クリスマス休暇が終わり、生徒達は再びホグワーツに戻って来た。廊下には談笑する生徒達の姿があり、大広間では各寮の長テーブルが久々に満席に近い状態になっている。休暇中は静まり返っていた城が再び賑わいを取り戻していた。
「良い休暇だったな」
「そうですね。奥様も上機嫌でしたし、オーラも喜んでいました」
休暇が明けても、セラフィーナの周りに人がいない状況は変わらない。食事の時間でも彼女の正面の席が空席なのは、もはや日常風景となっている。
しかし、今日は違った。ドラコがクラッブとゴイルを引き連れてセラフィーナの正面に腰を下ろした。その瞬間、周囲のスリザリン生達が僅かにざわつく。ハロウィンの翌日以降、距離を置いていた二人が久々に顔を合わせたからだ。
「君も帰省していたんだってな、アウレリウス」
「あぁ、そうだ。貴様もかマルフォイ」
二人はハロウィンの翌日の口論以来初めて言葉を交わした。セラフィーナは口論とすら認識していなかったのだが、ドラコから声を掛けなくなった途端交流がピタリと止まるところを見るに彼との関係はそこまで重要度が高くはないのだろう。
「僕の家は盛大なクリスマスパーティーを開いたよ。君の所はパーティーを開かないのかい?」
「全く開かないことはないが、今年は父が仕事で休暇を取れなくてな。私と母とリオラでゆっくり過ごした」
「クリスマスにまで仕事をしていたのか?」
ドラコは少し驚いたように目を見開く。
「今回は合同で戦闘訓練があると言っていた。上級闇祓いの父は教官役に任命されたそうだ。ちなみにオーラだが、庭園や我が家所有の森を駆け回って遊んでいた」
「アウレリウス家所有の森か、さぞ広いんだろうね」
「そうだな」
「どれくらい広いんだ?」
「知らん。リオラ、知っているか?」
興味なさそうにパンを一つ手に取りながら、リオラに話を振る。
「そうですね……正確な数値は私も分かりませんが、様々な魔法生物が生息していて独自の生態系ができていると聞いたことがあります」
「それは……広いなんてものじゃないだろう」
「アウレリウス家所有の森は単に所有しているだけではなく、魔法省から代々管理を任されている土地でもありますからね。奥様が研究している魔法薬の材料も、大抵はその森で入手できます」
ドラコは思わず言葉を失った。マルフォイ家もかなり裕福な家であり、英国魔法界でもトップクラスの名門だ。しかし、魔法省から広大な土地の管理を任されるなどという話は両親から一度も聞いたことはなかった。
「君の家は相変わらず規格外だな……」
「そうか?」
セラフィーナは不思議そうに首を傾げる。
「そうだよ」
ドラコは即答する。彼の両隣で話を聞いていたクラッブとゴイルも、何度も頷いていた。
セラフィーナは肩を竦めながらパンを口に運ぶ。彼女は自分の家が裕福なのは当然自覚しているが、それに関してはあまり関心が無い。立派な城、美しい庭園、広大な森、研究施設。これ等は先祖や親の功績であり、自らの力で得た物ではないからだ。
彼女が価値を見出すのは、自ら鍛え上げた力である。どれほど巨大な城があろうと、どれほど広大な土地があろうと、自分自身が何も成していなければ意味は無い。
少なくとも、セラフィーナはそう考えていた。
「ふむ。まあ、そういう事にしておこう」
セラフィーナがパンを食べ終えたその時、大広間の入口に見覚えのある三人組の姿が見えた。ハリー、ロン、ハーマイオニーである。
「……来たか」
セラフィーナの紅い瞳が僅かに細められた。
「どうした?」
ドラコが怪訝そうに尋ねる。
「いや、面白いものを見付けただけだ」
その視線を辿ったドラコは露骨に顔をしかめる。
「ポッターか」
「クリスマス休暇前に少し交流があってな」
「ポッター達と、かい?」
ドラコは信じられないものを見るように目を見開く。
「君達、仲が良かったのか?」
「別に。だが、入学の時のホグワーツ特急で同じコンパートメントに乗り合わせた仲だ。交流ぐらいあっても不思議ではないだろう?」
それだけ言って立ち上がり、セラフィーナは大広間の入口に向かう。オーロラとリオラもその後に続く。
「ハリー、あれアウレリウスじゃないか?」
接近してくるセラフィーナに一番最初に気付いたのはロンだった。明らかに嫌そうな声を出し、遅れて気付いたハリーとハーマイオニーも揃って何とも言えない表情になる。
「何だその顔は」
「いや……」
ハリーが言葉を濁す。ロンに至っては嫌そうな表情を隠そうともしていない。
「絶対また聞きに来たんだろ」
「当然だ」
セラフィーナは迷いなく頷いた。
「だが安心しろ。こんな人の多い所でその話をするつもりはない」
ハリーは少しだけ安堵したように小さく息を吐く。
「そっか……」
「朝食が済んだら図書館に来い。そこで話を聞かせてもらうぞ」
「……嫌だと言ったら?」
不満そうにロンが尋ねる。
「良い度胸だウィーズリー。私相手にそれを貫き通せるなら、是非ともやってみてくれ」
紅い瞳を細め、口角を吊り上げて獰猛に笑う。
「い、行くよ!ちょっと聞いてみただけ!本気じゃないって!」
「ロン、慌て過ぎよ。完全にアウレリウスに遊ばれているわ」
そう言うハーマイオニーも、セラフィーナから少し目を逸らしている。
「ククッ……やはり貴様等は面白い」
ハリー達と別れたセラフィーナは図書館に向かった。奥にある人の少ない席に腰を下ろし、リオラと共にそれぞれ好きな本を開く。オーロラは日の当たる窓辺で丸くなって欠伸をしている。
そして暫く時間が経つと、ハリー達三人組がセラフィーナの座っている席までやって来る。
「来たか」
「来たわよ」
ハーマイオニーは半ば呆れたように答える。
「さて」
セラフィーナは静かに本を閉じ、椅子にもたれて足を組みながら三人を見た。
「話してもらおうか」
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