ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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筆が乗るってこわい


第22話 血塗れの廊下

「ミス・アウレリウス!」

 

 鋭い声が石廊下に響き渡る。

 

 マクゴナガルが険しい表情で駆け寄ってくる。その後ろにはスネイプ、フリットウィック、そして顔面蒼白のクィレルの姿もあった。

 

 そして教授陣が目にしたのは──

 

 無惨に砕けた石壁。陥没した床、倒れた甲冑。廊下の至る所に飛び散る血液と吐瀉物。

 

 その中心には、瀕死の山トロール。

 

 そして。全身を血に染め、今まさにトドメを刺そうとしているセラフィーナの姿だった。

 

 数秒、誰も言葉を発しなかった。

 

「……おぉ」

 

 最初に漏れたのは、フリットウィックの感嘆とも驚愕ともつかぬ呟きだった。

 

 マクゴナガルは即座に我に返る。

 

「離れなさい!!」

 

 厳しい怒声が廊下に響き、一瞬で空気が引き締まった。

 

 しかし、セラフィーナは振り返ることすらしない。紅い瞳は依然としてトロールを捉えたままだ。

 

「離れろ?しかしマクゴナガル教授、これはまだ生きています」

 

 瀕死のトロールが苦し気に呻き、僅かに身体を動かす。マクゴナガルの表情が更に険しくなった。

 

「だからです!貴女は一年生なのですよ!?」

 

「……?」

 

 セラフィーナは本気で意味が分からないというように、僅かに首を傾げた。

 

「すみません教授。仰っている意味が理解できません」

 

 その声音には、反抗や挑発の色は一切ない。

 

「一年生だからということと、私がこれにトドメを刺さずに離れなければならないことに、何の関係があるのですか?」

 

 廊下に沈黙が落ちる。

 

 スネイプは細めた目でセラフィーナを見つめていた。瀕死のトロールにトドメを刺そうとしているその姿は、とても11歳の少女のものではない。

 

「あと一撃で確実に息の根を止められます」

 

「もう十分です!」

 

 マクゴナガルが叫ぶ。

 

「後は我々が対処します!貴女は今すぐ離れなさい!」

 

 数秒。セラフィーナはトロールを見つめたまま沈黙する。

 

 やがて、不満そうに鼻を鳴らす。

 

「何故、ここまで追い詰めた獲物のトドメを他者に譲らねばならないのですか?」

 

 その言葉に、教授陣が再び沈黙した。

 

 クィレルなどは完全に顔を引き攣らせ、マクゴナガルは額を押さえて深々と溜め息を吐いた。

 

「ミス・アウレリウス……貴女、自分が何を言っているか分かっているのですか?」

 

「はい」

 

 セラフィーナは即答した。

 

「危険な魔法生物との遭遇。そして戦闘になった場合、それは喧嘩や決闘ではなく殺し合いです。ならば確実に息の根を止めるのは当然のことでしょう?」

 

 あまりにも当然のように返されたその言葉に、マクゴナガルは一瞬言葉を失う。一方で、スネイプだけは興味深そうに目を細めていた。

 

「……確実にレジナルドの血だな」

 

 誰にも聞こえないほど小さな呟きだった。

 

 その直後だった。

 

「ガアアアァァァッ!!」

 

 瀕死だったはずのトロールが、最後の力を振り絞るように咆哮する。血走った目がセラフィーナを捉え、巨大な棍棒が再び持ち上がった。

 

「なっ──!」

 

 フリットウィックが目を見開き、クィレルが悲鳴を上げる。

 

 しかしセラフィーナは動じることなく、呆れたように小さく溜め息を吐く。

 

「だから言ったでしょう」

 

 瞬間、セラフィーナの身体が沈み込む。石床が砕けるほどの踏み込みから天井近くまで跳躍し、落下速度を乗せてトロールの首に踵落としを叩き込む。

 

 ドォッ!という轟音と、骨が砕けて首が潰れる嫌な音が響き渡る。

 

 静寂。完全に首を潰されたトロールは二度と動かなかった。

 

「……ふむ。流石に頑丈だったな」

 

 まるで少し手強い訓練相手だった、とでも言うような口調だった。マクゴナガルは額を押さえたまま、深い深い溜め息を吐く。

 

「ミス・アウレリウス……」

 

「はい?」

 

「何故、教師を呼ぶという発想が無いのですか」

 

「倒せる相手でしたので」

 

 マクゴナガルは頭痛を堪えるように額を押さえた。

 

「倒せる倒せないではありません!」

 

「しかし結果として倒しています」

 

「そういう話ではないのです!」

 

 珍しく声を荒げるマクゴナガルに、セラフィーナは本気で不思議そうな顔をする。そんな二人の間にスネイプが割って入る。

 

「倒せた相手と言うがアウレリウス。随分と負傷しているではないか」

 

「えぇ」

 

 セラフィーナは自分の腕を軽く見下ろした。

 

 棍棒の一撃を防御し、石壁に叩きつけられた影響で右腕は鈍く痺れている。肋骨にも嫌な痛みが走っていた。

 

 だが、それでも彼女は笑う。

 

「魔法を使えばすぐ終わって楽しめないと思いましたので」

 

 マクゴナガルは数秒沈黙した後、深々と息を吐いた。その姿は、まるで深刻な頭痛を必死に堪えているようだった。

 

 一方で、フリットウィックは興奮冷めやらぬ様子で周囲を見回している。

 

「いやしかし……これは凄まじい!一年生が山トロールを単独制圧など、聞いたことがありませんぞ!」

 

 砕けた石床を見下ろしながら、感嘆の声を漏らす。

 

「……しかも素手に近い状態で、だ」

 

 スネイプが小さく付け加える。その黒い瞳は砕けた床や壁、そしてトロールの損傷跡を冷静に観察していた。

 

「感心している場合ではありません。全く、トロールが二体も学校に侵入してそれをどちらも一年生が対処するなんて前代未聞です!」

 

「結果的に死者が出なかったので問題はないでしょう」

 

 沈黙が落ちる。フリットウィックが妙に感心したように頷き、クィレルはますます顔色を悪くする。マクゴナガルは口を開きかけ……閉じた。

 

 反論できなかった。理屈としては間違っていない、それが余計に頭痛の種だった。

 

「……もういいです。ミス・アウレリウス、貴女は医務室へ向かいなさい」

 

「承知しました、教授」

 

 セラフィーナは踵を返し、医務室に向かって歩き始める。リオラとオーロラもその後に続く。

 

「リオラ、先に談話室に戻って紅茶を淹れておいてくれ。流石に疲れた」

 

「はい、お嬢様」

 

 いつも通りの二人の会話を聞き、オーロラは満足そうに鳴いた。




マクゴナガル先生は頭痛薬飲んで
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