶対、絶対エリザに勝つ……!」

 

 

そして伊藤奏―――いや魔法少女マジカルアメリアはそう強く誓うのであった。




自ら魔法少女の背中を押しピンチを招くスタイル(知らないので仕方ない)

次回はアメリア編ラスト、エリザとのリベンジマッチとなります!
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