ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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もう夏かってぐらい暑いですね


第12話 紅蓮の朝

 早朝4時、スリザリン談話室はまだ深い静寂に包まれていた。湖の底から差し込む緑がかった薄明かりだけが、暖炉の残り火と共に空間をぼんやりと照らしている。

 

 女子寮から降りてきたセラフィーナは、既に動きやすい服装に着替えていた。リオラとオーロラも後ろに従う。オーロラは暖炉の前に丸くなり、すぐに寝息を立て始めた。 

 

 セラフィーナは床板を一切軋ませず、静かな呼吸のままトレーニングを開始した。腕立て、拳立て、指立て、倒立腕立て伏せ。一つ一つの動作が、細い肢体からは想像もつかないほど鋭く、洗練されている。続けて腹筋、スクワット、プランク。そして流れるようなシャドーボクシングへ。

 

「ふぅ……」

 

 午前5時。1時間に及ぶ肉体トレーニングが終わり、セラフィーナは少し乱れた呼吸を整えながら静かに息を吐く。

 

 ソファに深く腰を下ろし、セラフィーナは静かに目を閉じた。

 

 己の体内へと意識を沈めていく。すると、胸の奥底で猛々しく燃え盛る紅蓮の魔力が、まるで火山のマグマのように脈打っていた。熱く、荒々しく、制御しなければ瞬時に全身を焼き尽くしかねないほどの奔流だ。

 

 彼女はゆっくりと息を吸い、魔力の流れを掴む。膨大で強大なそれを、細い指で糸を紡ぐように圧縮していく。暴れ狂う紅い奔流が、徐々に引き締められ、研ぎ澄まされ、血管の一つ一つを巡るたびに熱い疼きとなって身体を駆け巡る。

 

 魔力の密度が上がるにつれ、彼女の皮膚の下で淡い紅色の光が微かに瞬いた。額に薄く汗が浮かぶが、表情は一切崩れない。むしろ、愉しむように唇の端がわずかに上がっていた。

 

 これがアウレリウス家の魔力鍛錬──ただの瞑想などではない。魔力を武器として鍛え、己の血肉と同化させる、戦うための鍛錬だ。

 

 午前6時。1時間の魔力鍛錬を終えたセラフィーナはゆっくりと目を開ける。すると、その瞬間を待っていたかのようにリオラが杖を振る。

 

「ルクス・プルガ」

 

 セラフィーナの体が一瞬淡い光に包まれ、汗と汗の臭いが綺麗に消える。

 

「いつ見ても見事な腕だなリオラ。確か母上が開発した洗浄魔法だったか?」

 

「はい。お嬢様、紅茶をどうぞ」

 

「うむ。ありがとうリオラ」

 

 受け取った紅茶を一口飲み、ティーカップをテーブルに置く。そしてリオラが用意した制服に素早く着替え、再びソファに座り紅茶を飲む。

 

「美味いな。また腕を上げたかリオラ」

 

「ありがとうございます」

 

 リオラも自分のティーカップを持ってセラフィーナの隣に座る。オーロラは相変わらず暖炉の前で寝ている。

 

 その時、男子寮側の階段から足音が聞こえてくる。欠伸を噛み殺しながら降りてきたドラコは、既に優雅に紅茶を飲んでいるセラフィーナ達を見て足を止めた。

 

「……何でそんなに朝から完成してるんだ君達」

 

「ん?意外と早起きではないかマルフォイ」

 

「いや、まあ……ってそうじゃなくて。君達はいったい何時に起きたんだ?」

 

「4時だが」

 

 空気が止まる。ドラコは目を見開き、ポカンと口を開けて固まる。

 

「よ、4時だって……?」

 

「うむ。早朝鍛錬をするにはそのぐらいに起きないと時間が足りないからな」

 

「お嬢様は5歳の頃より旦那様の指導の下この鍛錬を行っています」

 

 今度こそドラコは完全に固まった。

 

 数秒の沈黙の後、彼は信じられないといった顔でセラフィーナをまじまじと見つめた。

 

「5歳……?本気で言ってるのか?」

 

 セラフィーナは紅茶のカップを優雅に傾けながら、静かに微笑んだ。その笑みには、まるで当然のことのように余裕が滲んでいる。

 

