皆様のおかげです。ありがとうございます!
変身術の授業が終わると、教室は安堵と興奮が入り混じったざわめきに包まれた。ハーマイオニーは満足気にノートを閉じ、ハリーとロンは「なんとか生き延びた」という顔で疲れた顔をしていた。一方、セラフィーナは先端のみが針に変わったマッチ棒を指先で軽く弾き、静かに立ち上がった。
「お嬢様、次は魔法薬学です。地下牢の教室となります」
リオラが時間割を確認しながら小声で告げる。セラフィーナは紅い瞳を僅かに細める。
「……スネイプ教授か。楽しみだな」
父親が時折話していた「厄介な男」の顔を思い浮かべ、彼女の胸に小さな闘志が灯る。
廊下に出ると、一年生達は再び慌ただしく動き始めた。セラフィーナ達は迷うことなく地下へと向かう。動く階段を下りる途中、セラフィーナは小さく鼻で笑った。
「この城は生徒を試すのが好きらしい。……あまり良い趣味とは言えんがな」
「ホグワーツの伝統のようです」
一方、グリフィンドールの生徒達は大慌てだった。
「おいハリー!急げって!」
「待ってよ、階段がまた動いたんだって!」
冷たく湿った空気が肌にまとわりつき、石壁の松明が不気味に揺れていた。魔法薬学の教室の扉を開けた瞬間、誰もが思わず息を呑んだ。壁際の棚には無数のガラス瓶が並び、奇怪な生物の標本や怪しげな液体で満たされている。
「うっ……気味悪いな」
ロンが顔をしかめ、ネビルは今にも逃げ出しそうな顔をしていた。セラフィーナだけは棚の薬材を興味深そうに見回し、紅い瞳を輝かせた。
「乾燥マンドレイク、粉末化した甲殻類の殻……ほう、中々本格的だ」
「お嬢様はこういう物がお好きですね」
「毒も薬も使い方次第だからな」
その言葉に、近くにいたドラコが若干引いた顔をする。
「君、本当に一年生か……?」
その時、重厚な扉が開き一人の男が入ってきた。
セブルス・スネイプだ。先程までざわついていた一年生達が、まるで冷水を浴びせられたかのように静まり返る。ロンなどは慌てて背筋を伸ばし、ネビルは完全に縮こまっていた。スネイプは教壇へ立つと、ゆっくりと教室全体を見渡した。その黒い瞳は鋭く、まるで生徒達の内側まで見透かすようだった。
「魔法薬学とは──愚か者が杖を振り回して火花を散らすような、粗野な魔法とは違う」
低く滑るような声が地下牢へ響く。
その言葉を聞きながら、セラフィーナは静かに目を細めていた。
「……なるほど」
小さな呟き。変身術と同じ、力任せでは成立しない魔法。スネイプの黒い視線が、一瞬だけセラフィーナへ向く。だが何も言わず、そのまま教室を歩き始めた。
「さて……」
スネイプは感情の読めない目で教室を歩き始め、突然足を止めた。
「ポッター!アスフォデルの球根の粉末にニガヨモギを煎じたものを加えると何になる?」
ハリーが言葉に詰まる。スネイプの唇が嘲るように歪んだ。
「有名なだけではどうにもならんらしい」
「ククッ……全くだ」
教室の空気が、一瞬止まる。ハリーが少しむっとした顔でセラフィーナを見ており、ドラコはその様子を見て笑いを堪えている。
スネイプの視線がゆっくりとセラフィーナに移った。
「何か意見があるのかなミス・アウレリウス」
「いえ。ただ、有名と有能は違うというのは我が家の教えの一つでして」
スネイプの黒い瞳が細められる。
「……ほう。ならば答えてみせろ」
地下牢の空気が再び張り詰めた。セラフィーナは動じることなく口を開く。
「アスフォデルとニガヨモギを混ぜたら『生ける屍の水薬』という強力な眠り薬となります」
教室中が静まり返る。ハーマイオニーですら驚いたように目を見開いていた。
「ほう。ではベゾアール石を見付けて来いと言われたらどこを探す?」
「山羊の胃です。見た目は萎びた内臓のようですが、強力な解毒剤の主成分となります」
「流石はアウレリウス家というべきか。スリザリンに5点だ」
スネイプはそこで言葉を切り、黒い瞳を細めた。
「もっとも、知識だけでは魔法薬は完成せん。座学だけの優等生なら、毎年腐るほど見てきた」
ハーマイオニーの表情が僅かに固まる。
スネイプは一瞬だけセラフィーナをじっと見つめた後、ゆっくりと教室の中央に戻った。
「知識は確かに重要だ。だが魔法薬学は精密な作業だ。魔力の微調整、火加減、材料の投入のタイミング……一瞬の油断が全てを台無しにする」
スネイプが軽く指を鳴らす。すると生徒達の机の上に大釜と材料が現れる。
「今日は簡単なものだ。治癒薬を調合しろ。完成度が高い者には加点する。……失敗した者は当然、減点だ」
教室中に緊張が走った。ハーマイオニーは既に教科書を素早く確認し、材料を並べ始めている。ハリーとロンは顔を見合わせ、明らかに焦っていた。
セラフィーナは大釜の前に座り、材料を静かに眺めた。
「お嬢様、火加減は弱めからがよろしいかと」
「分かっている」
彼女は杖ではなく指先で軽く大釜に触れ、魔力を流し込んだ。紅い魔力が淡く輝き、すぐに均等に広がっていく。
リオラが後ろから静かに材料を渡す。セラフィーナの動きは淀みなく、まるで長年やっているかのように滑らかだった。
数分後──
スネイプが教室を回り始め、順番に大釜をチェックしていく。そしてハーマイオニーの大釜の前で足を止めた。
「……上出来だ、ミス・グレンジャー。グリフィンドールに3点を与える」
ハーマイオニーが小さくガッツポーズをする。次にセラフィーナの机の前に来たスネイプは、しばらく無言で大釜の中を覗き込んだ。淡い青みがかった完成度の高い液体が、静かに揺れている。
スネイプの眉がわずかに上がった。
「……イゾルデの血を受け継いでいるだけはある、完璧に近い出来だ。スリザリンに8点を与えよう」
教室がどよめいた。特にスリザリンの生徒達の間で小さな歓声が上がる。しかしスネイプはすぐに冷たい声で続けた。
「ただし……魔力の流れがやや攻撃的だ。治癒薬にこんな攻撃的な魔力を込める必要はない。力任せの痕跡が残っている……これはレジナルドに似たな」
セラフィーナは静かに微笑む。
「ご指摘ありがとうございます、教授。確かにまだ粗削りです……次はもっと丁寧にやってみせましょう」
スネイプは一瞬、面白そうな光を瞳に宿したが、すぐにいつもの無表情に戻った。
「期待しているぞ、ミス・アウレリウス。アウレリウス家の血が、どこまで本物か見せてもらおう」
その言葉にはただの教師としての評価ではなく、どこか個人的な興味が混じっていた。
授業が終わる頃には、セラフィーナは更に2点追加され、合計10点という結果となった。ハーマイオニーも合計7点と健闘したが、セラフィーナの存在感にやや圧倒された様子だった。
教室を出る際、ドラコがセラフィーナに近付いてきた。
「流石だな、アウレリウス。教授に認められるなんて……」
「当然だ。マルフォイ、君もそこそこやっていたではないか」
「そこそこって……!」
セラフィーナは小さく笑いながら、オーロラを肩に乗せる。地下牢から出る冷たい風が、彼女の長い深紅の髪を軽く揺らした。
間に合ったぁ