ハリー・ポッターと深紅の覇者   作:筋肉神

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そろそろ書き溜めすることを覚えたい今日この頃


第25話 立入禁止区域

 トロール騒動から数週間が経過した。

 

 ホグワーツは再び平穏な日常を取り戻していた。生徒達は授業や課題に追われ、自由時間にはチェスや爆発スナップに興じ、夜には談話室で談笑する。まるで、あの血塗れのハロウィンなど最初から存在しなかったかのように。

 

 もっとも、セラフィーナにとっては少しだけ様子が違っていた。

 

 廊下を歩けば自然と道が開き、食事の時間には周囲の席が妙に空く。授業で班を組む際、一緒になった生徒達はどこかぎこちなく、目を合わせようともしない。

 

「ふむ……」

 

 昼食の席で、セラフィーナは顎に手を当てて小さく首を傾げた。

 

「お嬢様、どうかなさいましたか?」

 

 リオラが隣に座りながら、静かに尋ねる。

 

「最近、どうも避けられているような気がしてな」

 

「……」

 

 リオラは数秒間、慎重に言葉を選んだ。

 

「何か、心当たりはありませんか?」

 

「無いな」

 

 即答だった。あまりにもあっけらかんとした返事に、リオラは思わず頭を抱えたくなる。だが彼女には、何故セラフィーナがこの状況を理解できていないのか、痛いほど分かっていた。

 

 アウレリウス家において、強者は『正しく恐れる』存在だ。己を磨くために強者と競い、学び、超える。それが家の流儀である。

 

 だからセラフィーナにとって『距離を取られる』という想定は最初から存在していない。

 

「お嬢様」

 

「なんだ?」

 

「ここはホグワーツです。アウレリウス家ではありません」

 

 セラフィーナは不思議そうに首を傾げた。

 

「そんなことは分かっている。それがどうした?」

 

「……いえ、失礼いたしました」

 

 リオラはそれ以上何も言わなかった。幼い頃から叩き込まれた価値観は、そう簡単には変わらない。

 

 これはセラフィーナ自身が、自分の力で気付き、乗り越えていくべき問題なのだろう──リオラは静かにそう結論付け、食事を再開した。

 

 一方のセラフィーナは、未だに自分が避けられている本当の理由を理解できぬまま、目の前のローストビーフにフォークを刺した。

 

 

 そんなある日、その日の授業を全て終えたセラフィーナは珍しく一人で校内を歩いていた。リオラが図書館へ行き、オーロラだけが彼女の傍らを優雅に歩いている。

 

 目的地は特にない。ただの散歩だった。

 

 四階の廊下に差し掛かった時、オーロラの足が突然止まった。

 

「……?」

 

 金白の毛並みが僅かに逆立ち、低い唸り声が喉から漏れる。極めて珍しい反応だった。

 

「どうした?」

 

 セラフィーナが視線を向けると、そこには一枚の古びた扉があった。

 

「ほう……」

 

 口元が自然と吊り上がる。何かは分からない。だが、確実に何かがあの扉の向こうに存在する。

 

 しかし、次の瞬間──

 

「ミス・アウレリウス」

 

 聞き慣れた厳格な声が響いた。振り返ると、マクゴナガルが立っていた。眼鏡の奥の視線は冷たく、明らかに警戒を孕んでいる。

 

「何をしているのですか?」

 

「散歩です」

 

「……そうですか」

 

 マクゴナガルは一瞬ためらった後、声を低くした。

 

「ならば散歩の経路を変更しなさい。今すぐに」

 

 セラフィーナは数秒考えた後、再び扉を見る。そしてゆっくりと振り返ってマクゴナガルに視線を戻した。

 

「何かあるのですか?」

 

 マクゴナガルは数秒沈黙し、やがて小さく息を吐く。

 

「えぇ、だから近付くなと言っているんです。入学の際に校長先生も仰っていたでしょう」

 

「なるほど。確かに言っていましたね」

 

 セラフィーナの紅い目が僅かに細められる。その反応を見た瞬間、マクゴナガルの眉間に深い皺が刻まれた。

 

「ミス・アウレリウス」

 

「はい?」

 

「その顔はやめなさい」

 

「どの顔でしょう?」

 

「今の顔です」

 

 セラフィーナは本気で分からないという表情を浮かべる。しかし、マクゴナガルは警戒を緩めない。トロール事件以来、彼女は理解していた。この少女は興味を持ってはいけないものに興味を持つ。そして、それを躊躇なく確かめに行く。

 

「この際もう一度言っておきますが、ここは立入禁止区域です」

 

 マクゴナガルは釘を刺すように言う。

 

「貴女が何を考えているのかは分かりませんが、絶対に近付いてはいけません」

 

「承知しました」

 

 あまりにも素直な返答だった。思わずマクゴナガルの方が目を瞬かせる。だがセラフィーナはそれ以上何も言わず、踵を返した。オーロラも一度だけ低く唸り、扉を睨み付けてからその後に続いた。

 

 その背中が見えなくなるまで見送りながら、マクゴナガルは深く息を吐いた。

 

「……嫌な予感しかしませんね」

 

 誰にともなく呟く。そしてその予感は、残念ながら当たることが多かった。

 

 その後もセラフィーナは授業や鍛錬に励み、ホグワーツの日常は淡々と過ぎていった。

 

 そして数日後、ホグワーツはクィディッチ一色に染まっていた。

 

 グリフィンドール対スリザリン。

 

 今シーズン最初の試合である。生徒達は授業中ですらその話題を口にし、休日になると皆が競技場へと足を運んだ。

 

 無論、セラフィーナも観戦に訪れていた。

 

「ポッターがシーカーだったな」

 

「はい。あれからかなり上達したようですよ」

 

 リオラが答える。

 

 上空では箒が高速で飛び交い、歓声が競技場を揺らしている。

 

 しかしセラフィーナの反応は薄かった。

 

「ふむ」

 

 確かに技術は高いし、身体能力も悪くない。

 

 だが──

 

「どうでしたか?」

 

 試合終了後、リオラが尋ねる。

 

 グリフィンドールの勝利に沸く周囲とは対照的に、セラフィーナは淡々としていた。

 

「退屈だったな」

 

 即答だった。

 

「箒の操縦技術は見事だった。だが、やはり私はクィディッチより決闘の方が面白い」

 

「そうですか」

 

「うむ」

 

 リオラは苦笑する。ある意味予想通りの感想だったからだ。

 

 ハリーがスニッチを捕まえたことも、会場を包んだ歓声も、セラフィーナの心を揺らすには至らなかった。途中、ハリーの箒が不自然な動きを見せたことだけは少し気になったが、それもすぐに興味の外へ追いやられた。

 

 彼女の意識は、別の場所へ向いていた。

 

 四階の廊下。

 

 あの扉。そして、その向こう側に存在する何か。

 

「リオラ」

 

「はい」

 

 セラフィーナは静かに紅茶を口に運ぶ。

 

「クィディッチは退屈だったが、ホグワーツにはまだ面白いことが沢山あるようだ」

 

「……」

 

 その紅い瞳には、僅かな愉悦が宿っていた。

 

 リオラは何も言わない。言うべき言葉が見つからなかった。

 

 ただ一つだけ確かなことがある。

 

 セラフィーナ・ヴァレリア・アウレリウスは、あの扉の向こうに興味を持ってしまった。そして、一度興味を持った彼女が諦めることはまず無い。

 

 それが吉と出るか凶と出るか。今はまだ、誰にも分からなかった。




確か、原作と映画で三階か四階か違うんですよね~ここ
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