ハリー・ポッターが一年生でグリフィンドールのクィディッチチームに抜擢されたという噂は、その日の夕食時までにはホグワーツ全体に広がっていた。
大広間はいつも以上にざわついていた。グリフィンドールの長テーブルは特に熱狂的だ。
「一年生でシーカーだって!?すげえよ!」
「フレッド、ジョージ見てたか?あいつ、本当に地面すれすれで玉を掴んだんだぞ!」
フレッドとジョージが大袈裟に身振り手振りで再現しようとする横で、ロンは得意満面で語りまくっていた。
「僕、ずっと見てたんだ!ハリーの飛行、まるで生まれついてのシーカーみたいだった!」
ハリー本人は隣で頬を赤らめ、照れくさそうに笑っていた。『生き残った男の子』としての視線には慣れたはずだったが、自分の実力で認められたという感覚は、まだ少しむず痒く、心地よかった。
一方、スリザリンのテーブルは明らかに温度が違った。
「ポッターだから特別扱いされてるだけだろ」
「グリフィンドール贔屓もいい加減にしろっての」
不満気な声があちこちから上がる中、ドラコはフォークを皿に突き刺すようにして苛立っていた。
セラフィーナはそんな周囲の空気を静かに眺めながら、優雅にスープを口に運んでいた。やがて彼女は小さく鼻で笑った。
「本当に滑稽な連中だ。実力ある者を素直に評価できんとは」
セラフィーナの隣に座っているリオラも、同意するように頷く。
「そうですね、お嬢様。ああいう上級生にはなりたくないものです」
ドラコが顔を上げ、セラフィーナ達を睨むように見た。
「アウレリウス、君は本当にポッターを評価しているのか?あいつはただ有名なだけだぞ」
セラフィーナはスプーンを置くと、紅い瞳を細めてドラコを見つめ返した。口元に薄い笑みが浮かぶ。
「ただ有名なだけ、だと?貴様の目は節穴かマルフォイ」
「なっ……!」
ドラコが顔を赤くして立ち上がり、周囲のスリザリン生の視線が集まる。
「あの動きを見ただろう?初めて乗る箒であの加速、あの急降下。そして落下する玉を地面すれすれで掴む反射神経と度胸……素晴らしいではないか」
「そ、それは……」
「ポッターはただ運が良いだけの有名人ではない。あの男は戦う才能を持っている」
セラフィーナの紅い瞳が、愉快そうに細められる。
「戦う才能だって……?」
「そうだ。恐怖を前にしてなお踏み込める者は、それだけで価値がある」
セラフィーナはグラスを手に取り、赤い液体を一口含むと楽しそうに目を細めた。
「少なくとも、今の貴様のように妬むことしかできぬ者よりは、よほど面白い存在だ」
ドラコが言葉に詰まり、言い返そうと口を開くがセラフィーナの視線に射抜かれて言葉が出てこない。結局、歯を食いしばって席に座り直した。
その様子を見ていた周囲のスリザリン生達も、次第に口を閉ざしていった。一年生とは思えぬ落ち着きと威圧感に、誰も軽々しく反論できなかった。そして彼女が本気で実力を重んじていることを、薄々理解し始める者もいた。
だが、上級生の一人が不満そうに鼻を鳴らした。
「……とは言っても、一年生だろ?クィディッチはそんなに甘くない」
「当然だ」
セラフィーナはあっさり頷いた。
「才能だけで勝てるほど甘い世界ではない。だが、才能すら無い者が何を吠えたところで結果は変わらんよ」
その一言で、再び周囲が静まり返る。
リオラは小さく苦笑した。
「お嬢様、少々言い過ぎでは?」
「事実を述べただけだ」
セラフィーナは肩を竦め、再びスープへ視線を落とす。
一方、グリフィンドールのテーブルはまだまだ騒がしかった。
「ハリー!初試合はいつなんだ!?」
「ウッドが死ぬほど練習させるぞ!覚悟しろよ!」
フレッドとジョージが揃って笑い、ロンも興奮した様子でハリーの肩を叩いている。ハリーは困ったように笑いながらも、どこか誇らしげだった。
その姿を遠目に見ながら、セラフィーナは静かに呟く。
「良い目だ」
「ポッターのことですか?」
「あぁ。自分の力を自覚し、正しく誇る者の目だ」
セラフィーナはグラスを揺らしながら、楽し気に目を細めた。
「やはりホグワーツは素晴らしい。特に私達の世代は当たりかもしれんな」
ドラコが不機嫌そうに顔をしかめる。
「君のことだ、どうせポッターやグレンジャーの話だろう」
「何を言う。貴様も入っているぞマルフォイ」
突然のことにドラコは目を見開く。
「……え?」
「貴様は未熟で視野も狭いが、向上心だけは本物だろう?」
「……褒めてるのか貶してるのか分からないな」
ドラコがぼやくと、リオラが思わず小さく笑った。
その様子を見て、スリザリンのテーブルの空気が少しだけ和らいだ。ドラコは不満そうに鼻を鳴らしながらも、それ以上は何も言わなかった。
セラフィーナは未だに騒がしいグリフィンドールのテーブルに視線を向ける。
「楽しみだな」
その言葉に反応するように、オーロラが小さく鳴いてセラフィーナの膝の上で丸くなる。彼女はそんなオーロラの頭を撫でながら、妖しく微笑む。
「……どこまで化けるか見物だな。ハリー・ポッター」
セラフィーナはマルフォイのことを見下してはいますが、無能とは思っていません。