スコットランド北部、グランピアン山脈の奥深く。人里離れた険しい山岳地帯に、黄金と深紅の旗が翻る古城があった。
アウレリウス城。英国魔界において「戦う貴族」と称される、古くからの武闘派名門──それがアウレリウス家だ。
「その調子だセラフィーナ!」
広大な訓練場に男の大声が響き渡る。31歳という若さでアウレリウス家の現当主の椅子に座るこの男、名をレジナルド・ヴァレリウス・アウレリウスという。
長身で引き締まった体躯、赤髪に鋭い赤い瞳。冷たく整った美丈夫であるこの男、第一次魔法戦争において若輩ながらも最前線で一騎当千の活躍を見せ、死喰い人を15名殺害し20名アズカバン送りにした実績を持ち現在は上級闇祓いとして魔法省でも顔が利く。
「レジナルド。鍛錬もいいけど勉強の時間を圧迫するのはダメよ?」
少し呆れた声でそう言うのはレジナルドの妻、イゾルデ・セラフィーナ・アウレリウスである。
黄金の長髪と深紅の瞳を併せ持つ女性。その美貌は神々しいと言われるほどであり、ホグワーツ在学中はファンクラブのようなものがあったという逸話がある。古代魔法や魔法薬学、古代ルーン文字に精通しており、新たな魔法薬の研究や独自魔法の開発にも力を入れている。家業の管理と一人娘の教育は殆ど彼女が担当している。
「父上、私はまだまだ余裕を残していますよ」
レジナルドと共に訓練場で汗を流す少女。魔法族、それも純血の名家では通常考えられない『肉体鍛錬』を行っている少女の名はセラフィーナ・ヴァレリア・アウレリウス。レジナルドとイゾルデの娘であり、アウレリウス家始まって以来の最高傑作と言われる天才だ。
腰まで届く鮮血のような深紅の髪。髪と同色の瞳は猛禽類のように鋭く、11歳の少女とは思えない威圧感を持っている。神が作った美術品の如く整った顔立ちをしており、両親どちらの面影も感じられる。
「それは頼もしいなセラフィーナ。なら筋トレの次は近接格闘訓練をやるぞ!」
「承知しました父上。ルールは一撃入れた方の勝利で良いですか?」
「構わん!全力で来いセラフィーナ!!」
純血の名家……その当主である父と娘が近接格闘訓練と称してマグルから学んだバーリ・トゥードを嬉々としてやっている。しかも防具も何も付けない完全な素手同士の殴り合いである。
「今日も元気ね2人共」
「奥様、紅茶は如何ですか?」
「ありがとうリオラ。ちょうど喉が渇いたところだったの」
イゾルデに紅茶を持ってきた少女の名はリオラ・ヘイル。半純血であり、先祖代々アウレリウス家に仕えてきた使用人の家系である。
綺麗な銀灰色の長い髪と柔らかい青みがかった灰色の瞳を持つ美少女。11歳の少女にしては背が高く、セラフィーナと一緒にいると年上に見られる事もある。
セラフィーナと同い年なため幼い頃から遊び相手兼専属の使用人としてセラフィーナに仕えてきた。基本的にクールで献身的。セラフィーナに絶対の忠誠を誓っており、滅多なことでは表情が変わらない鉄仮面。しかし感情は割と豊かである。
「今日もお嬢様は元気が有り余っているようですね」
「そうなのよ。全く誰に似たんだか……あれじゃあホグワーツの教授方が頭を抱えてしまうわ」
「しかしアウレリウス家としては正しいのではないですか?」
「それが事実だから困るのよね……」
そう話している2人の元に一匹の大柄な猫が近寄って来る。
「オーラ、まだセラフィーナは鍛錬中よ」
イゾルデの言葉を聞き、オーラと呼ばれた猫は退屈そうに喉を鳴らしてその場で丸くなる。
「あらあら、いつもより長引いているから退屈そうね」
この大柄の猫、名前はオーロラでオーラは愛称である。勿論ただの猫ではない。長毛の美しい金白色で瞳はセラフィーナと同じ鮮血のような赤。体型はしなやかで優雅かつ大きめで筋肉質。耳の先が僅かに尖り、尾が長く優美に流れる。
この猫はレガリア・アウルム(王家の黄金)と呼ばれる猫型の魔法生物であり、魔法界ではその戦闘能力と個体数の少なさからドラゴンに並ぶ伝説級の魔法生物と言われている。
オーロラとセラフィーナは同じ日、同じ時間に産まれておりお互いを自分の半身、魂の片割れと認識している。
「そろそろ止めないとオーラが退屈しているわよ~!」
これが英国魔法界で一番変わっていると言われるアウレリウス家の日常である。
果たしてセラフィーナはどんな活躍をするのか