「スリザリン!!」
組み分け帽子の声が大広間へ響く。
一瞬の静寂。
そして次の瞬間、スリザリンの長テーブルから一際大きな拍手が上がった。
「やっぱりだ!」
「当然だろ」
「アウレリウス家だぞ」
ざわめきの中、セラフィーナは静かに帽子を外して立ち上がる。その動作には一切の迷いが無かった。まるで最初から決まっていた場所へ向かうだけであるかのように。
深緑と銀のテーブル。スリザリン生達の視線が一斉に集まる。興味、警戒、期待、そして僅かな畏れ。その全てを真正面から受けながら、セラフィーナは堂々と歩いていく。オーロラもその隣を静かに歩いていた。
「アウレリウス!」
ドラコが少し嬉しそうに声を上げる。
「やっぱりスリザリンだったね。君なら絶対にそうだと思っていたよ」
「あぁ、そうなったな」
セラフィーナは当然のことのように答えると、ドラコの隣に座る。オーロラも当然のようにセラフィーナの膝に飛び乗って座り、毛繕いを始める。
「……凄かったな今の」
ドラコが少し興奮した様子で言う。
「帽子、かなり長く悩んでたじゃないか」
「そうか?」
周囲の上級生達もひそひそと話している。
「帽子があそこまで喋るの初めて見たぞ……」
「アウレリウス家だしな……」
教師席。スネイプは腕を組んだまま、静かにセラフィーナを見ていた。表情に変化は無いが、その黒い瞳だけが僅かに細められている。
「……なるほど。確かにレジナルドの娘だ」
小さな呟き。隣に座るマクゴナガルが僅かに視線を向けた。
「随分と両親に似ていますね」
「そのようですな……厄介なことに」
短い返答。だがスネイプ自身、内心では納得していた。あれは確かにスリザリンだ。野心、覇気。そして、頂点へ至ることを当然とする精神。それは歴代のスリザリン生の中でも、特に色濃い部類だった。
そしてハーマイオニーやロン達の名前も呼ばれていく。
「ほう、あいつ等はグリフィンドールか」
「ポッターがグリフィンドール……」
ドラコは少し不満そうな顔をする。
「不満かマルフォイ」
「付き合う相手を選んだ方がいいと忠告してやったのに……」
ドラコは不満そうに唇を尖らせる。
「だが断られた、と」
「あぁ。しかもロン・ウィーズリーなんかの肩を持つんだ」
その言い方に、セラフィーナは少しだけ笑う。
「別に肩を持った訳ではないだろう。どうせ貴様の態度が悪かったんだろう」
「なっ……!」
ドラコが言葉に詰まる。周囲の上級生達からクスクスと笑いが漏れた。
「ハッキリ言うなぁ……」
「流石アウレリウス家だ」
その時、グリフィンドールのテーブルから大きな歓声が上がる。そちらに視線を移すとハリー・ポッターが席へ迎えられていた。ロンが満面の笑みでハリーの背中を叩き、ハーマイオニーもどこか嬉しそうに拍手している。
「随分と歓迎されているな」
「当然だよ。“生き残った男の子”だからね」
ドラコは面白くなさそうに言う。セラフィーナはグリフィンドールのテーブルへ視線を向ける。ハリーはまだ少し緊張しているようだったが、それでも先程より表情は明るかった。
「……だが、悪くない顔をしている」
「え?」
「自分で選んだ場所へ辿り着いた人間の顔だ」
セラフィーナはカボチャジュースを一口飲む。
「そういう人間は嫌いではない」
ドラコは複雑そうな顔をした。
「君って本当に変わってるよね」
「よく言われる」
そしてリオラもスリザリンに選ばれ、当然のようにセラフィーナの隣に座る。
その時、ダンブルドアがゆっくりと立ち上がった。途端に大広間のざわめきが静まっていく。長い銀髭を蓄えた老魔法使いは、楽しげな笑みを浮かべながら両腕を広げた。
「諸君、ようこそホグワーツへ!」
その声が大広間へ響き渡る。
「まずは何より――食事としよう!」
直後、空だった皿へ大量の料理が現れた。
「おぉ……!」
一年生達から驚きの声が上がる。
ローストビーフ、チキン、マッシュポテト、パイ、スープ。豪華な料理が長テーブルいっぱいに並んでいく。ロンなどは完全に目を輝かせていた。
「すっげぇぇぇ……!」
セラフィーナも珍しく軽く目を見開いている。
「これは素晴らしいな」
「はい。アウレリウス家の料理人と良い勝負ですね」
食事が始まる。決闘貴族や脳筋名家と呼ばれているとは言え、アウレリウス家は正真正銘の上流階級であり貴族。セラフィーナとその従者であるリオラの食事マナーは完璧と言えるほど美しいものであった。
そして──
「……その子も食べるんだな」
「当然だ。オーラは人と同じものを何でも食べるからな」
「本当に何でも……?」
少し目を見開きながらオーロラに目を向ける。オーロラは料理を決して食い散らかしたりせず、静かに目の前の料理を食べている。野菜も魚も肉も、好き嫌い一つ見せず平然と食べていく。
そして食事が進んでいく。
最初に気付いたのは、近くに座っていた上級生だった。
「……ん?」
皿が空になる速度がおかしい。だがセラフィーナ本人の動きは極めて優雅だった。音を立てない、姿勢も崩れない。ナイフとフォーク捌きは完璧。まるで貴族の晩餐会そのもの。その所作の美しさに、最初は誰も『量』へ意識が向かなかった。
だが――ローストビーフ一皿。チキン、パイ、ポテト、スープ……。
追加。
さらに追加。
周囲が段々静かになる。
「……あなた、かなり食べるのね」
遠慮がちに声を掛けてきたのは、スリザリンの上級生らしき少女だった。
セラフィーナはナプキンで口元を軽く拭きながら答える。
「あぁ。鍛錬量が多いからな」
「鍛錬?」
「毎日やっているぞ。筋力鍛錬、走り込み、格闘訓練、箒飛行、魔力制御……他にも色々だ」
フォークを置きながら、まるで当たり前のように言う。周囲の上級生達が静まり返った。
「ま、待て。筋力鍛錬って何だ?」
「そのままの意味だが?」
「いや、魔法使いだろ君……?」
セラフィーナは少し不思議そうな顔をする。
「魔法使いだから鍛えるのだ。強靭な肉体は魔力の制御や集中にも影響する。父上からそう教わった」
ドラコが乾いた笑みを浮かべる。
「……アウレリウス家って本当に変わってるよね」
「そうか?」
「そうだよ」
即答だった。
そして気付けば、周囲のスリザリン生達は皆、セラフィーナ達を見ていた。恐れ、警戒。だがそれ以上に――興味。
アウレリウス家。
決闘貴族。
そしてレガリア・アウルム。
ホグワーツへ現れた異質な新入生は、入学初日から既に強烈な存在感を放っていた。
ホグワーツの料理食べてみたい