ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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今回少し短めです


第15話 暴走する箒

 魔法薬学の授業を終えた一年生達は、地下牢から地上に出た瞬間、思わず大きく息を吐いた。冷たく淀んだ空気から一転、秋の爽やかな風が頬を撫でる。

 

「やっと外だ……生き返る」

 

 ロンが大袈裟に両手を広げる。ネビルも青ざめた顔で頷いていた。

 

「スネイプ先生って、本当に怖いね……」

 

「怖いなんてもんじゃないよ。あいつ絶対意地悪だぞ」

 

 ハリーは苦笑いするしかなかった。一方その頃、少し前を歩くセラフィーナは、まるでハリー達とは別の授業を受けたかのように機嫌が良さそうだった。

 

「中々に面白い授業だったな」

 

「スネイプ教授もお嬢様に興味を持たれたようですね」

 

「うむ。あの男、父上の話を聞く限りもっと陰湿かと思っていたが……少なくとも、教師としての腕は本物だ」

 

 セラフィーナは灰色の空を見上げ、深呼吸をした。

 

 やがて一年生達は、ホグワーツの広い芝生に辿り着いた。そこには既に数十本の箒が整然と地面に並べられていた。

 

「うわぁ……」

 

 ハリーの目が輝く。ロンも興奮気味に声を上げた。

 

「飛行訓練だ!」

 

「僕、一回だけ兄ちゃんの箒に乗ったことある!」

 

 ハーマイオニーは少し緊張した面持ちで『クィディッチの歴史』を胸に抱えていた。

 

 ほどなくして、マダム・フーチが現れた。短い灰色の髪に、鋭い黄色の目をした女性だった。

 

「皆、箒の横に並びなさい。早く!」

 

 生徒達が慌てて箒の横に立つ。セラフィーナは一番端の箒の横に悠然と立ち、オーロラを肩から腕に移した。

 

「オーラ、少し待っていろ」

 

 オーロラは不満そうに小さく鳴いたが、芝生の上に飛び降りて座った。

 

 マダム・フーチが大きな声で説明を始めた。

 

「右手を箒の上に伸ばして、『上がれ』と言いなさい。しっかり集中すること!」

 

 生徒達が一斉に試し始める。

 

「上がれ!」

 

 ロンの箒がガクンと跳ねて彼の鼻を軽く打つ。ハーマイオニーの箒は全く動かず、彼女は苛立ったように眉を寄せた。ハリーは比較的スムーズに箒を手に取っていた。

 

 セラフィーナだけは腕を組んだまま動かない。そして、少しの沈黙の後に静かに口を開いた。

 

「来い」

 

 箒がふわりと浮き上がり、セラフィーナが最も手に取りやすい位置で静止した。手を伸ばさず、杖も使わず、ただ一声で。

 

 周囲の生徒達が一瞬、息を飲んだ。

 

「え……」

 

「今、手を伸ばしてなかったよね……?」

 

 ハーマイオニーが驚愕に目を見開き、ハリーも呆然とセラフィーナを見つめている。ロンに至っては口を半開きにしていた。

 

 マダム・フーチも僅かに目を細め、感心したような、驚いたような表情を浮かべた。

 

「素晴らしいミス・アウレリウス。流石はアウレリウス家、生まれつきのセンスがある」

 

 ざわめきが広がる中、マダム・フーチはパンッと手を叩いた。

 

「静かに!箒を持てた程度で浮かれている暇はない」

 

 一年生達が慌てて口を閉じる。セラフィーナは静かに箒を軽く握る。

 

「ふむ。私の箒とは随分と違うが、まあ悪くないな」

 

「練習用ですからね。性能より癖の無さを重視しているのでしょう」

 

 リオラが小声で返す。

 

 一方、ロンは未だに自分の箒と格闘していた。

 

「なんで上がんないんだよお前!」

 

 その瞬間、箒が突然跳ね上がりロンの顎へ直撃した。

 

「ぶへっ!?」

 

 周囲から笑いが漏れる。ハリーも思わず吹き出し、ハーマイオニーは呆れたようにため息を吐いた。

 

「力任せだからじゃない?」

 

「うるさいな!」

 

 マダム・フーチは全員の箒が手に収まったことを確認すると、腰に手を当てた。

 

「よし、皆箒に跨れ!滑り落ちないようしっかり握るんだ。地面を強く蹴って浮かび上がり、数メートル飛んだらすぐに降りてこい。いいな?私が笛を吹いたら一斉にだ!」

 

「うわあああああ!?」

 

 マダム・フーチが笛を吹く直前、緊張がピークに達したネビルが思い切り地面を蹴って空高く舞い上がった。

 

「ロングボトム!戻ってきなさい!」

 

 制止の声など耳に入らない。仮に聞こえていたとしても極度の緊張で暴走したネビルに箒を止める術は無い。

 

 ネビルの箒は更に高度を上げ、左右へ激しく揺れ始めた。

 

「いやぁぁぁぁ!!」

 

 ネビルは箒へ必死にしがみつく。しかし次の瞬間、身体が大きく傾いた。

 

「危ない!」

 

 ハーマイオニーが悲鳴を上げる。セラフィーナの紅い瞳が鋭く細められた。だが彼女が動くより早く――ネビルの手が滑った。

 

 ドサッ!!

 

 鈍い音と共にネビルが芝生へ叩きつけられる。周囲の生徒達が一斉に息を飲んだ。

 

「誰も動くんじゃない!」

 

 マダム・フーチが素早く駆け寄り、ネビルを抱き起した。彼は涙目で手首を押さえている。

 

「いたぁ……」

 

「骨折だな……全く、言われた通りにやれと言っただろう」

 

 マダム・フーチは杖を取り出しながら、生徒達を鋭く睨みつけた。

 

「私がこの子を医務室へ連れて行く。その間、誰一人として箒に乗るんじゃない。箒もそのままにして置いておくんだ。いいな?」

 

 ネビルはマダム・フーチに支えられながらその場を去っていった。芝生に残された一年生達は、遠ざかる背中を見ながら気まずい沈黙に包まれた。




お察しの通りサブタイトルはノリで決めてます。

空中戦は次話でじっくりと
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