「当然だ。アウレリウス家の者として、生まれた時から戦う準備を整える。それが我が家の掟だ。マルフォイ家も純血の名家ならば貴族としての矜持はあるはずだ」

 

「いや、矜持と早朝4時の鍛錬は別問題だろ……。普通の純血貴族の朝はもっと優雅なものだと思っていたんだけど」

 

 ドラコは額を押さえながらソファに深く腰を下ろした。まだ眠そうな目をこすり、ため息を吐く。

 

「……君は本当に11歳か?僕よりよっぽど出来上がっている気がするぞ」

 

「ふん、当然だろう。我が家は言葉ではなく、肉体と魔力で誇りを示す。マルフォイ家は口先だけという訳ではあるまい?」

 

 セラフィーナの紅い瞳がわずかに細められ、からかうような光を帯びる。ドラコはむっとした顔になりながらも、どこか興味深そうに聞き返した。

 

「じゃあ……その鍛錬を続けて、どれくらい強くなるんだ?入学初日に4年生をあっさり沈めた君が言うなら、相当なものなんだろう?」

 

 セラフィーナはカップを置くと、指先で自分の顎に軽く触れた。

 

「まだ本気を出したわけではない。だが興味があるなら、後で少し相手をしてやってもいいぞ?貴様の魔法、どれほどのものか見せてみろ」

 

 ドラコの顔が一瞬引きつった。

 

「は、はは……冗談だろ?僕達はまだ入学したばかりなんだぞ。いきなりそんな……」

 

「逃げるのか?」

 

「逃げてない!ただ……タイミングの問題だ」

 

 セラフィーナは小さく笑った。その笑い声は静かな談話室に軽やかに響き、オーロラが暖炉の前でピクリと耳を動かした。

 

 リオラは黙って微笑みながら、ただ2人の会話を静かに見守っていた。

 

 

 その頃、グリフィンドール男子寮。

 

「ロン!!起きろって!!」

 

「んんぅ……あと5分……」

 

 ベッドへ突っ伏したままロンが呻く。だがハリーは既に制服へ着替え終わっており、半ば強引に布団を引っ張っていた。

 

「もう朝食の時間になるって!」

 

「分かってるよぉ……」

 

 ロンは寝癖だらけの赤髪を掻きながら何とか起き上がる。その様子を見て、向かい側で制服へ着替えていたネビルが不安そうに呟いた。

 

「ぼ、僕ネクタイ上手く結べない……」

 

「僕もまだ慣れてないけど……えっと、こうかな」

 

 ハリーが悪戦苦闘しながらネビルのネクタイを整える。そんな騒がしい男子寮の扉が勢い良く開いた。

 

「まだ準備終わってないの!?」

 

 現れたのは、既に完璧に制服を着こなしたハーマイオニーだった。髪こそ少し跳ねているものの、教科書まで抱えている辺り抜かりが無い。

 

「女子寮の方はとっくに準備終わってるわよ!」

 

「早いよハーマイオニー……」

 

「ホグワーツ初日の授業なのよ!?当然でしょう!」

 

 ハーマイオニーは呆れたように腰へ手を当てる。だがその直後、何かを思い出したように表情を変えた。

 

「そういえば聞いた?」

 

「何を?」

 

「昨日の夜、スリザリン談話室で騒ぎがあったらしいの」

 

 ロンが嫌そうな顔をする。

 

「……どうせマルフォイだろ?」

 

「違うわ。アウレリウス家のセラフィーナよ」

 

 空気が少し止まった。

 

「何やったの……」

 

「4年生を半殺しにしたって」

 

「ブフッ!?」

 

 ロンが盛大に噴き出した。

 

「げほっ……げほっ……は、半殺し!?」

 

「正確には談話室で上級生と揉めたらしいわ。しかも魔法無しで勝ったって噂よ」

 

 ネビルの顔が青くなる。

 

「ひっ……」

 

 だがハリーは少しだけ複雑そうな顔をしていた。

 

「……でも、昨日話した感じだと、いきなり理由もなく暴れる人には見えなかったけど」

 

「それは私も思うわ」

 

 ハーマイオニーは腕を組む。

 

「多分、相手が先に何かしたんでしょうね。セラフィーナって変わってるけど、妙に筋は通ってるもの」

 

「筋が通ってても半殺しは怖いよ……」

 

 ロンの切実な呟きに、ハリーは思わず苦笑した。




早起きは年々しんどくなる
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